-2話
プロローグである“-(マイナス)○話”部分は内容の一部にプロジェクト全体の設定と齟齬が生じている部分があり、修正も検討しましたがプロローグ全体の流れと今後に繋がる土台が崩壊してしまうためやむなくIFとして扱っています。
「私と結唯はね、当時の生徒たちの例に漏れずすっごく仲が悪かったのよ」
「えっ、全然想像できない……。今はお姉ちゃんと清歌さんくらい仲いいじゃないですか」
「今はね? 昔は入学したときからライバルでね。まず主席と次席で入学して、毎回の試験で学年一位二位を争って……。中等部から何かの運命でずぅーっと同じクラスだったのよ。付き合い初めてからは好都合だったんだけどね、はじめの頃はもうこれでもかーってくらい張り合ってたわ」
「へぇーっ」
おしどり夫婦の二人の仲が良くなかった時期があるなんて。
想像が全くできない。
いつもニコニコのふんわりお姉さんな雰囲気の波奈さんと、ベリーショートの髪がとっても似合うカッコいい結唯さんほどお似合いの夫婦は他に見当たらないくらいなのに。
あ、お姉ちゃんと清歌さん以外でね?
「じゃあどうして付き合うことになったんですか?」
「それが今でも不思議なのよね〜。今でこそ結唯はみんな憧れの王子様みたいな感じをしてるでしょう? ところがどっこい、当時は見事なスケバンだったわ」
「うそっ!?」
「ほんとよほんと。ほら、これは高等部一年の頃の写真ね。左が私で右が結唯」
波奈さんは立ち上がって執務机から一枚の写真たてを持ってきてくれた。
そこには、深層のご令嬢っていう雰囲気の波奈さんとちょっと怖い見た目の結唯さんがお互いそっぽを向いて写真に映っていた。
「私は当時、まあ自称するのはおかしな話だけど星花や両親が求めるような模範的で家庭的な優良生徒でね? ほらみて、今の私でも笑っちゃうくらいのお嬢様っぷりでしょ。まあ見ての通り大人たちが求めるような理想的な人間になろうとしていたの」
「そうですね、確かに大人しそうで真面目な印象です」
「でしょ? 今こんな感じに緩んでるのは全部結唯のせい。せい、というかおかげかな? ただの操り人形だった私を、この世界でただ一人の私として認めてくれて、私は私自身の自由で生きようって思うことができた」
「…………」
「ごめんね、急に重い話をしちゃって」
「いえ……今の私は恵まれてるなぁって思えて」
お父様も、お母様も私がしたいことを自由にさせてくれている。
お姉ちゃんが清歌さんと婚約して家で堂々と愛し合ってるのもそうだし、私たちのことを最大限尊重してくれてる。
そっか、これが昔だったらお嫁に行って恥ずかしくないような淑女になるように強要されて、今とは全然違う人生を歩んでいたのかもしれない。
今でこそ女の子同士で結婚して子どもも育てられるようになったけど、昔は社会的にもそういう空気は禁忌とされていた。
聞いたところによると星花をはじめとしたお嬢様学校のカップル率が他校と比べて昔からかなり高い理由は、結婚させられる前の残り少ない時間で自由に恋愛することを経験してみたかったからだという説もあるくらいには違う世界だったはずだ。
「そうね。今と昔じゃ全然違うし、私と結唯が結婚した当時も家族をはじめ周囲から猛反対の嵐よ。それでも家族をなんとか説得して結婚したんだけどね。……おかげで今は心の底から幸せ」
「そう、だったんですね」
「まあ馴れ初めとかを一から十まで全部話すと今日一日じゃ語り尽くせないから大雑把にまとめてみるわね」
重い空気を察したのか、声のトーンを高めて空気を作り替える波奈さん。
それに合わせて私も頭を切り替える。私のためになるように話してくれてるんだから、ちゃんと聞かないと。
「結唯は私のお人形っぷりが大嫌いでした。私を含めて、学校中のいわゆるお嬢様の、ね」
「当時は学校側も生徒たちに残された最後の自由な時間だということを知っていたんでしょうね、学校内のことは保護者や外に報告は退学になるようなことじゃない限りなかったの。だから結構羽目を外す子も多かったわ。結唯みたいに」
「結唯はどうにかして当時の風潮を変えようとしていたみたい。未来を諦めて、現実逃避のように過ごす私たちみんなを。将来の練習とばかりに社交界ごっこという名の陰湿な蹴落とし合いを繰り広げるくだらない学校を」
「結唯に影響された子はかなりいたわ。それこそ学校の半分くらいはね? 私はその時、昔ながらの価値観とプライドを植え付けられていたから……。成績で争っていたことと家柄も相まって、中等部二年の頃にはじまった対立は学校全体が高等部一年の頃に『私』対『結唯』の二大勢力に完全に割れたの」
「結唯は当時結構先を行っていた国会議員の娘さんでね? 昔から大勢のお偉い様を出してる結唯の家と、空の宮をはじめこの地方で覇権を握っていた昔ながらの伊ヶ崎家。そりゃみんなどっちかについてくるわよね」
「新しい価値観を広めよう、女の子はみんな自由に生きるべきだとする結唯の派閥と、伝統に従ってこれからも穏やかに人生を送るべきだっていう私の派閥。結唯たちは学園の教育理念からしたら真っ向から対立するような考えを持ってたんだけど、学園側は何故か何も言ってこなかった。それを感じた彼女たちの活動はどんどん大きくなったわ」
「もちろん私たちもただ見てるだけじゃなくてね? お嬢様学校だったから暴力とかはなかったんだけど、毎日のように討論会とかを開いて相手のことをお上品な言葉でこき下ろしたりしていたの」
「まあ対立が一番激しくなったのは高等部一年の秋から。当時は今以上に生徒会がかなりの力をもっていて、私は生徒会長になって権力を利用して結唯たちを抑え込もうとしたわ。でも選挙の結果はギリギリだった」
「ギリギリってことは、実際は半数近くが敵ってこと。結唯は人数を最大限活かして生徒会の次に権力がある風紀委員長の座を取ったわ。……改めていま考えてみればすごいわよね。一年生が学校の二大自治の長になったんだもの。それも一年生が生徒会長になったのは星花史上初めてだったのよ? それまでは慣例で前の年の生徒副会長が継いていたから」
「ちょっと脱線するけどね、あれ以来一年生にして生徒会長になった人は一人しかいないのよ。……そう、姫奏ちゃん。あなたのお姉ちゃん、実は史上二人目の一年生生徒会長なのよ。誇りに思っていいわ」
「生徒会長と風紀委員長、つまり生徒の二大トップになった私達は周りを巻き込んでますます対立を深めていったの。でも流石はお嬢様学校。授業とかに影響は出ないように自分たちでセーブしてたわ。言ってしまえばお遊びだった。結唯の側についていた子たちも、心の片隅には今の状態が変わるはずはないって思ってたと思うの」
「でもあるとき、それがお遊びじゃなくなった。二年生の春頃に結唯のお父様が出した同性婚の法案が通ったのよ」
IF表現について
星花女子プロジェクト第9弾時点の設定で、同性婚は認められていません。
作者の勘違いにより、設定を確認する前に書き上げてしまったためプロローグ全体を“-(マイナス)○話”として区別しています。
同性婚部分を含む箇所の修正も考えましたが、まえがきで述べたようにプロローグ全体の流れと今後に繋がる土台が崩壊してしまうためIFとして扱っています。