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1042.最後の戦いⅤ

 グィンドラのHPは6割台。

 ここで頭上の金輪が輝き出し、新たな戦闘方法が解除される。


『――【切り裂き光輪】』


 回転を始めた金輪から、怒涛の勢いで放たれる輝きの光輪。

 前方にいたメイとツバメはこれをかわすが、光輪は軌道を曲げて戻ってくる。


「複数追尾型ですか!」

「【フルスイング】!」


 メイは回避に、剣撃を織り交ぜて対応。

 ツバメも回避に剣舞を入れ込むことで、追尾光輪を斬り飛ばす。


「【クイックガード】【天雲の盾】!」


 まもりは二枚の盾で、レンの分も合わせて対処。

 最後に飛んできた【大型光輪】も、難なく受け止めた。しかし。


『――【光輪乱舞】』


 反撃を狙っていたレンを囲む形で空中に現れた、たくさんの小さな波紋。


「っ!」


 まるでワープしてきたかのように、波紋から光輪が次々に飛び出す。


「きゃああああっ!」


 後方からも飛んでくる攻撃を、回避することはできない。

 レンはすさまじい勢いで斬り裂かれて、大きなダメージを受けた。

 これで残りHPは4割。

 さらに頭上の金輪は、瞬間移動で空へ。

 メイたち四人を狙える位置に滞空すると、輪を二メートルほどに拡大。


『――【重力弾】』


 その中心から、黒い魔力弾が射出された。

 放たれた黒弾は、地面から1メートルのところで急停止。

 半径50メートルほどの重力を、大きく引き上げた。


「これは……っ!」

「うわわっ! 身体が重くて動けないっ!?」


 今まで受けたことのないその攻撃、普通であればその場に伏せてしまうほどの威力を誇る。

 メイは全身を引っ張られるような感覚に、ヒザを突く程度で済んだが――。


『――【切り裂き光輪】』

「わああああああ――――っ!」


 そこに迫り来る、【大型光輪】がそのまま直撃して転がった。

 メイのHPは、これで残り5割ほど。

 重力増加が消え、ようやく動けるようになったツバメたちは、追撃を止めに動く。

 だがグィンドラの狙いはメイだけでなく、あくまで四人全員だった。


『――転写光殺陣』


 空に大きく広がった光輪が、地面に紋様を転写。

 すると紋様にそって、光の刃が突き上がる。


「「「「ッ!!」」」」


 メイを助けに駆けていたツバメは、光の刃に斬られて残りHP2割まで減少。

 足元からの急な攻撃に回避し切れなかったまもりも被弾し、HPが3割ほどまで低下。

 とっさに防御を選んだレンは、残り3割。

 回避に成功するも腕を弾かれたメイは、4割まで追い込まれた。

 ここでさらに、広げた翼に集まる魔力の粒子。


『――集束魔力砲』


「「「「っ!!」」」」


 強烈な輝きと共に放たれる魔力砲。

 放たれた強力な魔力を、四人は全力疾走で転がり出て回避。

 直後、通り過ぎた魔力が後方で大きな爆発を巻き起こし、四人を転がした。

 わずかに巻き込まれたメイのHPは3割台に。

 ツバメに至っては1割台に突入。


「まだ……っ!! 【低空高速飛行】!!」


『――まずは、お前だ。【雷槍】』


 グィンドラはさらに、三十本ほどの雷光を放ってツバメにトドメを刺しにいく。

