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悪党令嬢ナインベルの乱!  作者: かすがまる
第1章 東都戦火
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003

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「名を聞こう」

「……サムと申します」

「偽名じゃな。二音で呼び済ませられる人間なものか。瞳を覗けばわかる」


 近いったら近ーい! え、ズキューンっていくの!? チュウがズキューンて! ダメだってば! それ、あたしの……じゃないけれど、ダメなものはダメ!!


「逃げるなら、まだ人の多い、今」


 ちょ、ゼキア、引っ張らないで。今目が離せないところで、うわあ力が強い! 痛いよゼキア。わかった。わかったから。


「私かイクサムか、どちらかが欠けても、姫だけは……!」


 ゼキア、あんたまだ十歳とかなのに必死すぎだって。イケメンくんも、剣とか馬とか全部売っちゃったくせに、立派な旗だけは大事にとっていてさ。


 無理しなくていいよ。旗も、あたしも、捨てちゃっていいんだよ。


 どうしてそんなにがんばるの? ねえ?


「く、騎馬だけではなかったか……!」


 わあ、兵隊だ。慌てて戻っても、別の道をってわけにはいかないみたい。鎧は赤くないけれど、槍を持った人があっちの通りにもこっちの通りにも立っている。


 広場、囲まれちゃった? あたし、もしかして、今日ここで捕まる?


「やべーことになってきたな。やりたい放題しやがってよー」


 誰!? あんた、無銭飲食の! 鍋抱えてまだいたの? 


「バップ、お前、場所代を取るのだから何とかしろ」

「紅家とケンカなんかできっかっつーの」

「く、このままむざむざと……!」

「おめーら、逃げてーのか? 何でかは知んねーけどよー」


 こいつ、妙にやさしい目つきするよね。下品で悪者っぽいのにさ。

 

「抜け出すだけならなんとかなんぞ。俺様だかんなー」

「金を、要求するつもりか」

「ちげーよ。たぴ汁分だけ助けてやるってんだ」


 あんた、鍋持ってスタスタどこ行くの。ついていけばいいの? 定食屋さんに入るの? 何でさ? あ、いい匂い。厨房まで入っちゃったじゃん。


「あいつら紅家軍って、うまいもん、食ってんだろうなー。いいよなー」


 裏口を出ると、小路のような中庭のような、生活感あふれる空間だ。下着とか干してあるし。


「この辺は入り組んでっから、慣れねーやつは追うどころじゃねーだろ」

「……どうしろと言うんだ」

「え? あ、あー、そっか。そうだよな。おめーらが迷子になっちまうか……」


 何かキョドキョドするのを見て、わかった。こいつ子どもっぽいんだ。表情とか拍手とか、小学生のイメージがピッタリ合うもの。


「しょうがねえ、表まで案内してやんよ。でもま、一度家に寄るけどなー」


 たぴ汁入りの鍋がタプンと揺らされた。こぼさないでよね、もったいない。


 洗濯物をかき分けて、変な段差で転ばないよう気をつけて、テクテク歩くよどこまでよ。ゼキアもちょっと不安そう。


「あ、バップさまだ」

「ホントだ。なべもってる」

「しらないこもいる。だれ?」


 進むにつれて、ワラワラと子どもが集まってきた。


「たぴじるだ! それたぴじるだ!」

「やった! あまいやつだ! あまいやつ!」

「うっせー、ガキども! オラ、お椀持ってこい! 順番だ順番!」


 あたしより小さな子まで出てきて、ワイワイキャッキャッの大騒ぎだ。ニッコニコでお椀を持ってきて、どれだけおいしいかってことを思い出しヨダレしている。


 お祭りみたいになったけれど。


 皆、裸足だな。半裸の子も多い。髪の毛はボサボサ。肌は垢まみれ。汗とカビと泥を煮詰めたような臭いがする。手足がとても長く見えるくらいに、やせている。


 目だけが、どれもこれも宝石みたいに、キラキラでピカピカだ。


「おーし、自分のがねーやつはいねーな? おっしゃ、楽しく飲んどけや」


 空っぽの鍋を小脇にして、あんた、いい顔しているね。自分の分なんて最初から考えてもいないって態度だしさ。


「んじゃ、行くか」


 何も言わず後に続く。チラチラと、物陰からあたしたちを見る目がある。ガラの悪い……精々が中学生や高校生くらいの子たち。たぶん、仲間なんだろうな。


 ひどいところだね、ここ。


 日当たり悪いし風通しも悪い。舗装もされていなくてデコボコのグチャグチャ。壁も建物も壊れたものばかりで、歪んでいて、雑草だけが健やかに繁っている。


 もしもって、思う。


 もしもあたしが今もお姫様暮らしで、たくさんお金を使えるのだとしたら、ここの子どもたちのために行動しただろうか―――しなかったんじゃないかなあ。イケメンくんたちからチヤホヤされることに夢中でさ。


 こういうの、気づきたくなかったなー。


 ゼキアの手、あったかいなー。


「ここでいーだろ? ほれ、鍋持って帰れ。また頼むぜ」

「……できれば金を払ってほしいがな」

「嫌なこった。金、あんま持ってねーしなー」


 はー、やっと表通りに出られた。まだ随分と明るいや。往来には活気があって、いそいそと歩く人たちの……内の一人がヒョイヒョイと近づいてくる。


「おや、たぴ屋さんとこの二人やないでっか。こないなとこで奇遇でんな」


 行商人のお兄さんだ。たぴ汁を売っている横でお椀とか匙とかを売っている人。キツネ顔って割と好みだから憶えているのよ。


「ケイジン、だったか? 広場がどうなったか教えてほしいのだが」

「すいまへん、ワイもすぐに避難してん。せやけど、サムの旦那はつれてかれたみたいでっせ? 商売道具、騎兵さんたちが運んどるの見ましたし」

「そうか……やはり……」


 夕焼け小焼けの鐘が鳴る。カラーンって東の方から鳴って、北や南からもカランコローンって加わって、西のクワーンも重なる。街中が鐘の音で満たされていく。


 異世界だなあ、本当に。日本はこういうんじゃないもの。


 ここでもあたしは……「いいこと」をしない、あたしのまんまだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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― 新着の感想 ―
[一言] 復活してくれて嬉しいです。 毎日の楽しみが増えました。
[一言] 読んでいて あぁ、作者様の文体だぁ って感じました。 またこの文で、新たな作品が読める事、嬉しい!です!とても! …ただ…過去作からの刷り込みで、普通のシーンでも感情が胸熱や感動へ引っ張ら…
[一言] 待ってました! 火刑戦旗やアウタラグナとどう関係していくのか楽しみにしてます
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