1話 勉強会を始めよう
いよいよ期末試験が近づいてきた。
恋愛にあれこれ考えを巡らすのも一旦お預け、2週間後の期末試験に意識を向ける。
クラスの空気も次第にピリピリしたものになり、普段なら休み時間に友達と集まって談笑していたクラスメートたちも日を追うごとに一人、また一人と机に向き合うようになった。
もっぱら話の中心は試験範囲や勉強の仕方についてになり、必然的に私もその輪に加わることが増えてきていた。
「椿姫〜、また先生やって〜?」
「もちろんいいよ。みんなで集まって勉強会しようか」
「お、それ賛成! わたしも行っていいよね?」
「ウチも参加したい!」
私は入学主席の名に恥じず毎回のテストで全教科ほぼ満点という好成績をおさめている。
正直そこまで成績にこだわっているわけではないけれど、お姉ちゃんも入学から卒業まで一度もトップの座を譲ったことがないと聞いて、私もそれに続いてお姉ちゃんに負けないことを証明したかった。
……決して主席を取るたびご褒美としてお姉ちゃんが二人きりのデートをしてくれて、私の好きなお洋服を買ってくれるっていう約束があるからじゃないよ?
ともかく、これまでの定期試験で成績上位者の名前が貼られるシステムのせいであまり知られたくないにもかかわらず、夏休み前にはもうそれはたくさんのクラスメートや他のクラスの友達から教師役を頼まれて苦労した。
今回も例に漏れず、勉強会の話題が上がった瞬間教室内にいた半数近くのクラスメートたちが私の方を向いて助けを求めるような視線を向けてくるのは気のせいだと思いたかった。
今までやった二回の勉強会の噂がどうも広がりすぎたらしい。確かに教えた子たちの成績はみんな少しずつ良くなってるけれど。……いくらなんでも増え過ぎじゃない? 中間考査は十人もいなかったよ?
「わ、わ、そんなに見られても私は一人しかいないからそんないっぺんに教えられないって」
「まーそうだよねー。まだ今週中は部活ある人も多いだろうし……」
「それにこんなたくさんの人が集まって勉強できる場所なんてないよ。みんな残ってまで教室でやりたいわけじゃないでしょ?」
「うぅ、椿姫ちゃんの仰るとおり……」
揃いも揃って項垂れる仲良しのクラスメートたち。
「あっ!」
「何か名案でも?」
「椿姫ちゃんの家は……」
「却下に決まってるでしょ」
「だよねぇ」
「いくらなんでもこんなたくさんの人数入る部屋なんて無いよ」
「「「そっか……」」」
うーん、と頭を捻る一同。そんなに私に教えてもらいたいのかと思うとなんだかこそばゆい気分になる。
「あっ!」
「何か名案でも?」
今度は違う生徒が手を上げた。
「図書館はどうかな!」
「図書館なら確かに私服でも良いことになってるから楽かもしれないけど、静かにしてなきゃいけないから教え合いはできないよ」
「ううん、図書館に会議用の大きな部屋がいくつかあるの。そこを一部屋貸してもらって勉強会をしようよ! 図書委員の集まりで聞いたんだけど、生徒会と司書の先生の許可で使わせてもらえるんだって!」
「「「それだ!!!」」」
そうと決まれば話は早い。
私は放課後、早速その提案をした図書委員の子と数名の友達を連れ立って生徒会室を訪れた。
とはいっても、また生徒会に勧誘されたり交換条件として手伝わされたりするのは困るので私は扉の外で待っていた。
「勉強会で使いたいというのは大いに結構だけれど、本当にあの会議室の広さは必要なのかしら」
「ええっと、その……多分それくらい来るんじゃないかなって」
「多分じゃ困るわ。土日や放課後も使いたいっていうのは分かるけれど、教室で賄えることは自分たちの教室でやってほしいわね」
「そんな〜会長〜!」
……どうやらあまり良い流れではないみたい。
はぁ、仕方ない。本当はあまり生徒会に恩を売りたくないけれど。
「会長さん、私が中心になって開こうってみんなで話をしてるんです。今までたくさんの人に勉強の手伝いを頼まれてて……。みんなまとめていっぺんに教えられたらいいなと思ったんです」
「椿姫さん……」
私が顔を見せたら驚いた顔をした生徒会長の君藤芽依先輩。清歌さんの次の会長さんで、雰囲気はお姉ちゃんっぽい人。
「だめ、でしょうか……?」
「……。まあ、椿姫さんがいるなら大丈夫そうね。会議室の使用を認めましょう」
少しの間考える素振りを見せると、判子を押すからちょっとまっててと言って会長室に引っ込んだ。
あれ、何も言われないのかな……? もっとこう、色々言われるのかと身構えてたのに。
「さすが椿姫ちゃん! 会長さんもイチコロだね!」
「椿姫ちゃんすごい!」
「やったね!!」
そんなことを隣から嬉しそうに言われるけど、困惑が勝って正直それどころじゃなかった。
「はい。お待たせしました。私は許可しましたけど、司書の先生が最終決断をしますからね」
「はい、早速許可をもらいにいきます! ありがとうございます、会長! さ、行こう椿姫ちゃん」
「…………」
「椿姫ちゃん?」
「あ、ごめん。先に行っててくれない? 今度は私の名前を出してもいいから」
「う、うん。分かった」
私はクラスメートたちに先を急いでもらい、会長と二人きりになった。
なんか話したそうな顔をされたし、私も聞きたいことがあったから。
「椿姫さんは私に何か言われるかと思ったのかしら? 悲しいわ……」
よよよ、と泣き真似をする先輩に慌てて弁明する。
「ち、違います! ……違わないですけど、そういうつもりじゃなくて!」
「くすっ、分かってるわ。あれだけ普段からしつこく勧誘すれば避けたくもなるわよね」
「すみません。……でもどうして何も言わなかったんですか?」
「あら、生徒会に誘ってほしかったの?」
私はぶんぶんと思いきり首を左右に振る。
「でしょう? それにクラスメート前であんまり言われなくもないでしょう」
「会長……勘違いしててごめんなさい」
「いいのよ。……前から言ってるけど、無理矢理誘ったりはしないわ。無理に参加してもらってもやる気がなくてだらだらされたら嫌だもの。意欲が充分ある生徒が生徒会に入らないと意味がないわ」
「そう、ですね」
「ええ。だからあなたも本当に生徒会に入って仕事がしたいなって思えたら是非入ってね。椿姫さんなら大歓迎よ」
「……はい」
そういうことにはきっとならないだろうけど。
……私、ちょっと勘違いしてたかも。
「でも引き続き定期的に誘うわね? 数撃ちゃ当たるっていうでしょう?」
「やめてください!」
うぅ、やっぱりそんなことはなかった!