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悪党令嬢ナインベルの乱!  作者: かすがまる
第3章 鬼謀決戦
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「待たせたな。これより行動を開始する」


 ガロが堂々と命令した相手は、お寺を焼いていた紅家軍だった。一人とか二人とかじゃなくて二百人全員が命令に従った。意味がわからない。


「んなもん、編成の責任者が無能だからさ」


 鼻で笑われたし。馬の二人乗り、柄にもなく丁寧で上手だけれども。


「俺もな、年月かけて人を集めさせちゃいたが、まとめられるのは小隊が精々と踏んでたよ。あとは各部隊に手の者を潜ませておけばいい……そういう計画だった。ところがどうだ。ここ最近の動員ときたら隙だらけじゃねえか。笑ったぜ」


 ええと? つまりガロは、兵隊が集められているのを利用して、自分の言うことを聞く人たちのチームを作ったってこと?


 それって、考えたガロもすごいけれど、実際に動いた人たちがすごいと思う。


「なぜ、ガロのいうことをきく?」

「手足に命じて身体を保つのも頭の役割だからだ」

「……きずな?」

「珍しい言葉を知ってんな。だが違え。そんな曖昧なもんに命を預けられるか」


 何よ、教えてくれないの。気になるんだけれど。


 周りの人は聞ける雰囲気じゃないんだよね。ピリッと緊張感があるだけじゃなくてさ。下手に尋ねたら、軽蔑されるか、めっちゃ早口で解説されるかしそう。


「おら、ここでいいのか?」

「まっていて」


 あの農具小屋だ。暗い暗い物陰に……いた。ゼキア。まだ寝ていた。頬の土汚れが汗で流れて模様みたくなっている。きっと苦しいんだね。もう大丈夫だからね。


「ヨシュア、そのケガ人を台車に乗せて東の僧殿へ行け。兵だけじゃなく薬師も指揮下に入れて治療させろ。あと輿だ。高僧の使うやつがある。徴発状にゃ『さる高貴な姫君が乗るため』とでも書き加えておけ」


 ちょ、勝手に台車持っていっちゃっていいの? っていうか、ゼキアをどうするつもりよ。ああ、行っちゃう。五十人くらいが行っちゃったよ。


「まあ任せとけ。悪いようにはしねえさ」


 わ、悪い顔して言われてもなあ。


「ハージィ、百人で西の僧房を掌握しろ。ババアには話を通せよ。それと……」

「ケイジンとナタ」

「それな。白家軍のやつらもだ。ケイジンって男と、ナタってガキがいるはずだ」


 ガロが命令するたび、テキパキと兵隊が動く。心配事が解決していく……ような気がする。何このスピード感。


「……これが、らいこくむそう」

「この程度でたまるか。次は統領府へ寄るぞ」


 五十人で列をつくって、灯火を高々と掲げて、堂々と表通りを行く。脱獄した人の態度じゃない。まあ、あたしも全国指名手配犯なんだけれども。


 あ、でもさすがに顔は隠すんだ? 兜を深くかぶっちゃったりして。


「後ろにまわって腰にしがみついてろ。落ちんなよ?」


 あっはい。あたしはマントの中なのね……これいい生地だなあ。


「開門せよ! 我ら、統領代行殿のご指示により、北の僧院を焼いて参った!」


 ガロ、嘘は言わせていない。本当のことを言っていないだけで。


 だからなのかな。入れちゃうもの。カッポカッポ進めちゃうもの。疑われているどころか、ちょいちょい連絡も来る。その人たちもスパイ的な感じなのかな。


「統領代行が負傷? 民を襲って刺されるとはアホ極めてんな……だが好機だ。馬を集めとけ。もう輸送計画書は渡しちまっていい。それでそっちは何だ。はあ? 紅家令嬢が軟禁? どうしろってんだ……ああ、そこにか。面倒だな……」


 周りは全然見えないけれど、あたし今、東都統領府ってところのど真ん中にいるんだよね? 全然そんな気がしない……少しも怖くない。


「おら、何で眠そうにしてんだ。ここからは歩きだ歩き」


 うわわ、ベリッてはがされたしポイッて降ろされた。もっと丁重にあつかえし。


「……ここは」

「廊下の先の離れに『閃』がいる。さっさと回収するぞ」


 そうだ、ここだ。ナタと覗き見して、砂塗れになって忍び込んだ場所だ。そこを何人もの兵隊と一緒に歩く。ガロが隣にいる。


 釣り灯籠を巡っていって……扉。兵隊が二人、門番みたいに立っている。そこそこ偉そうな人たちだけれど。


「セシルキア様に面通しをお願い申し上げたい者がいる」


 ガロが直接行った! 何その真面目な口調……って、あたしを前面に出しちゃっていいの?


「参徒衆が捕らえた女童なのだが、例の特務に関わるようでな……言ってはなんだが皇都の疑り深さには嫌になる。こうも振り回される。間違っても統領閣下への疑惑の一つにならぬよう、早々に処理しろとのご命令だ」


 ペラペラとよくしゃべるなあ。訳知り顔で頷き合っちゃったりなんかしてさ。


 で、通れちゃうし。何この釈然としないスムーズさ。ガロってばズルくない? や、でも、ズルするのも強さなのかな。戦いたいわけじゃないし。でもなあ。


「ナ、ナインベルじゃと!? お主、ついに捕まってしもうたのか!」


 セシルキアが駆け寄ってきた。近くで見てもやっぱり美人だ。夜着がセクシー。


「おお、こんなにケガをして……貴様ら、これが貴人に対する振る舞いか! ましてや幼い女の子じゃぞ! 絶対に許さん! 責任者は前へ出ろ!」


 怒ってくれるところがセシルキアだよね。うん。でも落ち着いて。


「相変わらずの早合点だな、じゃじゃ馬。ケガさせたのは俺じゃねえっての」

「お、お主は! なぜじゃ! どうしてここに!?」


 あー、そりゃあ顔見知りだよねえ……って、うわ、うわわっ!


「……姫、様……!」


 うわあ! 落ち着いて! イクサムお願い落ち着いて!


 そんな、片足引きずりながら……待って待って、剣抜いちゃダメだってえ!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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[一言]  で、通れちゃうし。何この釈然としないスムーズさ。ガロってばズルくない? や、でも、ズルするのも強さなのかな。戦いたいわけじゃないし。でもなあ。 ↑ それな。(`・ω・´) 後世でチート連呼…
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