1023.光と闇の交わる時
死骸王とぶつかる、闇の始祖と白夜。
この隙にメイや光の使徒たちは周囲の援護を続け、流れをしっかりと引き寄せ始めている。
「な、なんか、黒い格好のプレイヤーが集まってきてるな……」
始祖と使徒の戦いには、同好の士が集まり固唾を飲んでいる状況。
「……やるものだね」
つぶやくルナティック。
見事な騎竜戦を見せた白夜によって、早くも死骸王のHPは半分まで減少。
「反撃、きますわ!」
死骸王が両腕を広げれば、放たれる半透明の魂たち。
【悪霊弾】は大量の悪霊を放ち、当たると数秒ほど身体を乗っ取られてしまうという拘束攻撃だ。
「…………ッ!?」
いつも以上に、無口になるレクイエム。
いつも以上に速い移動で、逃げるように回避。
すると三人の足元に、生まれる魔法陣。
【烈火葬】は、炎が噴き上がる範囲攻撃。
内側に大きく巻き込んでくる『包み焼き』の炎がダメージを与え続け、その間に逃げ出せなければ、最後には爆炎で消し飛ばすという強スキルだ。
「あ、【暗衝】っ!」
「【飛び影】!」
レクイエムとルナティックは、直前に白夜の見事な騎竜攻撃を見せられたため、無様な姿は見せられないと全力の回避。
ナイトメアも、【低空高速飛行】で下がってかわす。
「【エアブースト】!」
この時すでに白夜は、黒い飛竜ラグナリオンに乗り空を駆けていた。
先ほどは白夜の接近攻撃にやられた死骸王、今度は火力を大きく上げて対抗する。
【死乱閃光】は十字の光が同時に何十本も一斉に突き立つという、世界の終末を思わせる範囲スキル。
生まれた光景に見惚れる者まで生まれる中、白夜はその隙間をすり抜けるようにして進む。
「ッ!!」
だがここに【鳥葬】を織り交ぜられたところで、軌道を『直進』から『弧』を描く形に変更。
接近攻撃は諦めたものの、十字光群とアンデット鳥をかわし、死骸王の斜め後方へ回り込むような形で進んだところで、攻撃に入る。
「【紅蓮砲弾】!」
三連発の炎弾は死骸王の【瞬間移動】にかわされるが、回避を取らせたことで激しかった敵の攻撃が止まる。
「……騎竜、見事なものだね」
「まったくだ」
従魔師として、見事な騎竜戦を見せる白夜。
敵の激しい攻撃を竜に乗り回避する姿は、あまりに勇壮。
「でも気に入らないなぁ、一人だけこんなに見せ場をもらってさぁ……」
白夜の一人舞台に我慢できなくなったルナティックが、つぶやく。
「ボクも、欲しくなってきちゃった」
そして、風雲渦巻く赤い月に右手を掲げた。
死骸王のすさまじい範囲攻撃と、白夜の華麗な回避。
真っ直ぐに見据えたまま、【ソロモンの指輪】を妖しく輝かせる。
「おいで、強欲の大罪悪魔――――ボクのアモン!」
落雷のような激しい赤光が、天地を駆けめぐる。
足元に生まれた巨大な魔法陣が煌々と輝き、風が薙いでいく。
轟音と共に現れたのは、狼の腕を持つ半蛇のフクロウ。
「さあまずは挨拶からだ! 【フレイムバスター】!」
直径1メートルにも及ぶ真紅の豪炎弾を放つと、死骸王は慌てて回避。
地面にぶつかった炎弾は、噴き上がる溶岩のように弾け飛んだ。
「【紅蓮砲弾】!」
これに空中を旋回していた白夜が、すかさず炎弾連射で続く。
「まだまだぁっ! 焼き尽くせ【フレイムバスター】!」
「【紅蓮砲弾】!」
次々に放たれる炎弾は、必死の回避を続ける死骸王を追い詰めていく。
そして跳ね上がった溶岩のような炎塊が肩を弾いたところで、たまらず【瞬間移動】で逃亡。
両手を開き、二度目の【不死者乱舞】で反撃に入る。
地面を突き破るようにして現れる、大量のアンデットたち。
「甘い、甘いよ。そんな薄い壁で、ボクのアモンを止めようなんてさぁ……甘いんだよォォォォ! 【フレイムディザスター】!」
ルナティックが狂った笑いをあげながら両手を開けば地面に地割れが走り、溶岩のような炎が噴きあがる。
呼び出されたアンデットたちは、これで一掃。
「そォォォォら! 【シューティングゴールド】だぁぁぁぁ!」
赤月の夜空にきらめく、無数の光。
流星群のように降り注ぐ黄金の光は、すべて魔力光の輝きだ。
金貨のようなまばゆい輝きの雨に、回避などさせる気はなし。
【瞬間移動】の発動を許さぬ怒涛の攻撃は、敵体力を容赦なく削り取る。
強欲の大罪悪魔アモンと騎竜による怒涛の攻撃で、死骸王のHPは一気に3割ほどまで減少。
「大罪悪魔、相変わらず非常識な攻撃力ね」
つぶやくナイトメア。
「でも……詰めはここからよ」
その目算通り、ここから死骸王はパターンを変え、強烈な攻勢に出る。
