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第11話 Description - E

 次の瞬間、景色が塗り変わる。

「…ワァ!」

 一足先に光から目が慣れたゲフィが嘆息したが、それも無理は無い。

 俺たちの眼前には、赤・黒・黄色・紫・白・橙といった様々なマンジュルヌが草原をところ狭しと跳ね回っている光景が広がっていた。

「ここは首都から南南東に行った先にあるマンジュルヌ島だ。マンジュルヌ系のモンスターしかいないところでな、ここにいる大半は捕まえてペットにすることもできるぞ」

「ワァオー…!」

 おのぼりさんのようにゲフィは上下左右落ち着き無く見渡している。と、ちょうど俺たちの眼前を赤いマンジュルヌの親子がぽよんぽよんと跳ねながら横切っていった。

「ワァ、可愛イネ!」

 それを見てゲフィが触ろうと屈み込む前に俺は注意した。

「待て待て、いきなり触ろうとすんな。見かけは可愛らしいがそいつも一応モンスターだ。下手にちょっかい掛けると怪我するぞ」

 脅されてゲフィは手を引っ込める。

 まあこいつらはモンスターとしては下層も下層の最下層、レベルを少し上げれば問題なくなるのだが…

「あと最初に狩るのはそいつじゃない、放置しろ。いいか、俺が小突いたら合図するからその敵だけ倒せ。そうしないと痛い目にあうからな」

 忠告して、俺はすたすたと歩き出す。慌ててゲフィも後を追ってきた。

「ドレ、戦ウ?」

「すぐ見つかるはずなんだが…お、いたいた」

 探していた獲物は、木陰で佇んでいた紫色のマンジュルヌだ。

「おら」

 早速その顔面に強めのトゥーキックをぶち込んだ。

 紫マンジュルヌは突然の衝撃に、砕けた歯を撒き散らしながらぶっ飛ばされる。ぼでんぼでんぼでんと三回バウンドし、傍の立ち木にぶつかったところでようやく止まった。

 うむ、久しぶりだが良い足応えだ。多分HPをかなり削ったことだろう。

「エ…」

 突然の俺の行動に、ゲフィはどんびきしていた。


 まあ、正直無理も無い反応だろう。


 こいつらマンジュルヌは、饅頭なのだが表情の造作がやけに人間じみている。

 大人しく寝ていりゃそれなりに可愛げもあるのだが、一度攻撃に移ると目を血走らせ歯を食いしばり体当りや噛みつき攻撃を繰り出してくるし、やられるとさっきのように歯が折れたり目が潰れたりするのがやけに生々しい。

「ギィィィィエェェエ!」

 そして、今も耳障りな高音で歯軋りしながら必死に俺の脚に体当たりしている。その光景はあまりに必死すぎて、見るに耐えられるものではない。


 だがこれこそ、俺がこの島を最初の狩場に選んだ何よりの理由だった。

「ほれ、殴れ」

 先に述べた理由のせいで、女性はここへ狩りに来たがらない。つまり、理屈上では人口の半分は来ない計算になる。


 俺たちにとってはそれはとてもありがたいことだ。

 人がいないということは、イコール狩り放題なのだから。獲物を奪われたり、余計な衝突に時間を取られずに済む。

 低レベル時で一番恐ろしいのはモンスターではない。

 悪質な、他の冒険屋とのトラブルだ。


「デ、デモ…」

「言っておくが、ここで狩れなかったらいつまで経っても他のところに行けんぞ」

 不満げに睨み付けてくるゲフィに構わず俺はつづける。

「それとも何か、可愛かったら殺さないってか? お前だって飯にしたり、素材を剥ぐために他のモンスターを殺すだろ?」

「ソレハ…ソウ、デスガ…」

「殺して食うか、殺して食わないか。それだけの違いだろうが。選り好みしたかったらさっさと強くなるんだな」

「アアモウ…ワカッタヨ!」

 不承不承といった体でゲフィは剣を振るう。と同時に、1というダメージを示す数値が表示された。

「ア、アレ?」

 豪華な剣ならどんなにダメージがしょぼくてもあっさり殺せるはず、とかどうせそんなことを考えていたのだろう。だが実際にはどこをどう殴っても1しか出せず、瀕死の紫マンジュルヌ一匹殺すのに五分も掛かった。

