016
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晴れ渡った空の下、あたしは何を見させられているのだろーか。
「やあ、このたぴ汁ってやつは素晴らしいですね。黒豆汁が進みます」
カジュアル農民って恰好のお兄さんは、タピッたりお汁粉ったりしているし。
「ウム、いい太刀筋だが少々軽いな。体捌きも甘いから、そら、剣線を崩される」
半裸のムキムキおじさんは、イクサム相手に余裕の試合運びだし。
「ほんで、こっちは塩の大店さんとこへの書状で、こっちのは氷切りの親方んとこへのやつでっせ。どっちも元白家軍の男で、忍耐強いお人柄ですわ」
ケイジンは次から次に手紙を広げてくる。あっちもこっちもで目が回ってきた。
ええと、ここに署名すればいいんだよね? ナインベル、ホワイトガルムっと。
ゼキアはありがとう。せっせとお茶を運んできてくれるけれど、もうテーブルの上は所せましだよ。お汁粉……じゃなくて黒豆汁はいらないかな。
「大したものですね。『閃』の二つ名は聞いてましたが、ここまでとは」
あたしのお汁粉もスッと引き寄せて、サイルウくんはウンウンとうなずきつつモグモグと食べる。今どうやって声出したの?
「ヨウシジが、つよい」
「徒歩で木剣だからですよ。あの人は剣術狂いで力持ち。ボクの配下の兵法者じゃ三人掛かりでようやく形になるかどうかです」
「サイルウは、よわい?」
「一対一なら勝負になりませんね。でも、戦場なら十人をぶつけてしまえばいい」
「しきかん」
「その通りです。ボクの軍配はなかなかのものですよ?」
「ガロと、どちらがつよい?」
「……何でそこで雷国無双が出てくるんですか。もう少し手加減できません?」
あ、勝負がついた。すごい。イクサムが負けたところなんて初めて見た。
「参りました。ご指南ありがたく」
「こちらこそだ。ワシも学ぶところがあった」
握手とかハグとかはしないんだ。うん。しないでほしいかも。ヨウシジさんもイケおじだけど、あたし、王子様系が好みだからね。
「ゼキア、指導していただいたらどうです。得難い機会ですよ」
「ウムウム、来るがいい。剣とは人生だ。出会いは縁であり艶。なぜならば……」
「姫! い、いいだろうか?」
「いってらっしゃい……ケイジン、あとどれくらい?」
「これで最後の一枚やで。お疲れさんや。お茶でも淹れてきましょ」
よーし、気合を入れて……署名終了!
名前のところだけは代筆を頼めないからなあ。ハンコ作っちゃダメかなあ。
「いやあ、素晴らしい打ち合いでした。馬上戦なら勝敗は逆だったでしょう」
「あなた方が味方であることを、心強く思います」
「あ、誓紙はまだ表に出さないようお願いしますね。ボクたちも当分は姫様を姫様と知らないよう振る舞いますので」
はー、やっぱりイクサムはイケメンだよね。いっそバラの花とか持っていてほしいもの。サイルウくんも結構いい。王子様クラスではないけれど貴公子クラス。
「姫様は、姫様です。誰にどう呼ばれようともオレが見誤ることはありません」
「はい。でも、まあ、もうちょっと隠した方がいいんじゃないかなとは思います。東都へ来ている紅家令嬢とか大概ですけどね……真っ赤っかの行進をしたとか」
「……白い、行進」
「いやいやいや、対抗するものじゃないですからね? 検討やめてくれます?」
華やかににぎやかに、イケメンズ。あたしへ向けられた微笑みが、二つ。お茶持ってきてくれたケイジンもルックス悪くないし、ニコニコと給仕してくれるしで。
あれ? あたし、もしかして勝ち組?
イケメンにちやほやされるステキ喫茶は、ここにあった?
「ボクたちは不意討ちの面会だったとして……実際のところ急ぎ過ぎてません? 秘密は知る者が多ければ多いほど露見しやすくなりますよ?」
少し責める風な、サイルウくんの問い。
「たとえ『黒狼』に襲われたとしても、『閃』の槍ならば対抗できるのかもしれませんが……護りきれませんよ。相手は大挙して押し寄せてくるでしょうから」
イクサムが答えかけて、でも何も言わずに口を閉じた。あたしを見てくる。ケイジンはさっきから静かにそうしている。
大丈夫だよ。決断には責任がともなうってことを、あたしはわかっている。
「わたしがいきていることは、しられていい。ほんもののナインベルがそんざいすると、はっけのにんげんはしるべき。そして、わたしのかんがえも、しれ」
強い口調になっちゃった。ドンドンと言葉が湧いてきて、止まらない。
「むだなたたかい、だめ。いのちのむだづかい、だめ。わたしのにせもの、ぜったいに、だめ。みがわりにたてられ、ころされる、おさないいのち……とめられないなら! うしないつづけるつもりなら! はっけなど! ほろびてしまえ!!」
涙が出てきたけれど、流さないぞ。泣いている暇なんてないんだ。
そうだよね、バップ。
まぶたの裏に焼き付いた戦火……その中では、今もあんたが戦っているよ。どうしようもなさに抗って、どうにかしようって、必死になってさ。
「わたしは、わたしがナインベル・ホワイトガルムであることをほこるため、けつだんした。これからも、けつだんしていく」
所信表明っぽくなっちゃった。ゼキアとヨウシジさんも聞いていたみたいだし。
今さら恥ずかしさが。顔をグシグシして涙をごまかそ、う、うわ、どうして皆ひざまずくの!? た、助けてイクサム……はわあ……イクサムってば。
やさしいだけじゃなくて、まるで抱きしめられているみたいな、微笑み。
えっと、イクサムポイント的な何かが、上がった感じ? や、やったぜ!!
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