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第16話 Development - C

「…あのな。何にでもいえることだが、欲しいからとどんどん新しいのを買おうとするのって良くないことだぞ」

「ジャア…必要なら買ウ? ベガーも?」


 お前は俺を何だと思ってんだ。


「あったりめーだ。実際、俺だって必要と思った装備には手間と金を惜しみなく注ぎ込んでいるぞ」


 俺の場合、単に享楽嗜好には余分な金を使わないという考えが骨の髄まで染みているだけの話だ。

 …自分で言うのも寂しいがな。


「世の中、手持ちの札しかない状態で勝負しなきゃならんときは幾らでもある。その度に新しい物を買うことで対処することに慣れちまうと、後々本当に必要なものが出たとき金が無いなんてことにもなりかねん。命を掛けられる武器や防具を、ペット買ったせいで買えませんでした~なんてことになったら後悔してもしきれねぇ。違うか?」


 そして、もう一つ言うと俺は大抵肝心なときに限って手札にババが来る。

 勝ちを見越してベットして、そして痛い目にあうのがセットなのだ。

 だから俺はギャンブルは嫌いだ。


「ンン…」

 ゲフィが頷く。


「ソレハソウダケド、ホドホドデ割リ切れるナラ良いノデハ?」

「ほどほど…ねえ。まあ、ずぅっと自制できるんならいいだろうけどよ」


 俺の返事に、ゲフィは小首を傾げた。


「ベガー、違ウ?」

 イエスともノーとも答えず、俺は肩をすくめる。


「生憎俺は、世の中に自分ほど信じられるもんはねぇと思ってるんでな。下手に買った(勝った)ら、最初は満足できても、やがて満足できなくなる。周りの目だって気になる。だからまた新しいのに手を出す」

「ドッカデ止メタラ…」


 俺は首を振って断言する。


「それで誰もが自分を律せる奴ばっかりなら、今頃新しい装備が出るたびに宝珠を捧げる奴はいなくなっとるわい。大体、未来のことなんぞ誰にも判らんのにその区切りはどこでどうやってつける? 特に、冒険屋なんてやってる奴の大半はそんな区切りなんて端から持ち合わせてないぞ」

「…ソウカナ…?」

「そうだ。なんせ、いつ人生が終わるかも判らんからな。だから、大抵は享楽的で即物的だ。だからその日その日で楽しいと思うことは我慢せずに行うし、手っ取り早く強くなる手段があるならそれを得たいと考える。そうじゃない奴は…俺含めよほどの変人だけさ」


 言いながら俺は、今朝の夢でも見た一人の男の顔を思い浮かべていた。

 せっかくだ、そいつのことを話してやろう。


「…俺のある顔見知りはな、昔はその眼で世界の果てを見るための努力を惜しまない男だった。己を鍛えることに凄い真面目でな、在籍していたギルドを支えるに相応しい奴だった。だが…次第に焦りはじめた」

「焦リ?」

「ああ。俺たち冒険屋だけが、停滞病に掛かる。それが判ってからというもの、奴は手っ取り早く果てを見るため簡単に手に入る力を求め(神の武器を集め)だしたのさ」


 その後のことは、俺は伝聞でしか知らない。


「だが、世界が開拓されればされるだけ、強い敵が現れ、新しい力が必要となる。そいつらに対抗しようと新しい神の武器を求め、そのためだけに戦うようになり…いつしか自分どころか、取り巻き全員に配っても余りあるほどの神の武器を個人で所有するまでになっていた。首都の武器屋も顔負けさ。多分、この世界で活躍している冒険者の中でも指折りの蒐集家だろうさ」


 ゲフィが一旦何か言いかけるが、結局そのまま口を閉じる。頭の良い奴さんのことだ、誰を指しているのか察しがついたのだろう。


「だが、そうなった今でもほぼ毎日神の武器を集めている。武器を握る手はたったの二本しか無いのにな。それは必要だからじゃない、揃えたい、集めたい…そして、注目されたいからやってるんだろう。事実、あいつのギルドも…今は、新しい世界を開拓しなくなって久しい」


 俺は、かつて目があったときのルークの勝ち誇った表情を思い出しながら吐き捨てた。


 昔、共に果てを見に行こうと輝かせていた目は、鏡で見た俺のと同じようにひどく暗く淀んでしまっていた。


「あいつは…もう、冒険屋でも何でもなくなったちまったのさ」


 胸元にこみ上げる何かを抑えるように瓶の蓋を乱暴に開けるとりんごジュースを一口含み、喉を湿らせる。


 昔はあんな奴じゃなかった。


 はじめてクイーンマンジュルヌをペアで狩ったとき、ドロップした当時でも二束三文にもならないアイテムを心底嬉しそうに俺に見せ付けてきたっけか…


 マンジュルヌに食べなれた結果、野良マンジュルヌを食っても美味しいと思えなくなるのと同じだ。

 至高剣ノーイ・ラーテムを得ても尚、何の感慨も持てない人生。


「確かにあいつは守護者に恵まれている。幾らでも神の武器を手に入れられるからな――だが、それが本当にいいことなのか俺にはわからねぇ。なんせいつまで経っても満たされることがないんだからな。あいつは他の連中が一生分の運を使い果たしても手に入れられない物を得たとしても、もう、一生満足できることはないんだろう。…まるでガキだぜ」


 あいつの守護神様も大概残酷だ――俺は思う。


「ガキ?」

「ああ、ゲフィは知らんか。ヨモツってとこにいる雑魚モンスターのことだ」


 そこにいる奴の説明だと『生きている間生前に贅沢をした者が、罰として死後永遠の飢餓に苦しむようになった姿だ』って話だそうだが…実際、冒険屋を見ると貪りつこうとする。


「わらわらとどこからともなく沸いて出るあいつらに大量に絡まれた場合、最悪鎧ごと齧り殺される。食料を投げればそちらにいく習性を利用して逃げるのがデフォなんだが…奴らにはどんだけ食い物を与えても満腹にはならねぇんだ」


 それを聞いて、ゲフィがぶるっと身震いする。

 どうせ生きたまま齧られるところでも想像したのだろう。ま、ぞっとせんわな。


「ウン。確カニ、ヤリスギヨクない。ガキ、怖い。ゲフィも思ッタヨ」


 ゲフィも神妙な面持ちで同意した。うむうむ、判ってくれたようでおじさん嬉しいよ。

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