-1話
前回に引き続き、内容の一部にプロジェクト全体の設定と齟齬が生じている部分があり、修正も検討しましたがプロローグ全体の流れと今後に繋がる土台が崩壊してしまうためやむなくIFとして扱っています。
詳細は-2話及び-1話にて説明しています。
「でもあるとき、それがお遊びじゃなくなった。二年生の春頃に結唯のお父様が出した同性婚の法案が通ったのよ」
そう語る波奈さんの口調は、段々熱を帯びたものになっていく。
私も気付けば固唾を呑んで聞いていた。
「学園中に衝撃が走ったわ。だって、今までお遊びだと思っていた恋愛が本当の愛になる。今まで諦めざるを得なかった愛が、本物になる。愛し合う二人が結婚することができるようになれば、誰にも縛られることのない、自由な未来が開かれる。……結唯たちの主張してることが一気に現実味を帯びてきて、向こうの勢力はどんどん大きくなっていった」
「波奈さんはどうだったんですか? 波奈さんもきっと、なんていうか今の状態から変われるんじゃないかって思ったと思うんです」
波奈さん自身も、新しい風に心惹かれたはずだ。
「もちろん私も興奮したわ。でも現実を見ると、いくら法律で認められたからと言って両親をはじめとした周囲は変わらないもの。子供がなんと言ってもね」
寂しそうに波奈さんが語る。
「私はなんとなくそれが分かってた。実はね、生徒会長になったあたりにはもう、結唯のことが好きだって自覚していたわ。ライバルじゃなくてね。結唯も口にはしなかったけど気付いてたと思うし結唯もまた私を好きだったんだと思う」
「…………」
「そのときの私の気持ちはきっと憧れ。レールが敷かれた未来に抗ってる姿が私とは大違いで。それが羨ましかった。私にはそんな勇気なかったから、必死に抗い続ける結唯にいつの間にか惚れてたのね」
「…………」
「どっちが言い出したのかわからないけど、いつの間にか私たちは毎日のように二人きりで会うようになっていたわ。真夜中の誰もいない校舎の、広い生徒会長室のソファでね」
なんてロマンチックなんでしょう。
敵対しているはずの二つの派閥のトップが、誰にも打ち明けることのできない恋心をこっそり通わせていたなんて。
「今でも覚えてる。十七年前の四月三日、日付が変わって結唯の誕生日になったとき。あの日私は、結唯に自分自身のこと、家のこと、将来のことを泣きながら話したの。私だって、自由になりたいって。あなたのことが好きで、ずっと一緒に居たいって」
「そう……なんですね」
「ええ。結唯は私のことをそっと抱きしめてくれてね、大泣きする私の頭を優しく撫でてくれた。その時に結唯も、ずっと前から波奈のことが好きだったんだ、なんて言ってくれたの」
思い出すように目を瞑る波奈さん。
ちょっと恥ずかしそうに頬を染めている。
「それから月明かりを頼りにどちらともなく顔を寄せてちゅっ、てね」
「……素敵」
「えへへ、そう? そう言われると恥ずかしいわね。結唯のは分からないけど、私のファーストキスはこの時だったのよ。それまでお人形でいるために忙しくて恋愛なんてしてこなかったから」
「きっと結唯さんも初めてだったんだと思いますよ」
「だと嬉しいけれどね。いつか聞いてみたいけど、恥ずかしいしあの時のことまだからかってくるから嫌なのよ」
「結唯さんらしいですね」
「全くね」
ここで一気に緊張が解けて、すっかり冷めた波奈さんが入れてくれた紅茶をすする。
「それで、結局派閥争いはどうなったんですか? 最終的に波奈さんたちが結婚したのは分かりますけど、告白した日にはまだ全然学園は大変だったんですよね?」
「そう、私たちの想いが通じ合ったのはよかったんだけれど、こっから結婚までが大変だったわ。もう二度と経験したくないくらい」
「はい」
