1040.最後の戦いⅢ
形状や長さを自在に変える髪を持った、ドール形態を打倒したメイたち。
『――――ならば、更なる力をもって蹂躙するとしよう。啼け……異界の戦士たちよ』
変貌の王・グィンドラはさらに、その形態を変化する。
「第三形態、次はどうくるかしら」
「ドキドキしちゃうね……っ」
変身した姿は、二足型の巨大な黒獣。
竜を思わせる顔に荒々しいたてがみ、紋様の入った二本の大きな白角。
長い尾には、硬質なトゲが生えている。
大きく発達した腕は、筋肉の塊だ。
「ギャオオオオオオオオ――――ッ!!」
猛烈な叫び声をあげ、駆け出す巨獣グィンドラ。
「は、速いです……っ!」
体勢を四足状態にした走行は、巨体に見合わぬ速さ。
一瞬で前衛二人の目前まで来ると、そのまま突撃。
「「ッ!?」」
風を巻き起こしながらの体当たりを、メイとツバメは慌てて回避した。
するとグィンドラは二人を置き去りに、そのまま後衛組のもとへ。
右拳を全力で振り下ろす。
「【地壁の盾】!」
盾を掲げたまもりが防御すると、立て続けに左拳右拳と二連発。
これを受け止めたところで、身体ごと回転するような形で放つ大きなフックで、【衝撃拳】へと続く。
「「ッ!!」」
駆ける衝撃波の威力に防御こそ成功したものの、弾き飛ばされレンを巻き込む形で転がる。
グィンドラはさらに迫り、赤熱する尾を一回転。
大慌てで下がって、迫る尾と弾け散る炎をスレスレでかわす。
急いで立ち上がると、グィンドラは低空の飛び掛かりで接近してきた。
「【地壁の盾】!」
見えた右拳に、まもりはすぐさま防御態勢に入る。しかし。
グィンドラはその大きな手を広げ、まもりをつかみ上げた。
そしてそのまま、レンを狙って投擲。
「「きゃああああっ!!」」
二人は再び、折り重なるようにして転倒。
ダメージは1割に届かないほどだが、そこを狙うのは、低空の飛び掛かりから振り下ろす形の【衝撃拳】
倒れ込んだままのまもりに防御は間に合わず、拳が決まれば二人まとめて大ダメージが確定。
一気に、走る緊張。
「【悪魔の腕】!」
レンはここでとっさに魔法を発動した。
現れる魔法陣から伸び出すのは、グィンドラに負けない巨大な腕。
悪魔の手は振り下ろされんとする敵の手首をつかみ、そのまま一本背負いのような形で地面に叩きつける。
「うまいっ!!」
「な、なんだ今の……!?」
駆け回っているプレイヤーたちも、これには唖然。
あがる土煙、ダメージは1割に届かないほど。
しかし最悪の危機は、これ以上ない見事なカウンターで返された。
「あ、ありがとうございますっ!」
「もう一度やれっていってもできないやつだけど、上手くいったわね……っ!」
もちろん、レンの見事なカウンターをムダにすることなどありえない。
メイはこの隙を逃さず、【召喚の腕輪】を起動する。
「――――それではどうぞ、お越しくださーい!」
「「「「「ッ!!」」」」」
頭上に現れた魔法陣から落下してきた巨象が着地すると、その場にいた者たちが、グィンドラも含めて一度小さく跳び上がった。
長い鼻から放たれた水の巨大砲弾は、直撃してド派手な飛沫を巻き上げる。
「【フリーズブラスト】!」
即座にレンが氷嵐で追撃し、凍結を奪う。
そこに駆け込んできたのはツバメ。
「【電光石火】【反転】【稲妻】!」
そして最後は、まもりが続く。
「【シールドバッシュ】!」
叩き込まれた衝撃波が凍結状態のグィンドラを吹き飛ばし、無数の氷片を舞い散らせた。
「ないすーっ!」
「いい感じでつながりましたね!」
まもりは前衛二人とハイタッチして後方へ下がり、最後にレンとパチンと手を鳴らす。
切り返しからの見事な連携は、グィンドラのHPを3割ほど減らすことに成功した。
するとここで、紋様の白角に光が輝き出す。
解放される、新たな攻撃。
次の瞬間、グィンドラの目から光線が放たれた。
「「っ!!」」
メイとツバメが二本の光線を回避すると、光線の駆けた地面が石化した。
「うわわっ! これは大変だーっ!」
「気を付けてください! 白角の輝きは石化攻撃につながるようです!」
グィンドラは、二足で低空跳躍。
空中で横回転して放つ【回転剛拳】をメイに向けて振り下ろす。
