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100.お正月みたいです!

「見つからねえなぁ……狐のクエスト」

「ありそうでないんだよな。イベント始まれば合戦になるし、もっとスキル見つけておきたいところなんだが……」

「今年はどっちにする?」

「天軍に決まってんだろ。勝たなきゃポイントもらえねえんだから」

「ま、そりゃそうだよな。グラムについときゃ間違いなしだ」

「とりあえず今日は、あれにでも出ておきますか」


 にぎやかなヤマトの通りでは、イベントへの期待が高まっている。

 そんな中、マイペースにこの街を楽しんでいるのがメイたちだ。


「なんか……門のところに人が集まってるよ」


 街と外のエリアへと仕切っているのは、大きな木製の門。

 そしてその外側には、百人を超えるプレイヤーがひしめき合っていた。


「あれは有名なやつね。週に一度だけ、いなり寿司を販売するお店があるの。それを買って町外れのNPCにあげると、大喜びでアイテムをくれるっていうクエスト。ただし上位五人しか買えないし、一位の人が一番いいアイテムをもらえるっていう多人数競争型のクエストね」

「そうなんだぁ……楽しそうだねぇ」

「【敏捷】勝負ですか。面白そうです」

「順位ごとの参加賞もあるみたいだし、出るだけ出てみる? もう始まる前だし、最後尾からになるけど」

「出てみたいっ」

「そうしましょう」


 こうして三人は、門の横にある勝手口から表に出ると、列の最後尾に並ぶ。

 集まっているのはやはり、速さに自信のありそうなプレイヤーたちだ。


「ま、この位置からじゃオマケの参加賞がもらえるくらいだな」

「勝ちにいくなら前列が絶対条件だからなぁ」

「さすがに勝ち目があるとは思ってねえよ。今回は空気だけ」


 メイたちの前に並んでいるパーティの会話からも、このイベントの難しさが聞こえてくる。


『――――今から、伏見堂いなり寿司競争を開始します』


 やってきた店員NPCが、門にかけられたかんぬきを力強く引き抜く。

 参加プレイヤーたちの間に、一気に緊張が走り出す。


『――――それでは……開門!』


 重たい音を鳴らして扉が開く。

 百を超える参加者たちは一斉に、伏見堂を目指して走り出した。


「それじゃ、お店の前で落ち合いましょう」

「はい! 【加速】!」

「りょーかいですっ! 【バンビステップ】!」


 ツバメとメイは、門を出るとすぐさま移動スキルを発動。

 向かうは北東の方角だ。

 まずは直進して、角を右に。

 そこには、これでもかと言うほどに通行人NPCが配置されていた。

 回避力が試される場所。

 ここですでに、結構な量のプレイヤーが速度を落としながらの移動を強いられていた。


「【モンキークライム】!」


 そんな中、メイはわずか二歩で二階建ての建物を駆け上がると、そのまま屋根の上を走り出す。


「……屋根に上がれるヤツがいんのかっ!」


 それを見て驚く参加者。

 この通りは、【跳躍】ではわずかに届かない位置に屋根が置かれているようだ。


「さすがメイさんです」


 これを見てツバメは、さっそく新スキルを発動。


「【壁走り】」


 並ぶ町屋の壁を蹴ると、まるでそこが地面かのように足が吸いついた。

 ツバメはそのまま、メイを追いかけていく。


「か、壁を走るヤツもいんのかよっ!」


 こうして二人は、いきなり大きく順位を上げることに成功した。

 そのまま通りを抜けると、そこには河川。

 橋は二本。

 直進で向かうことのできる橋は修理中。

 その中央に、大きな穴が開いている。

 もう一つは少し離れた先にある代替橋。こちらは通行人が多い。


「……あれは届きません」


 ツバメはその穴を見て、遠回りでも離れた橋を通ることを選択。

 一方先頭に追い付きたいプレイヤーは穴を飛び越えようと、加速系スキルからの【跳躍】を使うが――届かない。

 そのまま川に落下していく。

 ごく一部の『長距離跳躍』スキルでないとギリギリ届かないその穴は、完全な罠だ。

 そんな中メイは、橋ではなく川へと一直線。

 そのまま川へ、飛び込みに行く。


「おいおい……」


『レースゲーム中に諦めて逆走』みたいな状況に、誰もが眉をひそめる。しかし。


「【アメンボステップ】!」


 メイはそのまま真っすぐ、川を駆け抜けていく。


「ウソだろ……」


 聞いたこともないスキルに、唖然とする参加者たち。

 大きなショートカットで川を渡ったメイは、一気にトップ集団に追いついた。

 速さが自慢のプレイヤーたちだが、ここで勝負は荒れ始める。


「【まきびし】!」

「うわっと! 【アクロバット】!」


 まさかの妨害に驚きながらも、前方宙返りでこれを回避。


「お前は先行しろ。こいつは俺が引き付ける」


 どうやら今回先頭にいる軽装忍者二人は、チームのようだ。


「【火遁】!」


 メイの前に現れる炎の壁。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイは大きなジャンプで飛び越える。

 するとその着地際を狙って、短刀による攻撃を仕掛けてきた。

 これをかわし、再び距離を取るメイ。

 忍者は、高速移動で迫ってくる。


「そういうことなら……っ」


 メイはその手に一つ種を取り、道にまく。


「大きくなーれ!」 

「うげっ!?」


【密林の巫女】によって急激に育った木を、慌てて回避する忍者。

 しかしその先には、頭装備を【鹿角】に変えたメイ。


「とつげきー!」

「うおおおおーッ!?」


 跳ね飛ばされた忍者プレイヤーは、後続を巻き込み転倒。

 メイは再び前を向き、速度を上げた【バンビステップ】でトップを狙う。

 いよいよ店は目の前だ。


「な、なんだあの角と速さはっ!?」


 見る見る追い上げてくる鹿メイに、驚きふためく忍者。


「【多重投擲】【雷刃クナイ】!」


 十本もの電気クナイを、一気に投じてくる。


「【ラビットジャンプ】!」


 これをメイが高い跳躍によって回避したところで、忍者は勝負をかけにいく。


「このまま逃げ勝たせてもらうぜっ! 【一閃跳躍】!」


 それは、低空かつ直線の高速移動スキル。

 ここからであれば一息で店にたどり着ける、まさに最高のラストスパートだ。

 しかし。


「がおおおおーっ!」

「ふがっ!?」


 発動の瞬間、メイの【雄たけび】に身体が硬直。

 スキルが強制停止する。


「もう一回【バンビステップ】!」


 着地と同時にメイも、ラストスパートをかける。

 強化された【バンビステップ】で、一気に店へと飛び込んで――。


「わ、わわわわーっ!!」


 店頭に出てきた店主NPCの老婆を、そのまま押し倒した。


「だだだ、大丈夫ですかッ!?」


 慌てて店主NPCの安否を確認するメイ。


「……一位、おめでとさん」


 婆さんNPCは特に気にすることもなく、グッと親指を立ててみせた。


「やったー! ありがとうございます!」


 観戦者たちから盛大な拍手があがる。

 こうしてメイは見事、最後尾からの優勝という新記録を打ち立てたのだった。

ご感想、誤字報告ありがとうございますっ! 適用させていただきました!

今回が振り分けの解答になっていますね。


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

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― 新着の感想 ―
100話読んだ記念にレビュー書かせて頂きました!まだまだエピソードはありますがページを捲る手が止まりません笑 物凄く引き込まれる気がします
[一言] 床ドンッ!メイの冒険譚
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