1034.終焉のラグナロク
骸骨海賊団による攻撃を受けたギガンティスは、すぐさま反撃に入る。
掲げた炎の剣。
【ウルカヌス】は、火山のように噴き上げた大量の炎による攻撃。
空から降る炎が、かなりやっかいだ。
「【クイックガード】【天雲の盾】!」
迫り来る炎を、まもりはしっかりと盾を合わせて防御。
すでにMPがほとんどないレンも、当然守る。
しかし足元に落ちた炎が弾けて燃え上がり、足を引いたところに三つの火炎弾が同時に飛来。
「盾、盾っ!」
三つ目の炎が目前に落ち、走らせる火炎。
まもりはその場に両ヒザを突いて炎を止め、意地でもレンを守る。
そして身を挺したまもりを前に、ローランもすぐさま洋弓を準備。
「【五矢射ち】!」
五本同時に矢を放ち、続けざまの炎を打ち払う。
迫る炎から見事にレンを守った二人。
しかしギガンティスは炎剣を、地面に突き刺した。
すると燃え上がる剣が、地面に蜘蛛の巣のような熱線を走らせていく。
「逃げよう!」
ローランは足元に広がる熱線を見て、すぐに声をあげた。
【イグニスエトナ】によって描かれた無数の熱線は直後、豪快に溶岩を吹き上げた。
「レンちゃん!」
突き飛ばすような形でレンを溶岩から守ったローランが、ダメージを受けて転がる。
まもりも降ってくる溶岩に盾を合わせていたところで、足元に残っていた熱線を踏んで倒れ込む。
「グラム! お願い!」
「【ソニックドライブ】!」
ローランの叫びに、状況を把握したグラムが走り出す。
「【斬空閃】!」
多少の溶岩噴出によるダメージは受け入れ、熱線を飛び越え放つ斬り払い。
ギガンティスはすぐさま、【踏みつけ】で反撃。
バックステップでかわすが、振動でフラついたところに、飛び込んでくるのはメイ。
「【ターザンロープ】!」
今度は剣を持った腕に巻きつけ引っ張る形で、【ウルカヌス】と【イグニスエトナ】を阻止。
「【連続投擲】!」
すぐさまツバメが続き、【雷ブレード】でわずかながらに動きを止める。
ダメージは僅少だが、三人の連携の狙いは一つ。
「いけるな! 金糸雀!」
「もちろんだぁぁぁぁ! 【金剛武装】!」
金糸雀はどんな攻撃を受けてもノックバックせず進み、中距離攻撃への耐性を向上するスキルで接近。
巨人の【蹴り上げ】で飛来した石塊を弾きとばしながら、その足もとへ。
「もっかい! 【打脚驚天撃】ィィィィィィ――――ッ!!」
カウンター気味に叩き込む一撃で、ギガンティスから再度の転倒を奪った。
「今度はこのまま行くぞォォォォ! 【ミョルニル・インパクト】ッ!!」
振り下ろした一撃が、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げる。
「この状況、本当に申し訳ないわね……」
思わずレンが、そう言った瞬間だった。
異変が起きたのは。
「……なに? どういうこと?」
7人のトップによる戦いの中に突然駆け込んできた、闇の使徒志望者。
それはどこか、スポーツの試合中にコート内に駆け込んでしまった客のような違和感を生む。
広がる困惑の中で、使徒志望は片ヒザを突いた。
「これをお使いください。単体スキルの効果範囲を、範囲に広げるアイテムです」
差し出されたのは【広範囲化の宝珠】
「え……?」
困惑の中にあるレンには、その行動の意味が分からない。
「さあどうぞ、闇を越えし者」
「我が深淵、お願いします」
さらに、レンを取り囲むようにして集まってくる志望者たち。
次々に片ヒザを突いていく。
「だから私はそういうのじゃ……それにもうMPが…………あ」
差し出されたままの宝珠と、向けられた多くの視線の意味に気づく。
「そういうこと……?」
自らを囲むようにしている、多くの使徒志望者たち。
【広範囲化の宝珠】を受け取ったレンは杖を掲げると、宝珠を輝かせた。
残されたわずかなMP、それでもこの状況を変える方法が一つある。
「――――【吸魔】」
それは本来、わずかな光の粒子の演出をもってMPを移動するスキル。
しかし宝珠の効果で、その範囲が向上。
たくさんの輝きが、レンのもとに集まっていく。
そしてあっという間に回復したMPを確認したレンは、ギガンティスに向き直る。
黒で固めた闇の使徒志望者たちが片ヒザを突き、居並ぶ中で構える杖。
「【コンセントレイト】」
その姿はまるで、闇の者たちを率いる統治者。
レンは居並ぶ黒い者たちという光景に、またも口を滑らせる。
「……献身に感謝する。礼として、その双眸に焼きつけることを許可しよう。光も闇も置き去りにした、超越者の力を」
そして使徒にしれっと紛れたツバメが、静かに口を開く。
「これより始まる再現は、古の世分かつ大乱なり。偉大な神と巨人の震わす地。払う魔性の奔流は、トリックスターが抱く闇の閃き――」
「――――【魔力蝶】」
生まれた無数の黒蝶。
一斉に羽ばたき、空を行く。
雲に覆われた暗天を、さらに深い闇で塗り潰すような量の黒蝶たちが、ギガンティスに向け一直線。
飲み込み、ぶつかる度に生まれる輝きは、プレイヤーたちの視線を奪うほどに神々しい。
前衛組も見惚れてしまうほどの一撃はこうして、ギガンティスのHPを大きく削り取った。
「……ありがとう、助かったわ」
思わぬ展開に、あらためつぶやくレン。
絵面が完全に闇の教祖になっている以外は、完璧だ。
「きます!」