「【アクロバット】!」
バク転で回避すると、土煙が大きく上がった。
この土煙を割って、追撃にくる可能性を予期して構えるメイ。
「っ!」
次の瞬間見えたのは、二つの輝き。
とっさのサイドステップで、致命傷は回避する。
しかし遅れた右足のすねに光線がかすめて、脚の一部が石化してしまった。
さらにグィンドラは、高速移動でメイのもとに。
引いた腕を見て、拳の叩きつけにくると踏んだメイは、後方への跳躍で回避を狙うが――。
狙いは、まさかのつかみ。
「っ!?」
石化によって動き出しの遅れたメイを両手でつかんだグィンドラは、そのまま高く跳躍して後衛組二人の方へ。
「【不動】【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
まもりはすぐさま防御態勢に入るが、グィンドラはその手前に、抱え上げたメイを背中から叩きつけた。
「わあああああ――――っ!!」
プロレスを思わせる【エクスプロード・ボム】で、駆ける衝撃波。
突き上がる地面は、足元からの攻撃に対応できないまもりとレンを弾き飛ばした。
これでメイに2割強、レンとまもりに1割強のダメージ。
「【連続投擲】!」
さらにツバメの投じた四つの【雷ブレード】をかわして、再びその目を輝かせる。
「「ッ!!」」
低い位置から空中へ、払うような石化光線が迫る。
後衛組は慌てて回避に転がるが、まもりは右肩から左手にかけて光線を受け、盾がオブジェクトと化し落下。
レンも腹部から、杖を持つ右腕にかけてが石化した。
グィンドラの攻勢は、止まらない。
再びの高い跳躍は、石化で動きを鈍らせた状態での【ボディプレス】だ。
「「「ッ!!」」」
三人は慌てて走り、ギリギリで直撃を避けたものの、弾かれ1割ずつ程のダメージを受けた。
陣形はこうして、完全に崩れ去った。
「第三形態、さすがに強い……っ!」
グィンドラは二本の角を輝かせ、右手を地面に突き刺した。
その手が引き抜くのは、大地の一部を武骨な石剣へと変えたもの。
「ここは私が……っ! 【電光石火】!」
メイたちは石化によって、様々なスキルの使用に支障が出るだろう。
すぐさまツバメが、足もとを斬り抜けターゲットを引き受ける。
「【加速】【反転】!」
グィンドラがさっそく振り下ろしてきた巨大な石剣を、かわして振り返る。
即座に続く振り払い、喰らえば10メートルは吹き飛ぶ一撃だ。
「【スライディング】!」
ツバメは跳躍を避け、下を潜ることでこれを回避した。
輝くエフェクト。
二周目のシンプルな【大振り】は、先ほどよりも高速で迫りくる。
「【跳躍】! 【エアリアル】!」
ツバメは後方への二段ジャンプで回避。
するとグィンドラは、そのまま巨石の剣を雑に放り出して接近。
すぐさま右手で二本目の石剣を生み出し、叩きつける。
かわすと今度は、左手で作った石剣を振り下ろす。
これをサイドステップで回避すると、両手で生み出した二本の石剣を同時に叩きつける。
「ッ!!」
ツバメは即座に後方へ跳び下がり、安堵の息をつく。
しかし次の瞬間、置き去りにされた石剣の向こうに輝く光。
覚える、嫌な予感。
グィンドラの両手が、地面を石床へと変えていく。
【天地石砕返し】
まるでテーブルでもひっくり返すかのように、石化した地面を放り投げた。
迫る、数十メートルに渡る巨大な石塊。
「【加速】【リブースト】【スライディング】!」
ツバメは即座に前進。
落下してくる岩盤を、ギリギリで切り抜けることに成功。
「っ!」
しかし背中側で巻き起こった風と揺れに、思わず手を突いた。
それを見たグィンドラは、すぐさま拳を振り上げ【衝撃拳】のモーションに入る。
迫る窮地。
しかしツバメが稼いだ時間は、流れを変える。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
石塊を飛び越えてきたメイが、ツバメの前に着地。そして。
「ありがとうツバメちゃんっ! ゴ、【ゴリラアーム】ッ!!」
足をフラつかせながら、置き去り状態の石剣を抱え上げた。
「からの……【大旋風】だああああ――――っ!!」
脛部の石化によって、細かな回避や高速移動は難しい。