 レンは速い移動で、転倒の状態のツバメを抱えて回避した。

 雷光に弾かれたレンのHPは、これで2割台に。


「レンさん、ありがとうございます……っ」

「それでなくても高い火力に、速い攻撃。そこに金輪の攻撃を混ぜることで、さらに強化されてるわね」

「つ、強すぎます……っ」


 一連の連続攻撃を終え、どうにか生き残ったことに息をつく四人。

 すでに全員のHPが、半分を大きく割った状況。

 四人の戦いは、大きな窮地を迎えた。


「なあ、お前なにやってんだ?」

「ラスボス戦と言えば、皆で祈るやつだろ」


 そんな中、一人の掲示板組が苦しむメイたちに、祈りを捧げだした。

 そんなのが始まってしまったら、当然皆が後に続く。


「メイさん、負けないでぽよ!」

「負けないでくださいっ!」


 スライムや迷子を始めとした掲示板組が総出で、胸元で手を組み祈り出す。

 するとさらに。


「闇を超えし者、貴様に世界を任せるぞ」

「貴方に託しますわ」

「フフ、ボクにここまでさせたんだ。まさか負けたりしないよねぇ」


 四天王の打倒に成功した傷だらけの使徒たちが、この流れに乗っかっていく。

 各々がカッコいいポーズで、メイたちの勝利を祈り出した。


「メイちゃん、がんばって!」

「みんな、負けないで」


 この流れは続く。

 ボロボロのアーリィは真剣に祈りを捧げだし、聖女モードに戻したシオールがすごく雰囲気を出してくる。


「……この程度の危機、メイたちなら必ず乗り越える。これはいつものこと」

「ああ、いつものことだっ!」


 そしてアルトリッテが、強く剣を握れば――。


「メイ、負けたら許さないぞ……お前に勝つのは、神槍のグラムなのだからな!」


 グラムが、お手本通りのツンデレ声援を送る。

『最後の戦いで勇者に祈りを捧げるやつ』の、完遂。


「…………っ」


 それは定番の流れだが、初めて見たメイは思わず感動する。


「レンちゃん」


 そして、静かに呼びかけた。


「そうね、勝負を懸けましょう。メイ……おねがいできる?」

「おまかせくださいっ!」


 うなずき合う二人。

 こうしてメイとレンの思惑が一致。

 集まる期待の視線に応えるように、メイは右手を高く突き上げた。

 そして、スキルを発動する。


「いきますっ! ――――大きくなーれ!」


【密林の巫女】によって、広大な王都前草原に一斉に伸びゆく若芽。

 枝を広げ、幹をドンドン成長させていく。

 すぐに木々が乱立し、広げた枝に葉を生い茂らせる。

 そしてあっという間に、王都前にジャングルが完成した。


「完璧じゃない……!」

「みなさんっ! ありがとうございましたーっ!」


 巨大な密林の完成は、地下進攻を早めに切り上げ先に戻ったプレイヤーや、ボス戦時に駆け回っていた初級者がまいておいた種によるもの。

 レンは歓喜し、メイはブンッと大きく頭を下げた。そして。


「確かに異世界の王は強い。四人で戦うには厳しい相手だったわ。でもここからは……!」

「こちらも、『王』と一緒に戦わせてもらいます!」

「はひっ!」


 四人は再び立ち上がり、武器を構え直す。

 一変した光景の中、グィンドラは空高く舞い上がると、翼を広げて特攻。

 その狙いが自分だと気づいたメイは、速いバックステップで下がる。

