七話 月夜のパーティ
途中まで"枯葉"の座布団に乗っていたドビンだったが、登り坂に差し掛かる前に上から降りていた。
「小石を乗り越え、小岩を乗り越え、進むんだ。あと少し、もう少し。目的地までもう少し!」
アリ達が元気に歌う中、先頭を歩いていた大アリのコルンが言った。
「あともう少しですよ、頑張りましょう。あともう少しで頂上です!」
少し疲れて俯いていたドビンだったが、その言葉で顔を上げた。
「ほんとだほんと、頂上だ~ がんばろ頑張る、もう少し~」
それ迄俯いていたのがウソだったかのように、下がっていた足を上げるとスキップを始めた。そんなドビンを傍らで見ていたコルンは、微笑まし気にしながらも気合いを入れ直していた。
「さぁさぁ、もうすぐ目的地。みんなで仲良く登りましょう!」
「いっちに、さんしっ、にっちに、さんしっ」
一歩ずつ登っていた一向は、遂に最後のひと山を登り切った。登り切った所で、丘の先端でその先が崖になっている場所まで歩いて近づいたドビンは、そこからの景色を見て言った。
「ここが見晴らしの丘だよ~ 野越え、沼越え、林越え、砂を歩いて到着さ~」
丘の上からは、ぐるりとドビンが歩いて来た景色が見えていた。
其々、月の光に照らし出され、昼間とは違った姿を見せている。
ドビンの後について、その景色を見たアリ達もまたその光景に見入っていた。
その横で座り込んだドビンは、頭に乗せていた蓋を手に取った。
この蓋は、"どんぐりリュック"の蓋にしていた物で、キノコの傘の部分で作ったモノだった。キノコの蓋から、ほんのりと"シチュー"の匂いを感じたドビンは、その匂いに頬を緩ませながら呟いた。
「おいしいシチューはおすそ分け、ひとりで食べるとひとり分。ふたりで食べるとふたり分。みんなで食べれば、みんなしあわせ~」
肝心のシチューを食べていなかったドビンだったが、来るまでの幸せそうな顔を思い浮かべて満足していた。
隣にいたコルンは、ドビンの歌にその味を想像して唾をのみ込んだ。
「それはそれは、美味しそうですね。いつかは是非とも、味わいたいものですねぇ」
コルンの言葉に、アリ達も体を揺らして同意している。
「みんな幸せ、みんなで食べよう幸せしちゅ~」
そんな様子に嬉しくなったドビンが歌い出すと、それに続いたアリ達によって合唱が始まった。
「ひとりで食べてもおいしいよ、だけどひとりはひとり分。ふたりで食べるとふたり分。みんなで食べれば、みんなしあわせ~」
それは、一口もシチューを食べていない"たべたい"合唱だった。
「たべたいな~食べたいな~」
しばらく楽しく合唱していたドビンだったが、不意に鳴ったお腹の音に驚いた。
「ぐ~っと鳴いても、まだまだがまん、まだがまん~」
お腹をさすってそう言ったドビンだったが、不意に漂って来た匂いに振り向いた。すると、そこには何やら風呂敷を背負ったカナヘビのカナさんがいた。
「あらあら、夜のお月見かしら? ご一緒しても良いかしら~」
そう言ったカナさんは、その背負っていた風呂敷を開いた。
カナさんが開いた風呂敷には、何やら大きな丸い形をした筒が入っていた。
「立派なふきは器にし、幼いモノは食べましょう。サクサクしていて美味しいのよ~」
美味しそうな匂いにつられたドビンは一歩下がったが、コルンを始めとしたアリ達もカナさんを中心に円をつくって座っていた。
「みんなで食べればおいしいよ、みんなでちょっぴり食べましょう~」
ルンルン気分なドビンだったが、カナさんは少しばかり申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね、こんなに沢山一緒だとはねぇ」
「大丈夫ですよ、大丈夫。僕たちみんな少しずつ、それだけでお腹いっぱいです」
アリの子達の合唱に、カナさんは少し安心したみたいだった。いよいよ食べようかと言う処だったが、それ迄月の光に照らされていた空が覆われた。
遮られた月の光。それを仰ぐように見上げると、丁度降りて来る処だった。
「ホゥホゥ、ここに居たんだね。おみやげ持って来たんだけどね、果たしてこれで良かったかい?」
そう言ってその爪を開くと、沢山の青菜が落ちて来た。
「やったぁこれは、おいしいよ~ 一緒に添えて食べるとね、スッキリおいしく食べられるんだ~」
さっそく幾つかを細かくしたドビンは、それをカナさんの持って来たふきの料理に入れた。
「クゥークゥー、おいしそ、おいしそう~」
