1025.八手の鬼
「「「行くぞォォォォ!!」」」
皆が掛け声をあげて走り出し、始まる第五陣との戦い。
能力差こそあれ、全てがボス級の魔物たち。
戦いは当然、激しいものとなる。
メイたちは敵陣最後尾に控える、八本腕の鬼のもとへ進む。
行列後方の魔物たちは、明らかに強敵だ。
「ここは光の使徒が押さえますわ!」
「ヤツの相手は我らがしよう!」
迫り来る後方のボス格を叩くため、次々にトップ勢が動く。
こうしてメイたちは、開かれた道を進む形で最後尾へ。
黒剛王鬼は、八本の腕が各々違う剣を持つ怪物。
行列の最奥までたどり着いたメイたちを見つけて、灰色の鬼が静かに構える。
「くるよっ!」
メイの言葉の直後、大きく踏み出してきた黒剛王鬼は左腕一つ、右腕二つの形で剣を垂直に振り降ろしてきた。
メイとツバメはしっかりと軌道を見て、隙間に移動することで剣を回避。
そして外れた三本の剣が、持ち上げられた瞬間。
「メイさん、ツバメさんっ!」
すでに真横から、払いの剣撃が迫っていた。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
これを垂直ジャンプでかわす二人。
だが黒剛王鬼の腕は、まだ残っている。
二人が跳んだところを狙う、五本目の斬り払いが迫りくる。
しかしメイの跳躍は最初から低く、すぐに着地したため隙はなし。
「【エアリアル】【投擲】!」
ツバメも二段ジャンプでかわして、【雷ブレード】で反撃をしかける。
「うまい……っ!」
飛ばして落とす敵の狙いまで読んだツバメの反撃に、思わずレンが声をあげた。
黒剛王鬼は、六本目の剣でブレードを防御。
そして残る二本腕で、豪快な剣の叩きつけに入る。
直撃をかわす二人だが、【烈風剣】の本命はむしろ叩きつけ後の衝撃波だ。
「わああああーっ!」
「ああっ!」
二つの剣から広がる強烈な衝撃に、メイとツバメが大きく転がった。
「使ってない腕で、自分のフォローに回れるっていうのはやっかいね!」
「た、単体で剣の連携を使って、自分の隙も自分で消す感じですね……!」
一体で連携を使うような戦い方。
どうやらそれが、黒剛王鬼の強さのようだ。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンはすぐさま、敵の追撃をけん制。
遅れて踏み込んできた黒剛王鬼は、四本の左腕を順に振り下ろしてくる。
「【かばう】【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾!」
これを見事に四つ受けたところで、復帰したメイとツバメが接近。
すると黒剛王鬼は、右側の四腕を使って一回転。
【四剣回転斬り】で、迫る二人を急停止させた。
「これは、なかなか厳しい戦いになりそうね……!」
レンがそう言って、息をついた瞬間だった。
「ツバメちゃん!」
空から急降下してくる、一体の怪鳥。
どうやら第五陣は単純に、こちらの戦力を上回っているようだ。
飛行型ゆえに見逃された鳥型の急な襲来に、ツバメは対応が遅れた。
そして鳥型の一撃を受ければ、そこから黒剛王鬼の攻撃へつながる可能性もある。
走る、緊張感。
「――――【スリップフット】」
「迷子ちゃんさん!」
ツバメの側方から飛び込んできたのは、迷子ちゃんだった。
「【ジェット・ナックル】!」
敵側部に拳を叩き込むと、地を転がった鳥型の先に待つのは、樹氷の魔女。
「切り裂いて! 【氷のイバラ】!」
地面に伸びる氷の枝から氷刃が生え、ダメージを追加。さらに。
「メイちゃんたちの戦いの邪魔はさせないぜ! 【オクタブレード】!」
駆け込んだマウント氏が剣技を叩き込み、そこへ90年代氏が続く。
「我は斬り裂く異界の悪鬼! 【光の大剣】ッ!」
見事な連携で、鳥型の魔物の乱入を早々に片付けた。
「迷子ちゃんっ!」
しかし乱入者を見逃さなかった、黒剛王鬼。
鳥型に拳を叩き込んだ直後の迷子ちゃんを、狙って特攻。
振り下ろす、右三本の剣。
「【飛び跳ね】! 【硬化】ぽよっ!」
これを目前で止めたのは、スライム。
すると黒剛王鬼は、左三本の剣で追撃に入る。
「【かばう】【地壁の盾】!」
今度はまもりが割り込み、盾で三本の剣をまとめて抑え込んだ。
「いい連携防御ね! 高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「【サンダージャベリン】!」
「【飛天の烈風矢】!」