いよいよ残りHPが、2割を切ったギガンティス。
立ち昇るオーラ、煌々と狂い輝く目。
最後の猛攻が始まる。
高く上げた足で放つ、全力の【踏み込み】
走る衝撃から地割れが生まれ、前衛三人は高速移動から低めの跳躍で回避する。
だがこれは、前後衛の両方を回避または防御させるための動き。
続けて放つ、炎剣の叩きつけが本命だ。
「【加速】【リブースト】!」
広がる烈火がかすめ、HPを削っていく。
すぐさま続く二発目。
「【ソニックドライブ】!」
「【バンビステップ】!」
続けざまに上がる爆炎が、グラムとメイの頬を弾いていく。
そして三発目の攻撃に、視線をあげたところで気づく異変。
「叩きつけじゃないっ!」
剣を逆手に持ち替えての突き刺しは、【イグニスエトナ】
一瞬で地を駆ける熱線から、吹き上がる溶岩。
さらに細かくなった編み目から、安全地帯を見つけるのは至難の技だ。
ここでほぼ全員が防御の選択を余儀なくされ、ダメージに加えて体勢まで崩された。
「このスキルもまだ、前提の攻撃なのですか……っ?」
放たれる、必殺スキル。
両手で掲げた炎の巨剣で放つ【レーヴァテイン】は、広範囲超高火力の一撃。
炎が真紅から紫、青から緑そして白黄に変わり、灼熱の剣撃が全てを焼き尽くす。
恐ろしいその一撃は、放つエフェクトも圧倒的。
空間が揺れるほどの熱を持った剣撃が、前衛から後衛まですべてを焼き尽くさんと迫りくる。
「甘い」
しかしグラムは、それを見た瞬間に足を止めて仁王立ち。
轟音と共に迫る白炎の剣は、そのまま容赦なくグラムを一刀両断する直前で……停止する。
「とっつげき――――っ!!」
グラムの目の前に駆け込んできたのは、【鹿角】装備のメイ。
たとえどんなに高火力な一撃でも、振り降ろしでメイは倒せない。
炎の巨剣は容赦なく弾かれ、白炎が盛大に飛び散る。
大きく剣を弾かれたギガンティスは、足をぐらつかせた。
「【ソニックドライブ】!」
グラムは踏み込み、砂煙をあげて一回転。
「喰らうがいい――――【神代の魔槍】!」
突き出す槍に魔力が収束し、生まれる長大な光刃。
ルーンの描かれた光の穂はまばたきも許さぬ超高速で伸長し、ギガンティスの腹部を貫いた。
その背から飛び出した光刃は、そのまま輝きの粒子となって天へと抜けていく。
「……本当に、神々の戦いを思わせる迫力です」
突いて良し、斬っても良しの最強槍術スキルに、思わずつぶやくツバメ。
突き上げられ、転がったギガンティスの残りHPは、残りわずか数ドット。
ここでついに剣を捨て、広げる両手に輝く光。
【プロメテウス】は、白黄に輝く灼熱の隕石を無数に落とす、広範囲殲滅型の最終奥義だ。
「グオオオオオオオオオ――――ッ!!」
ギガンティスの断末魔のような咆哮と共に、圧倒的火力の白黄炎が降り注ぐ。
その中でも、グラムはやはり変わらない。
両腕を組んだまま、「ふん」と鼻で一息。
熱で風景がゆがむほどの隕石が、そのままグラムのもとに迫ると――。
「甘ぁぁぁぁい!!」
轟音を鳴らして落ちてきた灼熱の隕石も、それが魔弾であるのなら――。
「【装備変更】!」
【魔断の棍棒】に、打てないものはなし。
「からの【フルスイング】だああああ――――っ!!」
全力で打ち返された白黄炎の隕石は、豪快な打撃音をあげてギガンティスのもとへ。
頭部に飛んできた炎球は運良く、その耳元をかすめていくに留まった。
そして爆発。
ギガンティスの後方で燃え上がる、盛大な白黄の爆炎。
駆け出すグラムは、ここであえて【ソニックドライブ】を使わない。
そうすれば隣に、メイが追い付いてくる。
「ゆくぞメイ!」
「りょうかいですっ!」
「【ソニックドライブ】!」
「【裸足の女神】!」
うなずき合い、二人は一気に急加速。
「【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】!」
メイは速い疾走から、天高く跳躍。
「いきますっ! 大きくなーれ!」
大きく伸ばした【蒼樹の白剣】を、回転の勢いに任せて振り下ろす。
「【フルスイング】だああああ――――っ!!」
肩口に振り下ろされた一撃は深くめり込み、そのままギガンティスにヒザを突かせた。
大きく巻き上がる、砂ぼこり。
そしてメイが着地した時、グラムはギガンティスの後方へ【ソニックドライブ】で駆け抜けていた。
「最後は因縁のスキルを使わせてもらうぞ! 【強制転回】!」
かつてのメイとの戦いで思い知った、高速移動における『小回り』の重要性。
華麗にその身を翻したグラムは、右足を引きながら転身することで、足元に弧を描く。
そして下げた右足に体重を乗せ、再び前へ。
「【ソニックドライブ】からの――――!」
メイのような『言葉のつなぎ』と共に、手にした槍を投じる。
「【神槍雷破】!」
それは高速移動に乗せて【グングニル】を放つ、超高速超威力の最終兵器。
収束するエネルギーエフェクト。
それが弾けた瞬間、投じられた神槍は轟音を響かせる。
その流れは恐ろしいほどに速く、振り返って状況を確認してから回避したのでは間に合わない。
ギガンティスの背を貫いた神槍グングニルの一撃は見事に、巨人族との苛烈な戦いを勝利で終わらせた。
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