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1039.最後の戦いⅡ

『――――面白い』


 雷光の猛獣は、HPゲージを失い後退。

 メイたちに向き直って、そう告げた。


『――――ならば、これでどうだ?』


 ここで変貌の王・グィンドラの姿が変わる。

 最初に目についたのは、フワフワと揺れる白髪。

 大量の頭髪は太ももの辺りから外にハネているが、その長さは3メートルにも渡る。

 人型だがその顔には何もなく、紋様が描かれているだけ。

 2メートルほどの身体はやや褪せた墨色で、体のいたるところに刻まれた大小の金十字が輝いている。

 パーツごとに区切りの入った造りは、まるでドールのようだ。

 細身で猫背。

 腕が長く、手が大きい。

 先ほどの魔獣とは、完全に別物だ。


「なるほど、変身していくタイプのボスなのね」

「第二形態は人型ですか」

「で、でも髪がなにかおかしいです……っ」


 長い髪はグィンドラを包むような形で、螺旋状に変化していく。


『――――この世界を賭けた戦いを、続けよう』


 そして長く白い髪が、身体を覆う球のようになった後。

 一気に解き放たれた。


「ええええーっ!?」


【螺旋斬】は髪束をムチのように変え、外に向けて一斉に放つ技。

 数十本の刃髪の束がすさまじい風切り音を放ちながら弧を描き、数十メートルという範囲を斬り飛ばす。


「なるほど、髪を使って戦うわけね!」


 空や地面を、斬り裂き迫る髪の刃。

 メイとツバメは、必死の飛び込みでこれをかわす。


「【クイックガード】【地壁の盾】!」


 まもりは二枚の盾を持ち、レンを守るようにして防御を展開。


「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」


 レンがすぐさま反撃を放つ。

 迫る炎弾は、グィンドラに向けて一直線。


「っ!?」


 直撃したかに思われたが、【髪の盾】に跳ね返された。

 後衛二人は驚きながらも、横方向への移動で炎弾を回避する。


「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 この隙に、距離を詰めていくメイとツバメ。

 気付いたグィンドラの髪が反応し、下から上へ巨大な円弧を描く。

 放たれた【縦一刃】を、二人は左右に分かれることで回避。

 すると今度は左から右へ、【横一刃】が水平の弧を描く。


「【アクロバット】!」

「【スライディング】!」


 この距離における戦闘は、やはり一方的になる。

 だが近づくことで、戦い方は変わるはず。

 メイとツバメは一気に距離を詰め、攻撃体勢に入る。しかし。


「「ッ!」」


 後頭部から突然現れた、巨大な白面の魔物。

 溶けた白髪に二つの目をつけた化物が、並んだ牙で【喰らいつき】をしかけてきた。

 これを再び、左右に分かれることでかわしたメイとツバメ。


「もう一撃、きます!」


 続く【居合の刃髪】は、超高速の居合斬りが、半径数十メートルに渡るような恐ろしい一撃。

 慌ててその場に転がると、刃髪が頭上を通り過ぎ、遅れて斬撃エフェクトが弧を描いた。


「髪の形状をしているスライムが、頭に乗ってるって感じかしらね」


 崩れた陣形を見たグィンドラは、髪を翼のように広げて低く長い跳躍。

 滑空のような形で狙うのは、後衛二人だ。

 すぐさま前に出たまもりに、強く踏み込んだグィンドラは、その大きな拳を引いた。

 始まる、【速打拳】による連撃。


「【クイックガード】【地壁の盾】!」


 右左右と放たれる高速の拳を、まもりはしっかりと防御。

 さらに左右から伸びてきた髪が、槍のように突き刺しに迫る。


「【地壁の盾】盾っ!」


 対してまもりは、二枚盾を使うことでこれを防御。


「【ローリングシールド】!」


 左の盾で回転撃を放つが、グィンドラはこれをバックステップ一つでかわして再び拳打へ入る。

 右右左、右左と速い拳打を叩き込んだところで、今度は拳を大きく引いた。


「【不動】」


 対してまもりは、火力の高い拳打がくると見越して先に【不動】を発動。

