第10話 Description - D
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「ソユコトナラ先、言ッテクダサイ」
「ああそうするよ、こちらもいきなり殴られるのはもうごめんだからな」
右頬に赤い紅葉を咲かせた俺の背後で、ゲフィがぷりぷりしながら装備を外している。怒りたいのはこっちだっての。
「装備、外シ終ワリマシタ」
「あいよ。んじゃ、それらを身につけろ」
そういって、俺はあらかじめ倉庫から取り出して地面に置いておいた装備へ向けあごをしゃくった。
それらを拾い集めたゲフィは早速装着し。
「…ナンナノ、コレ…」
情けない声を上げたのを皮切りに振り返った俺は、かろうじて吹き出すのをこらえるのに苦労した。
「ぶ、ふふっ…に、似合ってるぜお前…くくくっ」
「似合ッテ…嘘ツキ!」
ゲフィがぶんむくれているがそりゃそうだろうともさ。
頭には鳥の巣を載せ(オマケに雛鳥が二羽ついている)、顔にはぐるぐる眼鏡とカイゼル髭。体防具は肌色の腹巻とステテコ、ピヨピヨサンダル。
獲物は純金製のハリセンで、盾だけが唯一まともな造作をしている――表面に、でかでかと『【ギュルファギニング】十周年、感謝の気持ちを込めて!』と書いてあるのを除けば、だが。
先刻までの勇壮ないでたちとは打って変わった格好だ。どこからどう見ても立派な大道芸人の完成である。
「アナタ、コレフザケテマスネ!」
どうやらゲフィはお冠らしい。
「まさか。至って本気だよ。それが今のお前にとってちょうど良い装備なんだ」
その抗議を俺は諸手を挙げて否定した。
言っておくが、俺の言ったことは嘘ではないぞ。
『委員長のぐるぐる眼鏡』(…ところで【イインチョウってなんだ】?)はステータス異常を8割カット。
『至高のハリセン』は攻撃力がほとんど無い代わりに獲得経験値を5倍にしてくれる。
『親父の腹巻』・『親父のステテコ』は55レベルまではセットで装備することでHPが10以上あればどんなダメージを受けてもHPを1に保持してくれる。
『ヒヨッコサンダル』はパーティーメンバーのもっとも移動速度が速い奴と同期してくれるし、『ひな鳥の巣』は攻撃速度を3倍にしてくれるのだ。『ギュルファギニング十周年記念盾』に至っては自分のレベルから5まで上の敵からの物理ダメージを何でも10分の1にしてくれる。なお『カイゼル髭』には格別効果は無いが、この格好に大層似合うと個人的に思ったのでオマケしておいた。
ちなみに言うと、似たような効果を持つ品や上位互換の品も持ってるには持っている…が、そこまで斟酌してやる必要も無かろう。
「見た目こそおもしろ…おほんっ。悪いが、新人向けならそれが最適解だ」
「本当ニ?」
「ああ、本当」
「…本当ノ本当ニ? 嫌ガラセ違ウ?」
「本当の本当だっての。ま、騙されたと思って身に着けてろ。騙されるから」
「エェ?!」
「なーんてな。冗談だよ冗談」
そんなことを言い合ううち、ふと俺は思い出していた。
昔、あいつらと同じようなことを言い合ったっけ…
とと、懐かしんでる場合じゃなかったな。
ほろ苦い記憶を断ち切ろうと、俺は小さく頭を振った。
「ああそう、ついでに。俺はもう使わないだろうし、それらはくれてやるよ」
その言葉に、ゲフィは俺の顔をちらと伺うと嬉しいような困ったような、いややっぱり嫌そうなかな? ともかく、何ともいえない表情を浮かべた。
「エート…イインデスカ?」
「ああ。気に入らないなら、終わったら捨てるなり勝手にしな。もちろん、使わなくなってからだが」
この仕事が終わったら、どうせまた一人に戻るんだ。
今後こうやって新人の面倒を見る機会も無かろう。なら餞別代りにくれてやるのがいいさ。
「ンン…アリガタイデスガ…ヤッパリ、コノ格好ハ…」
だが、当の本人は微妙らしい――まあ、俺も同じ格好したいとは思わんけど。
「ヤッパリ元ノ格好デ…」
「だーかーらー」
ええいめんどくさい。
仕方ない、俺は実地で試させることにした。そのほうが多分一番早い。
「ま、ここで言い合っててもしゃああんめぇ。納得するためにも、まずは実際に試してみろ」
そういうと、俺は元の格好に戻すよう促した。ゲフィが着替えている間、ウィンドウを開くととんとんと手続きを行う。
「ほいほい、ほいっと」
ポーンと軽い音がどこからともなく流れ、同時にゲフィの眼前に文章の表示されたウィンドウが現れる。その下部には「はい」と「いいえ」と書かれたボタンがあり、俺ははいを押すよう指示する。
『ようこそ、ゲフィ様。育成パーティー[ひよこクラブ]加入を受け付けました。経験値、ドロップ獲得権はあなたに優先的に分配されます』
再びの音声。
「よし、そんじゃあ次はワープポータルを開くから、合図したらそこに乗れ」
そういうと、俺は“賢者”に代わり、ワープポータルを開いてやる。
無事空間を繋いだところで合図し、ゲフィ、そして俺は光の迸る輪に飛び込んだ。




