1037.仲間
「…………最後の戦い」
つぶやいて、さつきはそっとヘッドギアを置いた。
『星屑』の世界を賭けた戦い。
終われば、一つの物語が幕を閉じることになる。
まだ準備に使える時間は、充分。
なんとなく風呂でぼんやりした後、窓から夜空を眺める。
「終わったら、どうなっちゃうのかな……」
ラストバトル前に、不意に感じる寂しさ。
これまで続けてきた冒険が終わることに覚える、不思議な感覚。
人生最初のゲーム体験が『星屑』で、そこから7年ジャングルで戦い続けた。
当然、こんな気持ちも初めてのことだ。
電気もつけないまま、さつきは何となく窓から外を眺め続ける。
「――――メイ」
すると、不意に聞こえた声。
見れば息を切らした制服姿の可憐が、青山家の前に立っていた。
「レンちゃん!?」
驚きながらもさつきは部屋を駆け出し、そのまま玄関へ。
「どうしたの!?」
「なんかちょっと、話をしたくなって」
そう言う可憐を、さつきは部屋へと招き入れる。
制服にカバンという可憐の格好は、まるで下校途中かのようだ。
部屋のドアを開けると、見えたのは月。
「このままでいいわ」
電気を付けようとしたさつきを制して、可憐は窓の前へ。
そこから見える、綺麗な夜月を見上げる。
「……色んなゲームをしてきたけど、物語のあるゲームは楽しければ楽しいほど、終わっちゃうのが寂しく感じるのよね」
「そうなんだね」
「RPGなんかだと、最後のセーブポイントで準備しろって言われるし、マップも仲間との会話も『いよいよ』の空気を出してくるの。なんとなく今……メイがそんな雰囲気を感じてるんじゃないかと思って」
「……レンちゃん」
優しくほほ笑む可憐。
「考えることは、皆同じみたいね」
すると窓から見えたのは、一台の車。
そこから飛び出してきたのは、つばめとまもり。
「ツバメちゃん、まもりちゃん」
呼びかけると、二人は同時にこちらを見上げた。
「突然、申し訳ありません」
「あ、ああああの私もどうしても気になって、来てしまいましたっ」
つばめは家を飛び出そうとしたところでつかまり、理由を聞いた兄はすぐさま送迎を提案。
道の途中で見つけたまもりも、一緒に乗せてきたようだ。
四人はこうして、さつきの部屋に集合した。
月明かりに照らされた部屋で、可憐が再び口を開く。
「時々思うの。あの時『星屑』をやめなくて、メイに出会えて本当に良かったなって。今はツバメがいて、まもりがいて、まだ見ぬ世界を駆け回るのが楽しくてしょうがないの」
「レンちゃん……」
「どうしようもないくらい恥ずかしいけど、闇の魔導士を続けていたことで、何より大切な宝物が手に入ったんだもの……今では使徒たちにも感謝してるくらいよ」
そう言って可憐は、ちょっと恥ずかしそうに笑ってみせた。
「私は、一人で遊ぶ時とはまた違う楽しさを知りました。それはきっと、出会ったのがメイさんでなければ、感じることはできなかったと思います」
今度は、つばめが語り出した。
「お兄ちゃんが言ってました。最近はよく、楽しそうに階段を駆け上がるようになったと。それは誰にも見えていなかった私を、隠密のアサシンを、メイさんがあの森の中で見つけてくれたからこそ、生まれた変化だと思います」
「わ、私にとっては、その、夢のような時間です……っ! もしかしたらいつか、誰かとパーティを組めるような時が来るかもしれないって思ってて、それが本当になって、しかもそれが憧れていたメイさんたちだったなんて……! み、皆さんと一緒に冒険する時間は本当に楽しいです……っ! このままずっと続いて欲しいくらい……!」
必死に言葉をつなぐまもり。
「だからもし、このまま一つの物語が終わっても……メイと一緒にしたいことは、まだたくさんあるの」
月夜を眺めながら、可憐が続く。
「まだ行ってない場所もたくさんあるし、解かれていない謎がいくらだってある。ハウジングなんて結構奥深いみたいだけど、私たちは素人だし、一からやるっていうのも悪くない」
「商業都市でアイテムの売買をしてお金を稼ぎ、素材を買い集めて鍛冶をするというのも面白そうですね」
「じゅ、充実してきた料理を追いかけるというのも、楽しいと思いますっ!」
「一つの物語が終わっても、私は『もう辞めよう』なんて思わない。これからも続けたいの。私たちで、一緒に。だから――――ねえ、メイ」
「……うん」
「これからも私とパーティ、組んでくれない? あれからずいぶん時間が経ったけど、もう少し……続けたくなってきちゃった」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべる可憐。
「すごく楽しかったの、メイが一緒だったから」
さつきの表情が、変わる。
すると今度は、つばめが口を開く。
「今日のことはきっと……何年経っても覚えています。私はずっと、皆さんのような仲間が欲しかったのですから」
差し込んで来た月光が、つばめを照らす。
「だから……」
つばめは、ギュッと拳を握った。
「これからも一緒に、冒険に連れていって欲しいです」
さつきはその表情を、うれしそうにほころばせる。
そんな姿を見てまもりは、覚悟を決めるように息を飲んだ。
「わ、私も……メイさんと、皆さんと、色んな所に行きたいです……っ!」
初めてできた仲間たちを前に、言葉を必死に続ける。
「フローリスに花が戻ってきた時は、メイさんに誘っていただきました。でもあの時、いつか私からもちゃんと伝えたいって思っていたんです。皆さんとご一緒できて本当にうれしいです。こ、これからもよろしくお願いします……っ!」
そう言って深々と頭を下げるまもり、ついにさつきは笑みを取り戻した。
「……そうだよね。みんなと一緒だったら、もっともっと楽しくなっちゃうよね」
夜空に瞬く、たくさんの星の下。
楽しい未来を、もう一度信じてやまないさつき。
「ありがとう。わたしもみんなと一緒に、もっと遊びたいっ」
終わりには、別れの気配が付きもの。
きっとそれが、寂しさの一番の理由だった。
なくなってしまえば、さつきを止めるものはもう何もない。
「まもりちゃん。ツバメちゃん。レンちゃん」
そこにいたのは、いつもの元気なさつきだった。
「――――大好きっ!」
自然と笑い合う四人。
漂っていた寂しさも嘘のように、吹き飛んだ。
そしてさつきは、不意に思い出す。
「でも、ここからまた急いで帰るのは大変じゃない?」
また自宅に戻ってスタンバイは、なかなか慌ただしい感じだ。
「大変だー!」と、慌てるさつき。
「……そこで、メイさえ良ければなんだけど」
「メイさんさえ、良ければ」
「い、一応……」
三人が抱えてきた荷物には、しっかりとヘッドギアを始めとした『準備』がされていた。
これには、さすがにさつきも笑ってしまう。
「みんな一緒なら、大丈夫!」
大きくうなずき、高く拳を突き上げるさつき。
「それでは最後の戦いも――――よろしくお願いいたしますっ!」
「「「おおーっ!」」」
四人はいつもの笑顔で、元気な声をあげた。
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