1022.闇と光
先手を打ったのは、死骸王。
空間に水滴が落ちたかのようなエフェクトと共に、【瞬間移動】で射程ギリギリまで接近。
手にした黄金の杖を掲げると、ナイトメアたちの足元に生まれる魔法陣。
「回避だ!」
レクイエムの言葉に、全員が即座に陣の外へ。
直後、【死閃光】は高さ10mメートルに及ぶ十字光を突き立てた。
巨木のような大きさを誇る魔法攻撃に、その火力の高さを思い知る。
「続いてくるぞ!」
死骸王は杖を振るう。
【鳥葬】は空から何体もの鳥型アンデッドが、高速落下してくるスキル。
次々飛んでくる鳥型アンデッドはそのまま地面に直撃し、粉々になって炎を巻き上げる。
翼の傾け一つで『誘導』の形を取るのが、とてもやっかいだ。
「【暗夜剣】!」
レクイエムは手にした大剣から放つ三日月形の斬撃で斬り飛ばし、これに対処する。
「【飛び影】」
ここで隙を突き、接近を計るのはルナティック。
速い移動で一気に距離を詰めると、その動きに気づいた死骸王は【虎霊葬】を発動。
垂直展開した魔法陣から死霊の虎が飛び出し、爪の一振りを叩き込む。
「そうはいかないよ」
ルナティックはこれを難なくかわし、攻撃体勢に入るが――。
「っ!?」
新たな垂直魔法陣が、左前面に登場。
飛び出してきた二頭目の死霊虎が、その剛腕を振り抜く。
ルナティックの黒髪を、鋭い爪が払っていった。
「それなら、これでどうだい? 【獄炎】」
後方からかかった一頭目の影に気づき、ルナティックはすぐさま自らを囲む炎で反撃。
すると攻撃を受けた死霊虎は燃え上がり、二頭まとめて焼き払われた。
こうして先行していた白夜とルナティックの足を止めた死骸王は、さらに杖を掲げる。
突然生まれる影は、頭上から。
【落岩葬】は、巨大な岩塊を落下させて埋葬するというシンプルかつ強力な一撃。
【鳥葬】と【虎霊葬】で足止めし、そこに頭上から巨岩を落とすという嫌らしい連携だ。
「レクイエム、ルナ」
ナイトメアの呼び声に、二人は即座に状況を理解。
「【暗衝】!」
「【飛び影】」
すぐさま範囲外へ抜けると、巨岩が草原にめり込み崩壊する。
崩れた岩は、土を大きく巻き上げた。
「……闇を目指す者は始め、我ら三人だけだった」
「フフ、悪魔城での戦いは楽しかったわね」
「レクイエムの突破力と、ナイトメアの指示は当時から見事だったよ。あの頃はボクが一番になるなんて、思ってもいなかったんじゃないかな?」
「フン、誰が一番だ」
戦いの開始と同時に、奪われた優位。
そんな中でも三人の会話は、どこか楽しそうだ。
土煙が晴れ、死骸王が杖を掲げる。
すると地面を突き破って現れる、大量の魔物たち。
獅子や熊や豹といった動物型から、オークやゴブリンにオーガといった人型。
【不死者乱舞】は無数の魔物の死骸を呼び起こし、数で押し切るという豪快なスキルだ。
「フフ、大丈夫かしら? レクイエムが腰を抜かしていた、悪魔城の再来が見られそうだけど?」
「……舐めるな。この程度のアンデット、我が突破力で蹴散らしてやるっ!」
そう宣言したレクエイムは自らを奮い立たせ、アンデット軍目がけて突撃を仕掛けていく。
「【暗衝】!」
迫り来る豹や狼のアンデッドを、闇の波動を放つ突撃で難なく吹き飛ばす。
そこに迫るのは、熊型や獅子型という大型アンデッド。
「【黒閃天衝】!」
地面を強く踏みしめると、黒光の槍が一斉につき上がる。
のけ反った大型アンデッドに、レクイエムはすかさず追撃。
手にした黒の大剣で、斬り飛ばして突き進む。
「【暗衝】! 【黒炎魔手】!」
空中から迫る鳥型アンデッド。
レクイエムが左手を振り払えば、付近一帯を焼き払う黒い炎が敵を消し炭に変える。さらに。
「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
生まれた隙をナイトメアが埋めれば、その勢いはもう止められない。
レクエイムは【不死者乱舞】を、重戦車のように突き進む。
「攻撃判定が切れる瞬間の援護。かつてはこうして全てを蹴散らしたものだ……! 【魔法陣牢】!」
頭上に浮かんだ数十の小型魔法陣から、乱射される魔力光。
「目覚めろ【暗夜剣】っ!!」
アンデッドたちがのけ反っているところに、続ける剣撃。
重戦車は、迫り来る大量のアンデットたちを容赦なく蹴散らしていく。
「【闇十字】!」
十字型の剣撃でオークたちを斬り飛ばし、一斉に集まってきたアンデッドたちを引き付けると――。
「【暗夜の大剣】!」
豪快な回転撃で、まとめて全てを斬り飛ばした。
「さあ、道は開いたぞ!」
「少し、自棄になっていたように見えたけど?」
「そ、そのようなことはないッ!」
「ルナ【低空高速飛行】」
「行こうかナイトメア【飛び影】」
軽い掛け合いと共にレクイエムを追い越していく、ナイトメアとルナティック。
二人は、レクイエムが切り開いた道を突き進む。
その狙いはもちろん、死骸王だ。
「【連続魔法】【ファイアボルト】」
「【連続魔】【ブレイズバレット】」
魔法の弾丸を放ちながらの接近。
一度位置をクロスするのは、敵の狙いがどちらにあるのかを知るためにやっていた、かつてのルール。