だが大きな石剣を持って、回転することくらいなら可能だ。
メイは電柱並みの長さの石剣で、グィンドラの脚部を叩き、叩き、また叩く。
弾かれたグィンドラが下がったところに踏み込んで、さらに叩いて叩いて叩きつける。
やがて激しい回転は、盛大な竜巻を生み出した。
天高く渦巻く暴風は、そのままグィンドラを飲み込む。
「せーのっ! それええええ――――っ!!」
暴風に飲まれて身動きが取れない相手に、メイはそのまま石剣を投擲。
武骨な石剣は脚部に叩き込まれて粉砕、グィンドラが両のヒザを突いた。
「今です! 【加速】【リブースト】!」
ツバメは、この隙を逃さない。
解けていく竜巻の中を超加速で突進し、強く一歩を踏み込んだ。
「――――【斬鉄剣】」
抜かれた【村雨】が、白く美しい弧を描く。
バサバサと揺れるツバメの長い髪が、刀を鞘に納める澄んだ音色と共に、止まる。
するとグィンドラの頭部を飾っていた二本の角が斬れ飛んだ。そして。
「せ、石化が……治りました!」
「助かったわ! ツバメ!」
「ないすーっ!」
同時に石剣も土に戻り、メイとツバメは笑い合いながら後衛組のもとへ。
四人は再び、陣を組み直す。
これでグィンドラの残りHPは、4割強。
「この感じ……一気にきそうね」
「は、はひっ」
大きく減ったHPに、失った角。
グィンドラは低く唸り、体勢を低くする。
そしてメイたちが構えを取った瞬間、走り出した。
二足による疾走から、低空跳躍。
そのまま地面に叩きつけるような形で、拳を放つ。
メイとツバメは、左右に分かれてかわした。
「「ッ!!」」
続く【衝撃拳】も直撃を避け、吹き抜ける衝撃に対して、メイは身体を低くして耐える。
ツバメも後方への跳躍で、衝撃を回避した。
するとグィンドラは、四足モードでの超高速体当たりを発動。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
メイはこれを、大きな前方宙返りでかわす。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
砂煙を上げて通り過ぎて行ったところを狙って、放つ氷弾。
グィンドラは振り返りと同時にこれを防御で受けて、右拳を振り上げた。
そしてそのまま、【断地撃】を地面に叩きつける。
「「ッ!!」」
高速で迫る地割れに、まもりとレンは慌てて横っ飛び。
この隙を狙って、動き出すメイとツバメだが――。
「ツバメちゃんっ!」
「はいっ!」
続く左拳の叩きつけも【断地撃】
迫る二本目の地割れを、二人は転がる形で回避。
四人が視線をあげると、そこには大きく口を開いたグィンドラの姿。
その口内に、まばゆい輝き。
「この角度、防御ッ!!」
叫ぶレン。
放たれる【波動砲】に、全員が慌てて防御態勢を取る。
「「「「ッ!!」」」」
直後。放たれた波動砲は四人の間を通り抜け、凄まじい爆発を巻き起こした。
「なんという威力ですか……」
直撃ではなく余波。
それなのに防御してなお、立っていられない。
そんな火力に驚く四人を狙い、さらに低空跳躍で迫るグィンドラ。
「【地壁の盾】!」
放たれる拳を、まもりが盾で止める。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾っ!」
続く連打を受け止めたところで、放たれる【衝撃拳】
見事に受け止めるも、駆け抜ける衝撃に大きく後退。
「っ!?」
ここでグィンドラは、再び口を大きく開いた。
「【コンティニューガード】【不動】【天雲の盾】!」
放たれた【波動砲】
まもりはこれも盾で防御に成功するが、止まらない。
迫る魔力の奔流は、いつまでもまもりを撃ち続ける。
そして【コンティニューガード】の効果が切れた。
「まさかこれ、永続なの!? 【フレアストライク】!」
通常ガードになってもなお撃ち続けられた波動砲に、HPを2割近く持っていかれたまもり。
相手が防御スキルを使っても、容赦なく放ち続けるという脅威のスキル。
レンの速い攻撃で、どうにか強制停止に成功。
「あ、ありがとうございますっ!」
まもりは安堵の息をつく。
