1013.最後の対人兵器
「あ、ありがとうございましたっ! また必ず、クエストに参加させていただきます……っ!」
【絆の宝珠】で現れた元王妃は、魔法部隊による総攻撃を開始。
怒涛の魔法攻撃で、黒仮面を吹き飛ばした。
「……なるほど。やはり旧帝国の皇帝を倒しただけのことはある」
魔導士コンビの超絶連射を受けた黒仮面は立ち上がり、納得したように言う。
「ならばさらに出力をあげるのみ。下手に戦う力を持ってしまったことを後悔するがいい」
「くるわっ!」
黒仮面が右腕を伸ばすと、紫結晶があっという間に集結して一瞬で延伸。
伸びる巨碗を、慌ててかわす白夜。
この隙を突き、メイが走り出す。
だが、かわされた右腕が砕け散った瞬間、即座に続く左巨腕のつかみかかり。
「わあっ!」
結晶に肩を弾かれたメイは、すぐさま防御で粉砕に対応。
この隙を突こうと、駆け出すエトワール。
だが全員が、伸びる結晶腕への対応に意識を集中し始めたところで――。
「【結晶猛吹雪】」
放たれた緑結晶塊が炸裂。
猛烈な勢いで飛び散る、無数の結晶刃が空を切り裂いていく。
回避が難しいこの攻撃に、前衛組は皆防御を選択。
停滞を生み出した黒仮面は、さらに攻撃を続ける。
「【結晶激震撃】!」
掲げた両手を組み、結晶を『紫緑』に輝かせながら振り下ろす。
すると、すさまじい速度で生み出されていく巨大な結晶腕が、メイたちを叩き潰しに迫る。
結晶吹雪に足を止めていた8人は、一瞬で窮地に追い込まれた。
「【不動】【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
これを受けたのはまもり。
掲げた盾が、ドラゴンすら潰してしまいそうな結晶碗の叩きつけを受け止める。
巻き起こる風。
粉砕する紫結晶の破片は、視界を埋めるほど。
そして、キラキラ輝く粉塵が落ち着くと――。
「ッ!?」
HPが大きく減っているツバメを狙って、放たれる球体の紫結晶。
【結晶爆散弾】は飛んできた結晶塊が炸裂し、狙った一人をめちゃくちゃに切り裂くという残酷かつ高火力の一撃だ。
すでにHPが大きく減っているツバメ。
誰もが、最悪の事態を前に息を飲む。
「【ルミナスシールド】!」
駆け込んできたのは、花森ミヤビ。
盾を擦っていく結晶片が、凄まじい擦過音と共に猛烈な火花を上げていく。
こうしてパーティ二枚目の盾が、窮地のアサシンを救ってみせた。
状況を把握したレンとヒカリは、即座に反撃に入る。
「【フレアストライク】!」
「【ホーリーストライク】!」
互いを追いかけるようにして、飛ぶ魔砲弾。
しかし紫結晶の腕を作り出した黒仮面は、伸ばした掌で魔法を弾く。
そしてすぐに、レン目がけて走り出した。
結晶を『緑』に輝かせ、迫る速度は圧倒的。
あっという間にレンを射程内に抑え、今度は結晶を『紫』に輝かせる。
「そう上手くいくかしら?」
レンは目を見張り、敵がその場所を踏むのを待ち構える。
そして黒仮面の足取りを確認し、『開放』を宣言しようとした瞬間。
「ッ!?」
黒仮面は二度のジクザク跳躍で、二つの【設置魔法】を飛び越えてきた。
「【設置魔法】を、越えてくるの!?」
まさかの事態に、驚愕するレン。
「終わりだ、魔導士」
着地と同時に右腕を引き、結晶を『紫』に輝かせる。
一瞬で形成される結晶爪と、大きな踏み込み。
「貴様の高が知れたな! 我らが兵器の前に敵などないのだ! さあ、異世界の怪物を呼ぶ贄となるがいい!」
「そう、上手くいくかしら?」
それでもレンは慌てない。
黒仮面は強く踏み込んだその足で、下草に置かれていた【バナナの皮】を踏んだ。
「なっ!?」
レンの背後で。
こっそりそんな仕掛けをしていたメイが、「やった!」と拳をあげる。
足を取られた黒仮面は、無様に転倒。
「魔導士なら、裏の裏くらいかくものでしょう?」
レンは笑って、黒仮面に杖を突きつける。
「【フレアストライク】!」
ここではあえて、火力の高すぎない攻撃を選択。
「【雷光閃火】!」
