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1035.星屑最強前衛

「……最後にもう一段階、残しているタイプか」


 グラムがつぶやく。

 ギガンティスは炎の剣を掲げ、全身にルーンを輝かせる。

 それはまるで、ルーンの鎧のようだ。


「あのルーン、『贄』だわ」


 レンの言葉に、「ほう」とつぶやくグラム。


「最終形態は自らの体力を削り続けて、上げた火力で一気に押し切るパターンだね」


 これまでトップとして大物と戦ってきた経験から、ローランが敵のタイプを見抜いた。


「このタイプは回避や防御で時間を稼ぐより、ダメージを狙っていく方が意外と戦いやすいよ」

「そうなんだね!」

「ならば真っ向から攻めてやろう! 来い、聖剣!」

「いいだろう! この聖騎士アルトリッテが力となるぞ!」


 呼ばれたアルトリッテも、意気揚々と駆けつけてくる。


「こいつは間違いなく、防御性能や回避を捨てている。そして力比べなら……我らが負けるはずがない! 一気に押し切るぞ!」


 そう言って笑うグラムに、メイがポンと手を打った。


「そういうことならっ!」


 思いついたのは、力比べにうってつけな『あの』存在。

【友達バングル】を掲げると、魔法陣が地面に描かれる。


「おおっ、その手があったか!」


 これには、大きくうなずくアルトリッテ。


「「「……あっ」」」


 一方それを見て察するレン、ツバメ、まもり。

 召喚陣から現れたのは、遺跡都市ラプラタの奥地に棲む最強の迷い子。

 銀色の液体で作られたメイだった。


「「「きたああああああああ――――っ!!」」」


 その姿に気づいた参戦者たちは、一斉に歓喜の叫びをあげる。


「おいおい、マジかよ……っ!」

「これ間違いなく、星屑最強前衛だぞ」


 この大舞台、第七陣の大ボスの最終形態。

 グラムの見立てでは、ルーンでHPを燃やしながら猛攻を仕掛ける、捨て身の戦法を取ってくるとのこと。

 それでもこの四人なら、本当に押し切れそうだ。


「わっはっは! 星屑最強の前衛部隊で、見せ場もなく貴様を葬ってやろう」


 そう言ってグラムは、ルーンに焼かれるギガンティスに神槍を向けた。

 メイ、アルトリッテ、グラム。そして――――銀色メイ。

 居並ぶ星屑最強の前衛部隊。


「グオォォォォォォォォ――――ッ!!」


『贄』のルーンを輝かせたギガンティスは、咆哮一閃。

 捨て身の攻勢を開始する。


「空を駆けてくるのか!」


 その足で空を蹴り、一直線にメイたちのもとへ。

 勢いのままに、手にした炎の剣を豪快に振り下ろす。


「ここは任せるがいいっ!」


 前に出たのはアルトリッテ。


「【セイントシールド】!」


 振り下ろされた豪炎の一撃は、アルトリッテの黄金盾に受け止められた。

 直後、巻き上がる爆炎。

 しかし剣撃直後の追加効果まで抑えるのが、【セイントシールド】の強み。

 見事に全てを、受け止めてみせた。


「メイ! 準備はできてるな!」

「もちろんですっ! 大きくなーれ!」


 この時すでに、二人のメイは剣を構えている。


「せーのっ!」


 伸びていく【蒼樹の白剣】を手に、放つは大きな振り払い。


「【フルスイング】!」

「【ふるすいんぐ】」


 大きな風切り音を鳴らしながらの一撃は、挟み込むような形。

 これをギガンティスは、跳躍によって回避する。


「左右から迫るメイたちの攻撃を前にしては、回避を取るしかないだろう」


 メイたちの振るった剣がぶつかり、吹き荒れる風の中。

 耐性も防御も捨てた今のギガンティスを見て、グラムは笑う。


「さあ、安易な跳躍を後悔するがいい! 【グングニル】!」


 重い破裂音を鳴り響かせての投擲、走る閃光。

 衝撃波と共に放たれた神槍は空中のギガンティスに直撃し、巻き起こった爆発が暴風を巻き起こした。


