1056.ウーバーメイちゃん
タヌキレストランの狩猟担当になる予定の、魔狼フレキ。
しかし、約束の時間になっても来ていない。
このままではせっかく作った料理が、ムダになってしまう。
「どどどどどうしよう!」
「このままじゃ、料理の鮮度が……!」
ワタワタするタヌキたち。
右にいったり左にいったり、ぶつかって転がったりしながら、慌てふためく。
その姿に思わずほっこりしながらも、今度は『制限時間内の料理宅配』クエストに挑むことになった。
宅配用の箱を背負えば、ウーバーメイちゃんの爆誕だ。
「制限時間は60分。ホーウェン谷のどこかにいるという大まかな情報だけで行くには厳しいけど」
「メイさんなら……!」
「おまかせくださいっ!」
メイは箱を背負ったまま、レストランの外へ。
制限時間の表示に加えて現れたのは、『片寄りゲージ』
「これって、暴れちゃうと中身が寄っちゃうってことだよね……!」
単なる配達ではなく、縛りもあり。
メイは気を付けながら、走り出す。
「おーい」
するとゴロゴロしていた小竜が、メイに気づいて顔をあげた。
「何を急いでんだい?」
「料理を、狼のフレキさんに届けないといけないんですっ」
「フレキか……それなら大体の居場所を知ってるぜ!」
「本当っ?」
「おうよー! よし、上手いもの食わせてもらったし道案内してやるよっ」
「ありがとうございますっ!」
「ついてきな!」
「【装備変更】【バンビステップ】!」
メイは頭装備を鹿角に変えて、走り出す。
足が遅い場合は小竜の案内に加えて、山地へ向かう馬車を使うのが良いのだろう。
しかしメイなら、走った方が早い。
小竜の先導にピッタリ合わせる形で草原をかけ、山地へ。
そしてあっという間に、ホーウェン谷にたどり着いた。
「こっちだ!」
並ぶ木々も関係なく、柔軟な足の運びで突き進む。
「なあ、マズいかもしれない! 怪鳥たちに見つかっちまったよ!」
メイが視線をあげると、この辺りを縄張りにしている青い鳥たちと『すれ違う』形になった。
「鳥が走ってる!」
すさまじい勢いで地面を蹴って、駆けてくるのはウッドキッカー。
空は飛べないが、その強靭な脚力でプレイヤーを蹴り飛ばす魔獣だ。
次々に跳び上がる、ウッドキッカーたち。
長い跳躍から繰り出すのは、プレイヤーを盛大に転がす【蹴り飛ばし】
「うわっと!」
真正面から来た蹴りを右に、左前から来た蹴りをまた右に。
メイは、軽やかな横ステップでかわしていく。
大きなジャンプの衝撃はもちろん、転がってしまえば当然『片寄りゲージ』が大きく減少する。
「次は左! もう一回左だーっ!」
メイは足を大きく上げないステップで、ゲージ減少をほぼゼロでやり過ごす。
そして三匹同時の、高い打点から来る跳躍回転蹴りには――。
「【グリーンハンド】【バンブーシード】!」
足を左右に大きく開く形で体勢を下げ、右手を突く。
すると地面から一瞬で突き上がった竹が、そのままウッドキッカー三匹を突き上げた。
そして、安堵の息をついたところで――。
「あぶないぞっ!」
「【バンビステップ】!」
小竜の声に走り出す。
すると背後から迫っていたフォレストベアの一撃を、置き去りにして走り出す形になった。
背後からの攻撃は、当たれば直接『箱』を叩かれる最悪の一撃だ。
しかし相手が一体なら、無理して戦うこともなし。
「またねーっ!」
心なしか、相手してもらえずしょんぼりとしているように見えるフォレストベアに手を振りながら、メイは先へと進む。
「ええっ!?」
踏み下ろした足先が、突然の崩落。
生まれた穴は確実に、『転がして』片寄りゲージを大きく減少させようという狙いのものだ。
この高さだと着地に失敗すればもちろん、成功してもゲージの減少は免れない。
「【ターザンロープ】!」
しかしメイは付近の木にロープを巻いて、スイング。
「アーアアー!」