「学園の方はね、簡単だったのよ。だってみんな結唯の派閥に移っちゃってたし、それに私と結唯がくっついたって知れ渡ると対立関係も自然消滅したわ。……だってみんな女の子だから、そういう泣ける話に弱かったのね。最終的にほぼ全生徒が私たちを応援してくれるようになった」
「ほぼ全生徒……」
清歌さんから聞いた、お姉ちゃんのファンクラブもそのくらいの規模だったという。
全く想像持つかない規模なんだけど……。
「苦労したのはうちの家でね? 結唯のご両親はそれこそお義父様が同性婚の法案を出した張本人だったからすんなり賛成してくれたんだけど」
「さっきも言ってましたもんね。伝統を大事にするって」
「ただ頭が固くて伝統しかない家なんだけどね」
「もう、せっかく言葉を濁したのに……!」
「あはは、ごめんごめん」
今こうやって笑って冗談を言いながら話せる事になるくらい長い時間が経ったのだろうなって思う。きっと当時はこんな余裕はなかったに違いない。
「本当に大変だったわ……。家に入れてもらえない事にはじまって、大喧嘩したり、勘当されそうにもなったし。最終的にはお義父様が乗り込んで説得して回ってくれてね? ほら政治家って口は上手いから。それで最終的に結婚式には両家がきちんと揃ったわ」
「本当に良かったです」
「片方は渋々だったけど。まあ私たちの事が日本中の上流階級の女の子をはじめとした人たちに知れ渡ったのでしょう。あれから本当に多くのカップルが女の子同士で結婚するようになってね。先輩後輩同級生からお礼をたくさん言われたわ」
「なんて言われたんですか?」
「大抵はありがとうとかだった。……そんななかでも特に嬉しかったことがあってね? あなた達のおかげで、本当に愛せる人と共に生きる事ができるようになりました。って言ってくれたかつての私と結唯の派閥にそれぞれいたカップルの結婚報告には報われた気がした。私たちの結婚がなければ愛し合う二人が引き離されてたかもしれないから」
そこまで言い終わると、もう一度波奈さんは自分の膝を叩いて膝枕されるように催促してきた。
私はカップをソーサーに置いて素直に従う。
「どうだった? ……どうって言っても私たちのは参考にならないわよね。それに私たちみたいな苦労をしない恋愛をしてほしいわ」
そう言って笑う波奈さんだけれど、私は至って真面目に答える。
「……今の環境に感謝しなきゃいけないなって。お互いが心から幸せになれるような、そんな人を見つけたいです」
「そう。……椿姫ちゃんならきっと素敵なお相手が見つかるわ。だってこんなにいい子で真面目なんだもの。みんなから好かれるアイドルが誰かと恋人になるのは難しいし障害はたくさんあるけれど、アイドルだって恋をしていいのよ」
「私がそのアイドルなのかはともかく。ありがとうございます、色々なお話をしてくれて」
「ええ、また何かあったら聞きに来なさい。電話でもいいし、お相手が見つかったらその報告でもいいわよ? 私もどんな子と椿姫ちゃんが付き合うのか興味があるからね」
私はそっと立ち上がり、丁寧にお礼を言って理事長室を後にした。
やっぱり波奈さんってすごいなぁ。
すごく大変だった過去を乗り越えて、幸せを掴み取った。
私もそんな素敵な恋愛がしてみたい。
IF表現について
星花女子プロジェクト第9弾時点の設定で、同性婚は認められていません。
作者の勘違いにより、設定を確認する前に書き上げてしまったためプロローグ全体を“-(マイナス)○話”として区別しています。
同性婚部分を含む箇所の修正も考えましたが、プロローグ全体の流れと今後に繋がる土台が崩壊してしまうためIFとして扱っています。
今後のメインのお話の中での椿姫の行動も今回聞いた波奈さんのお話を踏まえてのものになりますが、先述の通り同性婚は認められておらずパートナーシップ程度のものであるため、なんかすごく感動する馴れ初め話を聞いたというていでお話を進めさせていただきたいと思います。
同様に、-5話で記載されている“婚約者”、-3話の“結婚”という表現も同様にIFとなります。