1057.開店です!
「やっほー!」
無事、制限時間内に料理を配達できたメイ。
その帰り道は、魔狼フレキの背に乗って帰ることになった。
風を切り、草原を駆ける気持ち良さに、こぼれる笑み。
「速度を上げるぞ、竜の子よ!」
「あいよ!」
タヌキレストランへ、風のように戻るメイ。
「なにあれ可愛い……」
魔狼の背に乗るメイの姿を見かけた冒険者は、うっかり見惚れてしまう。
「ただいま戻りましたーっ!」
「「「早っ」」」
思わず、驚きの声をあげるレンたち。
「制限時間60分のところを、往復で40分を切るって……」
「メイさん、どうでしたか?」
「外で待ってるよ!」
メイが応えると、タヌキたちはさっそく倉庫正面の扉を開く。
するとその隙間から、魔狼フレキが入ってきた。
「切り裂き鹿のシチュー、見事だったぞ。約束通り獲物調達係を引き受けよう」
「「「やったー!」」」
フレキの言葉に、歓喜するタヌキたち。
「メイさんたちのおかげで、夢だったレストランを開業できます!」
「おめでとーっ!」
タヌキと手を取り合って笑うメイに、ツバメとまもりが「運営さん、ここですよ」と同時につぶやく。
「ありがとうございました! こちらはお礼です! ぜひ受け取ってください!」
タヌキたちからもらったのは、【魔獣シチューのレシピ】と『食材』
「我からも、礼をさせてもらおう」
続いてフレキが持ち出してきたのは、一冊のスキルブック。
【食べ歩き】:戦闘中に武器を持ちながら、走りながら、防御しながら飲食を行うことができる。
「あはははは! これはまた変わったスキルね」
「楽しそうだねっ!」
「戦闘の片手間に、飲食が可能ということですか?」
敵の嵐のような攻撃を左の盾で防御しながら、右手に持ったハンバーガーにかぶりつくまもりを想像して、笑うツバメ。
それはもう、驚異的な食いしん坊だ。
「これでクエスト達成ね。なかなか難しい内容だったけど、狩りとか料理とか、新しい要素に触れられて良かったわ」
「楽しかったですね」
「楽しかったー!」
「はひっ」
自然を満喫して、報酬も受け取り、自由に使えるキッチンまで得た。
可愛いタヌキたちがいるキッチンが使えるというのは、なかなかない特典だ。
とても実りの大きなクエストだったといえるだろう。
「せっかくキッチンの使用許可とレシピ、材料までもらったし、作ってみましょうか」
「いいとおもいますっ!」
「はひっ! ぜひっ!」
「プレイヤーが食べても良し、魔物にあげても良しとのことですね。これは面白そうです」
こうしてメイたちは、魔獣シチューの製作を開始。
必ずしも【切り裂き鹿のもも肉】でなくてもよいというのは、なかなか柔軟だ。
メイは定番素材なのだろう【マッドブルの肉】と、人参や玉ねぎを、冷蔵庫から取りだす。
「カットは今回、ツバメにお願いするわ」
「はい」
シチューの具材なら、メイほどの【技量】がなくとも問題ないようだ。
ツバメは手早く、肉と野菜をカット。
「ツ、ツバメさんは小料理屋の女将みたいな格好も似合いそうです」
「そうかもっ!」
「時々変わった創作料理を出してきそうね」
そんなことを話していると、問題なく材料のカットが終了。
鍋に油を垂らしたところで、火加減を誰に任せようかと考えるが――。
「【知力】に振ってるのは、私くらいなのよね」
「やはり鍋をかき回すのは、魔女のお仕事なのですね」
「誰が魔女なのよ」
納得するようにうなずくツバメに、早めのツッコミ。
メイとまもりが、くすくすと笑う。
一口大の肉、玉ねぎ、にんじんを入れて、玉ねぎの色が変わる瞬間が、次の工程へ移る合図。
水を加えて、沸騰させたらトマトをゴロゴロと入れ、ワインも投入。
「ルーなしで作るビーフシチューって、初めてかも」
中火でしばらく煮込んだら、塩とバターを入れて、さらに煮込んだら完成だ。
「おいしそうーっ!」
「見た目はバッチリね!」
「これで六人分もできるのね……それなら私たちで食べて、残り二つはアイテムとして持って行きましょうか」
「た、食べていいのですかっ!」
歓喜の声をあげるまもり。
ツバメは左手の盾で敵の機関銃のような攻撃を受け止めながら、右手のシチューを戦国武将のように、お碗に入れて飲み干すまもりの絵を想像する。
完成版【マッドブルのシチュー】を選択すると、目の前に綺麗な皿と共にスプーンが現れる。
「それでは――」
「「「「いただきますっ!」」」」
皆で並んで、さっそく一口。
「「「「おいしいっ!」」」」
どうやら今回もしっかり、料理作りに成功したようだ。
「レシピなしだと、各量を感覚で入れていく感じになるのかしら」
「そう考えると、レシピなしでも作れるけど、簡単ではないという感じなのですね」
「まもりちゃんの味見は大事だねっ」
「こ、これからも味見していいんでしょうかっ!」
目を輝かせるまもりに、皆笑う。
仲良く楽しく料理を作って、一緒に楽しむ。
料理の実装には、こういう狙いもあるのだろう。
タヌキのレストランのクエストは、とても楽しいものとなった。
「作っちゃえば、あとはアイテムボックス内っていうのは本当にいいわね」
「本当ですね」
「マッドブルを使ったシチューは状態異常の軽減と、耐久の上昇があるみたい」
「なるほど、これからは外食も活きてきそうですね」
レンは、自身の状態を確認。
作ってしまえば、持ち運びは簡単。
手間のかかる部分と、そうでない部分のバランスも良さそうだ。
「ふむ……これだけ立派なキッチンなら、いつか幻の『ふぐ刺し』も食べられるかもしれないな」
またも料理を成功させたメイたちを見て、フレキが息をつく。
「ふぐ刺し……? まためずらしいところを突いてきたわね。今の時点では作れないのかしら」
「と、特殊な技量を必要される料理は、スキルを取るか、メイドさんに頼む必要があったと思います」
「なるほどね。これはいつでも受けられる、追加のミッションみたいな感じっぽいけど……」
「メイドさんといえばっ」
「迷子ちゃんさんですね」
「声をかけてみる?」
「み、見つけるのに苦労しそうです……っ」
「それだけは間違いないわね」
高度なスキルを求められる一部の料理でも、職業がメイドであれば可能。
こうしてメイたちは、軽い気持ちで迷子ちゃん探しを始めることにした。
「またいつでも来てくださいっ!」
わらわらと集まってくるタヌキに手を振って、一階の扉から外へ。
「俺はここで、食材調達の手伝いをすることにしたよ」
そしてレストランの前でゴロゴロくつろいでいる小竜に、四人して笑うのだった。
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