吹き飛ばされた距離が短かったことで、ツバメが追撃に迫り。
「そういうことですね【シャインセイヴァー】!」
エトワールが光剣を手に迫り。
「そうなってしまいますわ【ライトニングスラスト】!」
レイピアを手にした白夜が迫る。
ツバメが短剣を刺し、エトワールが光剣を刺し、そして白夜がレイピアを同時に刺突。
刺さった三本の刃。
まずはエトワールの光剣が閃光を放ち、続けて白夜の【極光乱舞】で光が炸裂。
そして最後に、ツバメの短剣が爆発を起こして黒仮面を吹き飛ばした。
クルクルと回転しながら飛んできた短剣を、ツバメはその手で回収。
「四つの結晶を使っても、追い詰められるか」
残りHPはわずか。
黒仮面は、肩で息をする。
「ならば、まだ生物への適合化は完全ではないが……見せてやる!」
そして結晶を、銀色に輝かせた。
「何よあれ」
「新たな結晶……のようですわね」
黒仮面の結晶は、銀色の輝きを増していく。
「アア、アアアア……アアアアアアア――――ッ!!」
すると黒仮面の頭から流れ落ちてきた銀の液体が、あご先から滴り出す。
指先からも、粘着質な銀色の液体がゆっくりと落ちていく。
「行くぞ、銀色結晶!」
その言葉に合わせるように、広がる液体金属の銀翼。
低空飛行からの急上昇。
伸ばした手から放つのは、銀の大槍だ。
「【地壁の盾】!」
まもりがこれを盾で受けると、銀槍は液体金属に戻って落下。
「ッ!?」
まもりの足を浸して、そのまま地に張り付けた。
槍の形状になり硬化、液体に戻り、足に触れると再び硬化。
見たこともない特殊素材に、驚くまもり。
「【斬地鋸刀】」
飛来してきた黒仮面が、逆手で持った液体金属のノコギリ刀。
その大きさを大きく変え、長さ三メートルに渡る銀刃を、通り過ぎざまに押し付けていく。
「コ、【コンティニューガード】【地壁の盾】ッ!」
まもりは足を止められたまま、この一撃も盾で防御。
すさまじい勢いで飛び散る火花、思わず盾を持つ手に力がこもる。
通り過ぎて行った黒仮面は、地に片足をつけて急制動。
振り返るのと同時に、駆け寄ってきていたメイを発見。
「【銀弧刀】」
手刀を左から右へ。
すると銀の液体が弧を描く形で広がり、大きな液体金属刃の弧を生み出した。
「ッ!?」
驚異的な速度で迫る液体刃を、メイはとっさに身体を捩ることでかわす。
それを見た黒仮面は左拳を、手に付いた水を払うように開く。
発射された銀の液体は銃弾に変わり、散弾のように飛来。
「わああああ――っ!!」
この一撃で、メイを弾き飛ばした。
黒仮面は転がるメイを一瞥もせず、再びまもりに向けて右腕を払う。
足元に飛び散った、銀の液体。
再び足を取られないよう、まもりは下がるが――。
「【銀牢爆破】」
地に落ちた無数の銀液が伸び上がって、針の牢獄のようになる。
そして、そのまま爆破。
「きゃああああっ!」
全方位を囲まれての爆発では防御もできず、弾かれ尻餅をついた。
「【四連射】【ホーリーバレット】!」
追撃を止めるため、魔法を放ったのはヒカリ。
見事に炸裂して、まばゆい光を散らす。
だが銀の翼が黒仮面を守るように包んで凝固、魔法の侵入を許さない。
「どうしたァ!? そんなものか、冒険者どもォォォォッ!!」
そのモーションは、伸びる紫結晶の碗と同じ。
しかし一度放たれた銀液の巨碗は、直線ではなく弧を描くようにして斜め上から攻撃。
「ッ!!」
ツバメが転がって回避すると、地面にぶつかり飛び跳ねた銀液が、再び腕となってつかみにくる。
「【加速】!」
慌てて駆け出し、距離を取る。
するとさらに、空いていた手からも伸びた銀の液体が腕を作り、真横から回り込むようにしてツバメを叩きつけにいく。
「【リブースト】!」
急加速でかわすと、左の銀碗は飛沫を上げて砕け散った。
「【バンビステップ】!」
「【エンジェライズ】!」
ツバメの回避を見届けたメイと白夜は回り込むように走り出し、レンとヒカリも杖を構える。しかし。
「ウソでしょ……?」
両手を開き、伸ばした銀液巨碗。