 すると迫るグィンドラの翼を擦る形の斬りつけが、そびえる木によって妨害されて大きく速度減少。

 メイに難なく回避されると、今度は最接近から両の翼を広げた回転撃に入る。

 しかしこれも、当然のように木々に阻まれ強制停止。


『――【光翼飛天】』

「っ!」


 放つは奥義級の一撃。

 大きく翼を広げた後、雷を思わせる超加速の特攻で、メイを弾き飛ばしに向かう。

 しかしその間には、何本もの大きく育った樹木。

 翼は木々に弾かれ、飛行の方向がブレたことで肩口が幹に激突。

 体勢を大きく崩されたグィンドラは、そのまま密林の中を派手に転がっていく。

 すぐさま、後を追うメイ。


『――【風剣】』


 速い体勢の立て直しから、放つ風刃は木を斬り消滅。


『――【雷槍】』


 続く雷撃も、密林の中では幹にぶつかり消えるのみ。


『――【切り裂き光輪】』


 ここでグィンドラはようやく、追尾型の攻撃に変更。

 だが間に木々を挟んだ戦いは、メイにとっては得意中の得意。

 追いかけてくる光輪も、木々の隙間を縫うように進むだけで追ってこられない。

 距離を詰めるメイ。

 グィンドラは、翼による特攻斬りつけを狙うが――。


「【グリーンハンド】【バンブーシード】!」


 すさまじい速度で伸びる、竹林によるカウンター。

 メイを囲むような形で付き出した無数の竹が刺さり、そのまま敵を大きく突き上げた。

 空中で姿勢を立て直したグィンドラは、着地と同時にメイの位置を確認。


『――【複腕】【百手魔王砲】』


 すぐさま腕を八本に増やし、奥義級の攻勢で優位を取りにいく。

 炎氷風雷水と、属性を選ばぬ怒涛の上級魔法連射が、メイを狙う。


「【グリーンハンド】【豊樹の種】!」


 しかし二度目になるそのスキルは、もうメイに通用しない。

 一気に伸びて生まれた木々の壁によって、全てを防がれる。


「【グリーンハンド】【綿毛花】!」


 ここでメイが反撃に移り、大量に舞う綿毛で視界を覆い尽くす。

 互いに何も見えない状態は、本来であれば膠着だ。

 しかしグィンドラの大きな翼が木の葉に触れ、音を鳴らした直後。

 飛んできた【王樹のブーメラン】が、側頭部に激突した。

 再び密林を転がったグィンドラは、起き上がりと同時に攻撃が飛んできた方へ一直線。

 驚異的な速度の低空飛行で、翼での攻撃を仕掛けに行くが――。


「はああああ――っ!」


 横から飛び出してきたのは、まもり。


「【チャリオット】【地壁の盾】!」


 翼を受け止めると、そのままグィンドラを押し出す形で突き進む。


「【シールドバッシュ】!」


 そして、衝撃波による吹き飛ばし。

 転がった先にあったのは、魔法陣。


「解放!」


【設置魔法】が氷嵐を巻き上げ、吹き飛ばされた先にはさらに【設置魔法】

 紫の爆炎が、続けざまにグィンドラを吹き上げた。


「【モンキークライム】!」


 メイは枝を駆け、グィンドラのもとへと向かう。


『――【集束魔力砲】』


 そんなメイを狙って、広げられる両翼。

 魔力の粒子が集結し、翼の紋様が煌々と輝き出す。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイは枝の上から大きく跳び、そのまま地面への着地を試みる。