周りに人がいないため、うっかり気持ち良くなった後に決めた華麗な着地は、なんとゲージ減少無し。
「やるなぁ!」
「えへへ」
ここまでのゲージ減のなさに、小竜が驚いた。
「さあ、こっちだ!」
最後は小竜の進んだ先にある、茂みの穴をしゃがんで抜ける。
するとそこには、白青色の大狼。
その鋭い瞳を煌々と輝かせ……なぜか木の上にしがみついていた。
「どうしたんですかー?」
「静かにするんだ……付近にバレットビーがいる……」
「バレットビーか! そいつはやっかいだなぁ」
その名前を聞いた小竜がため息をついたところに、聞こえてきた羽音。
それに気づいたフレキが、ビクッと身体を震わせた。
見れば弾丸のような勢いで、砲弾サイズの黄色いハチが飛んでくる。
「ここはお任せくださいっ!」
メイは前に出て、ターゲットを引き受ける。
針を出し、一直線に飛んでくるバレットビーを回避。
すぐさま旋回して二度、三度と迫るが、メイには当然当たらない。
ここで剣を取り、メイは反撃の体勢に入るが――。
「ええっ!?」
なんとバレットビーは、複数の分身を展開。
五匹バラバラに動き回り、取り囲んだ位置からの一斉攻撃。
完全な回避を目指すなら跳び退くのが一番だが、それはもちろん片寄りゲージの減少を狙うもの。
とても嫌らしい攻撃だ。
「そういうことなら……っ」
しかしメイは、迫る攻撃に一切動かずスルーを決め込む。
一匹目、分身。
二匹目、三匹目も分身。
「ここっ!」
そして四匹目のバレットビーに向けて、剣を振り上げた。
見事、一撃で打倒。
メイは敵が分身を使った時点で目を閉じて、虚像の認識を開始。
蜂の魔獣特有の羽音が近づき始めた瞬間に目を開き、迫るバレットビーを叩いた形だ。
こうして、敵の打倒を確認。
一つ息をついて、背負っていた箱を取りだす。
「お待たせしましたっ! お届けは、こちらになりますっ!」
そして、中身の料理を差し出してみせた。
「ほう……! タヌキレストランの料理を持ってきてくれたのか! 動けなくて困っていたのだ、助かったぞ!」
フタを開いて取り出すと、それは寸胴のような形状の容器に入ったシチュー。
料理予想が『星屑』内でも当たったメイ、ちょっと顔を引きつらせる。
「……だが」
フレキはそれを見て、眼光を輝かせる。
「我はグルメと名高い魔獣。味にはかなりうるさいぞ」
「木の上で震えてたせいで、あんまり威厳を感じないなぁ」
「うぐっ」
小竜の一言に、一瞬顔をひきつらせるフレキ。
「ま、魔狼にも、苦手なものくらいある」
あらためて表情を厳しく作り直してから、シチューをぺろりとひと舐め。
「ッ!?」
その目を見開いた。
魔狼はその大きな口を、寸胴のような容れ物に突っ込んでシチューにがっつく。
「うまい! これはうまいぞっ!」
こうなってしまえば、もう止まらない。
「この肉は【切り裂き鹿のもも肉】か? 旨味の詰まったこの部位を、しっかり煮込むことで柔らかくなっているが、程よい歯ごたえも残している。そして最高品質の【ローヤルクローブ】の刺激的な風味が、食欲をさらに搔き立てる! 止まらないぞ! これだけの食材をよく集めたものだ!」
フレキはそのままあっという間に、シチューを完食してしまった。
「まるで出来立てのように美味かったぞ! よくこれだけの早さで持ってくることができたものだな……!」
口周りの毛をドロドロにして、その場にゴロンと横になるフレキ。
メイが思い切って毛並みを撫でても、問題ないほどにリラックス状態だ。
「……だが。これだけのものを用意されてしまった以上、食材調達役として頑張らねばならないな」
「へへっ、良かったな!」
「ありがとうー!」
小竜の小さな手と決めるハイタッチ。
こうしてメイは、無事料理の宅配に成功。
魔狼フレキも問題なく、食材調達役を引き受けることになった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




