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第13話 Description - G

……………………

………………

…………


「サンクス、ベガー!」

 首都の広場に戻ってきた直後、突然俺の首元にゲフィが飛びついてきた。

「うげぇ?! だ、だから“乞食”はやめろっての…ゲフィ?」

 慌てて引き剥がしたが、よくよく見れば、ゲフィは大粒の涙を目尻に溜めてやがる。

「あぁ? なんだよおめぇ、泣いてやがんの?」

 指摘され、ゲフィは慌てて袖で涙を拭った。


 ええぇ…どんだけヘタレなのよお前。


 まあ、なれない緊張感から解放されて気が緩んだのだということにしておこう。ケンカ慣れしてない奴があんな雰囲気に遭遇したらそりゃ困るよな。

「…おめぇ、そういうのは可愛い女の子がやりゃ絵になるけどもよ。野郎がやっても気持ち悪いだけだぞ。判ったらとっとと顔吹け、な?」

 しょうがない、俺は気持ちを切り替えてやることにした。からかわれたと思えば気も軽くなるだろうよ。

「ナ…気持チ悪イハ失礼ダヨ!」

 ぷっと頬を膨らせ何か反論しようとしてきたゲフィだが、不意に俺の顔をじっと見つめてからおずおずと尋ねてきた。

「…ベガーコソ、ダイジョブ?」

「ああん?」

 おっと。

 まさかこっちが心配されるとは思いもしなかった。

「あいつとはいつものことだから気にすんな」

 そう言って俺は肩をすくめる。

「てか、何でそう思ったんだよ。別に殴り合いとかもしてねぇし、お前が心配するこっちゃねぇだろ」

 そういうと、ゲフィはしばらくじっと見つめてきた後。

「ベガーノ顔、ナゼカ…泣キソウ見エタヨ」

 困ったような面持ちで答えた。

「あぁ? なぁに馬鹿なこと言ってんだお前」

 そう言われた俺は笑い飛ばしてやろうとして気づいた。


 …笑えない。

 なぜか、笑えなかった。


 思わずぱしんと頬に手を当て、慌てて俺は顔を背けた。


 完全に不意を突かれた。


 泣きそうになっていた、なんてことは無い。無いはずなんだ…


 ルーク、そしてあの取り巻きたちとは袂を分かって久しい。互いに求めるものは違うととうに理解しており、奴については何の感傷も無い。


 …ただ、奴と話すことでお互い戻れないところにきちまったことを改めて痛感させられて…連鎖的に、思い出してしまったのだ。


 今はいない、朋たちを。

 彼らと目指した、拙いながらも形になりつつあったはずの夢を。

 そして、何一つ、大切なものを守れなかった自分のふがいなさを。


 何もかも喪い、停滞することも無く、ただ生きている、自分の生の虚しさを。


「…ホント、なんでこうなっちまったんだろうなぁ」


 自分でも目を背けていた感情を偶然だろうとはいえ鮮やかに突かれ、俺は自分でも驚くほど動揺してしまっている。

 いずれもとうに吹っ切っていたと思っていた様々な感情が、他人から改めて指摘されたことで再び湧き出すのが自分でも分かった。


 …いかんいかん、今は仕事中だ。

 しっかりしろ俺。


 俺は慌てて頭を振り、おセンチになりつつあった気分を無理やり追っ払った。


「なーんてな。…しっかし、こいつこう見えて実は鋭い…のか?」


 頭をかきつつ呟いた独り言は、しっかりゲフィに聞こえてしまっていた。

「ナニカ?」

「…いんにゃ、なんでもねぇよ」

 心の底から心配してくれている表情なんて見たのはいつ振りだろうか。

 内心ぎくりとした俺は、見られたくないものを見られてしまった苛立ちを誤魔化すためさっと手を伸ばした。

「チョ、ヤメ…」

 ゲフィの小生意気にも意外な反撃へのお返しとして、綺麗な蓬髪をくしゃくしゃにしてやったぜ。ざまぁみろ。

「さーてと。それより、時間無駄にしちまったからその分本腰入れて狩るから気合入れろ! どうやら余裕があるみたいだからな、これからは厳しく行くぜ!!」

「エェ~!」

「えぇ、じゃねぇよ」

「俺のこと心配するくらいならまずは自分の心配するんだな! 俺の心配しようなんざ、十年はええんだよ」

 あからさまに落胆するゲフィに、俺はにやりと笑ったのだった。

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