「む、体勢の回復が早いぞ……!」


 目を見張るアルトリッテ。

 大きく弾き飛ばされたギガンティスは、転がりながら体勢を回復。

 攻撃を止める気は一切なし。

 掲げる手に合わせて、地面に描かれる巨大な三つのルーン。


「「「ッ!!」」」


 煌々と赤熱する巨大な刃が、すさまじい勢いで突き上がっていく。


「……かつてのままだったら、回避に苦戦しただろうな。だが今は違う! 【ソニックドライブ】【強制転回】!」


 高さ10メートルに至る赤熱刃の乱立は、高速で迫りくる。

 しかしグラムは足元の赤熱を見てかわし、熱刃の森を見事な足の運びで突き進む。


「すごい……! 敵の姿が隠れるほどの刃の森を、あんな速度で……!」


 誰一人として遅れることない進攻に、ローランが息を飲む。

 ヤマトのイベントでは、メイの生み出した密林に苦しんだグラム。

 だが高速移動に方向転換を挟むことで難なくかわし、そのまま灼熱刃の森を潜り抜けた。

 気付いたギガンティスは、炎の剣を掲げるが――。


「遅い! 【雷煌震砲】っ!」


 弾けるほどのエネルギーを収束させた手を突き出せば、轟雷が猛烈な輝きを放つ。

 その火力に、再び弾かれたギガンティス。

 押される一方の状態の中で、戦い方を変えてくる。


「「「ッ!?」」」


 突然の変身は、プレイヤーなど丸のみできるほどに巨大なヘビ。

 その大きな口を開けての攻撃は、【喰らいつき】だと思わせての【劇毒噴射】

 グラムとアルトリッテは、完全に裏をかかれた。

 だが蛇が口を開いた時点ではまだ『どちらの攻撃か分からない』ということを知っている、野生児には効果なし。


「おねがい! いーちゃん!」


 呼び出す使い魔が吹かせる烈風で、毒液は即座に霧散した。

 それでも巨蛇は止まらない。

 消えゆく毒霧の中、強引に【喰らいつき】にくる。


「【たーざんろーぷ】」


 しかしメイの後ろから出てきた銀色のメイが、銀色のロープを投じてその首を縛ると――。


「【ごりらあーむ】」


 巨蛇を豪快に振り回して、地面に叩きつけた。

 上がる砂煙。

 その中から飛び出してきたのは、またも姿を変えたギガンティス。

 身体の半分が屍肉となった死の女神は、死霊術ではなく【死者復活】という奇跡を使用して、この戦地で斃されたミノタウロスを召喚。

 手にした巨大な戦斧を振りかざす牛鬼は、【大烈断】を発動するが――。


「どけ」


 グラムの【斬空閃花】でまとめて六本の斬撃を喰らい、トドメの【雷煌砲】で即座に打ち倒された。


「【裸足の女神】!」

「【はだしのめがみ】」


【死者復活】によって現れたミノタウロスをグラムが引き受け、その隙を二人のメイが突く。


「【装備変更】! からの【キャットパンチ】! パンチパンチパンチパンチ!」


【狐耳】メイが連打を叩き込み、距離ができたところで入れ替わるのは銀色メイ。


「【そうびへんこう】からの【きゃっとぱんち】! ぱんちぱんちぱんち!」


【狐火】の銀色メイが、続いて連打を叩き込む。

 さらにここで、二人が同時に道を開けば――。


「聖騎士パーンチ!」


 何の変哲もない拳打を、アルトリッテが叩き込む。

 見事な流れに、笑うメイとアルトリッテ。


「【びげき】」

「【カンガルーキック】!」


 ここで銀色メイが尻尾でつなぎ、メイの飛び前蹴りで後退させたところで、もう一度アルトリッテへつなぐ。


「【ハードコンタクト】!」


 最後は得意の聖騎士タックルで、死の女神を弾き飛ばした。

 派手に転がったところに、アルトリッテはさらに踏み込んでいく。


「【ホーリーロール】!」


 光の回転撃で、追加のダメージを叩き込む。

 だがそれでも、ギガンティスは退かない。

 三度目の変身は、巨大な白銀の狼。

 その牙に豪炎を灯し、容赦のない飛び掛かりでアルトリッテに喰らいつく。