 続くであろう強烈な拳打に向けて、【地壁の盾】を準備する。

 しかし次の瞬間グィンドラの拳が開かれ、その手中に白炎が輝いた。


「魔法……っ!?」


 拳打から刃髪による連携を一度見せた直後に、ここまで一度も見せていなかった魔法を放つ。

 まもりは完全に、虚を突かれる形になった。

 放たれる【極炎砲】は、超高熱の白炎砲弾を叩き込む高火力魔法。


「それでも、まもりなら……っ!」


 魔法防御が可能な【天雲の盾】への切り替えを信じて、レンは反撃の準備を開始。

 しかしその予想は、裏切られる。


「【マジックイーター】!」

「ッ!?」


 まもりの防御姿勢は、さらに進化していた。

 突然物理から魔法に変えた攻撃に合わせて、防御ができるだけでも満点。

 しかしまもりはさらにその上をゆき、敵の魔法を即座に反撃へと転用した。


「【極炎砲】っ!」


 この距離では【髪の盾】も間に合わない。

 目前で吸収され、放たれた自らの白炎炎弾が直撃したグィンドラが、思わず足を引いた。


「防御どころか、カウンターだって!?」

「本当にとんでもねえな……っ!」


 まもりはここでも、攻守をひっくり返す。

 盾の女神の起こした奇跡に、観戦者たちが驚きの声をあげれば――。


「【加速】【リブースト】【電光石火】!」


 誰より早く『つなぐ』のがツバメだ。

 高速の斬り抜けで攻撃を続ければ、流れを作ることができる。


「【シールドバッシュ】!」


 ここで続いたのはまもり。

 叩きつける盾が生み出す衝撃波は、グィンドラにヒザを突かせた。


「【装備変更】!」


 それを見たメイはすぐさま装備を【狼耳】に変え、右手を掲げる。


「――――それでは。おいでくださいませ、狼さんっ!」


 現れた魔法陣から立ち上る、冷たい白煙。

 駆け出した巨大な白狼は荒々しく地を蹴ると、グィンドラに向けて一直線。


「……ちょっと待て! メイちゃん、召喚獣と一緒に動けるのか!?」


 異変に気付いたプレイヤーが、驚きの声をあげる。

【群れ狩りⅡ】によって、白狼と共にメイも駆け出していた。


「【裸足の女神】!」


 先行したメイはグィンドラに剣を振り降ろし、斬り上げる。

 そしてそのまま、剣を一回転。


「【フルスイング】!」


 二発目の斬り上げで、グィンドラを宙に浮かせた。

 するとそこに駆けつけてきた白狼が、その牙で喰らいついたところで、二者は同時に天を仰ぐ。


「「ウォオオオオオオオオオ――――ッ!!」」


 メイと白狼の遠吠えの後、強烈な氷結の輝きが爆発。

 グィンドラは、凍結状態で放り出された。


「【コンセントレイト】【フレアバースト】!」


 するとこの時を待っていたレンの爆炎が炸裂し、闇色の炎が天高く舞い上がった。


「まもりちゃんないすーっ!」

「ツ、ツバメさんの速い援護のおかげですっ!」

「レンさんの良い準備があってこそですよ」

「【群れ狩り】最高だったわね! 最後の遠吠えは聞かなかったことにしておくわ」

「あっ!」


 自然と笑い合う四人。

 どうやらメイもすっかり、楽しくなっているようだ。

 帰っていく白狼に、皆で一緒に手を振り見送る。


「なんだか……フェンリルと一緒に戦ってるみたいだったな」

「本当にメイちゃんは、従魔士の憧れを形にしていくよなぁ……」


 大物同士の戦いの間を駆け回っているプレイヤーたちも、感嘆の息をつく。

 これで敵HPは、残り6割ほど。

 爆炎に吹き飛ばされたグィンドラは起き上がり、反撃の姿勢を取る。


「攻撃、くるよっ!」


【居合連斬】は、超高速の刃発の三連撃。

 バラバラに飛んでくる巨鎌のような刃が、前衛二人を狙ってくる。


「【加速】【スライディング】!」


 ツバメは前に走り、滑ることで一本目の刃を回避。

 直後、斜めの斬撃が地面を斬り裂いていった。


「【アクロバット】!」


 メイは高い角度から来た二本目の刃を横っ飛びでかわし、横から来た三本目の刃を側方宙返りで回避する。

 広い範囲の一撃をかわし、当然前衛二人は接近を考えるが――。


「もう一回くるわ!」

「「ッ!」」


