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悪党令嬢ナインベルの乱!  作者: かすがまる
第2章 圏北騒乱
13/44

013

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 荷馬の背の、荷箱の上の、ナインベル……あたし五七五のセンスなさすぎ。


 でも現実。三歳児の旅事情。あたし、どうあがいても荷物の一つでしかないよ。箱のふたに紐で固定された座椅子、それが異世界のチャイルドシートだもの。


「いやあ、雲突山もだいぶ見慣れた姿になってきよったなあ」


 あのでっかい山だよね? ケイジン、手綱をクルンクルン回して嬉しそう。


「大人しく馬を引け。姫が落ちたらどうする」


 ゼキア、体力あるなあ。背負うものもあるのに全然ヨロヨロしない。


「おっとすんまへん。けどまあ、もう登りはないで。あとはのんびりしたもんや」

「……行き来は頻繁なのか?」


 イクサム? 遠くを見やって……あ、鳥の群れだ。わあ、多いなあ。


「いやいや、ご指示に従っとったやないでっか。東都に入り浸りでっせ」

「残る道中の情勢を、君はどう見ている」


 難しい話が始まる予感。聞こう。わ、わからないなりに。


「ここいらは豪族二家の境界になっとりますね」

「家の名と家風、それに向き合いようを」

「上酒家と土磁家。どっちも腕に覚えありで、何度かやり合うとります。小さくとも宿場があるさかいに」

「旗幟は」

「そろって白家寄りやったけども……んん!? 今聞こえた音! まさか!」


 え、何も聞こえないよ? ちょっとケイジン、どうして手綱をゼキアに……あーあ。走っていっちゃった。


「姫様、少々騒がしいものを見せるかもしれません」

「……きけん?」

「いいえ。オレがいますから」


 ニコッてしてくれたけれど、イクサム、外套の下に剣を隠し持ったよね? ゼキアも杖を持ち替えた。駆け戻ってきたケイジンの……え、それどういう表情?


「あー、その、何でやねんっていうか……まあ、合戦なんやけども」


 合戦! やっぱり戦争だ!


 一気に緊張感が高まる、となるのが正しいと思うんだけれど……ねえケイジン、歯にスルメでも挟まっちゃったの?


「見てもろた方が早いかと。この先の坂から見渡せるし」


 気になる言い方するなあ。とにかく坂まで急いで、眺めやったら。


「……なに、あれは」


 確かに合戦ではあるよ。軍隊が左右に分かれて向かい合っているもの。旗も槍もいっぱいだし、騎馬もいる……それなのに、何だか少しも怖くない。


 動かないから? 叫んだりしないから? それとも……??


 あ、太鼓が鳴った。そうか、これから戦いが!


 ザッザッて進んで、槍がブンブン振られて……そこまだ届かなくない? 騎兵も駆けていくけれど、すれ違うだけだ。そもそも武器を持っていないような……?


「あれは、なに」

「戦ですよ、姫様。ただし、事前に申し合わせが済んでいる戦なのでしょう」


 イクサムは苦笑いだ。ケイジンもそうなった。ゼキアは首を傾げた。


「くわしく」

「いつどこで、どのような編成で、どう当たりどう流れ、いつ終えるのか。人死を避けるのか否か。略奪はありかなしか。ありとしても何を禁ずるか」

「……それは、きめられるもの?」

「はい。場合にもよりますし、程度もそれぞれですが……ここまで芝居じみたものはあまり聞きませんね」


 そうそう、これもうお芝居だよね。スポーツと言ってもいいかも。これで争いが済ませられるのならステキだよ。


 はー、なるほど、こういう戦争もあるんだなあ。


 ……待って。


 これでいいなら、三年前の月夜は何? 白家の今は何なの?


 沸き起こった言葉を口から出せなかった。イクサムがあたしをジッと見ている。悲しくて痛々しい、その眼差し。


「一族家臣の命運を賭けた戦いは稀ですが……大義や大望が並び立たなかった時、それは戦われるのですよ」


 やっぱり難しいことを言うよね、カッコイイ顔してさ。


 あたしは、わからないといけないんだ―――なぜ白家が戦って、負けて、滅ぼされそうなのかを。わからないままじゃ、ガロの言う「旗飾り」にしかなれない。


「はっけは、ひつよう?」


 素朴な問いがポロリとこぼれた。


 イクサムがゆっくりとうなずいた。ゼキアとケイジンも同じ意見みたい。必要だと思う理由は、たぶん、微妙に違うんじゃないかな。


 それでも、三人ともあたしを通じて白家を想っている。


 想いを集めるだけのものが、白家にはあるってことだ。


「そう……わかった」


 わかりたいって気持ちを籠めて、言った。だってあたしは白家のない世界を知っていて、こっちの世界はまだ詳しくない。納得なんてできるわけがない。


 もっと知って、考えて考えて、今度こそちゃんとやりたい。


 ナインベル・ホワイトガルムなんて二度目の人生をやる意味は、きっとそれだ。


 日が雲突山を越えて傾いた頃、合戦は終わった。エイエイオー的なやつをどちらもやって、それぞれにさっさと帰っていっちゃった。運動会終了って感じ。ビールと焼肉でおつかれ様パーティとかやりそう。


 そんなことを考えていたから、かな。


 着いた宿屋で大宴会が催されていても、やっぱりなって思ったくらいだけれど。


「何てことだ。ワシ、どこの偵察かと構えていたのに。ケイジンだったとは」

「ボクはそんな気がしていましたけどね。お久しぶりです、ケイジンくん」


 渋い系のおじさんとやさしそうなお兄さんが絡んできて。


「さっきのボクたちの合戦、どうでした? カッコ良かったですか?」

「そりゃあ、手に汗握ったろうよ。ワシらが軍配を振るったのだからな!」


 何かとんでもないことを言い出した!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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― 新着の感想 ―
[一言]  はー、なるほど、こういう戦争もあるんだなあ ↑ そして、こういう戦争が合戦絵巻に描き残されて、後の世にこの時代はだいたい一騎打ちやってましたと教科書で教えるようになるんでしょうかね(´・ω…
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