1048.まずは王都へ!
「――――今日は、どこに行こっか!」
約束の30分前。
港町ラフテリアは、港湾部の堤防の上。
振り返ったメイは、さっそく尻尾をブンブンしながら問いかける。
「ふふ、まずは王都に報酬をもらいに行ってからでいいんじゃない?」
「てへへ、そうでした!」
陽光まぶしい海の街で、今日もいつものように集まった四人。
『星屑のフロンティア』史上初となる、世界を賭けた戦いの勝利。
その直後にもかかわらず、その雰囲気は相変わらずだ。
「それでは王都に向かいましょう」
「い、今まで以上に人が多いらしいですね……」
まもりは盾に身を隠しながら歩き出す。
そしていつものポータルから、王都ロマリアへ。
「こ、これは……っ」
まもりは思わず呆気にとられる。
「大変なことになってます――――っ!」
そしてその人口密度に、思わず驚きの声をあげた。
王都は今、異世界へのゲートを目的としたプレイヤーであふれ返っている。
「ハウジング勢による異世界最初の街の建設には、とにかく資材が必要。だからあれこれ持ち込んでくる冒険者がすごく多いみたい」
「もちろん、新たな冒険を求めてきているプレイヤーもたくさんですね」
「す、すっかりラッシュですね」
「建築にしろ冒険にしろ、とにかく物が必要みたいで、マーちゃんも忙しくしてるみたい」
「そうなんだぁ」
星屑の世界は、完全な異世界ラッシュ。
そして流行を生み出しがちなメイ自身が、その内容に詳しくないのも、いつものことだ。
「あっ! メイちゃん!」
「メイですっ」
人ごみの中、メイを見つけたのは一人の少女。
「今新しい街づくりをしてるんですけど、そこにメイちゃんたちの像を作りたいって話をしてるんです!」
「えっ……」
何度か聞いた話に、メイは嫌な予感を覚える。
「そ、それってどんな姿なんですかっ?」
「それはもちろん、変貌の王を倒した時のワイルドな――」
「やっぱりー! それは困りますっ!」
「え、どんな格好がいいですか?」
「メガネの知的なお姉さんでお願いしますっ!」
「あっはっはっは」
メイ、冗談だと思われて笑われる。
「…………」
一方レンも、中二病要素をなしを要望した場合の代替案が思い浮かばない。
そのため、言葉を続けられない。
まもりは勝手に、自分の像など立つはずがないと思って、成り行きを見守っているようだ。
「ひよこちゃんの造形には、こだわっていただきたいです」
そしてツバメは、相変わらず。
「完成を楽しみにしておいてくださいねーっ!」
ハウジング勢の少女はそう言って、楽しそうに異世界ゲートへ駆けて行く。
「……広告効果もあって、いろんなところで声をかけられるようになったわねぇ」
「本当だねっ」
「私は特にありません」
「わ、私もあまり」
メイは現実でも声をかけられることが増えているが、ツバメとまもりは相変わらずのようだ。
「ツバメの動画、あれだけ話題になってるのに」
今回の戦いは見どころがとにかく多く、広告、広報誌、CMなど、各所でメイたちの活躍が見られる。
ツバメも変貌の王との戦いの冒頭でいきなり【アサシンピアス】を決めたシーンは、一つの見どころとして動画CMに使われた。
かなりの人数が目にしたうえに、話題にもなった。
それでも気づかれないツバメの隠密力は、やはり高い。
「レンさんの、『宗教画』のインパクトにはかないません」
「うんうんっ、すっごくカッコ良かったよ!」
「私はヒザから崩れ落ちたけどね」
運営が公開した超大判のポスターの一つは、闇の宗教画として話題になった。
MP切れを起こしたレンが使徒志望者たちから魔力をもらうシーンを切り取った、その一枚。
黒き信者たちを跪かせて、杖を掲げ、妖しい輝きをまとう姿は、まさに闇を司る魔女。
構図が横長だったこともあり、その迫力は『最後の晩餐の横に並んでいても遜色ない』と言われるほどだった。
もちろんレンは、頭を抱えてヒザを突いた。
「お待ちしておりました」
「こんにちはっ!」
大通りを進んできたメイたちがたどり着いたのは、王都ロマリアの小宮殿。
そのホールには、丁寧に頭を下げる銀髪のミステリアス少女。
チュートリアルAIの、【HMX-18b・ベータ】が待っていた。
「世界に滅亡の危機をもたらした、変貌の王・グィンドラの打倒。お見事でした。新たな世界の開放は、まさに偉業です」
「ありがとうございますっ」
「クエスト報酬を用意させていただきました、どうぞお受け取りください」
現れた四つの宝箱。
まずはレンが、手を伸ばす。
【魔神の黒杖】:悪魔の骨で作られた杖。MPを大きく消費することで、付属スキル【滅多撃ち】を使用できる。
「なるほど……MP消費が怖いから使いどころは選びそうだけど、派手でいいわね」
「上級魔法の連射は、とても豪快なことになりそうです」
続いて、ツバメが宝箱を確認する。
【妖刀化】:手持ちの刀を妖刀と化す。対象に傷をつけるほど、状態異常のかかりやすさを増強する。
「これってボスにも、状態異常効果を添付できたりするのかしら」
「そ、そうだとしたら面白そうですね」
レンが口にした可能性に、自然と生まれる期待。
次は、まもりの番だ。
【大回転撃】:左右の手に持った装備品やオブジェクトを、振り回して攻撃する。
「盾二枚を振り回して攻撃といったことも、できるのでしょうか……」
「だとすれば攻撃力、反撃力の強化になるわね」
ぶん回し用の盾を見つけると面白いかもと、つぶやくツバメ。
最後に宝箱を開くのは、メイだ。
【白鯨の弓】:白鯨の骨で作られた弓。付属スキル【曲芸連射】は、地上でも空中でも連射が可能。
「弓矢だー!」
「メイさんが弓を使うのですか。見た感じは一見普通ですが……」
「どんな体勢でも矢が撃てる。そしてツバメの【妖刀化】と同じタイミングでの入手。現状『星屑』であまり活きてない一部の矢が、生き返りそう」
『死に武器』と化しているものが復活する。
そんな可能性に、思わずレンが笑みをこぼした。
「さて、これで報酬の確認も終了ね。今日はどうする?」
今一番熱いのは、間違いない異世界だ。
だがそれもあくまで選択肢の一つというのが、この四人の特長。
「そ、そういえば、少し気になることがあって……新マップの登場の後に、今までなかった変化を見つけたんです」
「今まではなかったものが、アップデート後にしれっと現れた。気になりますね」
「ま、街はずれなのですが、一人で行くには少し怖いので……」
「いいわね。そう言うのドキドキするわ。そう言うところから意外と何かにつながったりしそうだし、見にいってみましょうか」
「そうだねっ! 何があるんだろう!」
こうして四人はベータに手を振り宮殿を出ると、まもりが見つけた小さな変化を追うことにしたのだった。
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