 続く【居合瞬刃殺】は、大量の刃髪が一瞬で付近を超高速で駆けめぐり、斬り刻む必殺スキル。

 メイは集中力を高めて全力回避。

 頭上数センチの回避をしゃがみで決め、足元を払う刃をステップのように低いジャンプでかわし、続く二本の段差斬撃を側方宙返りでまとめて飛び越える。

 ツバメは斜めに迫る斬撃を身体の傾けでかわし、そのまま体を横に投げ出すことで足元に来た刃を回避したところで、目を見張る。

 完全なディレイで、迫る最後の刃。


「イチかバチかです!」


 刀を握って突き出せば、鳴り響く金属音。

 狙いは成功。

 刃髪は、刀の峰に弾かれた。


「まだよっ!!」


 あがる叫び声。

 グィンドラの攻撃は、これでもまだ終わらかった。

 髪を一本の槍に変えて放つ最速の遠距離刺突は、【居合瞬刃殺】で体勢を崩した者に、防御も許さぬ一撃を叩き込む必殺連携。

 放たれた【死髪槍】は容赦なく、刃髪をかわしたばかりのメイの腹部を捉えた。


「メイッ!」

「メイさんっ!」


 あがる悲鳴。

 誰の目にも、メイが髪槍に貫かれたように見えた。しかし。


「……ゴ、【ゴリラアーム】」


 メイは脇の下を通す形で、瞬殺の槍を回避していた。

 これ以上ない、反撃の好機。

 そのまま髪槍を、両手でしっかりとつかむ。


「せーのっ! それええええええ――――っ!」


 グィンドラを力技で振り回したメイは、そのまま一本背負いのような形で投げ飛ばす。

 冗談のような一撃で地面に叩きつけられたグィンドラが、大きく上げる砂煙。


「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」


 すぐさまレンが飛び込み、あえて敵の背後に回って杖を突きつける。

 立ち上がったグィンドラは【壁髪球】を発動し、自らの髪で作った繭で魔法防御を展開して対抗。


「【ペネトレーション】【フレアストライク】!」


 だが【色炎のお守り】によって放たれた闇色の炎砲弾は、髪の防御を貫いた。

 さらにグィンドラの背後に回り込んでいた、まもりのもとへ。


「【マジックイーター】【フレアストライク】!」


 今度は正面から。

 吸収した【フレアストライク】を、即座に放出する。

 斜め上方に放たれた炎砲弾はグィンドラを再び貫通して吹き飛ばし、空中で盛大に爆発した。


「お、おい、一発の魔法を二回当てたぞ!?」

「そんなウソみたいな戦法、存在するのか!?」


 レンとまもりはグィンドラ戦の最中に、星屑史上初の奇跡を起こしみせた。

 驚きに、思わず足を止めてしまうプレイヤーたち。

 しかし残りHPが5割を切ったグィンドラは、ここでその白い頭髪を煌々と輝かせる。

 一気に増えた髪が、無数の刃髪の束になっていく。


「嫌な予感がしますね」


【無限刃髪】は、大量の刃となった髪束が一斉に放たれるという恐ろしい攻撃。

 直進するものはもちろん、弧を描くもの、鋭角に曲がる形で迫るもの、地面を跳ねるような軌道のものと、その攻撃のパターンは多岐に渡る。

 まるで読めない攻撃進路に加えて、刺突と斬撃という二つの属性を持つ、第二形態の最終奥義だ。


『――――消えろ』


 暗い王都前草原を、白く滲ませるほど大量の刃髪が放たれる。

 それは回避の失敗はもちろん、防御でも運が悪ければ複数回の攻撃を受け、即死させられるという無情な一撃。


「――――誰が来てくれるかなっ!?」


 メイが選んだのは、回避でも防御でもなく召喚だった。

 突き上げた右手の【友達バングル】が輝く。

 それを見たレンが、歓喜にこぶしを握る。

 目前の地面が割れ、現れたのは一体の巨大なカメ。

 それは新大陸の村人に信奉されていた、マイペースな守り神。

 生み出す広範囲の光の防御シールドは、迫り来る大量の刃髪をことごとく弾き返していく。


「ノーダメージですっ!」


 思わず、歓喜の声をあげるまもり。

 そして奥義の後には当然、大きな隙が生まれる。


「ツバメちゃん!」

「メイさんっ!」


 メイとツバメは、「ありがとう」とカメに告げて走り出す。

 長く前線で戦ってきた二人。

 声をかけあえば、互いの狙いが一致する。