 だがこれは『跳躍からの着地』

 グィンドラは着地点を狙って、集束した魔力を放出。

 強烈な波動砲が、メイを襲う。


「【ターザンロープ】!」


 しかし直地する前に、投じたロープによって軌道を変更。


「アーアアー!」


 森に響く叫びの直後、放たれた魔力砲が通り過ぎ、盛大な爆発を巻き起こした。

 そしてグィンドラは、突然の硬直に見舞われる。

 メイに視線を奪われたことで視線が完全に切れ、ツバメの【不可視】による【雷ブレード】投擲が直撃。


「【雷光双閃火】!」


 直行で突き刺す右の【致命の葬剣】


「【スライディング】【反転】」


 浮遊する本体の下を滑り抜けて、突き刺す左の【グランブルー】

 猛烈な火花を散らし、爆発。

 消し飛ぶグィンドラを横目に、ツバメは飛んでくる二本の短剣を回収した。


「やったー!」

「私たちもすっかり、森のお友達ね!」

「はひっ!」


 笑い合う四人。


『――転写光殺陣』


 グィンドラはそれでもなお、攻勢を止めることはない。

 光輪の輝きによって地面に映った紋様が、光の刃を突き上げる一撃。

 前回、四人全員にダメージを与えた広範囲攻撃スキルだ。

 だが、しかし。

 生い茂る木々の葉は厚く、ほとんど地面に紋様が映らない。

 もはや、回避に走る必要すらない。


「【装備変更】【バンビステップ】!」


 メイは【鹿角】で速度を上げ、柔軟な足取りで木々の合間を駆け抜け接近。


「おしおき!」


 払う右手に合わせて伸びる無数の枝葉が、グィンドラを弾き飛ばす。


「おしおき!」


 続けて払う左手で、地を転がす。


「おしおきだーっ!」


 そして最後の振り上げで、グィンドラが宙を舞った。


「【グリーンハンド】【栄養剤】【危険植物ちゃん】!」


 メイは手を突き、今度は【危険植物】に【栄養剤】を投与。


「「「ッ!?」」」


 怪獣のような巨大さに育った赤い花は、そのままグィンドラに喰らいつく。

 強烈な噛みつきで岩が割れるような音を響かせた後、すさまじい勢いで地面に叩きつけた。


「ありがとうございましたー!」

「ここはもう完全に、メイの領域だわ……!」


 木々にぶつかりながらも体勢を立て直すグィンドラのHPは、これで残り3割ほど。


『――ここまでだ』


 当然その攻勢を、さらに増してくる。


『――我が真なる力の前に消え去るがいい、異世界の冒険者たちよ!』


 そして額や身体、翼に彫り込まれた紋様が輝き出した。


「メイ、時間を稼ぐわ。ここで勝負をつけましょう」


 そう言ってレンは、メイの肩に手を置きルーンを使用。


「りょうかいですっ!」


 レンはツバメやまもりに視線を送り、うなずき合う。

 するとグィンドラは、紋様輝く翼を広げて特攻。


「速いです……ッ!!」


 向上した速度に、驚愕するツバメ。

 超加速から放つのは、輝きを放つ翼による斬り抜けだ。

 木々を斬り飛ばす火力となったその一撃に、立ちふさがるのはまもり。


「【不動】【地壁の盾】!」


 激しい擦過音を鳴らし、大量の火花を飛ばしながら、翼の一撃を防御。

 するとそこからグィンドラは、輝く翼で一回転。


「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾っ!」


 広範囲を巻き込む両翼での攻撃から、遅れて放たれる烈風。

 荒れ狂う風は、まもりの体勢を崩した。


『――【複腕】【百手魔王砲】』


「っ!!」


 残りHPが3割を切っているまもりを、グィンドラは魔法の連射で仕留めにくる。


「【連続投擲】!」


 そこに攻撃を仕掛けたのはツバメ。

 四本全て【風ブレード】を使うことで、グィンドラを一瞬押し留めた。


「【加速】【リブースト】! 【ヴェノム・エンチャント】【アクアエッジ】【瞬剣殺】!」


 そして一瞬で懐に入り込み、水刃の連射で見事に毒を発症。


「【シールドバッシュ】!」


 続くまもりの衝撃波で、グィンドラを遠ざける。


『――【盤光太極砲】』


 再び金輪が上空へ。

 その大きさを付近を覆ってしまうほどに拡大した金輪が、まばゆい輝きを放つ。

 それは見れば即座に分かる、強大な一撃。


「【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」


 しかし放つ炎弾は目にも止まらぬ速度で空を駆け、一際強く輝いていた額の紋様を撃ち貫いた。

 カウンターの一撃によって、【盤光太極砲】は強制停止。


「メイっ!」


 作り出した隙。

 この場にいた全員がメイに振り返る。


「【増幅のルーン】発動!」

「【蓄食】っ!」


