1003.帰還
「それでは皆さん、準備はよろしいでしょうかっ」
「いいよーっ」
「もちろんだよ」
「いつでもいいぽよっ」
メイの問いにバニー、シオール、そしてスライムが答える。
転移装置の使用を止めに来たゴリラ型機械獣を、見事な連携で打倒したメイ・シオール合同パーティ。
紋様の中心に全員で集まると、中央にある宝珠を踏む。
すると紋様に合わせて、水色の輝きが走り出した。
「迷子ちゃんプロテクト!」
マウント氏が、迷子ちゃんの腕をホールド。
「逃がさない」
樹氷の魔女が足にしがみつく。
「念のためですね」
ツバメも服の裾をつかみ、メイも【ターザンロープ】をかけておく。
「ご迷惑をおかけいたします!」
これに対して迷子ちゃんも、しっかりと全てを受け入れた態勢で転移の輝きの中へ。
「それでは、地上に戻りましょうっ!」
「「「おおーっ!」」」
そんな光景に笑っていた追従組も、迷子ちゃんを囲むように立ち、拳をあげて応える。
すると水色の輝きが足元から立ち登り、視界が光に埋め尽くされた。
「ウェーデンで出会ってから、あっという間だったね」
「そうですねっ」
「まさか、こんな大きな戦いに挑むことになるなんて思いませんでしたな」
「まったくです」
「これは戦いが終わったら、一緒にローチェのプロデュースでカフェをやりたい!」
「一人だけ、個人的な欲望になってるわ……!」
「ぜ、ぜひお客さんとして通わせてください……っ」
かわされる言葉と、こぼれる笑み。
やがて、まばゆい転移の光が消えていく。
「……わあ」
メイは思わず声をあげた。
転移でたどり着いたのは、王都大通り。
これまで進んできた地下とは違い、王都はいつも通りの晴れ間の中にある。
世界の終わりが来るかもしれないとは、全く思えないほどの快晴だ。そして。
「戦いの準備はいいか!? 消費アイテムならまとめて販売中だ!」
「投擲武器の補充なら、うちでどうぞー! 今なら10本お買い上げで1本分安くなってまーす!」
「鍛冶急いでくれ! 新武器で戦いに挑みたいんだ!」
街の大通りには多くの露店が並んでいるが、今日はいつも以上だ。
普段はのんびりと歩いているプレイヤーたちも、早足。
そして何より、肩をぶつけずに歩くのが難しいほど多数のプレイヤーが行きかっている。
「皆、準備を進めてたのね」
「いよいよという感じがしてきます……!」
「は、はひっ」
これだけのプレイヤーが一つの街で大規模戦闘の準備を進める姿は、なかなか見られない。
不思議な緊張感と高揚感が、入り混じっている状態だ。
「見て見てーっ! あれ、ゼティアの門だよねっ」
「この位置から見えるのですな……」
バニーの声に、感嘆するなーにゃ。
振り返ると、王都前平原の先にそびえたつ巨大な砂色の塔。
王都前の通用門前に集まったプレイヤーたちは、突然登場した二本の塔に、早くもワクワクが止まらないようだ。
「あっ、メイちゃんだ!」
「メイですっ!」
始まる戦いを前に、様々な確認を行っているパーティ。
その中の一員が、メイの姿に気づいて思わず声をあげた。
すると付近の参戦者も一斉に振り返り、「おおっ」と今回の主役たちの姿に色めき立つ。
「すごい……豪華な組み合わせだな……」
「メイちゃんたちに加えて、アーリィやシオールたちも一緒とか。本当に最後の戦い感があるな」
「実はあのスライムも侮れないんだよな……最近その強さが、各所で話題になってるからな」
向けられる視線。
その中を歩いてくるのは、地下遺跡進攻で活躍した七新星たち。
「待ってたよメイちゃん」
「早かったですね」
アンジェラがそう言って笑うと、さらにすみれたちも合流。
「お、おいおい……っ。ここでさらに七新星と蘭姉妹まで来るのか……っ!」
「この並びだけでもう事件だろ!」
トップ勢が一堂に会する姿に、いよいよ王都通用門前の一団は意気をあげていく。
彼らの気分はもはや、オールスターゲームを見るような状態だ。
「ここの運営は本当にいくつか大きな街を崩壊させてるし、緊張感が違うよな」
「でも、このメンバーは熱いぞ!」
気が付けば、メイたちの戦いに参加するため王都にやって来たプレイヤーたちは、巨大な一団になっていた。
「いよいよだな……!」
つぶやく、掲示板組の剣士。
「迷子ちゃんもしっかり確保したまま戻ってこれたし、これは縁起いいぞ」
「縁起物にされてます……っ!?」
そんな迷子ちゃんの会話に、メイたちが笑い出す。
「それではメイちゃん、ここで一つ挨拶をお願いします」
「ええっ!?」
「そうね、そういうのがあってもいいと思うわ」
「りょうかいです……っ!」
メイは少し考えるようにした後、一つ大きく息を吸う。
「世界を守るために、一緒に戦いましょう!」
そしてそのまま、元気に頭を下げる。
「それでは皆さん、よろしくお願いいたしま――すっ!!」
「「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」」
王都前に大きな歓声があがる。
通用門を出ると、早くも異変が始まった。
快晴だった王都の空が、黒と灰色の混じった色に変わっていく。
まるでゼティアの門から、天に向けてインクをこぼしていくかのように、広がっていく暗雲。
「いきましょうっ!」
メイは気合に尻尾をピンと立て、歩き出す。
「さあ、何が出てくるかしら」
「どのような敵でも、皆さんが一緒なら」
「は、はひっ、負けません……っ」
続けてレンたちが並べば、その後に王都決戦に向かうプレイヤーたちが続く。
メイを中心とした一団は、動き出したゼティアの門を目指して突き進む。
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