4話 おせっかい
「比べられるというか、自分で比べてたって言うか。昔から周りの子と自分を比べてちょっと無理しちゃうことがあって」
「……そうなんだ」
「みんなと合わせなきゃーって思ってたんだけど、星花に入ってからはやめることにしたんだ」
そう言って笑う美紅ちゃんだけれど、なんだかまだちょっと無理してる感じがした。
おせっかいかもしれないけど、聞いてみようか。そう思ったとき。
「って、椿姫ちゃん関係ないのに何言ってるんだろうね、あはは。ごめんね、変なこと聞かせちゃって」
「ううん、そんなことない。……よかったらまた話聞かせて? 色々相談にも乗るよ」
そう言われちゃったら何も言えない。私は微笑むことしかできなかった。
「椿姫ちゃん優しいんだね。……もしかしたら、お願いしてもいいかな」
「もちろん」
それからその話題に触れるのが気まずくて、食べ終わるまで他愛のないことをお喋りしていたけれど、どこか上辺だけの会話のように感じて落ち着かなかった。
……ちょっと彼女のこと、気になるかもしれない。
お姉ちゃんからよく、『困ってる人や悩んでる人がいたら力になってあげなさい』って言われてて、それを思い出して今までやってきたことも確かにあるけど、ここまで私自身が美紅ちゃんに何かをしてあげようと思うとは思いもしなかった。
どうしてかは分からないけど、力になってあげたいって思った。
*
勉強会に戻っても、まだ休憩時間は残っていた。
私は周りをぐるっと見渡して見知った人を見つけた。
「あ、いたいた。恵理ちゃーん!」
「椿姫〜! 会いたかったよー。どうしたの?」
「わたしもー。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「いいよ、なに?」
私が話しかけた小山田恵理は二組の子で、美紅ちゃんと同じ軟式テニス部に所属している。
話してて面白い子で、たまに遊びに行ったりする仲だ。
「齋藤美紅ちゃんっているでしょ? 二組の」
「うん、いるいる」
「その子のこと、教えて?」
「なーに、またお節介?」
「そんなとこ」
やれやれ、というジェスチャーとともに苦笑いされる私。
彼女とはちょっとした事情で波奈さんを通じて知り合った。
難病にかかって入院していたせいで留年したらしく、本当は年上だけど私と同じ学年だ。
今ではすっかり元気一杯に過ごしている……らしいとしか言えないのは、昔の恵理ちゃんを知らないから。
入学したときにはもう普通に過ごしていたから、仲良くなって話を聞くまで全く気づかなかった。
「懐かしいね。椿姫が後輩の恋の成就のために海外まで飛んでったの」
「もーそれは言わない約束でしょ?」
「ほんと損な役回りだよね、みんなの恋のキューピットをして回ってるのに自分は相手がいないの」
「むかっ、恵理ちゃんはいいね、素敵な彼女ができて」
恵理には私と同じ四組の野々原茜ちゃんという彼女が最近できたらしく、私に恋人ができないことをネタにして事あるごとに私に自慢してくるのがちょっとうざい。
「でしょ? 聞いてよ、昨日もねーー」
「今は私が聞いてるんですけど!」
「あはは、ごめんごめん。美紅ちゃんか〜」
うーん、と考える恵理ちゃん。
私は同じテーブルの子たちにも話を聞いてみる。確か彼女たちも同じ軟式テニス部だったはず。
「なんか悩んでたりしてそうになかった?」
「うーん、あんまりそんなことなかったような……」
「だよね、いつも元気だし、みんなと仲いいし」
「そっか……。恵理ちゃんはどう思った?」
「ちょっと普段から無理してそうな感じはしたかもしれない」
やっぱり。
「無理に明るく振る舞ってるっていうか、辛いことは抱え込むタイプというか。そんな感じかも」
「そっか。恵理ちゃんが言うならやっぱりそうかも。私もちょっと無理してる感じがして気になったんだ」
「お、なになに、ついに誰かの手伝いじゃなくて自分のこと? 美紅ちゃんが気になる……ってそういうこと?」
「ちがうよ、単純に話してて気になっただけ」
「ちぇっ、つまんないの」
最後には茶化されたけど、恵理ちゃんの人を見る目は間違いないって私は勝手に思ってる。
だから私が感じたことは間違ってなかったっぽい。
「椿姫ちゃーん、質問したい子がいるって! 休憩もそろそろ終わりだよ」
「もうそんな時間? わかった、すぐ行く。……恵理ちゃん、ありがと」
「お安い御用よ」
クラスの子が教えてくれる。恵理ちゃんに手を振ってバイバイすると、私は駆け足で定位置に戻った。
今回初登場の小山田理恵さんについてはこちらのnoteをご覧ください。
『小山田理恵』(ページ最上部)
https://note.com/tomitsukasa/n/nb2366a9e4b23
小山田理恵さんが出てくるお話
しっちぃさん著『茜さす君に見初むる幸ありて。』
https://ncode.syosetu.com/n2860fz/