1012.4色
「……思った以上に早い」
二人の黒仮面と、黒獅子の打倒。
その早さに、驚く黒仮面たち。
頭上には、煌々と輝くハイリゲンシャイン。
傀儡化された『鍵』の青年は今も、ゼティアの門にかけた封を解くため能力を使用中。
「ならば。ヴァールハイトで最も『結晶兵器に適応した』この私が相手になろう」
胸元の結晶が、四つの色に輝く。
「なるほど、最後は四つ全部使えるやつが相手になるわけね」
どうやら結晶兵器には、適合率のようなものがあるようだ。
そしてこの黒仮面は、特に高い適合性を誇るのだろう。
「考えるだけで恐ろしいだろう?」
余裕を見せる黒仮面に、花森ミヤビが思わず息を飲む。
「それだけでどうにかなると思っているのだとしたら、ずいぶんと短絡的だわ」
しかしレンは、そう言って軽く笑った。
「今度は、多少期待してよろしいのかしら?」
そしてそんなレンの言葉に、当たり前のように続く白夜。
二人の『使徒感』に、メイが「おおー……っ!」と感嘆する。
「こちらには光の使徒と闇を超えし者が並び、かの野生児までもが控えているのですけど」
「ッ!!」
野生児という言葉に、尻尾をビビっと震わせる。
「その通りです。世界を変えうる者の力は、さらに驚異的なものとなっています」
「……ほっ」
そして、星野エトワールの言葉に安堵。
「この大いなる儀式。貴様たちを贄として、異世界の怪物を呼び出すとしよう」
そう言って笑うと、黒仮面は手を肩の高さに上げ、挑発でもするように掌をクイっと曲げる。
「「ッ!!」」
するとメイたちの足元から突然、紫結晶の剣山が突き立った。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
先頭にいたメイとツバメは、即座に跳んでこれをかわす。
砕けて散る結晶剣山の高さは5メートルにも及び、なおかつ黒仮面の挙動は片手のみ。
隙はとても短い。
「【連続投擲】!」
着地際を狙われないよう、ツバメは先行して【炎ブレード】でけん制。
燃え上がる炎が、敵の接近を許さない。
「ありがとうツバメちゃん! くるよっ!」
火が消えた瞬間、『橙青』の輝きと共に放つ二発の回し蹴り。
そこから放たれた二本の毒水刃を二人がかわすと、見えた『緑』の輝き。
風による高速低空跳躍で、黒仮面が回転蹴りを放ってきた。
ツバメはしゃがむことで、メイに至っては身体を反ることで鼻先数センチの回避を見せる。
振り返るのと同時に、『紫』に輝く結晶。
猛烈な勢いで集結し、生み出される巨碗は真っすぐ、高速で伸びてくる。
「「ッ!!」」
二人すぐさま、左右へ分かれるようにステップ。
間を通り過ぎていった結晶碗は、そのまま粉砕して消えた。
「結構な大技なのに、隙が短いわね」
「劇毒の減少効果が切れる前ですのに……本当に命知らずのアサシンですわね」
華麗な回避で敵の速度や攻撃の方向性を探ってみせた二人に、思わず白夜は息を飲む。
「【バンビステップ】!」
メイが迫り、剣を払って返す。
「【電光石火】!」
黒仮面はこれを下がってかわし、続くツバメの斬り抜けを回転跳躍で回避。
「【劇毒噴射】!」
着地と同時に地面から吹き上げる、大量の毒飛沫。
範囲は広いが、飛沫自体にダメージはなし。
【原始肉】の効果が続くメイは走り出し、攻撃を狙いにいく。そして。
「ッ!!」
発動するのは結晶を用いない、個人のスキル。
【雷光撃】が閃きを放つ。
シンプルな電撃属性魔法は、回避だけなら難しくない。
しかし劇毒水の飛沫は、属性効果を生み出す。
「わあっ!」
飛沫の範囲に感電で広がる電撃が、メイを強く弾く。
だが状態異常を受けないメイには、多少のダメージが入るだけ。
「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
すぐさまレンが続き、放たれた炎弾は誘導効果もあり三発が直撃。
これによって狙いを変えた黒仮面は、結晶を『緑』に輝かせて高速接近。
低空飛行でレンを補足。
そのまま一直線に、紫結晶の爪で斬り裂きにいく。
「【かばう】【地壁の盾】!」
ここでまもりが防御に割り込むが、なんと黒仮面は足を着き跳躍。
まもりを飛び越し、レンに爪を振り下ろす。
「上手な切り替えね! でもその程度じゃ届かないわ! 【入替のルーン】!」
レンがルーンを発動すると、先ほどかわされたばかりのまもりが、再びレンの前に。
「ちちち【地壁の盾】ーっ!」
今度こそ爪の一撃を、見事に防御してみせた。
「【加速】【スライディング】【四連剣舞】!」
両者の間に、生まれた隙間。
