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悪党令嬢ナインベルの乱!  作者: かすがまる
第2章 圏北騒乱
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「白家など負け犬! そんなこともわからないで、こんの、アホウどもがあ!」


 すごい大声。あたしのところまで聞こえてくるけれど。


「左様……嫌だい嫌だいボクちゃんが偉くて強いんだい、と主張していますな」


 横からね、淡々と意訳してくる人がいるのよ。白家軍の上級将校だったっていうノリパス。オールバックがよく似合う。人事課にこういう人いたなー。


「宿場あ、寄越しゃ許してやんぞ! 紅家の皆々様に使っていただくんだよお!」

「左様……飼い主様に捨てられたくないよキャンキャン、といったところかと」

「ぶふぉう」


 ゼキア噴き出したし。何で真顔で言うのよ、ノリパス。こらえるの大変。


 ここ戦場なんだよ? まあ、無理を言って連れてきてもらったんだけれども。


「紅家紅家とうるさいぞ! だが、許してやる! 行儀よく巣に帰れ帰れい!」


 今のヨウシジさんだし。上酒家軍の皆さんがドッと盛り上がって、帰れ帰れって超にぎやかになった……あれ? 笑ってもいいものなの?


「一ついいですか! 馬と剣と槍、支払ってってもらえますか! ボクのところ開拓を奨励してるんで! 農耕馬と農具、あればあっただけ助かるんで!」


 サイルウくんさ……前から思っていたけれど、君、あまり性格よくないよね? 何気にいじめっ子だよね? 笑顔で言っているってわかるもの。


「さて、姫様。そろそろ戦が動きます。気分の悪さなどございませんか?」

「へいき」


 あんたのせいで変な疲れ方しただけよ……っていうか、味方は意訳しないのね。ゼキアがちょっと残念そうにしているわよ。


「くれぐれも本陣から出ませんよう、再度注意しておきます。状況に応じ移動する際は頭巾を深くかぶり円陣の中央に位置します。飲食はほどほどにしていただき、厠事につきましても覆いの内にてお済ましください。質問はございますか?」


 メガネとスーツが似合いそうだよね……ひとつ質問というかクレームがあるよ。


「じんまく、じゃま。いくさがみえない」

「私が物見台より説明いたします」

「……みるために、きた」

「いいえ、違います。姫様は戦場の空気を知りたいとおっしゃり、イクサム烈騎もそれならばと承認しました。守役殿も聞きましたね? はい、話は終わりです」


 こ、この男……あたしが雪森郷にいるって知らせても「仕事のきりが悪い」って理由でこないだまで合流しなかっただけはあるよね! 融通プリーズ!


 あ、太鼓の音。喊声も上がった。戦いが始まったんだ。


「左様……蟹井家軍は魚鱗もどきの群れで突進してきました。土磁家軍から弓射、統制された三連射です。上手いものですな。列も勢いも乱れたところへ、正面から上酒家軍がぶつかりました。これはえげつない。中小諸家軍も当たります」


 本当に実況解説しているし。余裕あるなあ。


「姫、ノリパスを悪く思ってやるな。あれで気を使っているのだ」

「……やさしさ?」

「おそらく。負けるはずもない合戦とはいえ、イクサムがいないからな」


 そう、イクサムの騎兵隊がいないんだよね。今頃はきっと―――


「おお、蟹井家の旗が倒れましたな。さりとて勝鬨が上がらないところから察するに当主は逃げたようです。やはりか潰走が始まりました。我が方の勝利です」


 ―――こっちがこんなに早く終わっちゃって、大丈夫なの?


「さて、姫様。予定通り一部を降伏させました。これと目をつけていた人物を引っ立てて参りますから、白家嫡流の不思議な魅力をご準備ください」

「みりょく」

「冗談です。ではしばしおくつろぎを」


 待って、どこが冗談? 不思議とか準備とか? それとも魅力ないってこと?


 ま、まあいいや……あたしはあたしの仕事をちゃんとやるし。


 降参した人と面談するのも「駆け引き」なんでしょ?


「決起前の総括となる戦いです。勝って当然。どう勝つかが大事になってきます」


 別行動をとる前の晩、イクサムは教えてくれた。


「上酒家と土磁家が主力ですが、本陣は新編の白家軍で固めて両家を従わせる形をとります。これは中小豪族へ権威を示すためです。一方で人質や権益絡みで心ならずも敵対している有力豪族を下す予定ですから、姫様の参陣も有効でしょう」


 少々心配ですが、なんて困った風に微笑んでくれたもの。しゅてきだった。


「大きく勝たなければなりません。味方を増やし、軍の結束を固め、そして退路を断つために。禍根も残しません。そのためにオレが行くのですよ」


 そう、イクサムも戦っている……敵の本拠地を一気に叩いている。もう終わっているかもしれない。空き家を襲うようなものだって言っていたし。


 そして、その攻撃すらも駆け引き。紅家との決戦のためのもの。


「オレの槍は速く遠くへと届く……そう思わせることが大事なのです」


 イクサムが思い描いたものが、東都そのものなのか、それとも東都統領なのか、あたしにはわからない。でも、瞳に火の色が浮かんだように思う。戦火の色が。


 ああ……思い出しちゃったな。忘れることのできない、あの東都の夜の火。


 ねえ、バップ。あんたが生きていたら、仲間になってくれたかな。頑張ったら拍手してくれてさ。アーヤのどんぐり茶、一緒に目を白黒させて飲んだりしてさ。


「姫、そろそろ面談を始めるようだ」


 よし、気を引き締めよう。ナインベルなんだから、うまくやらなきゃね。


 あたしたちが強くなるために。皆で幸せになるために。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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