1002.共闘しますっ!
メイとシオールの連携でダメージを受けたゴリラ型機械は、その目を強く輝かせる。
そして、猛然と走り出した。
腕も使った特殊な四足歩行は想像以上に速く、それ以上に勢いがある。
【爆剛腕】は単純な攻撃力上げに加えて、直撃時に爆破を生み出す攻撃。
その手を振り回すだけで、大きなエフェクトが生まれる。
「うわっと!」
「あぶないっ!」
豪快な右拳の振り回し、そのまま左拳の振り回し。
そして跳躍から一回転して、強烈な拳の叩きつけ。
巻き起こる爆発は風を起こし、炎を噴き上げる。
「しゃがみですっ!」
「はいっ!」
シオールとメイは二人そろって、その場にしゃがみ込む。
すると頭上を、すさまじい勢いで大きな腕が通り過ぎていった。
この【剛腕ラリアット】、喰らえばそのまま壁まで直進。
叩きつけられて大爆破という、恐ろしい技だ。
「この勢いと火力は脅威ですね」
ツバメがそうつぶやいた直後、ゴリラ型が大きく振りかぶる。
そして体重を乗せる形で、拳を地面に強く叩きつけた。
【剛腕叩きつけ】は、爆風を生むことで一定範囲に『転倒やバランス崩し』を起こさせる攻撃。
「「ッ!?」」
地面の揺れ、そして吹きつける暴風という二段階攻撃が、二人の体勢を崩した。
「両腕!?」
思わずシオールが声をあげる。
ゴリラ型はさらに両拳を掲げ、強烈なエフェクトと共に地面を叩きつけに行く。
「【かばう】!」
「【飛び跳ね】!」
ここで動いたのは、まもりとスライム。
「【天雲の盾】!」
「【可変】【硬化】ぽよっ!」
直後、吹き荒れる爆炎は、プレイヤーを壁に叩きつけるほどの一撃。
メイとシオールの前に立ったまもりとスライムは、広がる爆炎をしっかりと防御した。
「ありがとーっ!」
「助かりましたっ」
見事な防御を見せる二人。
「ここでようやく出番かなっ?」
ここで動いたのは、隙を窺っていたローチェだ。
「悪い子には、調教のムチが飛んじゃうぞーっ!」
高速で迫るムチが、大技によって隙を晒しているゴリラ型を打ち付ける。
さらに、斜めに回り込むような一撃。
上段から大きく曲がって落ちる一撃。
ムチによる攻撃は火力の高さとMP消費の少なさが利点だが、どうしても味方を巻き込みがちだ。
しかしローチェの攻撃は、前衛組をしっかり避けてゴリラ型に的中する。
「【調教乱打】だーっ!」
可愛いポーズから放つ物騒な名前のスキルは、ムチの勢いを大きくあげる。
その凄まじい連打に、弾かれたゴリラ型は慌てて距離を取る。
「この距離で、あの連射は反則ね……!」
踊るように放つムチの連打に、感嘆するレン。
「最後は派手目に【ファイアウィップ】!」
大きく振りかぶり、放つ一撃。
しかしこの『余裕』を、ゴリラ型は見逃さなかった。
炎をあげるムチを、ギリギリのところで回避。
連打を叩き込んだローチェに向けて、猛然と走り出す。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
すぐさまレンがフォローに入るが、機敏かつ豪快な動きで見事に回避。
一気にローチェの目の前へ。
「キャアアアア――ッ!」
その勢いに、渾身の悲鳴を上げたローチェ。
突然おとずれた危機に、一転して走る緊張感。
「なーんてねっ」
飛び込んできたゴリラ型に、いたずらっぽく舌を出す。
「おいで【獅子霊】ちゃんっ」
突然肩口に現れた巨大なライオンの霊体が、猛然と喰らい付きにいく。
「【獅子霊の盾】っ!」
しかしこの時、ローチェを助けに来ていたまもりも同時に【獅子霊の盾】を使用。
結果はまさかの、ダブル獅子霊の喰らいつき。
「わっ、すごーい!」
予想外の展開に、思わず跳び上がって喜ぶローチェ。
過去に例がない、二体の獅子霊の同時喰らいつき。
予想もつかない展開に目を見開くと、獅子霊たちは豪快な振り回しで、ゴリラ型を地面に叩きつけた。
「ありがと、盾子ちゃんっ」
「は、はひっ!」
助けに来てくれたまもりに、可愛いウィンクでお礼を一つ。
二人で作った隙に、ローチェは必殺の新スキルで応える。
「それじゃ、いっちゃおっか――――【死霊魔王】」
それはかつて世界を脅かした魔王が、勇者に討たれた際に生まれた死霊。
ローチェの背後に現れる、長い角を持った二足の大型骸骨。
ボロボロのマントに、切れた黄金のチェーンと欠けた王冠。
手にした杖を掲げれば、ゴリラ型機械の足元に生まれる魔法陣。
直後、天を突くように噴き出した大量の鮮血の刃が、ゴリラ型を容赦なく切り刻んでいく。
「す、すごいスキルだな……」
思わず震えながらつぶやく追従組に、血の雨に打たれながら「てへっ」と笑いかけるローチェ。
やがて、降りしきる血の雨が止む。
「……フーッ、フーッ! ウォオオオオオオ――――ッ!!」
大きくHPを減らしたゴリラ型は、反撃の狼煙を上げた。
豪快なドラミングから、怒りに任せた全力疾走。
狙いはもちろんローチェだ。
「やっばー!」
飛び掛かりから放たれる右拳の叩きつけを、大慌てで下がって回避。
すると大きな踏み込みから、左拳の叩きつけ。
これもバックステップでギリギリ避けるが、再び放たれる飛びつきからの叩きつけには回避が間に合わない。
「きゃあっ!」