 メイは使用数の増えた【腕力】上げのバナナを20個を、ここで一気に完食。さらに。


「大きくなーれ!」


【密林の巫女】を使用する。

 すると木々の中に潜んでいた【世界樹】が、空を覆うほどに大きく成長。

 落ちてきた金色の実を受け止め、食べるとさらに【腕力】が向上した。そして。


「【装備変更】!」


 メイは【猫耳】を【狼耳】に変更したところで、右手を突き上げ攻勢に入る。


「それでは両人ご一緒に! ――――ケツァールさん、クマさん、よろしくお願いいたしますっ!」


 現れた二つの魔法陣から、やって来た召喚獣。

 メイの【群れ狩り】は、その効果を向上させている。

 右手を突き上げたまま、【友達バングル】も使用。


「――――誰が来てくれるかなっ!?」


 その言葉に応えて現れたのは、北極で出会った白クマだ。さらに。


「おねがい、いーちゃん!」


 飛び出した使い魔のイタチが、「待ってました」とばかりに腕をグルグル回す。

 メイは大きく息を吸って、狙うべき敵を指さした。


「みんな一緒に、突撃だーっ!」


 獣たちがジャングルを、グィンドラ目がけて走り出す。


「【裸足の女神】!」


 駆け出すメイに対し、グィンドラは【百手魔王砲】で対抗。

 火力を上げた魔法の嵐は、その全てが上位上級クラス。


「や、【野生回帰】っ!」


 だが装備を飛ばし、インナー姿になれば速度も急上昇。

 メイは木々の隙間を駆け抜けることで、荒れ狂う魔法の波を避けながら距離を詰めていく。


「おねがいっ! いーちゃん!」


 先制は肩から飛び出したいーちゃんが、吹かせる暴風。

 これに体勢を崩されたグィンドラのもとに、急降下してきたケツァールが蹴りを叩き込む。

 派手に地面を転がれば、そこに駆けてくるのは白クマ。

 大きく振り上げる形の【ホワイトベア・クロー】で打ち上げたところに、子グマを抱えた巨クマがやってくる。

 いつものように放り投げようとして、それが子グマだと気づいて慌ててストップ。

 あらためて、得意の【グレート・ベアクロー】を叩き込む。

 木々にぶつかりながら、跳ね転がるグィンドラ。

 そこに駆け込んできたのはメイだ。


「【装備変更】! 【地裂撃】!」


【大地の石斧】が崩落させた地面に、グィンドラが飲み込まれる。


「からの【グレート・キャニオン】だああああ――――っ!!」


 突き上がる大地は、はるか高く。

 その頂上をかすませるほどに巨大な岩塔が、グィンドラを天高く吹き飛ばした。


「まだまだいきますっ!」


 止まらないメイが、その手に取り出したのは【絆の宝珠】

 すると輝きと共に大地が、空気が震え出す。


「「「ッ!?」」」


 それは陸海空全ての『王』たちに認められていないと、起こりえない奇跡。

 砂煙をあげながら突撃してきた獣の王が、グィンドラに喰らいつき、天高く放り出す。

 すると魔法陣を突き破って現れた、海の王が突撃。

 地面に叩きつけられて跳ね上がったところを、高速で飛来した空の王が翼で切り裂いていく。

 あまりに、豪快な一撃。

 頭を【猫耳】に戻したメイは、動物たちに大きく手を振って見送る。


「これが、野生の王様か……」


 動物たちを引きつれ、大地を突き上げ、自然の王たちによる追撃を叩き込む。

 そんなメイの姿に、ノドを鳴らすアルトリッテ。

 その光景にはグラムさえ、あんぐりと口を開けたまま。

 遠く吹き飛ばされたグィンドラのHPは、もう残りわずか。

 生まれた距離。

 互いが最後の武器を持って、ぶつかり合う。


『――【無限光閃】』


 広げた六枚の翼から、放たれる大量の魔力光線。

 放つごとに森を白く照らすほどの攻撃を、グィンドラは連射する。

 木々による庇護があってなお、相手を圧倒するその火力。

 メイも、覚悟を決めた。


「い、いきます……っ! よ、よ、よ、【四足歩行】だああああ――――っ!!」


 メイは木々の間を渡る形で、超高速移動。

 頬や肩、脚の数センチ横を白光が通り過ぎていく。


『――【無限光閃・廻】』


 光線の放出が突如、左右から回り込んでくるような形に変わる。

 挟み込むような軌道で飛来する無数の白光は、普通であれば回避を諦めるレベル。

 しかし広がる大量の木々が、枝葉が遮り、威力を半減。

 それはまるで、このジャングルの全てがメイを守り後押しするがごとく。

 森の支配者となったメイ。

 その支配領域での戦いは、不可能も可能となってしまう。

 圧倒的な光線の奔流を全て置き去りにしたメイは、そのままグィンドラの前に踊り出た。

 残る距離は、100メートルを切る。

 光線に消し飛ばされて生まれたその空間、両者の間を阻む物は何もない。


