1041.最後の戦いⅣ
巨大な魔獣と化した変貌の王・グィンドラは、レンの【ダークフレア】に倒れた。
項垂れる巨獣。
しかし静かにその顔を持ち上げると、立ち昇った光柱が黒雲を穿つ。
吹き抜けていく風。
流れる雲の隙間に閃く赤光の輝きが、終末を告げる。
「これまでとは、少し違うね」
「いよいよと、いうことでしょうか」
変貌を遂げるグィンドラの新形態は、体高3メートルほど。
石膏を思わせる質感の頭部に彫り込まれた顔には表情がなく、目に瞳なし。
額に刻まれた紋様。
長い白色の髪に、左右二本の角。
その頭上には、紋様入りの金輪が浮かんでいる。
右肩に三本、左肩に二本、突き出した黄金の針。
肩からつながる太い腕という造りは人間のそれだが、筋肉を思わせる部分は、濃灰色の木の根を束ねて作ったかのようだ。
そしてそんな身体の各所にも、文様が刻まれている。
『――――この姿になるのは、ずいぶんと久しぶりだ』
背中に生えた六枚の翼を、優雅に揺らす。
足はなく、上半身を形作っている木の根のようなものが、腰から下に垂れ下がっている。
『――――王の真なる姿を知ってしまった貴様らに、与えられる慈悲はない』
わずかに浮遊している姿は神々しく、同時に邪悪。
「これが異世界の王の、最終形態ね」
「さすがに、迫力がすごいです」
「は、はひっ」
「勝って、終わろうね」
「もちろんよ!」
「はいっ!」
「はひっ!」
うなずき合う四人。
特別大きいわけではないが、感じる明らかな迫力。
『――――貴様たちの前に待つのは、惨たらしい滅びのみ』
グィンドラは長い腕を大きく開き、堂々と命ずる。
『――――さあ、覚悟せよ』
六枚の翼を力強く広げると、輝きを一つ残して瞬間移動。
次の瞬間グィンドラは、空高くに登場。
一回転してさらに数メートルほど上昇したところで、頭上の金輪を輝かせた。
広がる金輪、光を放つ紋様。
『――【盤光太極砲】』
黄金の魔力砲を、地上のメイたちに向けて放った。
「【バンビステップ】!」
「【低空高速飛行】!」
「【加速】【リブースト】!」
メイはまもりを抱えて、すぐさま退避。
直後、猛烈な爆発が王都前草原の一部を消し飛ばした。
いきなり見せた高火力広範囲の一撃が、砂煙を巻き上げる。
「あ、ありがとうございますっ」
「いえいえー」
「何という威力ですか……」
「見た目だけで言えば、直撃なら一発で死に戻りね」
震える空気と、揺れる大地。
転倒したレンとツバメは、その火力に苦笑いを見せる。
「くるよっ!」
それに気づいたのは、やはりメイだった。
巻き上がった砂煙を割って、出てきたのはグィンドラ。
急降下からの、速い滑空で接近。
弧を描き、メイたちの左側を抜ける形の飛行は、片側の翼を擦りにくるような軌道だ。
しかし四人はメイの早い指摘で、後退による回避に成功。
目前を、大きな翼による斬撃が通り過ぎていく。
グィンドラは、そのまま振り返って急停止。
『――【風剣】』
右手に生み出した、風の刃を振り払う。
メイとツバメはこれをしゃがんでかわし、レンはまもりの盾に守られた。
『――【雷槍】』
グィンドラはさらに、三十本ほどの雷光を放って追撃。
前衛二人は集中し、駆け抜ける高速の雷撃をしっかりと見極める。
次撃に備えるメイとツバメ。
しかし意外にも、グィンドラの選択は移動。
速い飛行で四人の中心に飛び込むと、六枚の翼を広げて大回転。
「「「「ッ!!」」」」
刃となった翼が、盛大な光のエフェクトと共に輪を描く。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
「【不動】【地壁の盾】!」
メイとツバメが跳躍でかわし、まもりは盾による防御を選択。
「【フレアストライク】!」
まもりの盾に守られたレンの判断は、空中にいる前衛組への追撃の阻止。
あわよくば、攻守の交代も狙って炎砲弾を放つ。
するとグィンドラは六枚の翼を閉じ、飛来する炎を防御。
閉じた翼を大きく広げ、吹き荒れる風で反撃してきた。
「「っ!」」
これに足を止められた四人。
戦いはまた、グィンドラの攻勢に戻ってしまう。
『――【連火】』