まもりの足元をすべり込んできたツバメは、二刀流の連続斬りでダメージを与える。
「ヒカリ、続きましょう!」
「そうだねっ!」
エトワールの言葉に駆け出すヒカリは、後衛にも関わらずツバメを追い抜き、金色の杖を振り下ろす。
「【聖杖輝剣】!」
灯る黄金の輝きが、黒仮面を斬りつけた。
スキル付き杖とはいえ火力が高くないため、敵はすぐに体勢を立て直して反撃。
迫るのは紫結晶に覆われた、手刀の振り降ろし。
「【スケープゴート】!」
「【ルミナスシールド】!」
なんと黒仮面の攻撃は再び、ヒカリに代わって現れたミヤビの盾に弾かれる。
動き出しは、ミヤビが先。
しかし攻撃は行わず、まるで道を空けるように左へ避ける。
すると白のドレスをはためかせた白夜が、通り過ぎていった。
「【ライトニングスラスト】【極光乱舞】!」
レイピアが突き刺さったところで、放つ追撃の輝き。
まばゆい光を散らす爆発で、黒仮面は吹き飛ばされ転がった。
「二度の入替で、攻撃をつなげたぞ……!」
「反撃する度に入替防御からの反撃を喰らうとか、プレイヤーだったら心折れてるな」
メイたちに続いた連携の後半は、完全に光の使徒たちのアドリブ。
見事な流れに、8人は自然と笑みをこぼす。
「……大したものだ。だが、貴様らを贄とする計画に変更はない【水破紋】!」
黒仮面が両腕を開くと、足元に広がる巨大な魔法陣。
結晶が『橙青』に輝いたのを見て、レンが叫ぶ。
「逃げて! 劇毒の水刃が上がるわ!」
全員がすぐさま散る。
直後、魔法陣に沿う形で高々と吹き上がる激毒水刃。
視界を埋めた橙色の飛沫。
「ッ!?」
ヒカリは硬直する。
劇毒水の壁を突然割って飛び出してきたのは、巨大な結晶碗。
「【バンビステップ】!」
駆けつけたメイが、ヒカリを抱えて回避に成功。
それを見た白夜は走り出し、もう一本の腕が狙う先を気にする。
嫌な予感は的中、毒壁を割って現れた巨碗にツバメが目を奪われ硬直。
「【ライトニングスラスト】!」
これを白夜は、『外す突進刺突』で体当たり。
ツバメと共に転がって、難を逃れる。
そして劇毒水の壁が消え、安堵をしたところで――。
全員が、頭上の魔法陣に気づいた。
魔法陣を割るようにして落ちて来たのは、【結晶彗星】
『紫緑青』の輝き、風に押された結晶星はすさまじい速度で落下。
「【不動】【地壁の盾】!」
これを受けたのはまもり。
粉砕した結晶の彗星は、弾丸のような水飛沫と共に結晶片をまき散らす。
「【天雲の盾】っ!」
盾を機関銃で撃ったかのような衝突音に、思わず息を飲む。
大技を受け止めたまもりは、隙を作ることに成功した。
しかしメイやヒカリ、ツバメや白夜が結晶片の飛来で動けずにいる状況。
上位上級魔法の発動には時間が足りず、皆で攻撃を続けるにも態勢が整ってない。
反撃は自然と、まもりに任される。
だが剣や盾での攻撃をしようにも距離があり、状況は思ったより難しい。
そんな中。
「ど、どなたでもいいので……!」
まもりは祈りながら取り出したのは、【絆の宝珠】だった。
「本当にどなたでもいいので、よろしくお願いしますっ!」
それでなくても、『絆』が生まれるようなクエストができていた覚えがないまもり。
誰も来てくれないという最悪の可能性を想像して、強く祈る。
しかし、生まれた魔法陣は輝き出した。
現れたのは、一人の老女。
「「「誰!?」」」
思わず声をあげるメイ、レン、ツバメ。
「こ、この方は、盾クエストで防衛対象だった元王妃の方です……っ!」
まもりが受け続けていた、そのクエスト。
それは国を背後から掌握しようとする性悪王妃に、命を狙われる彼女を守るというものだった。
「で、でもどうしてっ!?」
「私には世界を賭けた戦いに呼んでいただけるほどの、力も器もありませんが……」
そう言って、まもりに笑いかける。
「幾万度と助けていただいた私が、今度は貴方の力になる番です」
元王妃がそう言うと、召喚陣から続いて現れたのは、王家の誇る魔法隊。
「撃ちなさい!!」
命令と共に始まる、百人の魔導士による集中砲火。
一糸乱れぬ、怒涛の魔法連射。
その凄まじい迫力と火力に、誰もが息を飲む。
「あ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
黒仮面のHPはなんと、5割まで減少。
ペコペコと頭を下げるまもりに、元王妃は王族らしい柔らかな笑みを残して消えていった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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