両の剣を弾かれた黒剛王鬼に、即座に反撃を入れたレン。
続く形で掲示板組後衛も攻撃し、HPを削ってみせた。
準トップの位置でボスとの戦いを始めた掲示板勢は、予想よりかなり早い打倒に成功。
残った敵を見つけて動いた結果、ツバメに襲い掛かろうとしていた鳥型を発見した。
すでにスライムを中心にした掲示板勢は、準トップ級の魔物など難なく倒す手練れになっていたようだ。
「助かったわ! このまま一緒に戦いましょう! このパーティとなら、間違いなく上手く戦える!」
「了解ぽよっ!」
「了解ですっ!」
「皆さんどうぞ、よろしくお願いいたしますっ!」
嬉しそうにするメイの一言に、気合の入る掲示板組。
「使徒長と共に戦える、これほどの悦びはない……っ!」
「我々掲示板組とメイさんたちの共闘、勝率はもちろん100%です」
「さあ、かかってくるぽよ!」
スライムの挑発に応えるように、動き出す黒剛王鬼。
右の剣二本で放つ斬り下ろしを、かわすメイとツバメ。
するとすぐさま左の剣二本の切り払いで、前衛組全体に『しゃがみ』の体勢を取らせた。
そこから振り下ろすは、右の四本全てを使った豪快な振り降ろし。
大慌てで後退する前衛組。
すぐさま踏み込み、今度は左の四本全てを使った振り降ろし。
さらに後退することで、ギリギリの回避に成功。
ここで黒剛王鬼は右剣の一本を大きく掲げ、エフェクトを一閃。
【剛腕打剣】で、遅れ気味の前衛組を叩きにいく。
「防御だ!」
これ以上の回避は難しいと踏み、防御態勢に入る掲示板前衛組。
「「「うわああああああ――――っ!!」」」
しかし防御を許さぬ一撃は、盾を持った戦士たちを二十メートルほど弾き飛ばした。
さらに黒剛王鬼は、踏み込んでいく。
放つ【四剣回転斬り】は、右腕の剣全てを使った同時斬り払い。
「【かばう】【不動】【地壁の盾】!」
まもりが跳んだのは、一番早く斬り払いを受ける位置にいた掲示板組プレイヤー。
先頭で盾を少し斜めに構えれば、弾かれた斬り払いは続くプレイヤーの頭上を越えるような軌道に変わる。
そして一番下の刃だけ先行して弾けば、イチかバチか跳んでの回避を狙う必要もなくなる。
それは一つの盾で、全員を守る見事な防御技術だ。
しかしこの時左の剣が二本、すでに準備を終えている。
放たれるのは、二本同時の【剛腕打剣】
「【巨大化Ⅰ】【可変】【超硬化】ぽよーっ!」
対してこちらはスライムが、その身体を壁のように広げて硬度変化。
盛大な衝突音をあげて、防御不能な二本の剛剣を受け止めた。
すると黒剛王鬼は、左右の剣を一本ずつ引く。
「左右同時ですって!?」
まもりを狙った二本の剣による挟撃に、思わず声をあげるレン。
迫る【挟み斬り】に対し、まもりは『一歩』だけ右に動くと――。
「【クイックガード】【不動】【地壁の盾】盾!」
両手の盾を使って、これを連続防御。
一歩だけ動いてみせたのは、左右から来る剣のタイミングを同時ではなく、時間差にするためだ。
「ハサミ斬りを防御できるのは、両手盾のまもりだけね!」
あまりに見事な防御に、掲示板組は唖然。
「まだぽよっ!」
だが【挟み斬り】から続くのは、【剛腕打剣】の振り降ろし。
両の盾で攻撃を受けているまもりに、対応は難しい。
「【可変】【超硬化】ぽよーっ!」
まもりの前に突き立ったスライムの壁が、この一撃を受け止める。
見事な連携防御。
しかし煌々と輝くエフェクトに、思わず顔をあげる。
大きく引いた一本の腕から放たれる【千刃烈剣】
それはノコギリ状の刃で、撫で斬る突きの一撃。
「ススススライムさん、しゃがんでくださいっ! 【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
「了解ぽよっ!」
【可変】で、水たまりのように平たくなったスライム。
その1メートル上を通り過ぎていく刃が、まもりの盾と直撃。
猛烈な火花をあげていく。
すさまじい擦過音が終わり、攻撃に耐え切ったまもりは息をつくが――。
「ッ!?」
その驚異的な『防御への嗅覚』が、違和感を覚える。
まもりは再び、盾を構えた。
「コ、【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
誰もが首を傾げる、スキルの再使用。
その直後、黒剛王鬼はノコギリ剣を『引いた』
【引き返し斬り】が、再びまもりの盾から凄絶な火花を散らす。
「神がかってる……!」