伸ばした手から放たれる5連続の炎弾は、緩い誘導で迫りくる。
メイはこれを、ジグザグのバックステップでかわす。
『――【氷雅】』
続けて放たれた5連続の氷弾も、ツバメは同様の動きで回避。
二人が反撃のために一歩足を出したところで、計10発の魔法弾が花火のように弾けて小爆発。
生まれた球形の攻撃判定に、足止めを喰らう。
『――【光翼飛天】』
グィンドラはフワッとした、バク宙のような形で一回転。
大きく翼を広げる始動モーションの後に、放つ特攻。
アフターバーナーを思わせる魔力噴出からの超加速は、奥義級の演出だ。
その狙いが自分だと気づいたツバメは、雷光のごとき一撃を前に防御を選択。
直後、凄まじい勢いで衝突した翼に弾かれ転倒した。
「ああああ――っ!」
さらに、遅れて駆け抜ける衝撃波に吹き飛ばされる。
防御をしっかり成功させた上で転倒を取られ、さらにダメージも2割に届こうかというほど。
その火力も奥義級だ。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
吹き荒れる風に揺られながらもレンは、魔法を放つ。
しかし長い移動距離もあり、グィンドラは振り返りと同時に翼を閉じて防御。
再び反撃に入る。
紋様の刻まれた六枚の翼から放たれるのは、大量の魔力光線。
真っ直ぐに駆け抜けていく光線に対し、メイに手を引かれて立ち上がったツバメは回避に集中。
まもりも盾による防御を選択し、二連発、三連発と続く光線攻撃を必死に耐える。
だがこの攻撃は、続く一撃への前準備だった。
『――【集束魔力砲】』
広げたままの翼に、集まる魔力の粒子。
光線の回避を終えたメイたちが気づいた時には、見ただけでその火力を理解できるほどの輝きが集束していた。
翼の紋様が灯す光は、すでに臨界。
その威力は、またも奥義級だ。
第三形態で見せられた【波動砲】を超える、超火力の魔力砲が放たれる。
「させないっ! 【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
今まさに【集束魔力砲】が放たれる瞬間、レンが放った狙撃銃のような一撃。
ギリギリのところでグィンドラを貫き、体勢を崩したことで攻撃は強制停止。
しかし放出自体は止まらず、天に向かって放たれた魔力砲は、暗夜に盛大な爆発を巻き起こした。
「お見事ですっ! 【加速】【リブースト】!」
降り注ぐ魔力の粒子。
この隙を突きに向かうのはツバメだ。
「【電光石火】【反転】【稲妻】! 【反転】!」
『ツバメ返し』を叩き込み、再び反転したところで一騎打ちのような状況となる。
『――【光翼飛天】』
「また、ですか……っ!?」
グィンドラは先ほどツバメを弾き飛ばした奥義級スキルを、早くも再発動。
わずかな事前モーションから、雷光のごとき突撃を放つ。
避けるなら、跳躍か側方へのダッシュ。
だが攻撃範囲を抜けるまでにかかる時間を考えると、回避は間に合わない。
状況は、最悪だ。
「……イチかバチかですね」
しかしここで、常人が選ばない手段を取るのがツバメ。
すでにその手には、先ほど持ち替えておいた【村雨】がある。
避けれないなら、置いておけ。
「【サクリファイス】――――【水月】」
突き出した【村雨】には、『水属性攻撃の効果上昇』という効果を持つ。
まさかの選択は、敵の動線に水刃を置く形のカウンター。
迫るグィンドラの肩口を、見事に貫通した。
激しく弾け散る水しぶきと共に、ツバメの側方数十センチのところを体勢を崩した状態で通過。
そのまま地面を転がった。
「ツバメちゃん、プロみたいっ!!」
これには思わず声を上げるメイ。
「す、すごいですっ!」
「HPを3割使った攻撃を、カウンターで決めて1割ほどですか……?」
安堵の息をつくツバメのHPは、残り5割を切る。
一方その高い耐久を見せつけたグィンドラは、片手を突いて体勢を立て直し、翼を大きく広げた。
『――複腕』
低空飛行で接近しながら、その長い腕を8本に増加。
反撃の狙いは、やはりツバメだ。
「【かばう】【クイックガード】【地壁の盾】盾!」
