第2話 Introduction - B
俺は首都在住だ…が、家があるのは首都は首都でも外れの外れ、城門のすぐ前だ。
俺がこの家を買ったのは、この辺りには人通りが無いからである。
そのため、モンスターをばら撒くテロが起こると、いつまで経ってもモンスターが駆逐されないという事態が頻繁に起こった。首都であるにも関わらず、モンスターと戦ってから家に帰るまでにまたモンスターに襲われるということが割とよくあったのだ。
当時を偲ぶように視線を向けてみれば、ぽつぽつ建つ民家の壁にはあちこち幾つもの傷痕があるのが離れていても良く見える。それらはいずれも外気の取り入れに存分に役立っており、うちでも採光の役を大きく担っていた。
ちなみに今では人口が減りすぎていてテロ自体過去の遺物となっており、最近はこの辺りの購買価格が上昇しているそうな。
それを聞いた以上、手放す気は無くなった。例え改修する金が無く、隙間風をバンバン通す穴だらけであってもだ。
がらんと静まる通りを抜け、東城門を潜り抜ける。
昔はこんなとこにでも露天を出していた酔狂な商人は一人や二人はいたんだがな…。
「あっ、ベガー殿! おはようであります」
と、門をくぐったところでちょうど目があった門番がくいっと縦長の近衛帽を持ち上げ挨拶してきた。モンスターが暴れるときにはいつの間にかいなくなっている、役に立つことの無い門番だがそれでも会話が出来る相手がいるというのは心が豊かになるな。
「おはよーさん。てか、いい加減ベイカーと呼べっての。俺は乞食じゃねーぞ」
「あはは、でもその綴りだとベガーじゃないですか」
「うるっせえな。んなこたぁ知ってるが、それでも気にいらねーんだよ」
俺の名前をつけてくれた守護者様はBakarにしたかったらしいが、現在俺の名前欄には燦然とBeggarの文字が輝いていた。
俺の守護者様は筋金入りのしみったれで、改名にはそこそこ宝珠が必要とされるため、未来永劫この名前が変わることは無さそうである。
にやにや笑う門番に俺は深く嘆息して、この話を打ち切った。
いつものことだ、実に心が豊かになるなくそう。
「んで、今日も鍛錬に?」
「おうよ」
「熱心ですねぇ」
「ま、癖みたいなもんだからな」
俺がこの首都に現れてからというもの、毎日朝の訓練は欠かさずやってきている。心配性ゆえに為せることだが、まさに癖だ。
「それに、何かあったときのことを考えると、常日頃から鍛えておくに越したこたぁねぇからな」
「まったくです」
門番が深く頷いた。
「まあ、最近は大分減りましたけどね。突然固まる新人とか」
門番が言っているのは、時折戦闘中にぴたりと動きが止まる症状のことだ。
幸い俺は一度も掛かったことが無いが、酷い奴は数分おきに固まるなんてこともあった。剣を振るモーションが振りかぶってから5段階で動く奴とか、見ている分には面白い。
だが一方でモンスターはそんなことお構いなしだから、もし戦闘中に起きたならそりゃもう酷いことになる。
実際、それまで華麗に戦っていた奴が突然身動きできなくなり、何もできずに殴り殺されたなんて瞬間は俺も何度か目撃したことがある。
俺も、これまでに一度もなったことが無いというだけであり、これからもずっとならないという保障があるわけでも無い。何より、俺は自分の幸運をそこまで信じていない。
運が良ければ、或いは実力が大きく上回っていればそんな不幸な事故も何とかねじ伏せることもできる。が…それでも、魔法をはじめとした複雑な行動は取れない。
そんな不測の事態がいつ起きてもいい様に、普段から備えて相手の攻撃を耐えられる、しのげる基礎を鍛えておくことは大事なのだ――幾らHPが0になっても死なない世界とはいえ。
「ともあれ、気をつけてくださいね。弱体化しますので」
「ああ、わーってる。せいぜい気をつけるさ」
そういうと、門番は道を開けた。