1017.指揮官
「新たな世界に手を伸ばすのは、ボクたち暗夜教団だ」
「そうはいきません。大いなる意思に背く者に、これ以上の力を与えるなど容認できませんわ」
「その傲慢なる統制思想が、我ら闇の使徒を生み出したこと忘れるな。光の者よ」
始まったやり取りに、妙に黒い装備をしたプレイヤーたちが目を輝かせる。
「ですからあくまで……今回だけ」
「当然だ」
「いや、だからなんでこっちを見るのよ」
いきなり始まった、光と闇の小競り合い。
度々向けられる視線に、レンは恥ずかしそうに顔をそらす。
使徒たちの掛け合いに興味津々の使徒志望者たち。
樹氷の魔女も、歓喜に目を輝かせている。
「お、おい……あれを見ろ」
「第四陣の大物か! しかも……二体同時だぞ!」
ゼティアの門から流入する魔物たち。
それもすでに第四陣。
さらに強さを増した異世界の魔物に戦線が膠着し出した頃、プレイヤーたちはその威容に目を奪われた。
ゼティアの門から並んで登場したのは、骨に死肉をまとった二頭の巨竜。
「あれは、相当ヤバそうだぞ……」
一頭は四足型、一頭は二足型。
深い灰色の外皮に、鈍く光る長い角。
その見た目だけで、驚異的な強さを持つ魔物だというのが分かる。
これには消耗が目に見えてきたプレイヤーたちの意気も、にわかに下がり出す。
「戦線を崩しかねない二体の大物。せっかくだし、異世界の魔物のお手並みを拝見させてもらおうかな」
刹那がそう言って笑えば、輪廻と彼方も静かにうなずく。
「二足の方はボクたち暗夜教団がもらうよ。四足の方はキミたちでどうぞ」
「フン。相手が何者であろうと、我らは叩き斬るだけだ」
「文字通り、光と闇の共闘になるわけですね」
「ナイトメア、貴様はどうするつもりだ?」
現状は暗夜教団3人と、光と闇連合3人という布陣。
レンの動きに、自然と集まる注目。
ゲームなら、どちらのパーティに入るかを決める『選択肢』が出るところだろう。しかし。
「そうね。それなら両方まとめて援護するわ」
「「ッ!?」」
当たり前のようにそう答えたレンに、驚く輪廻と彼方。
この回答には、さすがに雨涙も相貌を崩す。
「ふふ、それで構わないよナイトメア。楽しみにしてる」
「任せたぞ、ナイトメア」
しかし刹那もリズも、異存はなし。
あっさりとレンに背を向け、動き出す。
「ところでリズ、アンデッド相手だけど大丈夫?」
「……無論だ。先陣は任せるぞ、雨涙」
「――了解」
ちょっと返事が遅れたリズの指示を受けたのは、鳴花雨涙。
黒い笠をかぶり、ピタリとした黒のレオタードのようなものをまとった忍者少女。
腰に巻いた短めの外套には、短めの刀が提げられている。
「――【早駆け】」
走り出せば、二体の死竜を相手とした戦いが始まる。
その足取りは、かつてよりもさらに速く柔らかい。
四足型の『死伏竜』は、イグアナのような体型をしたアンデッド。
迫る前足の叩きつけを、雨涙は上手にかわして肩の方へ抜けていく。
「――【流刃走駆】」
そのまま短刀の刃を死竜の肩口に突き刺すと、一気に駆け抜ける。
すると死伏竜の肩口から側腹部にかけて、斬撃の線が描かれていく。
ダメージが【腕力】と『斬撃線の距離』で決まるというめずらしいスキルが、描いたラインを輝かせて炸裂。
「――【封魔手裏剣】」
振り返りと同時に、大型の手裏剣を両手で持って投じる。
直撃すると込められていた魔法が解放し、風刃がさらに深い傷を刻み込んだ。
こうしてしっかりターゲットを奪った雨涙は、その足の速さでもう一頭の死竜から距離を取る。
二体の死竜の間に、生まれた距離。
これで敵の攻撃が連携になってしまうような、不運を防ぐことができるようになった。
「雨涙、上だ」
「――うえ?」
「ああ、上だ」
「――うえ?」
しかし鳴花雨涙。
頭上から迫っている大型鳥の襲来に、指摘されても気づかない。
「そう言えばあの子、クールな割にポンコツだったわね! 高速【誘導弾】【ファイアボルト】!」
思いきり影が差しているにもかかわらず、首をかしげている雨涙。
まずは誘導つきの速い魔法をぶつけて、敵の飛行速度を落とす。
「白夜!」
「【エーテルジャベリン】!」
続けて白夜に追撃の指示を出し、鳥型を打倒に成功。
死伏竜と衝突する直前に、どうにかノイズとなる敵を片付けた。
一方で死伏竜は攻撃体勢に入り、尾を高く持ち上がる。
「尾がくるわ!」
「【苗木越え】!」
「【跳躍】!」
迫る尾の振り回しを、雨涙と白夜はジャンプして回避。
「【剣盾】」
一方リズは、手にした大剣を尾に合わせて盾のように傾けることで、敵の攻撃を防御しつつ受け流すスキルで対応。
「残った燐光に気を付けて!」
死伏竜の尾が通った後には、淡い黄緑色の燐光。
次の瞬間、その全てがつながり炎となる。
「「「ッ!!」」」
三人はレンの言葉に、防御を選択。
淡い黄緑の炎は美しいが、火力は高い。
しかし着地後すぐの防御ができたことで、雨涙と白夜もダメージの大幅軽減に成功した。
そしてこの燐光による攻撃は、防御してなお敵側が有利を続けられる形。
「【超高速魔法】【フリーズボルト】!」
気づいたレンが放つのは、目にも止まらぬ速さで迫る氷弾。
