1020.悪魔召喚
「如月の呼び声に応えて、来たれ」
如月輪廻は、悪魔召喚士だけが与えられる【ソロモンの指輪】を手に、召喚を開始。
「地獄の侯爵にして監督官――――ネビロス!」
足元に広がる、禍々しい魔法陣。
赤光を輝かせながらせり上がってくるのは、一体の悪魔。
体高は2メートル50センチほど。
まとった真紅のローブは背中で二つに割れ、翼のようにはためく。
そんなローブからつながるフードの中には、精悍な顔つきの黒い狩猟犬のごとき顔。
現れたのは、瘴気のようなエフェクトをまとい、ふわりと浮かぶ常態飛行の悪魔。
「我が呼び声に応えよ! 大いなる地獄の伯爵――――フールフール!」
続いて六道彼方が、【ソロモンの指輪】をした手を掲げる。
すると真紅の魔法陣から、炎蛇の尾を持つ有翼の大鹿が現れた。
暗色の毛並みを持つ昏い瞳の鹿の体高は、角を入れず3メートルに及ぶ。
「さあ、はじめようか」
そして二体の悪魔を背にした刹那は、笑みを浮かべたままそう言った。
「【爆嵐】でございます」
彼方の指示で、球形に圧縮された嵐を吐き出すフールフール。
うなりをあげ、空を一直線に飛び炸裂。
死翼竜は刹那や輪廻を狙って飛来してきていたが、吹き荒れる風を避けて不時着する形になった。
「【爆雷特攻】」
フールフールはすぐさま飛行で接近し、そのまま風雷をまとって突撃。
角をぶつけに行くような特攻を、死翼竜は横へ跳び退き回避。
「砕けろ【死海竜骨】」
ここで輪廻が、ネビロスに死霊術を指示。
垂直に描かれた血のような魔法陣から飛び出してきたのはなんと、巨大な『海棲恐竜の化石』だった。
「これは、カッコいいかも……っ」
茶色味がかった恐竜の骨格が、海中さながらに飛び込んでくる光景に、レンは思わずワクワクしながら魔法を準備。
悪魔の動きは独特だ。
フールフールは四足型で、突撃を仕掛ける化石竜に至っては初見。
当然、魔法による援護は難しくなる。しかし。
「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
上空に向けて魔法を放つことで、炎弾は大悪魔たちの頭上を越えてから落ちる軌道を取る。
死翼竜にしてみれば、悪魔の頭の上から突然魔法が飛んでくるようなもの。
これによって、死翼竜の回避行動に遅れが生まれた。
鳴り響く硬質な破砕音。
完璧な形で直撃した【死海竜骨】は、そのまま砕け散った。
生まれた何本もの鋭利な骨が死翼竜を斬り、突き刺さる。
「【天雷】でございます!」
ここでさらに、フールフールが視界を白飛びさせるほどの雷で追撃。
「これはオマケだよ、【ブレイズキャノン】」
そして闇属性の砲弾魔法が、直撃して爆発。
悪魔の攻撃が連携の形になれば、ダメージも大きく一気に戦いは優位に変わる。
「さすがに、如月も感心しました」
「最低限の援護で、最大の効果でございますね」
完全な連携は、レンのちょっとした追撃から。
わずかな援護が全ての攻撃の『つなぎ役』となり、死翼竜を追い詰める。
これには二人、思わず顔を見合わせた。
「「これが、闇を超える者……!」」
「二人そろえて、こっちを見ないで!」
「ふふ。でも佳境はここからみたいだよ」
HPが大きく減れば、始まるのは狂乱の反転攻勢だ。
死翼竜は早く大きな飛び掛かりで、刹那を狙う。
叩きつける右腕が、折れて吹き飛ぶ。
即座に再生した右腕の叩きつけが、再び千切れ飛ぶ。
そして離れた距離を埋める短い跳躍から、叩きつけた左腕は土煙を上げて切れ飛んだ。
「っ!!」
弾け飛んだ左腕が、刹那の頬をかすめていく。
「まだ続くわ!」
放つ一回転の尾撃は、遅れて炎のラインが描かれ爆発。
「「「ッ!!」」」
巻き起こった爆風に、足を止める暗夜教団。
切れ飛んだ尾はなんと、レンの元まで飛んできた。
驚きと共に、これを飛び込みでかわす。
すると死翼竜は、その翼を大きく開いた。
両翼の紋様が輝き、放たれるのは【扇翼閃光】
「マズっ!」
あみだくじのような不規則な軌道で放たれる光線に対し、レンは倒れ込んだまま杖を振る。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
四発の炎弾をぶつけて敵の『軸』をズラし、攻撃を外させる狙いだ。しかし。
「あと一発……っ!」
敵の攻撃を強制停止させるには、もう一発足りない。
「【連続魔】【ブレイズバレット】!」
そこに続いたのは刹那。
かつてのように、一瞬笑い合う二人。
闇魔弾に誘導性はないが、五発の内の一発が当たり、【扇翼閃光】は中空に向けて放たれた。
「【呪爆の矢】!」
逃れた危機。
彼方が矢による攻撃を放つと、死翼竜はこれを回避しながら【赤炎落火】で反撃。
空に向けて吐き出した無数の炎弾が中空を赤熱させ、超高温の炎の雨が凄まじい勢いで降り注ぐ。
「嫌らしい攻撃だね……っ」
広範囲かつ回避不可能な『豪雨』のごとき火炎弾に、全員が防御態勢を取らされる。
これには刹那も、仕方なく耐える戦いを受け入れた。
「そっちは、動けるの……!?」
