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第20話 Development - G




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 以来、しばらくの間――狩場がエデンからビフレストに変わる程度の時間だ――俺たちは口数少なに、ひたすらレベルアップ作業に勤しんでいた。


 後になって落ち着いてから思ったが、いきなり俺がぶち切れたことでゲフィもさぞや面食らったことだろう。一言謝りたくはあったが、何と言って切り出せば良いか判らず、ずるずる来てこのままだ。

 気まずいなんてもんじゃなかったが…依頼は依頼である。俺の感情で勝手に切り上げるわけにいかねぇ。

 ゲフィはゲフィでこちらも何もいわねぇから、結局そのままずるずるとつづけるほかは無かった。


 しかし、逆にメリットもある。


 静かな時間を置くことで、ようやく俺も冷静に頭を使う時間を得られたことだ。


 俺も木石じゃない、ゲフィがどういう意図を持って執拗にギルドの話題を持ちかけていたのかは判っている…つもりだ。


 ゲフィは純粋に、俺と組んでギルドを作りたかったのだろう。

 俺を利用するだなんて器用な真似ができる性格じゃないのは、これまでにも十二分に把握している。

 そしてそんなことを考えるようになった理由もおおよそ検討がついていた。


 恐らく、寂しいのだ。


 というのも、俺以外プライベートでの付き合いをしている奴はいないらしい。

 レベル上げに費やしている日は俺とずっといて、暇さえあればレベル上げ――会話の少ない現状でもだ。

 そうでない日は街中でも狩場でも一人でうろついている姿を見たこと無いし、囁きが飛んでくることも無いので、丸一日(ねぐら)でじっとしているっぽい。


 そんなだから、ギルドを組んで誰かと接点を持ちたいのだろう。

 …まあギルド組んだからずっと一緒にいられる、【たーのしー!】となるとは限らないのだがそこには果たして気づいているのやら。


 そもそもギルドや俺個人だけに拘らず、適当に組んだ奴とフレンド登録でもすりゃ良い気もするが…

 エデンで狩り始めた頃に「たまには他の奴と組まないのか」と尋ねたことがあったが、そのときはシーエーピーディーとかダイアライシスが何とかと訳のわからんこと言って煙に巻かれたっけ。


「ともあれ…このままってわけにはいかんよなあ…っと」


 いかん、考え事に集中していてつい口から漏れてしまってた。


「?」


 それを聞きつけ、剣を振っていたゲフィがこちらをすばやく振り向いてくる。

 反射的に俺も『さも気のせいです』といわんばかりの勢いでそっぽを向き、適当にフリーな雑魚に<<挑発>>をかけた。


「それが終わったらこいつだ」


 言いながら俺は飛び掛って来た新手の獲物に槍を突き込んだ。

 35ダメージ。

 安物だが、こういう場合にはあまり強力すぎないほうが具合がいい。


「…OK」


 言葉少なにゲフィも再び追い込みに戻る。

 その後姿をちらと横目で見て、俺は再び小さく嘆息した。


 もし、ハーヴァマールが崩壊していなかったら、いや、崩壊した理由がもっと違っていたなら、俺はゲフィの提案を喜んで呑んだだろう。


 それくらい、実際には俺はこいつのことを気に入っていた。


 根が素直で、飲み込みも早い。

 何より頭がいいのだろう、基礎的なことを教えてからしばらくすると“こう動いて欲しい”という俺の考えを逐一説明する前に読み取ったように動こうとする。

 今はまだレベルが足りないためイメージに身体が追いつかないときがままあるが、もう少し鍛えればペアで十分あちこち踏破できることだろう。


 だが…それでも、ギルドだけはダメだ。ダメなんだ。


 かつては他のギルドからも、是非うちへ来てくれないかと誘いがきたことはままあった。


 しかし、俺にとってのギルドは、ただの臨時パーティーの延長線上にある寄り合い処ではない。


 ハーヴァマールは、最高のギルドだった。

 夢、栄光、文字通りの砦。そして――仲間たちと帰る家。


 文字通り、俺のすべてだったんだ。


 それ以外のギルドは、俺には存在しない。


「…倒シタ」


 予想より早くゲフィに声を掛けられる。


「おう」


 なるほど、確かに。やはり成長が想定より早い。

 さすがにまだヒュペルボレイオスは論外だが、ビフレストでこれならちょっと背伸びしても問題ない…いや、ちょっとばかしまだ早いか?

 頭の中で俺たちのレベル差・装備・スキル・立ち回りの癖や傾向を吟味し、知っている狩場の情報と照らし合わせる。

 なら…


「よし、せっかくだ。気分転換に狩場を変えてみよう」

「他?」


 何より、少しでも今の重い雰囲気を変えたいと思う気持ちが強かった。


「ああ、そうだ。ここで狩り続けてもいいけど、さすがに同じことばかりだと飽きるだろ?」


 ゲフィが黙ってうなずく。


「だから、それならせっかくだしがらりと変わったところ…【ヨモツ】にしようと思う」

「ヨモツ? ドッカで聞イタヨウナ…」


 首を傾げるゲフィ。


「あぁ。前にガキの話でもちょっと出たが、ウメという綺麗な花の咲く街にあるダンジョンだ。ウメは香りが芳しく、かつ壮健の象徴とされていてな、いまの季節は綺麗だぞ。他には黒髪の美女や、サムラーイ、ニンージャとかいうモンスターもいるんだったかな」


 かなり昔に勉強したうろ覚えの知識だが、間違ってないはず。

 俺が普段行かないのは、雑魚の経験値は美味いが、ボスを狩るのでも無い限りドロップが渋すぎてソロだと割に合わないためだ。


「hmm…」


 ゲフィはというと何が気になったのか唸っている。が、俺の視線に気づくと元の不機嫌そうな顔に戻った。


「…なんだよ。嫌なのか?」

「ベツニソウイウ訳ジャナイヨ」


 じゃあ謝罪でも欲しいってか?

 だが、俺だって別に間違ったことを言ったつもりも無い。…言い過ぎたとは思うが。

 だから、努めて気にしないそぶりをした。

 ゲフィもそんな俺の反応に一瞬不服そうな顔をしたものの。


「…オーケー。確カに、他ノトコも見テミタイネ」


 さすがにこれまでの単調作業に飽きていたのだろう、小さく溜息を吐くと二つ返事で賛同した。

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