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第31話 Turn - H

「…どういうつもりだルーク」


「それはこっちの台詞だ!」


 槍を握りこんだルークの目は、激しい憎悪に燃えていた。


「何故、本物なんだ」


「あ?」


「鑑定したが、こいつは本物のゲイングニュルだ。何故だ」


 何を言ってるのか、意味が判らない。


「何故だも何も、お前がゲイングニュル渡せって言ったんじゃねえか」


「ああ、そうだ。だが、分かってるのか? これはゲイングニュルだぞ? 神槍だぞ? 世界に一本しか確認されていない、伝説の神の武器なんだぞ!」


「いやそのくらい知ってるよ」


 ただ、使いこなせない槍なんぞより様子のおかしい彼女をさっさと取り戻す方が重要なだけだ。


「なら何故、そう気安く渡せる!  毎日宝珠を捧げても手に入らない神器中の神器だぞ? それをなぜそうも簡単に手放せる! お前が数十、いや数百年掛けて死体漁りしても二度と手に入れられないだろうに!? まさかとは思うが、後で返してもらえるとでも思ってるんじゃなかろうな!」


「そもそも所詮はただの槍だ、たまたま預かっただけのな。…俺からすりゃ、お前にとってのノーイ・ラーテムと同じ扱いでしかねぇの。その槍一本で今後俺たちにちょっかい出さなくなるなら安いもんだ」


 ゲフィに相談無く勝手なことをしているとは思うが、当人も元より固執した素振りが無かったし後で文句を言われるなんてことは無いだろう…無いと良いな。


「そんな…神槍をそんなものと同列に語るなんて!」

 あえぐように言うルークに、

「じゃあ聞くが、何が違うんだよ?」

 俺は冷たく問い返す。


「敵をぶった切るだけならそこいらの店で売ってる店売りの剣でも変わらんだろ。能力や市場価値って言うんなら、ノーイ・ラーテムだって同じことだ。あれだって、俺からすりゃ数十年まっとうに稼いで買えるかどうかわかりゃしねぇシロモノだぞ」

「そんなものと変わらないだなんて…畜生、なんでこんな価値を知らない奴らが!」


 ルークの目が釣りあがった。


「ふざけやがって…神槍が一人の小娘より価値が無いとでも言うのか! その増上慢、ゆるせん!」


 そのまま、槍が突き込まれる。


「うわっ! 何しやがる!」


「気が変わった。お前とその女はここで殺す!」


「はぁ?! 何でだよ。目的を達したんだから大人しく帰らせてくれりゃいいじゃねえか」


「いいや…お前たちはここでバラバラにして復活できないように保存させる」


 だが、ルークは一向に退く気が無い。


 おまけに本気で俺とゲフィをこの世界から排除するつもりのようだ。

 奴の言うように、バラバラにした上で回復を掛けておくと肉体が再生しようとするため死亡判定が下りず理論上では永続的に捕らえることはできる。

 ただ、ずっと定期的に回復魔法を掛けるか、高価で新鮮な回復薬に漬け込んでおかないとならないと異常に面倒くさいため現実的ではない…が、KoRならどちらも実現可能の範囲だろう。


 一時の気の迷いなら良いが、それを確かめる気には流石になれなかった。


「せめての情けとして無抵抗な相手を嬲り殺すことはしないでやる。ここにある武器から好きな物を取れ!」


「だから何でそんなことしないとならないんだっての」


「戦わないならその女から殺す」


 穂先をゲフィに向けられる。


「どうしてもやらないと駄目か」


「どうしてもだ」


 俺は小さく溜息を吐いた。


「…人攫いの次は強盗か。廉恥を無くして何が騎士かね」

 呆れたように言う俺に、ルークが吼えた。


「うるさい! 貴様に何が分かる! ギルドを運営するには誇りだけでは生きていけん! 圧倒的な力が必要なのだ…そう、貴様のような他人の上澄みを啜って生きてきた奴じゃなく、宝珠を毎日神へ捧げ世界最高のギルドを率いてきた俺にこそ、力の象徴――ゲイングニュルは相応しい!」

「…さよけ」


 ばっかばかしい。


 確かに、ギルドを束ねるのは誇りだけではできない。そこだけは同意しよう。


 しかし俺から言わせれば上澄みも何も、自分の努力で手に入れた訳でも何でもなく、ただ求めつづけることしかしてこなかった奴が何寝言言ってんだとしか思えない。


 ギルドだってそうだ。


 元々ハーヴァマールは俺だけの力で束ねたものじゃない。

 お互いの力を認め合い、共にいたいと願った仲間と生みだしたものだ。


「なぁ」


 …ふと俺は気になった。


 KoRは、そもそもギルドとしてまっとうに動いているのか?


