1049.隠れた新要素
異世界解放後、まもりの気になったポイントを確認しに行くことにしたメイたち。
ポータルでたどり着いたのは、西洋山間部を思わせるトリアスの街。
そこそこの規模を誇る賑やかな街だが、大きなクエストやボスには縁がない。
ただログハウスやレンガ作りの建物が並び、この光景が好きで拠点にしているプレイヤーはちょくちょく見られる。
「きれいだねーっ!」
街中を流れる小さな川は澄んでいて、陽光にきらきら輝いている。
その水面を手ではなく、尻尾でつつくメイを見て、笑うレンたち。
「こういう街並みは、見ていて落ち着きますね」
「自然と建物が共生してる感じは気持ちいいわね。それで、まもりが気づいた異変っていうのは?」
「はひっ。実は最近色んな街に出かけて飲食メニューがないか、調べてみたりしてるんですが……」
「ふふっ、まもりは好きなもののためなら、外出にも前向きになるタイプなのね」
基本インドアだが、イベントなどがあるのなら楽しく出かけられる。
共感しながら、まもりに先導を任せる。
「ま、街はずれの宿屋。この裏側に回るんです。これはスペースを埋めるための建物だと思うんですが……」
そこにあったのは全体を丸々ツタに覆われた、レンガ造りの四角い建物。
街の大きさを確保しつつも、スカスカな感じを出さないために置かれる『埋め』の建物は、結構多い。
まもりが指さす建物は、高い位置に申し訳程度の小窓がいくつか並ぶだけ。
見るからに『埋め』の雰囲気だ。
「さ、先日ここを通った時はなかったハシゴが、昨夜には設置されていて……」
見ればそこには、屋上へと上がるハシゴが駆けられていた。
「小窓から薄く光がもれていて、なんだか怖かったので……」
「確かにこれは隠し通路レベルね……これに気づくのは、なかなか難しいわ」
「か、隠しの飲食店などがあるのではないかと、目を凝らしながら歩いていたので……」
「まもりらしいわね」
ちょっと恥ずかしそうにするまもりに、笑うメイとツバメ。
この鬱蒼と茂ったツタの建物から、わずかにもれる明かり。
夜に気づいたとなると、一人で乗り込むのはちょっと怖そうだ。
目立たない黒色の金属ハシゴを使い、四人はそっと建物の屋上に上がる。
そしてツタの隙間に、換気用の天窓といった感じの四角い鉄扉を見つけた。
「これは絶対に何かありますね……」
「間違いないねっ」
持ち上げるタイプの扉に、カギはない。
「それではレンさん、お願いします」
「お、お願いしますっ」
「この場合は誰でもよくない? そもそもドアを開ける時は、まもりが盾を構えた状態で開けるが一番いいと思うんだけど」
苦笑いしながら、レンは扉を持ち上げていく。
「中には、何があるのでしょう」
「ドキドキしちゃうね……っ」
「ま、魔物が悪事を働いている可能性も、ありますよね……」
四人そーっと、中に視線を向ける。
そして見えた光景に、思わず四人は目を輝かせた。
「これは……! 初めて見るわね!」
「驚きました」
「わあーっ、かわいいっ!」
ツタに覆われた、廃墟のような雰囲気すらあるレンガの建物。
その中では、二足歩行のタヌキたちが忙しそうに駆け回っていた。
頭に乗せたコック帽に、エプロン。
レンガ積みのキッチンにはフライパンや鍋などが並び、まな板や包丁も見られる。
「おいしそうなにおいがする!」
「ほ、本当です! これは何か料理をしているんでしょうか!」
「降りてみましょうよ。こういうクエストって初めてだし、ちょっと気になるわ」
「いきましょう」
こうして四人は、タヌキたちがちょこまか動く大きなキッチン内へ飛び降りた。
「えっ?」
四人を見たタヌキたちは、まさかの乱入者に硬直。
「「「うわーっ!」」」
驚きにコロコロと転がりながら逃げ出す。しかし。
「……待って、悪い人ではなさそうだよ!」
一匹のタヌキが、そう言って足を止めた。
ここは全員の動物値が高いメイたち。
クエストが始まるのに、充分の数値を満たしているようだ。
「何をしてたのー?」
メイが興味深そうにたずねると、タヌキはコック帽を直しながら応える。
「実は最近、グルメな魔物も増えておりまして。そこで人間にも化けられるボクらは、レストランを始めようと考えているんです」
「おおーっ! 楽しそうっ!」
意外な展開に、目を輝かせるメイ。
「な、何かお手伝いできることはありませんかっ!?」
まもりも、自らクエストを受けにいく。
「それはありがたいお話です。ですがまず……こちらをどうぞ」
そう言ってタヌキが出してきたのは、三つのさらに乗った一口サイズのステーキ。
「肉質の違いで『そこそこ』『美味しい』『とても美味しい』の三種類となっています。これを美味しい順に並べてください」
「味を見る能力を計るの……? これも何気に初めての試みね」
意外なテストが始まって、ちょっと驚くレン。
どうやらまた、『星屑』初めての展開が始まりそうだ。
「このテストは、誰でも受けられるの?」
「もちろんです」
「それではいただきますっ!」
さっそくメイは、三つのステーキを順番に口に運ぶ。
まずは一つ目。
「おいしい……っ!」
続いて二つ目。
「おいしいー!」
そして最後、三つ目。
「おいしいーっ!」
「……メイ、美味しい順に並べられる?」
「ええっ! 全部美味しかったよ!?」
「ふふ、これはダメそうね」
メイは基本なんでも「おいしい!」で、その差異には気づかなかったようだ。
「一応思い出しながら、並べるだけ並べてみたら?」
「りょうかいですっ! ええと、こういう順番でどうかな……?」
「不正解です」
「あちゃー」
短めの手で『バツ』を作るタヌキ。
残念ながら、三つのステーキの順位付けは失敗だった。
「何でもおいしそうに食べるメイさん、とても可愛いかったです」
何度思い出しても「やっぱり全部美味しかった……」と悩むメイに、思わずほほ笑むツバメ。
「でもこれだとクエストを受けられないし、四人がかりで何とかやっていく?」
とりあえずメイの並びを除外して、後三回のチャンスに賭ける。
そんな方法を、レンが提案した時だった。
「こ、ここは、私にやらせてくださいっ」
そう言って、まもりが一歩前に出た。
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