「飛び掛かりだよっ!」


 しかし後ろ足が跳躍への溜めを作ったことを、メイが即座に指摘。

 高い打点から迫る【爆炎喰らいつき】に対して、アルトリッテは盾を取る。


「【シールドブラスト】!」


 下から上に振るった盾が放つ爆風で対抗し、白銀狼を吹き飛ばした。


「グラムちゃん! ……ゴ、【ゴリラアーム】!」


 メイはグラムの空いた腕をつかんで、そのまま大回転。


「それええええええ――――っ!!」


 グラムを投げ飛ばせば、一瞬で距離を詰めることに成功。


「そういうことか! 我が前で巨狼に化けた事、万死に値する! 【クインビーアサルト】!」


 突き出す神槍の衝撃波で、白銀狼を吹き飛ばした。さらに。


「お、おい!?」


 なんと駆けてきた銀色メイが、続けざまにグラムの腕をつかんだ。


「【ごりらあーむ】」


 そしてまたも、その場で三回転。

 続けざまにグラムを放り投げる。


「ク、【クインビーアサルト】――ッ!」


 とんでもない形でつながる連携、同じ相手に二連続で吹き飛ばされる白銀狼。


「このグラムを、石のように投げて使うな!」


 槍を突き上げ文句を言うグラムだが、すでにメイたちは走り出していた。

【裸足の女神】による、超高速での接近。

 変身が解け、転がったギガンティスが身体を起こすと、そこには跳躍中のメイとメイ。


「「がおおおおおお――――っ!!」」


 二人がかりの【雄叫び】が炸裂し、見事に硬直状態へと追い込む。

 そして二人は、同時に振り返った。


「分かっている! 【クインビーアサルト】――――っ!!」


 二度の『投擲』に頬をふくらませていたグラムは、それでもこの『流れ』と『期待の視線』に気づき、【ソニックドライブ】で追従。

 三度目の突撃で、ギガンティスを弾き飛ばした。


「つ、強すぎる……捨て身の大ボスの最終形態が、ダメージの一つも与えられてないぞ……っ!」

「真っ向から受けて立って、ボスを押していくなんて……!」

「この四人、どうやったら止められるんだよッ!」


 その圧倒的な攻勢に、驚愕の言葉しか出ない参戦者たち。

 星屑最強前衛の勢いは、止まらない。

 だが自らのHPを犠牲にして放つギガンティスは、地面に巨大なルーンを刻み込む。

 それは勢いづき、調子に乗ったところで陥る落とし穴。

【灼熱のムスペルヘイム】は、白黄の爆炎で全てを焼き尽くす炎系スキルの究極だ。

 駆け抜ける業火は、直径二百メートルを焼き払う爆炎となる。

 目を焼くような一瞬の輝きから、駆け抜ける白黄炎。


「【大車輪】!」

「【装備変更】!」

「【そうびへんこう】」


 しかしグラムは迫る炎を槍の回転で払い、二人のメイも【王者のマント】で吹き飛ばす。


「効かんなぁ」

「効きませんっ!」

「【セイントシールド】! ぬはあああーっ!」


 唯一【防御】スキルのアルトリッテは、ダメージはしっかり防いだものの、爆炎の勢いに後転。


「【バンビステップ】!」

「【ばんびすてっぷ】」

「【ソニックドライブ】!」


 メイたちとグラムは走り出し、大技終わりのギガンティスに攻撃を仕掛ける。


「【フルスイング】!」


 まずはメイが、全力で振り下ろす一撃が決まる。


「【クインビーアサルト】!」


 続くグラムの豪快な突きで、体勢を崩す。


「【ふるすいんぐ】」


 さらに銀色メイが続き、ギガンティスは二歩ほど後退。


「間に合うのだろうな! 聖剣!」

「無論だっ! 【ペガサス】【エクスクルセイド】!」


 最後に駆けつけてきたアルトリッテが黄金に輝く聖剣を振り下ろせば、ギガンティスは弾かれ大きく後退する他ない。

 減少を続けるそのHPは、残りわずか2割強。


「さあ来るぞ! 最後の全開モードが!」

「ここで一気に、敵が攻勢に入るぞ!」