「武器を選ぶ間に一つ教えてくれないか? 明らかに襲撃されているにも関わらずギルマスであるお前のところへ誰も来る気配が無いのはどういうこった?」


 今も尚襲撃の音は続いている。

 十天闘神に対抗するため神の武器を取りに行くことを考える奴がまったくいないとは考えにくい。だのに今も尚、誰かがここへ来る気配がないのが不思議だった。


 その問いに、ルークは。

「どうせ油断を誘って逃げ出せる機会を伺ってるんだろうが、それくらいは教えてやろう」

 油断無く槍を向けながらも教えてくれた。


「そりゃどうも」


 確かに、逃げる隙もうかがっていたのでこちらとしては返す言葉も無い。


「何故来ないかは簡単だ。ここへは緊急事態であろうとも普段から俺が来ないよう命じておいてあるのさ…誰も入ってこれないようにな」


「…何でまた? 強力な武器があるなら、それを仲間に貸し出すことで大幅な戦力アップが見込めるはずだろ? 何故そうしない」

 

 俺の疑問を、ルークは鼻で笑って答えた。


「何故? 当たり前だろう? ここにある武器は、すべて俺の物だ。俺の守護者から与えられた宝珠で手に入れた、俺のために存在する神の武器。安物ならともかく、ここにある最高級品を他人に委ねるなどできようはずもない。何より…あいつらは信用できないからな」

「信用できない?」

「ああそうだ。あいつらは俺の神の武器目当てに集まってきた連中だ。そんな奴らに、ノーイ・ラーテムなどが手に届く場所へ自由に入らせたらどうなるか…改めて説明するまでも無いだろう? この槍なんてまさにそうだ。手に届くところにあると知ればきっと間違いなく、隙を見て奪おうとするに決まっている…己の分を弁えずなぁ!」

「…………」


 …たぶん、このときの俺は馬鹿面を晒していたことだろう。


 開いた口がふさがらないとはこのことだ。


 こいつにとって、ギルメンは仲間でもなんでもない。ただお互いに利用できるからつるんでいただけの間柄…いや、むしろ表立って牙を向かない敵でしかないのかもしれない。


 何のためのギルドなんだ…


 何のための神の武器なんだ…


 俺の顔を見てどう思ったのか、ルークは歯を剥き出し、血走らせた眼を向けて吼える。


「なぁ、あんただって本当はそうなんだろ? 槍に執着が無いように見せているが、内心では焦っているはずだ。昔からそうだったもんなぁ? ギルドメンバーに神の武器を持たせないようにしたのも、本当は自分が力をもてないのに仲間が強くなっていくのをひがんでのことだ。あんただって俺と同じ、結局は自分のことしか考えていないに違いないんだ!」


 それは、ひたすら我執に取り付かれてきた結果。

 唯一手に入らない槍への渇望に身を焦がしつづけたところへ振って沸いた、他者の僥倖を奪うのが当然の権利と考える餓鬼の顔。

 今のルークからは、昔見せた聡明さも、未来への希望も…微塵も伺えなかった。


「違う…といっても納得しないんだろうな」


 なるほど、お前はそう思っていたのか…

 ルークから数年越しの本音をぶつけられ、俺は妙に頭が冷えていくのを感じていた。


 俺が神の武器を禁止したのは、停滞した創設メンバーへの拘りが原因だ。そのせいで支えていてくれたはずのメンバーへの配慮が欠けていたのは事実。


 何のことは無い、所詮は俺も同じ穴の狢だったってことだ。


 いや、むしろ俺の姿を見つづけた結果が今のルークであるとするならば、そうさせたのは俺の罪だとも言えるだろう。


「さあ、おしゃべりはここまでだ。その女を連れて出たいなら、俺を倒すんだな」


 ルークがここまで歪になった一因に或いは俺の存在があったのなら、ここで止めるのがハーヴァマールの元ギルマスとして最後の仕事なのかもしれない。


「どうあっても逃がす気は無いようだな」


 俺はもう一度溜息を吐くと、覚悟を決めて周囲をざっと見渡す。

 傍の台座にある、ノーイ・ラーテムを選ぶとそれを手に取った。

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