【死乱閃光】により突き立つ、数十本の十字光。
これをかわしたところに放つ【死閃降臨】
今度は落下してくる十字光が、次々地面に突き刺さる。
その勢いに、レクイエムは回避を諦め防御を選択。
「くっ! 【飛び影】!」
十字光の回避に専念していたルナティックは、足元に突然生まれた魔法陣に気づいて跳び上がり、【烈火葬】の包み焼きを回避。
しかし頭上から新たに降る、光十字に弾き飛ばされて落下。
その攻撃範囲と火力には、白夜も回避に専念することしかできない。
するとそんな中を飛んできたのは、大きな悪霊の砲弾。
ナイトメアはこれをかわし、すぐに頭上の光十字の状況を気にするが――。
「っ!?」
【悪霊憑依散弾】は一度避ければ終わりではなく、直後に無数の悪霊を解放する。
身体を乗っ取られたナイトメアは、起き上がったばかりのルナティックへ杖を向けた。
「【フレアストライク】」
「ッ!?」
その耳元を、炎砲弾がかすめていった。
「ナイトメアが……乗っ取られたみたいだね」
最悪の展開に、さすがに表情を曇らせるルナティック。
「光の! 敵を叩くことで乗っ取りが切れる可能性が高い、貴様はヤツを撃て!」
「分かりましたわ!」
レクイエムの言葉に、白夜は即座に反応。
ラグナリオンで、空から【紅蓮砲弾】を連射する。
これに対して死骸王は、【瞬間移動】による回避で対応。
「間違いなさそうですわ! 【紅蓮砲弾】!」
しかし死骸王の【瞬間移動】は特定の場所に現れる形ではないため、移動先を見つけてから【紅蓮砲弾】を放ったのでは間に合わない。
「【フレアストライク】!」
「目を覚ませナイトメア! 【暗夜の大剣】!」
放たれた炎砲弾を、豪快な剣撃で斬り払うレクイエム。
「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「跳び影!」
「【ブリザード】!」
「チッ!」
ナイトメアはレクイエムへの攻撃を仕掛けた後、ルナティックの動きもしっかりけん制。
「【暗夜剣】!」
「【低空高速飛行】!」
迫る闇の剣撃を、飛行でかわして振り返る。
「【氷塊落とし】!」
「【暗衝】! 気を付けろ、杖を替えたぞ!」
落下してくる氷塊をかわして、レクイエムが叫ぶ。
氷嵐が消える瞬間、再び振り返ったナイトメアの手には【ヘクセンナハト】
「【フレアバースト】!」
「【飛び影】!」
ルナティックは前方への高い跳躍で、炎が大きく『広がる』前にナイトメアの前に着地。
「【魔力剣】!」
一転ルナティックに接近されると、ナイトメアは魔力剣を装備。
「ナイトメアは接近も得意だからね、人型が迫ってきた時に『受けて立つスキル』を持ちがちだ」
ルナティックはナイトメアを引き寄せてから、攻撃を回避する。
「【飛び影】!」
そのまま頭上を越える跳躍で、場を開いた。
「さらに低空飛行による移動もできるため前後左右での戦いに強い。だが……下方からの攻撃に対する回避力に欠ける! 【黒閃天衝】!」
「ッ!?」
ルナティックの後方から迫っていたレクイエムが、地面を強く踏みつける。
足元一帯に黒光の槍が一斉につき上がり、ナイトメアの体勢を大きく崩した。
「残念だったね偽ナイトメア! 【連続魔】【ブレイズバレット】!」
「きゃあっ!」
即座に魔法でナイトメアを弾き飛ばし、低ダメージで時間を稼ぐことに成功。
「ナイトメアを知り尽くす我らであれば、偽物を崩す程度は容易なこと!」
「ラグナリオン! 【紅蓮砲弾】!」
白夜は【紅蓮砲弾】を放つが、これも間違いなく【瞬間移動】にかわされる。
そのため炎弾を放ったところで、一気に急降下。
予想通り死骸王が炎弾を引き付け消えた瞬間、祈るように中空に身を投げる。
【瞬間移動】先が左方なら、ラグナリオンに。
右方なら――。
「【ライトニングスラスト】!」
高速飛行突きで、自ら突撃。
問題は移動先まで、攻撃が届くかどうか。
感覚ではギリギリ。
祈りながら放った一撃は、見事に死骸王の首元に突き刺さった。
「【極光乱舞】!」
白光の爆発に、死骸王が吹き飛ばされる。
その瞬間、悪霊の『乗っ取り』が解放。
「……ルナ、ちょっといい?」
静かに息をついたナイトメアはさっそく、ルナティックにつぶやき一つ。
乗っ取られていた間も、その思考は止まっていなかった。
「……フフ、ハハハハハ……ッ! いいよナイトメア! 君の方がよっぽど悪魔的だ! その眼はやはり……魔眼だよ」
ナイトメアの作戦に、ルナティックが笑う。
「光の使徒。もう一度だ。そいつの相手を任せるよ」
