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悪党令嬢ナインベルの乱!  作者: かすがまる
プロローグ 月下烈騎
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001

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ステキなイケメンくんとラブラブしたーい、なんて。


 そりゃ願ったよ願ったさ。最期くらい現実逃避したっていいじゃんか。毒親のモラハラにいじめ抜かれたし、五十人学級で超受験戦争で就職氷河期のいわゆるロスジェネ世代だし、ブラック企業で文字通り死ぬまで扱き使われたんだから。


 それが、気づいたら赤ちゃんでさ?


 大きなお屋敷で、蝶よ花よと育てられてさ?


 たとえ夢や幻でも、あたし、幸せだったよ。みんなが何語しゃべっているのかもわからなくたって、つかまり立ちしたら拍手までして喜んでくれたもの。


 でも、また死ぬ。


 もうすぐ殺される。


「ひめはえらいな。なかないし、いつもきれい」


 ゼキア。あんた、涙と泥でひどい顔ね。口も首も血に染まっている。あたしをかばってケガしたんだ。馬車がひっくり返っちゃった時に。


「ダイジョブ。わたしがまもる。こわいことなんて、ない」


 手も身体も震えている。怖いんだね。わかるよ。あたしたち、これからひどい目にあうんだもの。


「ちっ、ガキかよ。ハズレもいいところだ」


 来た。物々しく武装した男たちが。

 

「いや、そいつには見覚えがある。白家の屋敷でご令嬢の相手をしていたはずだ」

「あ? んじゃ大アタリってことか?」

「赤ん坊をくるむ着物を見てみろ」

「ははあ、ハズレでも酒代くらいにゃなりそうだ。ガキも女っちゃ女だしな」


 ゼキア、逃げて。あんただけでも生き延びて。あたしのお守り役なんて、もう意味ないんだから。そうよ、あたしなんて捨ててしまって。


「うらぎりものの、ゲロウども!」


 何さ、その後姿。棒なんて構えちゃって。振りかぶったって大人の頭へは届かないのに、目一杯に威嚇しちゃって。


「ひめには、ゆびいっぽん、ふれさせん!」


 無理だよ。相手が強すぎるし多すぎる。敵は千とか万とかいる。


 戦争なんだよ。


 よくわからないけれど、うちの家は国を二分するような権勢の家で、敵対するもう片方との決戦に負けちゃったんでしょ? だからこんな目にあっているし、両親も兄弟も、もう……。


「おい、聞いたかよ。こいつはいよいよアタリくせえじゃねえか」

「白家の末姫なら値千金だ。役職も期待できるぞ」

「うっひょう! 紅家様様だぜ!」


 ああ、怖いことが始まる。


 もしかして、そういう罰なのかな。思い知らせる的なやつ。ろくでもない妄想ばかりだった馬鹿女に、ちょっとだけいい夢を見させてから、悪夢への急転直下。


 そうだとしたら―――むかつく。


 確かに、あたしは「いいこと」をしてこなかった。誰かの役に立ったことも、役に立とうと思ったこともない。誰かを愛したことも、愛されたこともない。


 そんなあたしのことを、あたしは嫌いだ。


 それでも、ちゃんと生きた。


 産んでくれなんて頼んでもいないのに、生まれて。なるべく誰かの迷惑にならないように、暮らした。生活することから逃げなかった。前のめりに死んだんだ。


 ご褒美くらい、あってもいいじゃないか。


 別に乙女ゲームみたいな逆ハーレムを寄越せなんて言わない。勝ち組セレブライフもなくていい。誰か一人だけでいいんだ。全力で愛されたかった。それで、自信たっぷりに愛し返してみたかったんだよ。


「うわ、こいつ、暴れやがって!」

「ふれさせん! ぜったい!」

「斬るなよ。手足の一本でも圧し折っておけばいい」

「はなせ! はなせえっ!」


 ああ……ちく、しょう。


「う、う」


 ちくしょうバカヤロウ……コンニャロウ! ふざけんな!!


「あう、う!」


 こんなの認めない! 体は赤ちゃんでも中身は大人なんだ! 立て、あたし! ゼキアを助けろ! 何が何でも、助けるんだ!!


「んああああああっ!!!」 


 叫んだら。


 ドカンッて音。サッと差し込む月明り。頬を撫でる風。男たちを一気に蹴散らしたのは、夜空から飛んできたみたいな、白馬の騎士。


 槍の血を払ったのは、イケメンくんだ。


 金銀宝石を星の光で彫刻したような美しさの―――中性的で透明感があって高校生くらいに若々しい、絶世のイケメンくんだ。


「旗本烈騎、イクサム見参」


 声までカッコイイ。やさしくて色っぽい響き。何か微笑むし。


「守役殿とお見受けする。お役目見事です。よくぞ姫様を護りとおしました」

「ひめを、ひめをどうか」

「そのためにこそ駆けてきました。さあ、こちらへ。敵が集まる前に」


 抱き上げてくれるゼキアの目から、涙がポロポロ落ちてくる。


 そうだね。怖かったよね。それでも、まだ安心しちゃダメだって、歯を食いしばってくれているんだ。あんた、まだ小さな子どもなのに。


「これよりはオレが引き受けます。守役殿は、姫様を落としてしまわないよう、しっかりと鞍へつかまっていてください」


 力強い熱気が、ゼキアごとあたしを包みこんでくれる。


「おやかたさまは? ひめをまってるのだろ?」

「……戦塵を避け、東越道へ落ちます」

「はっけは! はっけのぐんぜいは、みんなは!?」

「白天旗は再びあがります……いつか、必ず」


 雨? おでこにポツリと冷たいものが触れた。何だか眠くて、たまらない。ゼキアがギュってしてくるし、馬が駆けるとユサユサ揺れるし。ポカポカでフワフワ。


 あー、無理。寝るう。


 イケメンくん、カーッコよかったなあ……ぐう……餃子食べたい……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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― 新着の感想 ―
[一言] あらすじ見て面白そうだと思いました。続きが楽しみです。
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