1005.ロマーニャの門
王都前平原に現れた巨大な二本の塔。
それは旧文明を滅ぼした、ゼティアの門。
異世界へとつながった扉はもう、閉じ切ることはない。
今は『鍵』の青年がかけた『封』によってどうにか、異世界の怪物たちの侵攻を防いでいるだけの状態だ。
「すごい光景だな……」
「ああ、こんなの見たことがない」
快晴の青空を染めていくインクのように、重たい雲が広がり流れていく。
その速度はあまりに速く、まさしく風雲急を告げるという光景だ。
「ウェーデンで戦った時は、こんな風に一緒になるとは思わなかったなぁ」
シオールがつぶやく。
「本当ですな」
「楽しい勝負だったよねっ」
続くなーにゃとローチェ。
これには七新星たちもうなずく。
「新大陸のイベントも楽しかったわぁん」
「ラプラタの装置は今も、遺跡の名物になってるぞ」
大剣を抱えた蘭が、思い出し笑いを浮かべる。
驚異的な強さを見せたメイたちとの戦いは、鮮烈に記憶に残っている。
「勝つぽよっ」
そして、そんなメイたちをずっと追い続けてきた掲示板組。
いざという時の強さや判断力もあり、今ではすっかり追従組たちの中心になっている。
かつて皆で王都を守るために戦った、王都前の平原。
やがてぽつぽつと、紋様入りの立方体ブロックが見えてきた。
平原に現れた古代の立方体は、不思議な神秘性を感じさせる。
メイたちを先頭にした大軍は、見上げるのも大変な高さを誇るゼティアの門にたどり着く。
海を越えるための道路を吊る、大きな橋。
その橋脚に紋様を描いたようにも見える。
「ロマーニャの守護者すら、退けるか……」
メイたちがたどり着いたことに気づいた、新たなる帝国『ヴァールハイト』の黒仮面がつぶやく。
「……貴様たち冒険者の方がよほど、力や血に飢えているのではないか?」
言葉に、薄く笑いが混じる。
「少なくとも今『封』を解いて、異世界の怪物たちを呼び込んでしまうことが、正解でないことは間違いないわ」
レンが告げると、黒仮面は首を振る。
「それは弱き者の選ぶ答えだ。天を見ろ」
そう言って黒仮面が、転移宝珠を輝かせる。
「なんだ、あれ……」
「空に、とんでもなく大きな輪が……」
思わずその場にいたプレイヤーたち全員が、空を見上げる。
転移宝珠で呼び出したのは、黄金の結晶で造られた、刺々しい巨大な『輪』だった。
「あれが我らヴァールハイトの新兵器、ハイリゲンシャインだ」
「……英語ならエンジェル・ハイロウ、天使の輪って意味ね」
「そういうことですか……」
しれっと英語と日本語に翻訳するレン。
黄金に輝く天使の輪に、思わず皆目を奪われる。
「見るがいい。我らが兵器の力を――――【シュトラーフェ】」
黒仮面が『天罰』という意味の言葉を告げると、黄金結晶で作り出したヴァールハイトの兵器が起動。
輪の中をかける黄金の輝きが、増幅していく。
煌々とした金光は暗天に神々しい輪を描き、地面にまばゆい光線を放った。
「「「「ッ!?」」」」
吹き荒れる暴風に、思わず顔を背ける。
わずか一撃で、森林が消し飛び木々が枯れ果てていく。
「ははははは! 見たか、これが我らヴァールハイトの、新たな王の力だ!」
「ひどーい!」
ただ火力が高いだけでなく、付近の木々を枯れさせたのは毒によるもの。
まさに驚異の兵器と言える一撃だ。
「さあ、始めよう」
ハイリゲンシャインの火力を思う存分見せつけた黒仮面たちは、床部に描かれた紋様に触れゼティアの門を起動。
紋様に光が灯り、地面にも広がっていく。
さらに各所に置かれた紋様ブロックも、輝きを灯し出した。
「動き出したぞ、ゼティアの門が……」
そしてすっかり黒くなった空にかかる厚い濃灰色の雲が、ゼティアの門の直上で渦を巻き始める。
「あとは、お前だ」
「っ!」
『鍵』の青年がまとった拘束着を破り捨て、容赦なく突き刺す結晶。
紋様の上に倒れた青年の、傀儡化を開始する。
「さあ、始まるぞ――――『赤月の夜』が」
黒仮面が笑い出す。
「異世界へ進攻し、新たな兵器を生み出し、そして二つの世界を支配するのだ! 新たなる帝国ヴァールハイトが!」
漆黒の空に映える、橋脚のごとき巨大な門。
輝く二つの塔の間に、小さな真紅の光が生まれ輝き出す。
そして傀儡化された『鍵』の青年も、ゼティアの門にかけた『封』を解き始めた。
「さて。異世界の怪物たちを迎える前に、掃除が必要だな」
そう言って、こちらを見据える黒仮面たち。
まだ『真紅の光』は小さく、『鍵』の青年も必死に自らの行為を止めようと抵抗している。
「黒仮面たちを打倒して、赤月の夜を止めてくれ……今ならまだ……それができるはずだ!」
痛む頭を抑えながら、懇願する青年。
「おまかせくださいっ!」
「ここが勝負どころね」
「勝ちましょう」
「な、なんとしてもっ」
これに応えたのはメイたち。
すると黒仮面たちは門の前に並び、立ちふさがるようにする。
動き出した、最大級のゼティアの門。
始まる赤月の夜。
向かい合うヴァールハイトの面々と、メイたち。
両者は自然と、武器を構えた。
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