「簡単に言ってくれますわね……っ!」
「できるだろう? 貴様なら」
「上等ですわ……っ!」
再び騎竜に乗り込み、死骸王に攻撃を仕掛けに行く白夜。しかし。
「さっきまでと違う……っ!」
杖に灯る禍々しい光は、死骸王の奥義スキル。
【暴食死王】は死翼竜や死伏竜、死海竜に死恐竜という巨体のアンデットたちが、一斉攻撃を仕掛けるというものだ。
その迫力に思わず息を飲んだ白夜は、それでも気合一つで特攻をしかける。
死翼竜の飛行攻撃を高度を下げてかわせば、続く死伏竜の飛び掛かり。
これを避ければ、続くのは死海竜の喰らいつきだ。
「【エアブースト】! ッ!!」
ここで速度を上げ、死恐竜の尾による振り払いも回避。
しかし尾の端が、脚を斬っていった。
転がり落ちそうになった白夜は、それでも必死に騎竜にしがみつき、この地獄のような攻撃を切り抜けたところで反撃に入る。
「【紅蓮砲弾】!」
すると死骸王は【瞬間移動】による回避を決め、再びその杖を禍々しく輝かせる。
「この規模のスキルの連発なんて……ありえませんわ!」
超高火力、広範囲の奥義スキル。
【暴食死王】の二連発という事態に驚愕する。しかし。
「――――【グリード】」
現れる大物アンデッドたちの前に、フラッシュのように輝く光。
「そのスキル、使わせてもらうよ」
再び発動しようとする【暴食死王】を目前に、白夜が呆然としたところで――――ルナティックの姿が消えた。
「どういうことですの? 死竜をぶつけ合うのでは……」
これには驚くことしかできない白夜。
「うかつだったね。君の【瞬間移動】は、固定地点ではなく任意地点。それは驚くほど便利な移動魔法の到達点……でも」
次の瞬間ルナティックは、死骸王の背後を取っていた。
「そんな強スキルを強欲なボクに見せちゃったら、お終いなんだよねぇぇぇぇ!」
任意の位置に飛ぶ移動スキルなら、大技使用直前の死骸王の背後にだって回り込める。
火力の高い大技ではなく、地味だが敵の『根幹を支える』反則的スキルの強奪。
それが、ナイトメアの作戦だった。
生まれた、最高のチャンス。
「【チェーンスキューア】」
「「ッ!?」」
アモンの攻撃で勝負をつけに行くと思ったナイトメアとレクイエムは、慌てて動き出す。
8本の矢じり付きの鎖が突き出し、敵を刺すそのスキル。
ルナティックが左手で使用したら、それは合図だ。
始まる連携は、かつて三人でよく使った古いもの。
「【暗衝】」
鎖に刺され、バランスをわずかに崩した死骸王。
猛然と駆けてきたレクイエムが、そのまま体当たりで敵に大きくたたらを踏ませた。
「【フレアストライク】!」
最後は、当時最強魔法だった炎砲弾。
火力の低い連携だが、それでもルナティックはこれを選んだ。
大きく弾かれ、片ヒザを突いた死骸王。
当時であれば、ここで途切れた流れ。
「ゆくぞ! 【闇の翼】!」
しかしレクイエムは漆黒の翼を広げて宙を駆け、そのまま死骸王に一直線。
大剣を振り下ろす。
「これが貴様へ送る、葬送のレクイエムだ――――【飛天闇祓い】!」
着地と同時に、豪快な振り上げで両断。
「目覚めなよ、ボクの【呪印】!」
続けてルナティックが、腕から肩にかけて描かれた模様を浮かび上がらせる。
「さあ、啼き叫べ。我が狂気の前に――――【クリムゾンフレア】!!」
真紅の業火が燃え上がり、死骸王を焼き尽くす。
それは視界すら真っ赤に染めてしまいそうな、灼熱の一撃。
そして。
巻き上がった紅蓮の炎を割るようにして進んでいくのは、闇を超える者。
「【魔眼開放】」
黄金に輝く右目と共に、炎を従わせるかのように歩み寄る。
「古き闇に覚えるは、深き脅威か郷愁か。此処に生まれし混沌が、つづる呪文は紅の花。されど汝の墓標と変わる――――」
静かに突き刺す、闇の刃。
「【ナイトメア】」
付近から一斉に集まった、闇色の輝きが集束。
数十センチほどの球体にまで収縮させた後、一瞬制止。
魔力の円環を二度ほど放った後、臨界を迎えたエネルギーが爆発を巻き起こした。
「――――永遠の眠りに、ふさわしき悪夢を」
崩れ落ち、灰となって消えていく死骸王。
振り返る闇の始祖たちの姿に、闇の使徒志望者たちは言葉を失い、樹氷の魔女は放心状態。
「……悔しくなるほどに、決まってますわね」
この三人だったら本当に、この世界を闇で覆うことも可能なのではないか。
そう思わせるほどの光景に、白夜も感嘆の息をついたのだった。
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