四話 深森
森の中に、二人分の賑やかな声が聞こえていた。
「おいしいおやつ、おいしいごはん。一口食べて、も一口食べる!」
「おやつ、たべる。ごはん、たべる。たくさん、たべる!」
ドビンに続いてぴゅぃが口ずさみ、ドビンが進むとぴゅぃも進む。
周囲は背丈を超える緑がアーチを作るようにして生えているが、二人が進む道は予めそうであったかのようにして道が出来ていた。
「あっち? こっち?」
「こっち! こっち!」
どうやら、途中で自分の家のある方向を思い出したらしく、ぴゅぃが飛び跳ねながらその方向を示し始めた。ぴゅぃが指している方向は、普段ドビンが歩く事のない"深森"の方向だったが、どうやらぴゅぃの家はその方向にあるらしかった。
「ここから先は迷うから、暗くなったら進めません。明るい間に進みましょう~」
ドビンは、この深森にまつわる歌を思い出して口ずさんでいたが、その歌を聞いたぴゅぃも何やら歌を歌い出した。
「くらやみよるのみ、ぼくらのめ。くらい中でも見えるのめ、こまっていたら助けましょう。ぐるりと見渡し、みちあんない。まえ見て、よこ見て、うしろ見る。ぐるりと見まわしみちあんない~」
聞き入っていたドビンだったが、歌が終わったので聞いた。
「ねえ君、その歌ぼくに教えてよ」
「ピュイ、ピュイ、いいよ、教えるよ~」
ぴょんと跳ねて頷いたぴゅぃが歌い始めたので、それに続いた。
「くらやみよるのみ、ぼくらのめ」
「暗闇夜のみ、僕らの目」
「くらい中でも見えるのめ」
「暗い中でも見えるの目」
「こまっていたら助けましょう」
「困っていたら助けましょう」
「ぐるりと見渡し、みちあんない」
「ぐるりと見渡し、道案内」
「まえ見て、よこ見て、うしろ見る」
「前見て、横見て、後ろ見る」
「ぐるりと見まわしみちあんない~」
「ぐるりと見渡し道案内~」
ぴょんぴょん進むぴゅぃに続いていたドビンだったが、最後まで歌い終えたところで、上の方から声が聞こえて来た。
「ホゥ、ホゥ、ここに居たのかい。探した、捜した、さがしたよ!」
見上げると、そこにはぴゅぃにそっくりな、それでいてぴゅぃの三倍はある一羽のフクロウが居た。どうやら、ぴゅぃの事を探していたらしく、声をかけるや否や降りて来た。
「あなたはだあれ?」
「私はぴゅいの母親よ。この子はいつも迷子になるの」
地面に下りた母フクロウは、足元に寄って来たぴゅぃを羽の下に覆うと嬉しそうに鳴いた。
「クゥークゥー、くぅ~……」
何となく、喉よりも低い所で音がしたと思ったドビンは、不思議に思って首を傾げた。すると、羽の下で大人しくしていたぴゅぃが顔をのぞかせた。
「お母さんは、おなかくーくー?」
「そうね、少しお腹が空いているかしら」
「あのね、あのね、どびんがね!」
「はいはい、ゆっくり聞きますよ」
「あのね、おいしいシチューをくれるの!」
「おやまぁ、ごちそうなりました?」
頭を傾げて聞いて来る母フクロウに、ドビンは胸を張って答える。
「うん、そうなの、おいしいよ!」
そう言って、背負っていたどんぐりリュックを下ろすと、どんぐりの蓋にキノコシチューをよそって差し出した。
「おやまぁ、食べても良いのかい?」
「うん、もちろんだよ、おいしいよ!」
ドビンの言葉に、母フクロウは小さな舌を使って、器用にどんぐりシチューを食べてしまった。二口ほどで食べきってしまった母フクロウだったが、満足気に喉を鳴らすと言った。
「美味しかったわ、ありがとう。ところで、あなたはどこに……ふぁ」
途中で欠伸をしたのを見て、ドビンが言う。
「眠いの、眠いと、寝ないとね?」
「そうなの、夜まで寝ないと……ふぁ~」
ぴゅぃは、安心したのか既に母フクロウの羽の下で眠っていた。母フクロウも眠そうだったので、この後"見晴らしが丘"に行くつもりだと伝えたドビンは、母フクロウが子フクロウのぴゅぃを連れて家に帰って行くのを見送った。
「ばいばい、ゆっくり眠ろうね~」
その姿が木々の間に見えなくなったのを確認したドビンは、周囲を見回して言った。
「こっちが明るくなってるね~」
微かに明るい方へと向きを変えたドビンは、再び一人になった中歩き始めた。
「見晴らしが丘で見る景色、とってもとっても綺麗だよ~、近くに何ある、遠くに何ある、全部見えて面白い。ついでにちょっとのシチューがあれば、それで満足楽しめる~」
既に、ほとんど重さを感じなくなってしまった"どんぐりリュック"を背負ったドビンは、更に軽快になった足取りを弾ませて、先へと進んでいた。