1052.才能の覚醒
高山の頂上で見つけた、香辛料商人。
取り扱う扱う商品は、どれも一級品のようだ。
「こんなところまで来てもらって悪ィんだが、違いが分かる者にしか、オレの商品は売れないんだ」
そう言って小さな布の包みから、赤茶けた花の芽を四つ取りだした。
「まずはそいつを食ってみてくれ。【ローヤルクローブ】の風味を、しっかり味わってな」
さっそく始まった試験。
四人はわずかな緊張感の中、【ローヤルクローブ】を口にする。
「バニラを思わせる甘い風味と、ピリッと刺激的な辛み。でもそれが強烈過ぎるわけではなく、変に後には引かないわね」
そんなレンの言葉に、こくこくとうなずくまもり。
「お肉料理に使われるということは、臭み消しなどの効果もあるのでしょうか」
まもりは、大きくうなずく。
「確かにこれで料理を作ったら、おいしいかもっ!」
さらにメイのそんな言葉に、ブンブンと力強くうなずく。
「さて、ここに二種類のクローブがある。まずは一つ目だ」
四人は言われるまま、出されたクローブを口にする。
「続いて二つ目だ」
そして二つ目も、そのまま口に運ぶ。
「さあ、お前たちが一番最初に口にした【ローヤルクローブ】はどっちだ?」
これが試験の内容。
最初に口にした最高品質の【ローヤルクローブ】を、当てろというものらしい。
「これ、差が小さくない……? もしかしてこのクエストって、結構高レベルなんじゃない?」
「あり得ますね。何せ街の片隅に隠されていたものですし、難易度が高くてもおかしくありません」
二人の予想は正解だ。
戦闘ではない、文化面のクエスト。
メイたちが見つけたものは、結構な高レベル。
難易度で言えば、『ハード』に属するものとなる。
「これといった確信がない選択肢ほど、悩む物もないわねぇ」
「はい。確かに多少の違いはありましたが、最初に口にしたものと同じものを当てろというのは、難しいように思います」
ツバメも答えに悩んでいるようだ。
「そろそろいいだろう。答えを出してもらおうか。回答者は一人だけだ」
そして迎えた、回答の時。
「どう、まもりはいける?」
誰もが確信を持てずにいる中、レンが問いかける。
悩むまもり。
不意に、一人首を傾げているメイの表情が気になった。
「あ、あの、メイさん……っ」
そしてその理由をたずねると、返ってきた答えを聞いて、確信したように大きくうなずいた。
「さあ、答えを聞かせてくれ。最初に口にしたクローブはどれだ?」
「……は、はひっ」
大きくうなずくと、盾をしっかりと握りながら答える。
「こ、この二つの中に……先ほどの【ローヤルクローブ】はありませんっ」
「「っ!?」」
まさかの言葉に、驚愕するレンとツバメ。
まもりも自信はなかったが、メイが『香り』の面から「おかしい」と感じていたことが、後押しをしてくれた。
思わぬ展開に、商人の方をじっと見つめるレンとツバメ。
「……ほう、よく見抜いたな」
すると商人はそう言って、ニヤリと笑った。
「まったく大したもんだ。この違いが分かるレベルのヤツになら、売ってやる価値もある」
そう言って商人は、【ローヤルクローブ】の入ったビンを取り出した。
そして意外と高いその価格に、「持ち合わせがなかったら街に取りに戻ってたのかしら……」と、安堵しながら購入。
「……ていうか、二つの中に『ない』が正解ってありなの?」
「違いに気づけるヤツなら、二択だろうが三択だろうが分かっちまうもんなんだ。それに俺だって商人だからな。多少の狡猾さくらいは持ち合わせているさ」
そう言って、楽しそうに笑う商人。
レンはあらためて、その難易度に苦笑いを浮かべる。
もし二択だとしても、決して簡単ではないこの問題。
それなのに答えはまさかの、『この中にない』というもの。
やはり四人が選んだクエストは、本当にシビアなようだ。
「まもり、こんなのよく気づいたわね」
「ふ、二つのどちらも、最初のものと違うのは分かりました。でも『どちらでもない』っていう答えには、さすがに自信がなくて……」
「悩んでいたところに、メイさんが嗅覚で気づいた『おかしい』が、確信になったのですね」
「なんか匂いの感じが全部少しずつ違ったから、変だなって思ったんだ!」
見事なコンビネーションで、高難易度クエストを攻略したメイとまもり。
両手でハイタッチすると、そのまま抱き着いてくるメイに、「本当に正解してよかった」と歓喜する。
「これはすごいわ……」
「はい、お見事です」
あらためて、感嘆の息をつく二人。
「ふ、普段は、何でもただお腹いっぱい食べているだけなのですが……自分でも驚きました……」
こだわりなどはなく、何でもおいしいというスタンスのまもりが見せたセンスに、驚くレンとツバメ。
後に料理系難関クエストとして、多くのプレイヤーを苦しませることになる、この新クエスト。
方向性を変えた内容でも、まもりの味覚とメイの嗅覚で問題なく乗り越えてみせた。
こうして見事に難問をクリアして見せた四人は、幸先よく【ローヤルクローブ】を手に入れることに成功したのだった。
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