第18話 Development - E
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ぐっだぐだな腹ごしらえを済ませた俺たちは再びレベル上げの作業に戻った。
こうして今日も、いつもどおり時間が過ぎるはずだったが。
「ウン、ヤッパリ」
音符をぶっ放した直後レベルが上がったことを知らせるファンファーレの中、何かに納得したかのようにゲフィがうんうんと頷いた。
「何がやっぱりなんだ?」
ステータス更新の小休止に入るため周囲に他のモンスターがいないことを確認した俺は、取り出した新しいジュースを口に含みながら尋ねる。
どうせまたぞろくだらないことだろう。
「ベガー、ギルドマスターにナルベきダヨ!」
「ぶふぅっ」
「ヒャッ?!」
口に含んだところでそんなことを言われ、思いっきり吹きかけてしまった。
「ベガー、汚い!」
「わ、悪い…って、お前何馬鹿なこと言ってんだ。俺がギルマスだなんて…」
渋い面で顔を拭ったゲフィがぽんと両手を打ち合わせる。
「ウウン、ワタシ人見ル自信アルもんネ」
「しょっぱなパーティーメンバーにカツアゲくらいそうになってた奴が言えた台詞か」
「ウグ」
わはは、どうだ、ぐうの音も出るめぇ。
「~~デモデモッ、ギルマス向イテル思ウは事実!」
「…へぇ、どうしてだよ」
どうしてそこまで拘るかねぇ…俺は先を促した。
「ペア狩リシテテ分カッタ、ベガーいつもゲフィの様子見テルだけ無イ。キチンと周リも見テル。他のパーティに幾ツカアッタ、ケドベガー決シテ倒シ切レナイ数相手したことナイシ、ゲフィにも被弾サセテナイ。ソノ上、倒シタ後休憩シテルト、気づいたら回復とピッタリに新手連れてキテル。ソレからソレから…」
「ほぅ…よく見てるじゃないか。少し感心したぞ」
「エヘヘ、サンクス!」
ゲフィの指摘したとおりだ。こいつのこと、正直侮っていた。
抱える数を調整していることくらいは目端が利く奴は気付くかもしれないが、魔力の回復にあわせて連れてきていることまで見抜くとは。
確かにそういう点ではゲフィは、普段からの見た目より幼い印象を与える言動のせいで一見そうと見えないが人を見る目だけはあるのかもしれない…そう、ほんのちょっぴり見直した。
「何ヨリ、ベガー、凄く楽しソウ」
「…はぁ?」
前言撤回。
何言ってんだボケ、やっぱりこいつの目は節穴だ。俺は呆れて首を振った。
「俺は仕事でやってるだけだ。何が楽しくてこんな面倒な子守りしてると思ってんだ、寝言は寝て言え」
「嘘ネ」
ゲフィがきっぱり断言した。
「…なんでそう決め付けられんだよ」
「ベガー、嘘ツクとき早口。ソレに目、合ワセナイ」
はっとして顔を向ける。途端、真面目な顔でこちらを向くゲフィの碧眼と目があった。
「…ゴメン、今のは嘘。ケド…」
「ちっ」
一杯引っ掛けられたってわけか。
くそ、ただの世間知らずのお坊ちゃんかと思ったがやるじゃねぇか。
「ネ、ギルド立ち上げナイノ?」
「立ち上げ無いの。あんなめんどくせえのなんざ一度やったらそれで十分だ」
それを聞いたゲフィが、目を見開いた。
「…今、何テ?」
「……あ」
しまった、余計なこと言った。
「ソレって、ツマリ…前にギルマスヤッテタ?」
「……ま、そういうこった」
流石にここまで来て誤魔化すのも無理があるし、正直に肯定する。
するとゲフィはオオー、と顔を輝かせた。
「ダッタラ、またギルド…」
「だからやらないっての」
「エェー、何デ!」
「だから面倒くさいんだってば」
「ダカラソレ嘘! 楽しんデル!」
何故かゲフィはえらく食いついてくる。
ああもう、めんどくせぇなぁ。何がそんなにこいつの琴線に触れたのか判らん。
「…昔、色々あってな。それ以来、ギルド運営は真っ平ごめんなんだよ」
「ソノ色々ッテ?」
「色々は色々だ」
頑として口を割らないと見て取ったゲフィは、少し腕組みして考え込んでから言った。
「…OK、ナラ追加報酬出すヨ。ダカラ教えて」
「む…」
うーむ…
金が貰えるなら、教えても良いか?
「お幾ら?」
「オ金ジャナイヨ! 弁当、コレカラ毎日作ってあげるヨ!」
それを聞いて俺は愕然とした。
冗談でも止めてくれ、アレを毎日とか殺す気か。一応食えるものを食わずに捨てるのは俺のポリシーに反するが、かといって食いつづけたら確実に身体がおかしくなる。飯を食いつづけて状態異常になるとか笑い話にもなりゃしない。
「いらんいらん、判った、俺の負けだ。まだ命は惜しい。教えてやるから弁当持ってくるのは止めろ」
「ドウイウ意味!?」
ゲフィは不満げな顔ながらも最終的には納得した。
…しょうがない。時間つぶしも兼ねて、少しだけ昔話でもしてやろうか。




