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1014.赤月の夜

「銀結晶でも止まらないとは、大したものだ」

「ああ。新帝国ヴァールハイトにくれば、良い兵士になるだろう」


 残った五人の黒仮面たちは、それでもその余裕を崩すことはない。


「赤月の夜を前に、良い前座となった。褒めてやる」

「残ったのは貴方たちだけ、銀の結晶も攻略されてしまった。その割にずいぶんと余裕ですわね」


 ゼティアの門から50メートルほど。

 やってきた白夜の言葉に、黒仮面が応える。


「結晶兵器はいくらでも生成可能だ。そして兵士など、いくらでも招集することができる」

「結晶獣の乱造も可能だ。黒獅子程度で良ければ、建国の際に何百体でも作り出してやろう」

「何百体でも?」

「マジかよ……」


 ボス級の力を持つ敵が量産可能という言葉に、ざわつく後方組。


「だが、時間稼ぎはもう充分だ」

「ああ。ついに時が来た」


 そう言って黒仮面たちが、ゼティアの門を見上げる。


「時が来たですって? ……まさか」

「その通りだ。始まるぞ――――赤月の夜が」


 黒仮面が言うと、傀儡化されていた『鍵』の青年が崩れ落ちた。

 そびえ立つゼティアの門の中央には、広い隙間が空いている。

 その中心で少しずつ大きくなっていた赤い輝きが、脈動するように明滅。

 代わりにガラス壁のような『封』が、薄くなっていく。


「すごーい……」

「は、はひっ」


 メイが尻尾をブルブルさせながら、赤い輝きを見上げる。

 空を駆ける暗雲がゼティアの門を中心に渦を巻き、白雷を駆け巡らせる。


「これぞ、世界を賭けた戦いですね」


 ツバメもノドを鳴らす。


「『封』が……失われたわ」


 そしてついに、『封』が割れたガラスのように崩れ落ちた。

 続いていた明滅は『封』による抑えつけと、威力を増す赤光のぶつかり合いによって起きていたようだ。

『封』が消えたことで、赤光球は一気に輝きを増していく。

 風が下草を揺らし、ゴウゴウと重たい音を鳴らす。

 そして橋脚のような門の隙間に、赤い光が充満。

 放たれた赤光は、渦巻く雲の中心に赤色の月を生み出した。


「「「ッ!!」」」


 そして次の瞬間、プレイヤー全員の目が奪われた。

 門の片側に、何者かの大きな手がかかったからだ。

 異世界から、巨大な何者かがゆっくりと顔を出す。

 続いて肩、胸元、腹部と、ワープホールから出てくるかのような様相で、人外の怪物が入り込んできた。


「すごい……迫力……」

「とんでもない……ですわね」


 レンと白夜が、呆気にとられる。

 ゼティアの門のフチに手をかけ、ゆっくりと出て来たのは全身灰色の巨大な人型の怪物。

 見上げても、その頭部を把握できないほどの高さを誇る体躯。

 正真正銘の、化物だ。


「恐ろしいぽよ……」

「これは驚きました……っ」


 突然、怪獣映画の世界にでも紛れ込んだかのようなスケール感。

 その規模に、掲示板組も唖然とする。


「ハイリゲンシャイン、準備」


 しかし黒仮面は現れた怪物に驚くこともなく、粛々と片腕を上げた。

 すると空中の天使の輪が、その黄金の輝きを中央部分に集中。

 黄金結晶によって造られた、巨大な兵器。

 その光の輪が、まばゆい輝きを放ち出す。

 そして異世界の怪物の視線が、こちらに向いた瞬間。


「――――撃て!」


 目を焼くほどの、強烈なエネルギーが放たれる。

 黄金の光は異世界の怪物に直撃すると、視界を白熱させ、猛烈な光を天に上らせる。

 そしてわずかに遅れて爆発。


「「「「ッ!!」」」」


 王都に届くほどの、強風を吹かせる。

 やがて爆発の余波が落ち着き、立ち昇る輝きが消えていく。