 当然ここから、敵の最終奥義への道筋が始まる。

 思わず緊張する観戦者たち。

 だがそれでも、四人の攻勢は終わらない。


「「このまま押し切る!」」


 グラムとアルトリッテは叫んで、期待と共に振り返る。

 そこには、二人のメイ。


「【ちくしょく】」

「も、もうちょっと、上品にお願いしますっ」

「【やせいかいき】」

「ああーっ、服は脱がないでくださいっ!」

「「…………」」


 まるで野生児のようにバナナにかじりつき、装備を消し飛ばす銀色メイの腕を必死に引きながら「えらいこっちゃー!」と、慌てるメイ。

 グラムたちの視線に気づいて、ハッと我に返る。


「い、いきますっ!」


 宣言して、まったく同じモーションで剣を掲げるメイとメイ。

 そのまま同時に、剣を振り下ろす。


「必殺の……ダブル【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!」


 放たれる驚異の一撃。

 二人のメイが放った衝撃波は混ざり合い、そのままギガンティスを消し飛ばす。

 その巨体は地面を跳ね転がり、大きく跳ね上がったところでゼティアの門の角にぶつかり、それでも止まらず砂煙をあげて横転。

 倒れ伏したギガンティスはHPの全てを使い切り、粒子となって消えていく。


「やったー!」


 まったく同じポーズで、剣を突き上げるメイたち。


「このレベルのボスが、最後のモードチェンジをさせてもらえなかった……」

「ボスが奥義を出す暇もなく押し切られるって、こんなこと本当にあるのかよ!!」

「奇跡みたいな展開が起きた……!」


 容赦のない攻勢で、なんとこれだけのボスが奥義モードに入れず打倒。

 見たこともない展開に、驚く参戦者たち。


「勢いのまま、押し切りやがった」

「あはは、これはすごいね」


 これには金糸雀やローランも、笑うしかない。


「これくらい、我らなら当然だ」


 集まる驚愕の視線の中、勝利を誇るようにスッと神槍を掲げるグラム。

 するとメイも、剣を重ねるようにして掲げた。

 続けてアルトリッテ。

 そして意外にも、銀色メイも続く。


「星屑最強の前衛軍団……ええと、そうだな」

「アルトリッテ騎士団の前に、敵はなし!」

「おいこら!」


 美味しいところ持っていかれて、声を荒げるグラム。


「そこはメイちゃんが二人いるんだから、野生児騎士団だろ」

「野生は困りますっ!」


 観戦者の何気ない一言に、メイがすぐさま声を上げる。


「それなら、銀色メイちゃん騎士団だな!」

「最後はメイっぽい何かに、リーダーの座を奪われるのか……!?」


 驚愕のグラム。

 心なしか、胸を張っているように見える銀色メイ。

 この戦いに夢中になっていた参戦者たちの声に、笑い声があがる。


「ちょっと、強すぎるわね……」

「まさに圧倒でした」

「つ、つい観戦するのに集中してしまいました……っ」

「……メイが二人いるのは、さすがにおかしい」


 これにはマリーカを含めた後衛集団も、さすがに唖然とするしかないのだった。

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[気になる点] 【友達バングル】ってランダム召喚じゃなかったっけ? [一言] めいちゃんはコピーした時のステータス依存ではなくメイちゃんの現ステータスで更新され続けるのか 遺跡のめいちゃんはブーメラ…
[一言] 「……メイが二人いるのは、さすがにおかしい」 運営『想定外なのは確かなんだよね』
[良い点] 聖剣!神槍!野生児!最終防衛機構! 物理トップ3+ゲストのお目見えだ!! ・・・んんん? [気になる点] 空中ゴリラアーム連携www [一言] ぎ、銀色メイちゃんちゃんと現段階メイちゃんに…
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