1033.最強のパーティ×2
北欧神話の要素を集めたグラムの連携、『ラグナロク』が決まった。
物理耐性に加えて、一部魔法にも強い強敵ギガンティスは、距離を取りつつ起き上がる。
「ヤマトのイベントで初めて見た時、びっくりしたよね」
「ああ、メイたちの強さには驚かされたもんだ」
「まさかそこに、星屑を騒がせる盾の名人が加入するなんてね」
「鬼に大盾だな」
「い、いえいえそんなっ!」
笑うローランと金糸雀に、まもりは恐縮する。
「ヤマトの対抗戦は、毎年『天軍』が勝つって評判だったし、今年も行けると思ってた。ね、グラム?」
「来年は分からんぞ! 何せこのオーディンの化身がいるんだからな!」
神槍を突き上げて怒るグラムに、レンやツバメも笑う。
「こんな大ボスと一緒に戦えてるんだから、あの時メイちゃんたちがイベントに来てくれてよかったよ」
「まったくだ」
「えへへ」
「来年は我らが勝つけどな!」
「さあ、来るわよ!」
大きなダメージを受けた巨人族ギガンティスは、炎の木剣を手に立ち上がる。
「蹴り上げ、きます!」
ツバメが声をあげると、始まる豪快な【蹴り上げ】
前衛組は全力で集中して、飛んでくる無数の石塊を回避する。
「【コンティニューガード】【不動】【地壁の盾】!」
すさまじい勢いで盾を叩く石片が、鳴らす爆音。
ようやく落ち着いたところで、見えたのは左脚を振り上げようとするギガンティス。
「もう一度、きます……っ! 【クイックガード】【不動】【地壁の盾】!」
【蹴り上げ】二連発に、まもりは再び防御に入る。
今回も防御は完璧。
しかし直前で高くバウンドした岩が、まもりの頭上を超えてレンたちのもとへ落下する。
「「「ッ!?」」」
三人は全力で飛び転がって、直撃を回避。
そこにギガンティスはなんと、三度目の【蹴り上げ】を狙う。
陣形を崩された状況で、喰らってしまうのは厳しい。
慌てて片ヒザ立ちになったローランは、急いで弓を引く。
「【ライトニングアロー】!」
超高速の矢は見事にギガンティスに刺さり、どうにか攻撃を遅らせることに成功。
だがこちらが陣を立て直したところで見えたのは、新たなモーション。
「くるよ! 見たことのない攻撃っ!」
ギガンティスは手にした炎の木剣を、叩きつけにくる。
メイたちはすぐに左右へ退避を開始するが、地面を叩いた炎の木剣から巻き起こる爆炎。
その範囲は広く、ここからの回避は間に合わない。
「【大車輪】!」
グラムは手にした槍を、回転させて対応。
「【穴を掘る】!」
メイはなんと、自ら穴に落ちることでこれを回避。
「【加速】【跳躍】!」
一方ツバメは、ギガンティスの方へ跳ぶことでの回避となった。
すると空いた方の手を大きく引き、繰り出される『つかみ』
空中で捕まれば、その圧倒的な力で地面に叩きつけられる可能性が高い。
ローランは慌てて矢をつがえるが、さすがに間に合わない。
「【エアリアル】!」
ツバメは迫る手を二段ジャンプで回避して、さらにギガンティスの方へ。
しかしギガンティスはつかみそこなった手を、今度は払う形で攻撃に転化。
叩かれたツバメは、そのまま弾き飛ばされた。
「ツバメちゃん!」
叫ぶローラン。しかし。
「問題ありません。それは【残像】です」
ツバメはここで跳躍の頂点につき、両手に持った短剣を振るう。
「【八連剣舞】!」
「うまい……っ!」
これにはローランが、思わず声をあげた。
「ツバメ、やるな……!」
「すっげえ!」
グラムも金糸雀も驚く。
八連続の剣撃を受けたギガンティスは、大きく足を引き、なんとそのまま転倒。
腰から地面に落ちる形になった。
「転倒した!?」
物理耐性を持つギガンティスが、思わぬ形で見せた隙。
「【ソニックドライブ】!」
「【バンビステップ】!」
「【アクセルスウィング】【キャンセル】!」
ここでこの好機を攻めるため、駆け込んできた三人。
「「「ッ!?」」」
同時に驚愕する。
ダメージに見合わぬ転倒は、プレイヤーを引き寄せるための罠。
なんとギガンティスは、そのまま地面を転がる形でボディプレスを仕掛けてきた。
「おい! なんだそれはーっ!」
「ぐああっ!」
「うわあーっ!」
これはさすがに回避不可能。
グラムと金糸雀、メイが押しつぶされる形でダメージを受けた。