『――【光輪太極砲】』


 そしてついに、奥義が発動する。

 頭上を守っていた金輪が、グィンドラの前に大きな円を描く形で展開。

 放たれるは、全てを消し飛ばす究極の波動砲。

 駆ける白光は、暗天を白く染め上げるほどに高火力だ。


「【ラビットジャンプ】!」


 超加速中のメイは、これを長い跳躍ひとつで飛び越えた。


「「「「きたっ!!」」」」


 誰もがここで、勝利を確信して拳を握る。

 着地と同時に二歩ほど足をフラつかせながらも、再び駆け出そうとしたメイは気づく。


『――【絶拳】』


 変貌の王・グィンドラの最終奥義は、ここから。

 そしてそれは意外にも、拳の一撃だということに。

 引いた拳に、宿る輝き。

 渦巻く風に、たなびく木々。

 揺れる大地が、その一撃の容赦ない火力を物語る。

 放つ一撃は間違いなく、全てを破壊するだろう。

 そしてその衝撃が巻き込む範囲は、先ほどの波動砲すら超える。

 今から再度の跳躍を行っても、範囲外への退避は間に合わない。

 切り返して左右へ抜けるのも、不可能だ。

 勝負をつけにいくと決めたことで生まれた、絶望的な危機。

 回避は不可能、防御でも残り2割台のHPは残らない。

 メイは、放たれた強大な一撃に飲み込まれた。


「メイちゃん……っ!」

「「「メイちゃああああああ――――ん!!」」」


 大地が避け、木々が消し飛ぶ。

 まさかの展開に、悲鳴をあげるプレイヤーたち。


「【トカゲの尻尾切り】!」

「「「ッ!?」」」


 しかし次の瞬間見えたのは、弾き飛ばされた一本の剣。

 直後、地面に突き刺さった【王蜥蜴の剣】

 最後に『身代わり』となってメイを守ったのはなんと、トカゲだった。

 これでもう、両者の間を阻む物は何もない。


「……ラフテリアで知ってから、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだ」

「いつでも、俺たちの想像を超えて行ったメイちゃん」

「その行程を追いかける時間は、ずっと、ずっと楽しかった!」


 一直線に駆けるメイ。


「【ラビットジャンプ】!」


 選んだのは、シンプルな跳躍。

 ただのジャンプに、攻撃力をあげる効果はない。

 それでもメイが最初にラフテリアにやって来た時に見せた、大きなジャンプから放つ基礎スキルのダイナミックさは、プレイヤーたちを震撼させた。

 今では剣士でなくても真似をする、野生児の必殺技。

 メイが敵を前に跳べば、誰もがそれを期待する。


「いけ!」

「いけっ!」

「「「いけええええええええええ――――っ!」」」


 あがる歓声を背に受けて、メイは【アクロバット】で華麗に一回転。


「いきますっ! 全身全霊全力全開の、ジャンピング――――」


 手にした剣を、全力で振り下ろす!


「「「「「ソードバッシュだああああああああああ――――っ!!」」」」」


 大きく上げられた【腕力】が放つ最後の一撃は、余波の時点で付近の木々を大きくしならせた。

 直後に解放された衝撃波は一瞬でグィンドラを消し飛ばし、ジャングルを冗談のような勢いで跳ね転がす。

 100メートルでも止まらず、200メートルでも止まらない。

 その衝撃は王都草原を駆け抜け、暴風は遠く山の木々を揺らす。

 山肌から天へと駆け抜けていった風は雲を払い、後方にいたプレイヤーたちすら転倒させる。

 数百メートルに渡る深い擦過痕を地面に残したグィンドラは、念話形式でなければ絶対に聞こえないほど遠くで、驚愕の声をあげる。


『――馬鹿な。世界を統べる王が、脆弱なる異世界の小さき者に敗れるなどォォォォ……ッ!』


 変貌の王・グィンドラの全身に走るヒビが、その身体を崩壊させていく。

 倒れた異世界の王はそのまま崩れ去り、粒子となって消えていった。

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[一言] ちなみに幼女と6人のコーヒーで最初の幼女がいいえと答えると、それ以降の幼女も全員いいえと答えると思うので、問題が成立しなくなります。 一人目いいえ 二人目以降 いいえ(私は飲みたいけど一人目…
[良い点] 環境変化とか限界超えた強化とか それってボスの所業なんだよなぁ……。 え、合ってる? ……うん、合ってるか。 [一言] グィンドラさん泣かないで。 あなたはたしかに異世界を統べる王です! …
[一言] TRUE POWEEEEEEEEEEEEER!!!!野生の王《WILD KING》...WIIIIIIIIIIIIIN!!!!
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