それまで母フクロウに捕まっていたぴゅぃが出て来た。そんなぴゅぃの為にも、少し取り分けてあげたドビンだったが、美味しそうに飲み込むぴゅぃに微笑んだ。
「ゆっくりモグモグ、ゆっくりね~」
ぴゅぃが美味しそうに食べるのを見ていたドビンは、再びお腹が鳴ったのを聞いて、一口食べた。
「シャキシャキ、とろっとおいしいね。少し青菜を加えると、スッキリピリッとおいしいね~」
ドビンが食べたのを見た一同は、其々が一つの大きなふきの皿から摘まんで食べていた。
そんな風にしていたドビンだったが、不意にシュルルっという声を聞いて振り返った。
「やぁ、無事についていたね。おやまぁ、これまた大所帯だねぇ」
ヘビのメリューばあさんに頷いたドビンは、嬉しそうに答えた。
「そうなのそうなの、そうなんだ~ みんなで美味しくお月見会~」
「おやまぁ、そうかいそうなのかい? てっきり、あたしゃ……」
そこまで言ったメリューばあさんだったが、物音に振り返ると言った。
「おや、やっと着いたかい。それじゃあ、これで勢ぞろいだねぇ」
メリューばあさんの言葉に居たのは、亀のローナだった。
「ぼくのなまえはローナだよ~ やぁ、ドビン。それにみんなも居たんだね~」
そう言ってゆっくりと上がって来たローナは、のんびりと近づいて来ると、甲羅に乗せていた小箱を置いた。それを開けると、中には何か熟成されたお菓子の様なモノが入っていた。
「熟成されたお菓子だよ~ ゆっくりかじるとおいしいんだよ~」
少しかじってみたドビンは、その不思議な味に目を輝かせた。
「星がね、星が、走っているの。あちこちキラキラ走っているの~!」
少しして、ふらふらとし始めたドビンを見てフクロウ母さんは、ぴゅぃが口に入れないようにと移動させていた。どうやら、大人の食べ物らしかった。
その後、それぞれが持ち寄った食べ物を楽しんでいたドビンだったが、ハッと思い出したメリューばあさんがシュルルっと言った。
「あのねぇ、お前さんにプレゼントさ。ほらね、ご覧ね、もう直ぐさ」
メリューばあさんの言葉に、どうしたのだろうかと目を向けたドビンは、森の一帯からキラキラと星が上がって行くのが見えた。
「キラキラきらきら、きれいだね~!」
ドビンだけでなく、そこに居た全員がその光景に目を奪われていた。
「へぇ、中々良いじゃないかい」
「ホゥホゥ、これは良いものだねぇ」
「クゥークゥー、きらきらしてる。とんでるよ~」
「これは中々見れないものです。女王様にお土産ですね」
見入っているドビンと、それぞれの感想を聞いていたメリューばあさんは、嬉しそうだった。
「シュルルそうだろ、魔法の粉さ。一度振りまき、後は待つ。これで夜には"星上がり"」
その後しばらく、昇って行く星を見送っていたが……
『"くるるぅ~"』
いつの間にか、蓋で帽子だったキノコの傘は、ドビンの皿になっていた。再び鳴ったドビンのお腹の音に、そこに居た全員がそれぞれ、ドビンの"キノコの皿"へと食べ物を持って行った。
「おいしい料理に綺麗な景色。上には月星、おみやげ、下から星が昇る夜。これは楽しいパーティさ、たのしい月夜のパーティさ~!」
元々、ひとりでキノコのシチューを食べる予定だったのが、思わぬ形の"パーティ"となった。その事が嬉しかったドビンは、指を振ると夜空に虹をかけた。
「夜空に虹をかけましょう。星から星へと渡る虹。虹色何色、いろんな色さ、色々あってきれいなのさ~ 空から空へと架けましょう、煌めく空にかけましょう~」
その虹はしばらく輝いていて消えたが、ドビンたちのパーティはその後もしばらく続いた。その様子を見守っていた星たちはキラキラと輝き、月は優しい光で包んでいた。
その日虹の橋を見た生物は野や森だけでなく、その一帯に数多くいた。
それ等、種族も何もかもが違う其々に共通していたのは、その瞬間誰もが"楽しく"、"幸せ"だったと言う事だった。これはドビンの魔法だったが、この魔法はドビンの心境を表わす魔法だった。
こうして、夜遅くまで月夜のパーティは続いた。
「るんるん楽しい夜だから~ みんなで空を見上げよう。空見て、月見て、景色見て、そこで楽しいパーティさ~ 月夜の楽しいパーティさ~!」
これにて完結です。
誤字脱字、リズムや少し文章がおかしい処があるかも知れません。お気づきの事がありましたら、どうぞ感想欄からお願いします。勿論、通常の感想ももろ手を挙げて待っています!
最後まで、読んで頂きありがとうございました!