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第35話 Denouement - B

「…また、か…」

 俺はゲフィに聞こえないよう気遣いながら、嘆息交じりに漏らした。


 ペア狩りに復帰して一週間後、俺たちはマンジュルヌ島へ狩場を戻していた。


 それというのも、ビフレストで狩りをしようとした矢先に再びゲフィが停滞してしまったためだ。

 幸いまだモンスターを殴る前だったのでさっさと町へ戻れたが、もし戦闘中だった日には大惨事になりかねない。

 それから数度祈る気持ちで様子を見てみたが、やはり何度も停滞したため結局高ランクの狩場は軒並み諦めざるを得なかった。


 ゲフィの停滞はそれからも…次第に、そして急速に発症の間隔を狭めていく。


 知り合った当初は数日に一度程度だったらしいが、ついには一日に何度も起こすまでになっていた。

 おまけにいつ回復するかも完全にランダムで、とても狩りに行くどころではない。ひどいときは丸一日、狩場でゲフィを守って戦ったこともあった。


 それでも、ゲフィはヒュペルボレイオスの踏破を諦めていなかった。


 俺はその思いに応える為これまでに無いくらい真剣に、ヒュペルボレイオスに至るまでの育成シミュレーションを必死に練りつづけた。

 かつてギルド長を務めていたときよりも熱心に……





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 やがて、ゲフィの体調と計画の練り直しがいたちごっこの様相を呈すようになったある日。


「ベガー、お願いありマス」


 ゲフィが改まった顔で頼んできたのは、幾つかの町へ連れて行って欲しいというものだった。

「買いたい、アイテムあるデス」

 いずれも転送屋を使えばいけるし、そんなに距離があるわけでもない。

 サポートしてやれば問題ないだろう。


「…そうだな、気分転換を兼ねてたまには買い歩きも良いか」

 俺一人だったら決して出ない言葉に、ゲフィが相好を崩した。

「そうだヨ、ベガーもタマには買い歩きするネ」

「へいへい」


 軽口を叩けるだけ今日の体調はマシなのだろう。ならばこの機会を逃すまいと、俺たちは手早く準備を済ますと転送屋へ向かった。


「じゃあ最初は…イースからにするか」


 イースは海底にある、巨大な気泡の中に作られた都市だ。

 太古に怠惰の限りを尽くした王が海神の怒りを買って沈められたが、巻き込まれた無辜の民の不幸を嘆き身を投じた王妃の優しさに免じて滅びだけは免れたという伝説がある。


 まあ特殊な海流のおかげで残っていた馬鹿でかい気泡をたまたま見つけ、そこへ移り住んだ奇特な連中が所領の正当性を主張するため創った話に過ぎないと思うが…

わざわざ夢のない話をする必要も無いな。


「ウワァ…スゴイ、綺麗…」


 転送直後に視界を取り戻したゲフィが感嘆の声をあげている。


 その反応、判らんでもない。

 何しろ、視界を巡らせばすぐ傍を泳ぐ色とりどりの魚たちが見えるのだから。


 実のところ、あまり稼ぎに向いてない場所と聞いていたので俺も今回はじめてきたのだが、ゲフィ同様しばらくは黙って見とれていた。


「フフ、ベガーも感動してる?」


 一足先に我に返ったゲフィが、ここぞとばかりに勝ち誇ったように聞いてきた。

 お前が何かしたわけじゃないだろが…そう思ったが、ここで嘘をついても仕方ない。


「…まあな」


 素直に答えると、それが意外だったようで一瞬目を見開くゲフィ。だが、すぐに嬉しそうに笑顔になった。


「ココにこれてヨカッタ」


 …俺もだよ。


「まあ、まだ他にも色々あるんだから楽しみはとっとけ。それでどこに行くんだ?」

「武器屋!」


 そう言ってゲフィは先を歩き出した。


「なんだ、武器が欲しいのか」


 俺もその後をついて歩く。


 考えてみれば今まではいつも狩場に応じて最適解となる武器をこちらが渡してやっていたから、そこから脱却したいと考えたのだろうか。

 狩場によっても変わるのだから、あらかじめ相談してくれたら良かったのに…と思う反面、愛用の武器を自分で買おうという姿勢によくぞ成長したなぁという父親染みた感慨もある。


 …いや俺、子供どころか、恋人すらいたことねぇんだけどな。ハハッ…


「今度は…アァ、あったあった。この店ネ」


 ときどき足を止めながらもメモを片手に先導するゲフィの様子から見て、あらかじめ買う物を調べてあったのだろう。


「ほうほう、どれどれ…」

「ベガー? 覗き見、良くナイ」

「へいへい、ちょっと他見てますよっと」


 睨み付けられ、俺は慌てて離れた。


「ン、コレ二つくだサイ」


 ゲフィが買い物を済ませてきた。


「おう、買って来たか…ん?」


 包み紙からはみ出ている柄の部分を見て俺は首をかしげた。


 この町で売っている、無骨な、飾り気の少ない装飾は短剣のアキナケスだ。それが二本ということは、暗殺者でも目指してるということか?


「ベガー、人の買い物ジロジロ見る、良くないヨ!」


 俺の視線に気づいたゲフィが、口を尖らせながらそそくさと自分の倉庫へ仕舞ってしまった。しょーがねーじゃん、気になったんだからよ…


「へいへい、目敏くてすまんこってすね。んで、これで買い物は終わったのか?」

「まだダヨ」


 ゲフィは指折り数える。


「あとココノツは最低必要。可能ナラ21」


 結構あるな?!


 それからも俺たちは夜の無い町不夜城、地下理想都市、湖上の黄金都市など幾つかの町を回った。


 いずれも風光明媚だったり面白い特色があったりと、見て回るだけでも十分面白い。

 ギルマスじゃなくなってからはあちこち旅する気を失っていただけに、俺もとても楽しんでいた――ゲフィの動向を除いて。

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