まもりが割り込み、放たれた二連の手刀突きを防御。
続く二つの振り降ろしも、盾を掲げて受け止める。
そして左右から来た挟み込む攻撃を、二枚の盾で防ぐ。
「まもり、つかみが来るわ!」
伸ばされた7本目と8本目の手。
三人はまもりがつかまれても、直後に『取り返せる』よう攻撃の準備に入るが――。
まもりはダンスのように左へ一回転して7本目の手をかわし、さらにもう一回転して8本目のつかみも回避した。
「「「うまい!」」」
思わず三人、歓喜の声をあげる。
防御からの回避というまもりの動きは、あまりに見事だった。
「メ、メイさんの避け方を、参考にしてみました……っ!」
だがグィンドラはその八本の腕を使い、さらなる攻勢に入る。
八連続の攻撃に対応してみせたまもりを前に、輝くエフェクト。
『――【千手魔王砲】』
八本の腕から放たれる連続魔法は、その全てが上級の魔砲弾。
機関銃のように容赦なく、魔法を放ち続ける。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾盾盾!」
まもりは慌てて、魔法防御で対抗。
炎、氷、風、水、そして雷の砲弾。
その全てが上級火力という連射砲が、容赦なく撃ちつけられる。
他のボスであれば、奥義と言われるレベルの攻勢。
水が風にまき散らされ、雷が通電して駆け抜ける。
炎と氷が風に押され、勢力を大きく広げる。
「熱っ!」
風の属性効果で回り込んできた炎に焼かれて、崩れる体勢。
ダメージを受けながらもまもりは、必死の対応で切り抜けた。
しかし、終わらない。
『――【千手魔王拳】」
あまりに強力な攻勢。
大きく踏み出し放つのは、奥義級の連続拳打。
8本の腕が、高速の連打を放つ。
「【溜め防御】【不動】【爆火盾】【クイックガード】【地壁の盾】っ!」
しかし、まもりも引かなった。
体勢を崩したまま、両手に盾を持って立ち向かう。
「盾盾盾! 盾盾盾盾っ!」
グィンドラの拳がぶつかる度に、弾け飛ぶ衝撃エフェクト。
「盾盾盾! 盾盾盾盾盾盾盾ぇぇぇぇっ!」
左右の盾を上手に使い、徹底抗戦。
しかし最後の拳が一瞬遅れたことで、まもりはつんのめるような形になった。
そこに迫る拳は、斜め上から振り下ろすような軌道。
「届いてっ」
必死に手を伸ばし、掲げた盾の最上部にかすめる拳。
その瞬間、爆炎を炸裂させる。
【溜め防御】から放たれた【爆火盾】は、濃縮された爆炎を放った。
「あ、あと、おねがいしますっ!」
「おまかせくださいっ!」
大爆発を、無理やり狭い範囲に押し込めたような濃密な烈火。
敵が大きく体勢を崩したところで、まもりが上げた声。
応えたメイが、駆け込んでいく。
「【バンビステップ】!」
燃え上がる炎の隙間を抜けて、グィンドラの前へ。
「やっ! それっ!」
手にした剣を振り降ろし、振り上げ、強く足を踏み込む。
「【フルスイング】!」
豪快なエフェクトと共に、叩きつけられる一撃。
「【加速】【リブースト】【雷光閃火】!」
するとメイの後ろから出てきたツバメが、大きく弾かれたグィンドラに短剣を突き刺した。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
さらにツバメの頭を越えてきた氷砲弾が、そのまま縦の弧を描いて直撃。
遅れて短剣が爆発を起こし、グィンドラは大きく弾き飛ばされた。
クルクルと回転して戻ってきた短剣を、キャッチしたツバメ。
振り返って、まもりに「やりました」と刃を掲げて合図。
見ればレンもメイも、武器を掲げてまもりの見事な反撃を讃えていた。
「これでもまだ3割……さすがね」
「高い火力と、手数の多さがとても強力です」
「は、はひっ、これは強すぎます……っ」
圧倒的に高いHPと攻撃力。
最終形態の強大さを前に、さすがに押され気味になるメイたち。
どうにか反撃を中心に攻撃を重ねてきたが、状況は常にギリギリだ。
グィンドラは、ここで腕を戻す。
そして頭上の金輪を強く輝かせると、さらに苛烈な攻勢に打って出る。
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