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第17話 Development - D

 が、すぐにぱっと表情が変わった。


「ケド、ソレはソレ、コレはコレネ。ベガーなら、キット平気ネ」


 

あっけらかんと言われ、俺はまじまじと見返した。

「…お前、人の話聞いてた?」

「聞イテタヨ!」


 むっとしてゲフィは返答する。


「ソノ上で思ッタヨ。ベガー、キットノーイ・ラーテムモラッテもホトンド使ワナサソウ。刃こぼれシタラ勿体無いトカ何トカ言って」


 そんなこと俺は言わない…いや、言うか。言うな。


「持ッテテ使ワナイ、なら同ジだヨ」

「いやぁ、そりゃどうかな」

「判るネ。ベガー、無駄に物持チ良い」


 恨めしそうに手で鼻先をなぞる。鼻眼鏡のつもりだろう。


「ナラ、武器買ッタツモリでタマに贅沢スルのも良イ思ウヨ。ズットズット我慢シ続ケルだけ、イツカ爆発シチャウネ。ソウイウトキ、キット滅茶苦茶なる…ソウゲフィ、思ウ。我慢シスギも良く無いネ」


 むう…それは、そうかもしれない。ペットを集めようと思ったときまさに爆発して、結果爆死したわけだし。


「ソレに、贅沢はオ金掛ケルダケ違ウヨ。別ノペット飼ッテ料理クライシナヨ。キット、同ジ狩リしても雰囲気変ワルネ!」


 ゲフィは何が楽しいのか、面白そうに笑みを浮かべて言う。


「いや、変わらんだろーよ。所詮狩りは狩りだぞ」

「エー、変ワルヨ! ダッテゲフィ、弁当作ッテキテ楽シイカッタヨ」

「お前はそうかもしれんが」

「ジャア食ベタラベガーモ判るヨネ。コレ、自信作!」


 そういって弁当を突き出してくる。


「へーへー。ま、そういうことなら良いタイミングだし、ここらで飯にすっかね」


 一旦賢者になり、周囲にモンスターが侵入してこれないよう結界を張る。簡単なものだから一時間も持たないが、飯を食うくらいだからこれで十分だろ。


「ン、ベガーモ持ッタネ?」

「はいよ」


 適当なサンドイッチを掴むのを、ゲフィが深い藍色の瞳でさっさと喰えとばかりにじっと見つめてくる。

 俺は一つ大きく咳払いすると頂いたサンドイッチにかぶりついた。


「ドウ?」

「うべ…」

「ウワ、ベガー汚イ! 何するネ!」


 かぶりついて一呼吸おいたところで、口内を蹂躙する暴力に耐えかね吐き出してしまった。慌てて雑味を押し流すためジュースを一気飲みする。

 感想を口にする前に、俺は手元のパンを開いてみた。中にはしなびた歯形つきのマンジュルヌの実が入っている。他に具は何も無い。


「…わざわざ作ってもらって吐くのは自分でも最低だと思うが、すまん。言わせてくれ。生のマンジュルヌだけを丸ごとぶち込んだのは料理じゃないだろとか、この絵面は食欲を限りなく奪うとか、言いたいこと山ほどあるが、それよりも何よりもこれ、しょっぱくてえぐくて苦くて臭くてすっっっごくまっずい」

「嘘ォ!?」

「ホント。ベイカー、嘘ツカナイ」


 目を大きく見開くゲフィを見やりながら、俺は嘆息する。


 思うに恐らく、パンに挟み込んだ後に大量に塩をまぶしたのだろう。そのせいでマンジュルヌが浸透圧で萎れ、そして吸い出されたエキスのせいでパンがぐしょぐしょになっている。そのせいでマンジュルヌのエグみとか臭みが全体に移っててすっっっごいことになってる。


 いっそ普通にそこいら動いてるマンジュルヌをむしって生食した方がはるかに美味いまであるぞ。


「何より調味料使いすぎだ。すげー塩っ辛いぞコレ」

「甘イノトショッパイノ、併セルト美味シイヨ?」

「程度があるわボケ。お前味見した?」

「…………」


 ゲフィは黙ったまま頷く。


「えぇ…マジ?」

「マジ」


 ゲフィは俯いてしまった。

 うーん、そんなすぐばれるような嘘つくほど自信あったってこと?

 …いや、ひょっとして嘘じゃない?

 これがわざととか、味見してないならまだ文句を言える。が、まさか味見した上でこれだとは思わなかった。


「…まあ、しゃーねぇか。料理作りはじめってのはそんなもんか」


 そう言って残りを口に放り込むと、新しく取り出したジュースで押し流す。


 さすがに善意をむざむざ否定して平気なほど、俺は図太くは無いつもりだ。


「…うん、りんごジュースで正解だったな。酸味のおかげで少しマシだ」


 コツはあまり舌先で弄り回さず、ジュースで柔らかくして喉奥に流し込むことだ。

 これで当面の被害は軽減できる。


「ほい、ごっそさん。ほれ、こっちお前の」

「…サンクス、ベガー」


 新しいジュースを手渡してきた俺の反応を見て、ようやくゲフィも一口齧った。


「…大丈夫か? 無理して喰わなくてもいいぞ?」


 だが、ゲフィは不思議そうにしながらも更に一口、二口とつづけた。


「おおぅ…」


 なるほど、確かに味見したって言うのは嘘じゃないのかもしれない。普通にパクパクむしゃむしゃ食べてるもの。


「お前…ある意味すげーな」


 難なく食べきったことに俺は素直に感心したが、ゲフィは困ったような笑みを浮かべただけで何も答えなかった。

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