「【裸足の女神】!」


 超高速で駆けつけたメイが先行し、振り降ろしから振り上げの二連発。


「【加速】【リブースト】!」


 メイを追い越したツバメが短剣で二連発。


「【アクロバット】!」


 するとツバメの頭上を飛び越えてきたメイが、振り降ろしからの払いで続く。


「【スライディング】【電光石火】!」


 さらにツバメがメイの足元を滑って前へ、そのまま斬り抜けていく。


「【反転】【電光石火】!」

「【装備変更】!」


 そして行って戻る連携でつなげば、すれ違って行ったメイが【狐耳】で拳打を放つ。


「【キャットパンチ】! パンチパンチパンチパンチパンチパンチ!」


 青い火の粉を飛ばしながらの連打を叩き込み、距離がついたところで小さく跳躍。


「【カンガルーキック】!」


 前蹴りで体勢を崩す。


「【加速】【アサシンピアス】」


 そして短剣で胸元を一突き。

 ようやく生まれた距離。

 グィンドラは【速打拳】でツバメを殴り飛ばす。しかし。


「それは【残像】です」


 消えていくツバメの幻影。


「【四連剣舞】!」


 放つ四連続の剣撃が、グィンドラを切り刻む。

 終わらない。

 剣舞の終わり際に駆けてきたメイは、のけ反りから回復したグィンドラと一騎打ちの距離。


「がおおおおおお――――っ!」


 先手を打って、動きを硬直させる。


「【三日月】【旋空】!」


 すぐさま踏み込みからの斬り下ろしで続いたツバメが、回転斬りへとつなぐ。

 生まれた距離。

 だが、まだ終わらない。


「【ターザンロープ】!」

「【投擲】」


 引っ掛けたロープを引き寄せ、再び攻撃範囲内に戻したところで、ツバメが【炎ブレード】で隙を作る。


「【キャットパンチ】【キャットパンチ】【キャットパンチ】からの【虎爪拳】!」

「【跳弾投擲】!」


 グィンドラの体勢を大きく崩したメイの足元を跳ねて、刺さる【雷ブレード】

 止まらない連携に、いよいよざわつき出す観戦者たち。

 それでもまだ、終わらない。


「それっ、それそれそれっ!」


 メイは剣撃を連発し、大きく剣を引く。


「【フルスイング】!」


 大きな振り上げで、跳ね飛んだグィンドラ。

 ここでようやく連続攻撃が止まり、空中で回転して着地すると――。


「【分身】」


 そこには、200体のツバメたち。


「――――弾けろ、【狐火虚像】」


 一斉に駆け込んできた分身たちが、次々に青い炎となって爆発。

 その勢いは止まらず、グィンドラには逃げることも許されない。

 無数の爆発は連なり、やがて一つの大きな青い炎を巻き上げた。

 降りしきる青い火の粉の中、ツバメはつぶやく。


「メイさんと一緒にする戦いは、楽しいです。いつも……ありがとうございます」

「こちらこそだよーっ!」


 うれしそうに抱き着いてくるメイに、やっぱり照れてしまうツバメ。


「なんだよ、なんだよこの連携っ!?」


 一方プレイヤーたちは、降りしきる青い火の粉の中で呆然とする。


「ラスボス戦で、まだこんな『見たこともない』戦いをしてみせるのか……っ!」

「メイちゃんたち、やっぱりすげえわ!」


 一つの魔法の、二度に渡る炸裂。

 そして、星屑最長連携記録の更新。

 ただ強いだけでなく、ラスボス戦の中でそんな奇跡をやってのけるメイたち。

 グィンドラ第二形態のHPは見事に削り切られ、緊張と熱狂はさらに高まっていく。

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[良い点] ×ラスボスからは逃げられない 〇野生児からは逃げられない [気になる点] 危機断髪! [一言] まさかの貫通魔法コンボ! 防御無視の連携はつおい!
[一言] 論理クイズは正解ですねやはり瞬殺でしたか、模範解答と模範解法は。 正解 2/3(約66%) 解説 “白いボールを取り出した” “箱の中には白か黒のボール” “ならば箱の中のボールが白い確…
[一言] 第二形態は五月晴れの独壇場でしたね。
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