 マンジュルヌはこんな見た目だから舐めて掛かる奴が多いが、でかい奴で俺たちのひざほどもある上、みっしり中身が詰まった饅頭だ。結構な重量があるのは当たり前。

 最初に攻撃したことでターゲットが俺に固定化していたから無傷で済んでいるが、そうでなかったらもっと時間が掛かっていただろうな。


「な、判ったか? その剣は適正レベルが45で、それまでは威力も、攻撃速度も、おまけに防御も下がる。他の防具も同様だ。それら全部が累積した効果で、見た目こそ豪勢だが下手したら素っ裸のほうが強いなんていう状態なんだよ今のお前は」

「ソウナンデスカ?!」

「ソウナンデスヨ。さ、さっきのに着替えろ。自分の体の軽さにびびるぞ」

 そういってにやっと笑う。

 実際、そうやって試して驚くときの新人の顔を見るのは楽しみの一つだった。

「オ待タセシマシタ」

「おう、すでに捕まえてあるからやってみ」

「OK」

 早速ゲフィがハリセンを振るう。

 すぱーん、と小気味良い音。そして、100越えのダメージ数値。ゲフィの目が丸く開かれたのを見て得たり、と俺はうなずいた。

「な?」

 ゲフィの反論はない。

 こうして己の命が尽きるまでの一分間、紫マンジュルヌはぬぼーっと立ったままの俺の足に無駄な体当たりをつづけていた。


「ぜぇ、はぁ、はぁ…」

 倒し終えた直後、ぱんぱかぱーんとどこからとも無くファンファーレが鳴り響く。

「ほい、レベルアップおめ。どうよ、感覚としては」

「ア……確カニ、凄イアガッテル感ジスルデス…!」

 そうだろうそうだろう。嬉しそうに破顔しているゲフィに俺も満足する。

 いきなり15レベル上がっているはずだ。なんせ二匹目は滅茶苦茶手加減して殴ったから、最初のと比べ物にならない経験値がゲフィのものになっている。そうすることで相手に成長の手ごたえを感じさせるのがコツなのだ。

「だろ。んじゃ紫はもういいから、次は橙な」

「橙? 赤ヤ黒ハ?」

「ああ、あいつらはマンジュルヌの中でも1、2を争う底辺だからな。ぶっちゃけ着替える前のお前でも撫でるだけで殺せたぞ。ただその分経験値がカスだから、相手するだけ時間の無駄だ」

「ソウナンデスカ…」

「ああ。赤、黒、越えられない壁があってそこからは急加速度的に黄色、紫、橙、白と強くなる。ただ黄色と紫は極々稀にクッソ強い固体がいるから気をつけないとならないけどな」

 稀にいるレア種は、黄色は速度と攻撃性だけがべらぼうに上がっている。ステータスは上がっていても微々たるものなので攻撃は怖くないが、回避しまくる上に執拗に絡むのでとにかくうっとうしい。経験値もカスのままと良いこと無しである。

 そして、紫に至ってはマンジュルヌという種で括るのも憚れるほど、全体的に強化されてもはやバケモノと呼ぶに相応しい。こちらから手出ししない限り攻撃されないものの、特にマッチョ化魔法を使い攻撃力を数千倍にまで上げてくるため、マンジュルヌ狩りで図に乗った冒険者をこいつが返り討ちにするまでが島の風物詩となっている。


「…っと、次見っけ。オラァっ!」

 そう言ってる間に目標の橙を発見。

 紫とこいつはマンジュルヌの中でも比較的耐久と防御が低いから、気をつけないと初撃で殺しかねん。

 傍の木陰からぽいんぽいんと飛び出した橙マンジュルヌを、土踏まずを使い地面を転がす要領で軽く蹴り飛ばす。願い違わずマンジュルヌは元来た道を転がり、立ち木の幹に顔面をぶつけた。

 そこへすかさずスキル<<挑発>>!

「ほーれほーれ、バーカバーカ糞饅頭~! お前のかーちゃんお饅頭~! 悔しかったらかかってきなー!」

「うにゃああああ!!」

「フィーッシュ!」

「…………」

 そう叫ぶ俺を、ゲフィはアブない人かのように見ている。やめてお願い、その視線は俺に効く。

「だから、これはそういうスキルなの! ほれ、さっさと殴って! お願い!!」

 スキルが覿面に効果を発揮し、ターゲットを固定化させられた橙マンジュルヌが俺の足に体当たりを繰り返しだしたところで、ゲフィに叩かせつつ事情を説明してやる。

 先ほどの紫と違い、こいつは小柄で敏捷性が高い。そのため逃がさないよう、念を入れて挑発を入れてターゲットを固定化しておく必要があるのだ。

 決して好き好んであんな真似をしたわけではないのだよ…。

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