1001.霊長類最強
「とうちゃーくっ!」
ローチェの元気な声と共に、一団は目当ての転移装置部屋の前にたどり着いた。
砂色の重厚な岩壁には、紋様が描かれている。
そこには、扉を固く結ぶ枝葉がびっしりと張り付いていた。
「またここで【剪定ばさみ】が必要になるのね」
「それではさっそく」
「はいっ」
麻痺から回復した迷子ちゃんが、さっそく【剪定ばさみ】を取り出す。
「そんなに迷子になるの?」
「プロだぽよ」
「今この瞬間にも、姿を消す可能性が30%くらいはありますね」
アーリィの言葉に応えながらも、しっかり迷子ちゃんを監視する掲示板組。
ツバメやまもりも、視線を外さない。
そんな中、迷子ちゃんとメイが、取り出したハサミを枝葉に入れる。
すると次々に枝が切れ落ち、そこから扉を譲り渡すかのように退がっていった。
「いよいよ地上かしら」
大きな壁の紋様に触れると、重い音を立てながら壁が割れていく。
中には石床に描かれた、大きな転移方陣。
中央の宝珠に足を乗せると、紋様に沿って薄青の輝きが鈍く輝き出す。しかし。
「そう簡単には、いかないようですなぁ」
なーにゃがつぶやいた。
割れた石壁から入り込んできたのは、悪魔のような二本角を生やしたゴリラ型機械獣。
「ここでボス級の登場かぁ。こうなると地上への転移で間違いなさそうだねっ」
右手の鞭で床を叩き、気持ち良い音を鳴らしたローチェは、機械獣に向けてあざといウィンクを決めてみせた。
自然と前に出る、シオールとなーにゃ。
まだまだMPにも余裕がある三人は、ここでもメイたちとの共闘を志望。
「ここは一つ、お手並み拝見といかせてもらいましょうか」
「トップの戦いぶり、そしてメイたちとの連携。楽しみにゃん」
すでにそれなりに消耗しているアーリィと灰猫は、メイとの連携ぶりに早くもワクワクし始める。
「こんな特等席で見られるなんて、さいっこうだね!」
バニーに至っては、スライムの上であぐらを組んでいる。
人をダメにするスライムクッションにもたれるバニーガールみたいな光景に、掲示板組がクスクスと笑い出す。
「くるよっ!」
乳白色の石金属で造られた体高3メートルほどのゴリラ型は、その大きな拳を地面に突き、走り出した。
先頭にいたシオールとメイは、すぐさま回避運動に入る。
ゴリラ型の【爆弾拳】は、深く地面にめり込み炸裂。
石片を豪快にまき散らす。
「【爆震脚】!」
これを下がってかわしたシオールは地面を踏みつけ、円形に広がる衝撃波と共に跳びかかるスキルを発動。
手にした金のメイスを、ゴリラ型の頭に叩きつけにいく。
ゴリラ型がバックステップで回避すると、シオールはさらに踏み込む。
【振り上ろし】から続く大きな【振り上げ】に、思わずゴリラ型がひるんだ。
「【聖火爆裂撃】!」
豪快な振り降ろしは神々しい聖火を爆発的に巻き上げ、ゴリラ型を弾いた。
すると大きく下がったゴリラ型は、召喚陣を展開。
頭上に現れた陣から落ちて来たのは、数メートル級の岩塊。
これを受け止めたゴリラ型は、そのまま【岩石投げ】をシオールに叩き込む。
「シオールさん!」
メイは慌てて走り出すが――。
「【爆炎正拳突き】!」
真正面から放つ、腰の入った拳打が炸裂。
盛大に上がる爆炎と共に、岩石を粉々に打ち砕いた。
「「「おおおおおお――――っ!」」」
その豪快さに、あがる歓声。
だがゴリラ型の攻勢は終わらない。
シオールの放った拳撃スキルは上位レベルのため、使用後の隙も大きい。
この間を突き、今度は足元に生み出す魔法陣。
そこから出て来たのは、立ち枯れした一本の樹木の幹だ。
高さ5メートルに迫る木をへし折ると、ゴリラ型はそのまま全力の振り降ろしをシオールに叩き込む。
「させませんっ!」
目を奪うほどの、強烈な一撃。
だが岩石同様、折った木も『武器』ではなくオブジェクトだ。
そうなれば――。
「よいしょーっ!」
轟音と共に放たれた樹木の振り降ろしを、メイは真正面から受け止めた。
始まるゴリラとメイの力比べ。
押し込むゴリラと、こらえるメイ。
「…………【ゴリラアーム】」
しかしメイが小さくつぶやくと、即座に優劣が交代する。
なんと樹木を奪い取ったメイは、そのままゴリラ型に回転撃を叩き込んだ。
砕け散る枯れ木と、転がるゴリラ。
「「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」」
再びあがる歓声。
オブジェクトを使った二つの攻撃を、見事な連携で潜り抜けた二人。
生まれた隙を狙い、シオールは駆け出していく。
「いけいけーっ!」
「やっちゃえーっ!」
迷子ちゃんが拳を突き上げ応援し、アーリィも身を乗り出して声をあげる。
「こんな荒々しい戦いは、なかなか見られないぞ!」
「まったくだ!」
自然と盛り上がる見学チーム。
スライムも、バニーをバインバインと高く跳ね上げて応援。
「はあっ!」
シオールの振り下ろすメイスを、ゴリラ型がギリギリで避ける。
反撃の大きな拳の振り降ろしを、こちらもサイドステップで回避。
「【ラビットジャンプ】【フルスイング】!」
飛び込んできたメイが、ド派手なエフェクトと共に叩きつける剣を、跳び退きかわす。
巻き上がる石片。
ゴリラ型が大きく拳を引いた時、すでにシオールも同様に拳を大きく引いていた。
「グオオオオオオ――――ッ!!」
放たれる【インパクトスウィング】は、当たればとんでもない速度で吹き飛ばされ、壁にめり込むほどの高火力。
「【打撃強化】【爆炎正拳突き】!」
しかし突き出された大きな拳の下を潜る形で踏み込んだシオールは、数センチ上を通っていく拳の起こす風に、髪を揺らしながらスキルを発動。
そのままカウンターで、拳打を叩き込んだ。
腕力系スキルの次撃威力を向上させる補助効果を乗せた一撃は、猛烈な炎と共に大爆発。
「あぶないっ!」
爆発に吹き飛ばされたゴリラが、向かう先にはまもり。
「ふふふ【不動】【地壁の盾】っ!」
ガゴッ! と、痛そうな音を立ててまもりの盾にぶつかり弾き飛ばされたゴリラ型。
大きく跳ね上がった後、石床をバウンドして転がる。
こうして両者の間に、生まれる距離。
この隙にゴリラ型は、体勢を整える。
再び向かい合う両者。
メイとシオールも身を低くして、構えを取り直す。
「すごい戦い。一体どれが……本物のゴリラなんだ?」
「うわあーっ、すごいパワーだー! これはわたしなんかより圧倒的にパワフルだーっ!」
「あっちあっち! あっちが本物ですよーっ! 私たちはギリギリでなんとかなっているだけですからっ!」
思わぬ形で始まった霊長類最強決定戦の様相に、つぶやく追従組。
そんな声を聞きつけたメイとシオールは、そろってゴリラ型機械を指さす。
強敵の前でもそこは譲らない二人の戦いぶりに、レンとツバメは思わず笑ってしまうのだった。
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