そのターゲットがルナティックにあると分かった瞬間、流れが決まる。
死骸王は思わぬ早い接近に、手にした黄金杖から魔力弾を放つ。
「ずいぶんとシンプルだね」
しかし長いストライド走法も細かなステップも得意な【飛び影】に、余裕でかわされる。
外から回り込んでくるような移動を、死骸王が追いかけてしまったところで――。
内側に巻き込んでくる形で飛んできたナイトメアが、そのまま杖を突きつける。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
四連発の炎弾が炸裂し、体勢を崩したところでルナティックが一気に接近。
「【レビティア】」
足元に生まれた魔法陣は、対象を強制的に宙に吹き飛ばす。
そして空中に飛ばされれば、後は落とすだけ。
「【フレアストライク】」
「【ブレイズキャノン】」
二つの炎砲弾が空を駆け直撃。
大きな炎を巻き起こす。
だが、これだけは終わらない。
「……これだけじゃまだ、煮え切らないでしょう?」
そう言ってナイトメアは、指をパチンと鳴らす。
すると【燃焼のルーン】が発動し、さらに大きな炎が死骸王を飲み込んだ。
「以前より、火力も速さも上がってるみたいだね」
「当然ね」
ナイトメアは妖しい笑みと共に、杖を払ってみせる。
地に落ちた骸骨王は三度ほど転がり、瞬間移動で距離を取った。
「どうだい光の使徒? ボクたちについてこられそうかな?」
「……っ!!」
挑発するように、笑うルナティック。
三人の見事な連携に気圧されていた白夜は、その言葉に反発するように反応。
「ラグナリオン!」
呼び出すのは、黒色の騎竜。
後方から飛来した従魔の背に飛び乗り、そのまま空へ登る。
「ここでなら、思う存分飛べますわ!」
死骸王を目がけて、空から一気に距離を詰めていく。
「このまま光の使徒の、名折れとなるわけにはいきません……っ!」
気合を入れる白夜。
メイが帝国で行ったケツァール騎乗戦は、従魔士界に衝撃をもたらした。
誰もが憧れるが、できなかった騎乗による空戦。
従魔の背に乗ったまま行う空中戦ほど、カッコいいものはない。
そしてその姿に誰より衝撃を受けたのは、何を隠そう白夜だった。
動画ですら震えるほどの格好良さに、妄想が止まらなかった。
帝国でのメイとドラゴンの戦いの動画を1000回見返して、人気のない夜のマップで地面の形が変わるほど落下した。
その効果が、ここに現れる。
死骸王が杖を掲げた。
【死閃光】はなんと、連射が可能。
次々に、凄まじい勢いで突き立っていく10メートル級の十字光。
吹き荒れる突風と視界が白むほどの連射には、ルナティックも息を飲む。
「【エアブースト】!」
ここで白夜は、ラグナリオンの飛行速度をあえて上昇。
並ぶ十字光の隙間をエアレースのように、右に左に騎竜を傾けながらかわしていく。
だが死骸王の攻撃は、これだけではない。
「鳥か」
レクイエムがつぶやいた。
光十字の隙間を抜けていく白夜を狙い、飛んでくる鳥型アンデッド。
「【エーテルジャベリン】!」
これに対して白夜は、光の槍を飛ばして早めの対応。
迫る鳥型アンデッドを次々に蹴散らし、距離を詰める。しかし。
外から回り込んできた一体に、気づくのが遅れた。
回避を試みるが、肩口を弾かれ騎竜から落下。
「落ちたぞ……!」
「やはり騎竜のまま戦うのは、無理があったみたいだね」
ボス級の目前に落下ダメージを受けた状態で孤立するのは、最悪な状況。
ナイトメアは【低空高速飛行】で、後を追おうとするが――。
「ラグナリオン!」
白夜は特訓で、動物値も大きく向上させていた。
呼べば騎竜は、下から受け止めるような形で高速飛行。
白夜は見事に騎竜を操り、再びその背に着地してみせた。
そして迫る【鳥葬】と【死閃光】を、次々にかわして接近。
「【紅蓮砲弾】!」
黒き騎竜は、真紅の火炎弾を連発。
死骸王の付近に炎を巻き上がり、風が起こり、そして直撃。
「ここですわ! 【ツインストライク】!」
生まれた大きな隙。
レイピアを手に、ラグナリオンから飛び降りた白夜。
先行した騎竜はその鋭利な爪で蹴りを決め、死骸王が派手に地面を跳ね転がる。
そこに飛来するのは光の使徒、九条院白夜。
「【ライトニングスラスト・クルシフィクス】!」
突き刺したレイピアが強烈な閃光を放ち、炸裂。
そのエネルギーに打ち上げられた死骸王に、直下から光のランスが一本ずつ突き刺さる。
空中に、磔にされた死骸王。
白夜がレイピアを振り下ろすと、クロスする形で突き刺さった三本のランスが白光を放ち爆発。
全てを、見事に決めきった。
「……へえ、思っていたよりやるみたいだね」
「光の者、侮れぬ。ナイトメアが光に渡れば、世界がひっくり返るかもしれぬぞ」
「フフ、大したものね」
驚きの中にある、闇の始祖たち。
戻ってきた白夜は、着地した騎竜の背の上、軽く髪を払ってから問いかける。
「いかがでしたか皆さん? わたくしの速度に――――ついてこられますか?」
そして、余裕の笑みを浮かべてみせた。
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