死伏竜の頭部を貫くように駆け抜けた一撃は、敵の動き出しを見事に潰してみせた。
「【暗衝】!」
それに気づいたリズが、足元に黒色の波動を残しながら進む突撃スキルを、移動に利用して距離を詰める。
「目覚めろ【暗夜剣】っ!!」
放つ大剣の振り降ろしが放つ、三日月形の闇波動。
これを首元に喰らった死伏竜は、怒りに任せて走り出す。
「見せてやれ、雨涙」
「――了解。【結印】」
リズを追い越す形で、雨涙が最前に立つ。
そして迫る死伏竜に対して、雨涙は忍者らしく『印』を三つほど結んだ。
「――【火遁・竜鳴砲】」
伸ばした右手から放たれる火炎砲は、ゴウッ!! と大きな音を立てて爆炎を吐き出し、死伏竜を転がした。
「印を結ぶことで火力を上げるスキル? 事前準備をさせるだけあって強力だわ」
上位上級に迫るほどの強化忍術に、レンは思わず興味深そうにする。
「やりますわね」
一方、いきなり見事な先手を取った鳴花雨涙に、声をかける白夜。
「――ナイトメアの指示と援護が活きている」
「まったく、大したものですわ」
初見時の大物にも的確な対応ができるのは、メイとの冒険が『大物とのぶつかり合い』だったから。
戦いを見事な手腕でコントロールしたレンは、先手の連携を叩き込んでみせた。
互いに一度落ち着いた状況。
先手を打ったのは、死伏竜。
体勢の低い四足歩行らしい、素早い動きで接近。
突き上げるような頭突きを二連発で放ち、雨涙がこれを後方への跳躍二つでかわしたところで、飛び掛かりへ。
「――っ!」
叩きつけに来た前腕をかわすと、弾けた黄緑の燐光が爆発。
雨涙はその余波に、足をフラつかせた。
「【闇の翼】!」
追撃は許さない。
リズは空から迫り、掲げた大剣を振り下ろしにいく。
しかしその動きに気づいた死伏竜は、全身に燐光をまとい始めた。
「なっ!?」
【燐光爆破】は、燐光を炎上させる範囲攻撃。
「くっ!」
空中から迫るリズに使用すれば、それはカウンターとなる。
「ぐああああああっ!」
豪快に燃え上がるまさかの黄緑炎に、弾き返され転がるリズ。
「白夜!」
「【エンジェライズ】!」
死伏竜の口内に輝く、黄緑の炎はブレス。
レンはすぐさま、リズの救助を白夜に指示。
「失礼しますわよ!」
噴き出される黄緑の業火。
白夜は高速移動から放つ『キック』で、リズをその範囲から蹴り出した。
「【ライトニングスラスト】!」
そしてすぐさま高速刺突で、自らも炎を回避する。
ブレスの危機を、見事に切り抜けた。
しかし飛んで逃げた白夜に狙いを定めた死伏竜は、燐光をまとい突撃。
飛行を二度使った直後の白夜には、回避の術がない。
「そこまで! 【フリーズストライク】!」
レンが放つ氷砲弾。
今まさに白夜を弾き飛ばそうとしていた死伏竜の側頭部に直撃して、その進路を大きくずらすことに成功。
「見事だナイトメア。援護のタイミングは完璧……何ッ?」
体勢を起こしたリズは驚く。
わずかに振り返ってみれば、すでにレンは暗夜教団の戦いに視線を向けていた。そして。
「【魔砲術】【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
暗夜教団側に、的確な援護を入れる。
そして魔法を放つ瞬間にはまた、視線を走らせこちらの状況も確認していた。
『向こう』で上がる歓声も、レンは気にする様子なし。
「このレベルの戦いで、二つのパーティを率いてみせるとは……」
予想以上の戦いぶり。
これにはクールなリズも、さすがに驚く他ない。
「雨涙! 少し時間を稼いで!」
「――了解【流刃】」
剣の振りが速くなるというシンプルなスキルを発動した雨涙は、再び死伏竜の前へ。
「――【早駆け】」
高速移動スキルで回避しながら、速い通常攻撃で翻弄する。
ダメージは低く、のけ反り等の効果もないため、すぐに死伏竜は燐光をまとい始める。
そして、反撃のモーションへ。
レンはこの時、危うい状態にある暗夜教団に視線を集中。
雨涙は危うい状況を迎えるが――。
次の瞬間、天高く打ち上げておいた【誘導弾】【フリーズストライク】が、死伏竜の頭頂部に直撃。
「今だ! 【闇の翼】!」
背中に広がる黒色の翼。
闇の粒子を噴き出しつつ離陸するような形で上昇し、リズはそのまま滑空する。
「【暗夜旋回】!」
放つ空中からの回転斬り。
闇の波動が、付近を薙ぎ払う。
「【ライトニングスラスト】【極光乱舞】!」
すぐさま白夜がこれに続き、死伏竜を吹き飛ばす。
闇の波動から白光の炸裂という黒白のエフェクトの入れ替わりが、付近のプレイヤーたちの視線を奪った。
「これが力を求め続けた魔導士の、闇の使徒長の実力だというのか……っ」
「恐ろしい。異世界の魔物たちを相手にトップパーティを手繰ってしまうとは……これぞ真の魔導士」
レンは二つのパーティを援護しながら、見事に死伏竜のHPを半分近くまで減少させることに成功。
使徒勢は皆、レンの『コマンド戦闘』にワナワナしながら目を見開くのだった。
「……もう、大げさなこと言わないでよ」
そんな彼女たちの声に、もちろんレンは聞こえていないフリをしたのだった。
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