「アイギスの呼び名は、伊達じゃねえ……ッ!」
「敵の攻撃は熾烈。でもこの二人が組んだ防御は、半端じゃないわ……!!」
「レンちゃんっ!」
思わず感心していたメイだが、その目はしっかりと黒剛王鬼を見据えていた。
見ればその腕の一本が、掲げた剣。
どうやら真上から、【烈風剣】を叩き込むつもりのようだ。
「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
この状態で衝撃波を叩き込まれれば、さすがにどうなってしまうか分からない。
レンはすぐさまスキルの停止を狙って魔法を放つが、強制停止にはわずかに届かないダメージ。
「足りない……っ!」
「【アイシクルエッジ】!」
だが常にレンの様子をうかがっていた樹氷の魔女は、その意図に気づいていた。
ギリギリで決まった一撃が、【烈風剣】を止める。
「【加速】【リブースト】【跳躍】【回天】」
これに最速で反応したのはツバメ。
【村雨】による縦の回転斬りで続く。
その一撃に大きく足を引いた黒剛王鬼は、これ以上の攻勢を防ぐため反撃を狙う。
額から放った【衝撃砲】は地を駆け、全体にわずかな硬直を生み出した。
「おい! 腕を全部あげたぞ!」
あがる八本の腕、輝くエフェクト
「これは、とんでもない乱打がくる……ッ!」
衝撃波の崩しから放つのは、【撃剣乱打】
慌てて下がる掲示板組。
「ッ!?」
しかし前衛の少女が、衝撃砲による転倒で逃げ遅れていた。
おとずれた最悪の窮地。
「【かばう】!」
そんな少女の前に出たのは、やはりまもりだった。
「【溜め防御】【爆火盾】【不動】【クイックガード】【地壁の盾】っ!!」
迫る八本の腕による連打。
「盾盾盾! 盾盾盾! ……盾盾っ!」
右右左、左左右、わずかな時間差の二腕振り降ろしを盾で受ける。
しかし【激剣乱打】は終わらない。
そのままさらに左右左右、右左右左とランダムな連打を続けてくる。
「盾盾盾盾! 盾盾盾盾っ!!」
全ての剣撃の角度が違うという状況でも、まもりは二枚の盾で容赦なく弾き切る。
その見事な盾さばきにあがる歓声。しかし。
「そのまま二つ目のスキルにつなげるなんて、ありかよっ!」
あがる悲鳴。
【剣刃乱舞】は八つの腕を全て使った、一撃八刃の必殺剣舞。
「盾、盾盾盾! 盾盾盾盾――っ!!」
八本の腕を全てを使った剣撃は、角度もタイミングも何もかも別々の『ほぼ』同時攻撃。
これでも、防御は破られない。
まもりの二枚盾は、その全てを完璧に弾いてみせた。
直後、【溜め防御】の乗った【爆火盾】が炸裂し、凝縮された業火が黒剛王鬼を吹き飛ばす。
「迷子ちゃん、あれ行くぽよっ!」
「はいっ!」
先行するのはスライム。
【飛び跳ね】で一気に距離を詰め、そのまま黒剛王鬼へ迫る。
「スライムさん!」
呼びかけはツバメ。
その手を見て、スライムは意図を察する。
「了解ぽよっ! 【巨大化Ⅱ】【帯電】!」
「【投擲】!」
ツバメの投じた【雷ブレード】によって、巨大な電気スライムになったところで特攻。
「【砲弾跳躍】ぽよ――――っ!!」
体当たりで、黒剛王鬼を弾き飛ばす。
その大きな身体で二転三転し、運よく体勢を起こす形で止まった黒剛王鬼だが、【雷ブレード】の効果を継いだことで硬直。
するとここで手を上げたのは、迷子ちゃん。
メイの召喚獣の呼び出しに影響されたそのポーズで、スキルを発動する。
ヒザ突き状態の黒剛王鬼の頭上、二十メートルのところに現れたのは一つの魔法陣。
「大きな魔法陣、一体何が出てくるの?」
レンの問いに応えるように現れたのは、その身体に紋様の描かれた金属製の巨大ゴーレム。
陣を突き破るようにして落下して、拳で黒剛王鬼の頭部を捉える。
そしてそのまま、地面を砕くほどの勢いで叩きつけた。
「す、すっごーい!」
猛烈に上がる砂煙。
遺跡の古代兵のようなゴーレムの放った一撃に、思わずメイが歓声をあげる。
「これがオリハルコン製のゴーレム! とんでもない威力ぽよっ!」
「オ、オリハルコンだって!? 未知の素材だぞ!? どうやってこんな量を集めたんだ!?」
「このサイズでつくるゴーレムの素材って、尋常じゃないぞ……!」
「海の王の、お腹の中で見つけましたっ!」
海底遺跡での迷子。
たどり着いた先にあったのは、至高の鉱石の一つ。
そして出来あがったのは、錬金術ゴーレムの最終形の一つだった。
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