 巻き上がった大量の砂煙が風に流れ、再び装填を始めるハイリゲンシャイン。


「「「おお……」」」


 思わずもれる声。

 異世界の怪物は全身を焼かれ、左半身を丸々失っていた。

 完全に動きを止めた怪物に、黒仮面たちの間に流れる確信の気配。


「ハハハハハ! これが我ら新帝国ヴァールハイトの力だ! 全ての世界は、我らが兵器を持って平定される!」

「ゆくぞ! 我らは異世界を侵略する!」


 そうして、ヴァールハイトの面々が意気を上げたその時。


「なにっ!?」


 再び、異世界の怪物が動き出した。


「もう一発だ! もう一発叩き込め!」


 すぐさま輝きを灯す、ハイリゲンシャイン。

 放つ強烈な光が、再び異世界の怪物を焼く。

 強烈なエネルギーはさらに怪物の身体を消し飛ばすが、その動きは止まらない。


「もう一発だァァァァ!!」


 黒仮面の叫びに、再び輝きを増す天使の輪。

 怪物は、おぞましい咆哮と共に手を伸ばす。

 そして三度目の起動を始めたハイリゲンシャインを、残った右腕でつかんだ。


「なんだとッ!?」


 そのまま黄金結晶の輪をつかんだまま倒れ込み、地面に叩きつける。


「我らの、決戦兵器が……!」


 砕け散った黄金結晶に、驚愕する黒仮面たち。


「まだだよっ!」


 メイが声を上げた。

 すると死にかけの怪物のアギトが開き、光弾が放たれる。


「「「なッ!?」」」


 巻き起こった爆発に吹き飛ばされた黒仮面たちは、そのまま地面を転がった。


「馬鹿な……ハイリゲンシャインの威力は、旧文明の兵器を大きく越えている……なぜ、このようなことが……っ」


 巨大な怪物との相討ち。

 異世界を制覇するために持ち出してきた黄金の結晶兵器は、わずか一体の怪物と共に崩壊した。そして。


「お、おい……」

「来るぞ! 異世界の魔物たちだ!」


 広がるざわめき。

 集まっていたプレイヤーたちが、一斉に指を差す。

 開かれたままの、ゼティアの門。

 そこから一斉に、異世界の魔物たちが入り込んでくる。

 大型から小型、飛行型に四足歩行型。

 竜に似た形状のもの、恐竜に似た形状のもの。

 これまで見たどの大型クエストでも及ばないほどの、大量の魔物たちが王都平原に広がっていく。


「始まったわね」

「いきましょうか」

「は、はひっ! いよいよですね!」


 自然と武器を取るメイたち。

 光の使徒、シオール達、アーリィたちに掲示板組。

 七新星や蘭すみれ姉妹も自然と、始まる戦いに構えを取る。

 メイは振り返ると、深く頭を下げた。


「それではみなさんっ! 何卒――――よろしくお願いいたしますっ!」

「「「「オオオオオオオオオオ――――っ!!」」」」


 あがるプレイヤーたちの咆哮。

 メイの合図で、異世界との戦いが始まった。

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[良い点] やっぱりこうなった (異世界)生物の生命力をなめたらいけない [気になる点] なんかアサシン集団はもう空気? [一言] 全員集合! うん、闘い終わったら完結しそう
[良い点] ぜ、前座の真帝国、興きる前に滅亡! …TASかな? [気になる点] 異世界の魔物、半身どころか3/4ぐらい吹っ飛ばされてても動けたって事は、まさかただ人型してただけで生存そのものには特に関…
[一言] 論理クイズ「幼女と不思議な給料アップ」で会社にだまされるな 行きますね。 問題 幼女のお給料がアップすることになった。 「プランA」を選ぶと、1年に1回、10万円ずつ昇給していく。 「プ…
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