しかしグィンドラの口は、再び開かれた。
「また、きますっ!!」
四人は各自が、【波動砲】への対応パターンをシミュレーション。
誰が狙われても、すぐに強制停止できるよう構える。
「ゴアアアアアアアアアア――――ッ!!」
「「「「ッ!?」」」」
しかし、放たれたのは【驚天咆哮】
「咆哮……ですって!?」
跳躍や飛行を落とし、全身をビリビリと震わせるほどの威力を誇るそのスキル。
広い範囲を持ちながら、防御しなければ転倒を取られる驚異の仕様。そして。
「溜めからの【波動砲】へ続くのですか……っ!」
グィンドラの口内に集まっていく、魔力の粒子。
硬直と転倒によって防御もできない今、喰らえば死に戻りの可能性が高い。
四人ゆえに、大きくパーティを分散できないのがアダとなってしまった。
「これは、ダメかも……」
最低でも、一人は犠牲になるだろう状況。
この様子を見たプレイヤーがつぶやいた。しかし。
「メイ……?」
「メイさん?」
一人立ったままでいるメイに、思わず驚きの声をあげる。
【波動砲】ではなく咆哮だったと明らかになった時、メイだけは咆哮特有の『顔の上げ方』に気づいていた。
そのためメイは、口内に輝きが生まれるかどうかで次撃を判断。
一足早く、防御を選択していた。
そして一人、『自分を狙え』とばかりに走り出す。
グィンドラは、そんなメイをターゲットに決定。
これまで以上に大きく集束した魔力を、解き放った。
「メ、メイさんっ!」
全てを吹き飛ばす猛烈な魔力砲を前に、まもりが悲鳴を上げたその瞬間。
「……いきますっ」
深く息を吸い、メイは覚悟を決めた。
「ド、ド、ド、【ドラミング】だああああああ――――っ!!」
放たれた全開の【波動砲】を前に、六回ほど豪快に胸元を叩いたメイ。
無慈悲な【波動砲】が直撃するが、動じない。
もともと高い【耐久】を、さらに飛躍的に向上させるそのスキル。
【ドラミングⅢ】はさらに、前進を可能とする。
HPは、じわじわと減る程度。
メイは放たれ続ける【波動砲】の中を、ただ真っ直ぐに歩いてく。
もはや呆然とするしかない、その光景。
【波動砲】の異常な火力すら、その中を堂々と進むメイの圧倒的な迫力を前にしては、演出の一つになり下がる。
「「「…………」」」
誰一人、言葉も出せない状況。
そのまま【波動砲】を押しのけ、突き進むメイ。
その手に、剣を取る。
攻撃範囲を抜けたところで――。
「【フルスイング】!」
放つ振り払いの一撃が脚を打ち、グィンドラに片ヒザを突かせた。
「【ターザンロープ】! からの【ゴリラアーム】!」
そしてその首にロープをかけると、そのまま力任せに回転。
「せえええのっ! それええええええええ――――っ!!」
大きな風切り音と共に一回転、グィンドラを地面に叩きつけた。
「……そうよね」
あがる砂煙。
信じられない展開。
「いつだってピンチを当然のように吹き飛ばしてきたのが、メイだったわね……!」
レンはちょっと感動しながら、追撃に入る。
「【魔眼開放】」
左手を伸ばしてツバメを制すると、両目を閉じ、【知力】上昇のスキルを発動。
倒れ込んだままのグィンドラに、杖を向けた。
「……異世界の王。ひれ伏す準備はできている?」
黒い魔力の粒子が、収束を開始。
レンは、静かに詠唱を始める。
「――――無慈悲な刃の嵐すら、通さぬ女神の盾の影。駆ける暗殺者に姿なく、見えぬ剣と進むのは、大地統べる野生の王。昏き夜闇の魔導士は、迫る終焉を焼き尽くす。炎よ……ここに始まりの鐘を打ち鳴らし、続く道を照らし出せ!」
ゆっくりと、開かれる目。
その瞳は、金色に輝いていた。
「――――【ダークフレア】!」
杖から放たれた粒子の集合体は、一度小さく集束すると猛烈な勢いで炸裂。
激しい黒輝の爆炎をまき散らし、盛大に爆発。
グィンドラのHPゲージを、焼き尽くしてみせた。
レンは息をつき、笑みを浮かべる。
すると、メイと目が合った。
「レンちゃん、ありがとう」
詠唱に込めた思いは、ちゃんと伝わっていたようだ。
「こちらこそ。私、メイと一緒で本当に良かった」
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