左右5本ずつ、計10本に分かれたことに驚愕。
叩きつけにくる腕を、メイとツバメは視線を走らせながらかわす。
なぜなら一つの腕の回避に大きな行動を取れば、二つ目の腕がそこを狙ってくるからだ。
追うような形で迫る銀液を、かわす二人。
「5本同時、きます!!」
エトワールが驚きの声を上げた。
「レンさん、ヒカリさん! こちらへ!」
すぐに叫んで、走るまもり。
魔導士コンビはすぐさま合流し、まもりの背後に隠れる。
直後、すさまじい勢いで迫る銀の腕を必死の盾さばきで必死の防御。
一方メイは、死角から迫っていた銀腕に目を見開く。
「わああああああ――っ!」
「くっ」
弾かれ転がる。
さらに白夜は太ももを弾かれたことで、劇毒で減っていたHPが危険域に突入。
ミヤビも盾を持ったまま突き飛ばされて、倒れた。
形状を自在に変える液体金属の10本腕は、荒れ狂う。
「【クイックガード】【地壁の盾】!」
「【ルミナスシールド】!」
魔導士組と自らを守るため、まもりとミヤビは盾防御を続けることしかできない。
もはや防戦一方だ。
「……メイさん、少し駆け回れますか?」
ここで白夜が、メイに一言。
「おまかせくださいっ! 【装備変更】【バンビステップ】!」
【鹿角】に変えたメイは、柔軟かつ速いステップで銀の腕を引き付けるように移動。
斜め上から来た腕を加速でかわし、正面から来た腕を左右のステップで回避。
しっかり銀腕の腕たちをかわし、引き付ける。
「【フレアストライク】!」
一方レンも、二人の動きを見て意図を察した。
「総攻撃いきましょう! メイ、こっちに!」
「りょうかいですっ!」
回避に集中したメイが、引き付けた銀腕たちを連れ駆けて来る。
「今っ!」
レンの声に、全員が攻撃を開始。
「【ソードバッシュ】!」
「【連続投擲】!」
「【ホワイトノヴァ】!」
「【フレアバースト】!」
全員がかりの中遠距離攻撃を合わせることで、大きな爆発を巻き起こす。
粉々になり、降り注ぐ液体金属。
「……こ、これでも手が足りないんですか……っ!?」
10本あった銀腕は、3本まで激減。
それでも即座に復活していく銀の腕に、悲鳴を上げたまもり。
「……あ、あれ?」
不意に気づく。
「白夜さんは……?」
同時攻撃の中、白夜の姿だけがどこにもない。
「【ライトニングスラスト】!」
聞こえた声に、思わず皆視線を上げる。
こちらの中遠距離攻撃に対処するため、引っ張り出された銀腕たち。
一斉攻撃によって上がった砂煙、そして再生。
慌ただしい流れの中で液体金属は、ほぼ真上から迫る光の使徒を見逃した。
『外し』の【ライトニングスラスト】で上昇し、空中であらためて狙いを定める。
あとは一直線。
「なにッ!?」
放った落下刺突は、見事に黒仮面の肩口に突き刺さった。
「【極光乱舞】!」
広がる輝き、巻き起こる爆発。
「チッ!」
転がった黒仮面はそれでも体勢を立て直し、追撃へのけん制を放とうとするが――。
「――――貴様らに、好き勝手させてたまるものか……!」
追撃に続いたのはなんと、管理者。
空から迫る白夜に対し、影に潜って接近。
腹部に突き刺した手刀が、さらに黒仮面の体勢を大きく崩す。
「イベント攻撃! ありがたくつながせてもらいましょう!」
「【シャインセイヴァー】!」
「【ディバインスラスト】!」
駆けつけた前衛組が、すぐさま攻撃を叩き込んで離脱。
「【フレアバースト】!」
「【ホワイトノヴァ】!」
後衛組が、魔法攻撃で続く。
「【ラビットジャンプ】からの……【フルスイング】だ――っ!!」
吹き上がった炎を割り、メイが全力の振り降ろしを叩き込む。
「バ、カな……ッ!!」
銀の結晶が砕け散り、銀色の飛沫を上げる。
ボタボタと零れ落ちる液体金属。
黒仮面はそのまま、銀の液体の上に倒れ込んだ。
こうしてヴァールハイトの対人用結晶兵器は、全て打ち破られた。
誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