降り続く火炎の雨の中を、捨て身の死翼竜は身体を燃やしながら突撃。
「動こうにも、炎の雨で回避行動すら強制停止させられる形でございますね……!」
「ああああっ!!」
ネビロスを下げることを優先した輪廻は、死翼竜にはねられ転がる。
降り続く雨の中、死翼竜はそのまま彼方のもとへ。
「【フリーズストライク】!」
これをレンは氷砲弾で止めにかかるが、炎の雨の中で霧散。
「く、あああっ!」
彼方も続けざまに、弾き飛ばされた。
さらに振り回す尾で防御態勢の刹那を大きく弾き、生まれた距離を駆け抜け突撃。
「身体が燃え出してる……! 死伏竜もその雰囲気は合ったけど、こっちは本当に自爆しそうだわ!」
レンの予想は正解だ。
【爆砕特攻】は、敵に突撃して自爆する大技。
死翼竜はそのまま暗夜教団の三人を範囲に含むような形で、盛大に爆発した。
三人は転がり倒れるが、防御態勢のままだったためダメージは3割ほどで済んだ。
「……最後に自爆する敵は稀に見るけど、何とも言えない幕切れだね」
「如月も、自爆に良い思い出はありません」
あがる煙の中、暗夜教団は安堵の息をつく。
「待って……!」
立ち昇った厚い煙のせいで、それに気づくのが大きく遅れた。
見えたのはとっくに【再生】を終え、上空から飛来する死翼竜。
全身を激しく燃やし、『壊れながら』墜落特攻を仕掛けてくる敵の狙いは、レンだ。
「【風乱矢】!」
如月輪廻が弓矢による攻撃を放つが、巻き起こる暴風も、特攻を仕掛ける死翼竜を止めることはできない。
発見が遅れた状況。
今から【低空高速飛行】で回避行動を取っても、範囲外への退避は間に合いそうにない。
「ナイトメア、それはおそらく――――」
戦闘の前半で見せた『墜落』に、燃え盛るエフェクトを追加した攻撃。
それは氷嵐や炎の壁といった無形攻撃も貫いてくる、貫通型の飛行攻撃だろう。
さらに先ほどのような『自爆』も、乗せてくる可能性がある。
刹那がそう告げようとして振り返ると、レンは冷静に一言。
「無形攻撃を、無効化してくるタイプの攻撃ってところかしらね」
そう言って、杖を構える。
「でも……物理と物理ならどう? 【コンセントレイト】!」
砕け散って爆発するであろう巨大な死翼竜の飛来にも、あくまで変わらないレン。
刹那もさすがに困惑する。
上級魔法を放って対抗するにしても、これでは敵を引きつけ過ぎだ。
「ナイトメア……!?」
思わずもれる声。
レンは死翼竜が目前まで来たところで、ようやく魔法を発動する。
「来なさい! 【悪魔の腕】!」
足元に生まれた魔法陣。
まるで『魔界から力づくで入り込んでこよう』としているかのような勢いで伸びた巨碗が、死翼竜の肩をつかんだ。
そしてそのまま、地面に叩きつける。
死翼竜は空中姿勢を完全に崩し、肩口から地面に激突。
【自爆】を使うこともできず、その巨体はレンの数センチ横を通り過ぎて転がった。
再生の速度は早い。
だが再生したうえに体勢まで立て直すとなれば、かかる時間はあまりに長い。
「勝負所よ! おねがいっ!」
「喰らいつけ【死龍】!」
すぐに輪廻が、ネビロスに死霊術を指示。
死した巨竜が獲物を狙うサメのように、地面を突き破って喰らいつく。
噛みつかれた死翼竜は、そのまま身体を破損させながら地面に叩きつけられた。
「【雷地】でございます!」
さらにフールフールがその角を輝かせ、両前足で地を踏みつける。
すると地面に走る無数の光の線が、パチパチと青白の火花を散らし出す。
『線引き』が終われば、地を駆ける壮絶な雷光が駆け抜ける。
猛烈な電撃に、死翼竜はさらに大きくのけ反った。
「……どうやら君では、力不足だったようだね」
笑みを浮かべたままの刹那は右手を伸ばし、トドメの一撃。
「――――【クリムゾンフレア】」
吹き荒れる紅蓮の業火は、上位上級に属する高火力魔法。
死翼竜を焼き尽くし、焼け焦げた骨格へと変えた。
ハラハラと舞う灰は、一定以上の威力の攻撃で打倒した時にだけ起きる、特殊な演出だ。
「これが闇の使徒長……否。闇を超える者」
「あまりに、見事でございます……」
レンが一人後方から支援するだけで、驚くほど戦いが優位なものになった。
そのうえ、敵の最終奥義にも冷静に対応。
あまりに的確な戦い方に、息を飲む輪廻と彼方。
見守っていた使徒志望者たちも、呆然とする。
「……ナイトメア」
死伏竜と死翼竜。
二つの戦いを見事に勝利へと導いたレンに、刹那は楽しそうに笑いかける。
「ふふ。あまりボクの可愛い仲間たちを、誘惑しないでくれないかな」
「だから、そういうのは間に合ってるの!」
レンはそう言って、そそくさと知らんぷりを決め込む。
「見事だったぞ、ナイトメア!」
「『超越』を求めるだけのことは、ありますわね」
しかしそこに駆け付けてくる、リズたち使徒連合。
「…………」
どうやら、逃げ場はないようだ。
脱字報告、ご感想ありがとうございます!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