防御は間に合ったが、大きく弾かれて尻餅をついた。
するとゴリラ型は高く跳躍。
召喚陣から呼び出した大型の岩石を両手で抱え、そのまま【岩石落とし】を叩き込む。
「【バンビステップ】!」
メイがローチェを回収。
石床に叩きつけられた岩石は砕け散り、ゴリラ型はすぐさま振り返って召喚陣を再起動。
取りだしたのは、数十メートルに及ぶ枯れ巨木。
ゴリラ型は幹を折って抱えると、そのまま力強く踏み出し大回転。
「「「「ッ!?」」」」
その攻撃範囲は当然広く、メイたちとシオールたちの両方をまとめて弾くほど。
「【ラビットジャンプ】!」
メイはローチェを抱えたまま跳躍。
「【不動】【地壁の盾】!」
なーにゃとシオールは、慌ててまもりの背後へ。
レンは【浮遊】で退避する。
大きな風切り音を鳴らして迫る巨木が、まもりの盾を弾いて通過。
皆が安堵の息をついたところで――。
「逆回転!?」
今度は左から右への回転。
息をつきかけた7人は、再び大慌てで回避。
これにも成功して、今度こそ息をつくが――。
「まだよ!」
最後は右回転の二連発。
「【ラビットジャンプ】【ラビットジャンプ】!」
メイは縄跳び感覚で回避。
まもりも右の盾から、左の盾に使用を変えつつスキルを発動。
脅威の高火力連撃を、見事に対応した。
「気を付けてっ!」
メイが叫ぶ。
豪快な大回転の最後は、なんとスイングの流れのまま【放り出し】
雑に投げられた巨木を、皆必死に回避する。
「【加速】【リブースト】」
壁に突き刺さり、砕け散る巨木。
生まれる、破城槌に城壁を破られたかのような光景。
二段階加速でかわしたツバメは、そのまま接近。
「スワローちゃん! ツバメちゃんと共闘のチャンスですなっ!」
気付いたなーにゃが、そう言って指を差す。
駆け出したスワローが、ツバメと並ぶ。
「【加速】」
「【加速】ですな!」
「【電光石火】!」
ゴリラ型の前まで来たツバメは、そのまま左へ斬り抜ける。
「【紫電一閃】!」
するとスワローも、紫の閃光を描く斬り抜けで、右へ抜けていく。
「【反転】【三日月】!」
そしてツバメが【村雨】に持ち替え、反転と同時に縦の斬り下ろしでダメージを与える通称『ツバメ返し』を放てば――。
「【回転斬り】!」
スワローも回転斬りを使うことで、強制停止して攻撃。
『疑似ツバメ返し』を体現してみせた。
「決まりました」
「斬り抜けスキルを見つけるのが、意外と大変でしたな」
親指を立ててみせるツバメに、うれしそうにするなーにゃ。
「スワローちゃんも!」
思わず飛び跳ねながら指示を出すと、なんとスワローも親指をアップ。
「ツバメ!」
レンが注意の声をあげる。
崩れ落ちた状態から体勢を立て直したゴリラ型は、すぐさま目前のツバメを狙って剛腕を振るう。
だがそのツバメとスワローは、ゴリラ型を前後で挟む形を取っていた。
「【スライディング】【反転】」
「【加速】【回転跳躍】」
ツバメは足元を滑って、ゴリラ型の後方へ。
背後を取っていたスワローは、頭上を越えて前方へ。
「【投擲】」
そして背中に刺さったツバメの【雷ブレード】が、動きを止める。
「このままいきましょう!」
うなずき合う、ツバメとスワロー。
「【雷光双閃火】!」
体勢を崩しているゴリラ型に、とどめを刺しにいく。
ツバメが短剣を二本刺したところで、後に続くスワロー。
「【弐雷金威】ですな!」
さらに二本の短剣を、深々と突き刺した。
「これで、終わりです!」
そしてツバメが新たに取り出した三本目の短剣を刺し、準備は完了。
ゴリラ型に突き刺さった、計五本の短剣。
まずは【弐雷金威】
目を焼くほどにまばゆい閃光が、地から天に上りゆく。
続けて【雷光双閃火】
派手に飛び散る大量の火花からドンドンドン! と、三連続の爆発が巻き起こる。
生まれた爆炎は一つの大火となり炸裂、ゴリラ型のHPゲージを消し飛ばした。
舞い散る、大量の火の粉の中。
クルクルと舞い飛び戻ってくる三本の短剣を、順にキャッチしたツバメ。
背を合わせるようにして、自らの短剣を受け取るスワロー。
「お見事でしたなーっ!」
ツバメとの連携がうまくいって、なーにゃは歓喜の表情で駆けつける。
「とても戦いやすかったです」
「スワローちゃん、良かったでございますなぁ!」
そんな言葉に、思わずツバメとスワローの手を取り大喜び。
「プレイヤーとドールで、こんなに息の合った連携が可能なのか……?」
「しかも相手はアサシンちゃんだぞ? もう、どうかしてるとしか……」
超速プレイヤーとドールの高火力連携のド派手さに、思わず見とれる追従組。
「共に戦ってみたくなるな。さすがはトップの一角だ」
「味方でも敵でも、楽しくなりそうだにゃん」
シオールたちとメイたちのコンビネーションに、夜琉と灰猫も意気が上がる。
「すごいぽよっ!」
「あはははっ! さっすがだね!」
スライムはバニーを打ち上げながら歓喜し、樹氷の魔女は金仮面と共に迷子ちゃんに締め技をかけつつ感嘆。
盛り上がる一団。
シオールたちとの連携で、メイたちは『門番』の機械獣を打ち倒したのだった。
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