そのまま立ち上がったギガンティスは、再び炎の木剣を使って攻撃に入る。
炎剣の振り上げによって、地面を駆け抜ける轟炎。
【爆烈走火】は火力もあり、範囲も広く、連打も可能という強スキルだ。
「【天雲の盾】!」
だが後衛には、まもりの盾がある。
迫る爆炎の疾走を、まもりが盾一つで防御。
後衛組を見事に助ければ、前衛組の状況を見たローランが反撃を狙う。
「【裂空一矢】【バーストアロー】!」
ギガンティスはこれを器用にかわすが、視線を矢に集中させたことには、大きな意味がある。
「【裸足の女神】!」
目を取られたことで、超加速で駆け出したメイに対して遅れる対応。
倒れにくく、物理防御も高い相手に対してメイは、『搦め手』の使用を決意する。
「【モンキークライム】!」
攻撃はせず、足から一気にギガンティスを駆け登っていく。
「っ!!」
肩まで登ったところで、大きく払う腕。
これによってメイは宙に投げ出され、ギガンティスはすぐさまその巨手で叩きつけにいく。
「【ターザンロープ】!」
しかし先んじて投じたロープが二の腕に絡みつき、メイはそのままブランコのような軌道で回転したところで跳躍。
「アーアアー!」しそうになって、慌てて口を塞ぐ。
そしてギガンティスの鎖骨前に着地して、一度転がったところで――。
「【グリーンハンド】【アイヴィーシード】!」
手を突けば、即座に広がるツタの種。
ギガンティスの巨大な上半身が、あっという間に大量の緑のツタで覆われた。
おとずれた、攻撃のチャンス。
「ナイスだよ! メイちゃんっ!」
もがき出すギガンティス。
この状況で高いダメージを狙うなら、後衛組の攻撃が活きる。
「これだけの時間を、もらえるなら……っ!」
ここで攻撃体勢に入ったのはローラン。
溜めの時間を必要とするその一撃に使うのは、先端に芽のついた若枝のような矢。
吹き始める風が、そのスキルの特別さを物語る。
やがてまばゆい輝きが、矢の先に灯った。
「いくよ! ――――【ミストルテイン】!」
放たれた矢は、光の尾を引き一直線。
どんな耐性による防御も認めない『神すら貫く矢』が、ギガンティスの硬質な身体を突き抜けると、盛大な爆発を巻き起こす。
これには大きく体勢を崩し、片ヒザを突いた。
「この隙は、逃せない……っ!」
ここに続くのはレン。
「【絆の宝珠】を、使わせてもらうわ!」
掲げた宝珠がまばゆい光を放ち、魔法陣を生み出す。
思った以上に大きな陣から、流れ込む大量の水流。
その瞬間レンは、理解する。
突如として、地上に生まれた大海。
直後、荒れる波間を滑るようにしてできたのは、ボロボロになった一艘の海賊船。
船に取りつけられた何門もの砲台には、骸骨船員たち。
リーダー格の骸骨剣士はすでに、『船長』の命令を待っている。
「あんた達……よく来てくれたわっ!!」
これにはレンが、うれしそうに目を輝かせる。
「準備は、できてるんでしょうね!?」
そして「もちろんです」とばかりに、うなずくリーダーを確認。
「狙いは巨人族! 撃ち方、始めぇぇぇぇ――――っ!!」
レン船長が手を振り下ろせば、始まる一斉射撃。
次々に放たれる砲弾は容赦なく、ギガンティスに叩き込まれる。
爆破に続く爆破が、王都の暗い空をまばゆく照らす。
こうしてメイが作り出した好機は、見事にHPを削ることに成功。
敵HPは、残り5割を切った。
そして敬礼する海賊たちを乗せた幽霊船は、そのまま波の彼方に消えていく。
「召喚の形でなければ、このまま皆を連れて船に乗り込みたいくらいだわ……っ!」
全力で杖を振って見送った後、レンは「よかった」と息をついた。
「レンちゃん、もしかして……」
しかしローランは、一つの異変を感じた。
向けられた視線に、レンは静かにうなずく。
「前に『MP減少』の状態異常を受けたこともあって……もうMPがないの」
レンは第四陣辺りから少しずつ、魔法の使いどころを絞っていた。
それでも、MPは底を突いた。
「だから何かあった時は、まもりはローランを優先して守って」
「っ!!」
それは最悪の場合、後衛の中心をローランに託すということ。
その言葉に、まもりは返事をできなかった。
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