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三話 小さな沼

 木漏れ日の射す中、楽し気に歩いていたドビンだったが、ふと何か聞こえた気がした。そこで耳を澄ましてみると、木々の間を縫って綺麗な歌声が響いている事に気が付いた。


「ぼくのなまえは……だよ~、……したいけど、……から……」


 よく聞いてみたくなったドビンは、地面に倒れている大樹の幹に登り始めた。樹の幹はドビンの三倍近くあったが、倒れる原因となったらしい朽ちた根元が丁度良く階段のようになっていたので、そこからよじ登る。


「あなたはだあれ、きっと良いひと間違いないの~、みんなすやすやいい気持ち~」


 ようやく登り終えたドビンだったが、そこに先客がいた事に気が付いた。


 朽ちた木の幹は、ふかふかしていて丁度ベットのようだったが、そこには小さなモコモコした生き物が居た。どうやら、丁度良い寝床を見つけて眠っていたらしい。


「ゆっくり、ゆっくり起こさぬように……」


 気を付けながら進んで行くと、それ迄途切れ途切れにしか聞こえていなかった歌声が、はっきりと聞こえて来た。


「ぼくのなまえはローナだよ~、遠くにお散歩したいけど、ぼくは足がおそいから、着いたら周りは真っ暗さ。のんびりコロコロのんびりさ~」


 声の主を探したドビンは、そこから斜め下に小さな沼があるのを見つけた。その沼には小さな島が浮いていたが、よく見るとそれが島では無く一匹の亀である事に気が付いた。


「お~い、きれいな声だね~」


 ドビンの声に気が付いた亀は、それまで歌っていたのを止めると、見上げて来た。


「おやぁ、きみはドビンじゃないか。どこかに行くのかい?」

「うん、そうなんだ~」


 ドビンがリュックを背負って、出かける準備万端なのを見て気になったらしい。


「それはいいね、いったいどこに行くんだい?」

「見晴らしが丘の上に行く途中なんだ」


 興味深げに首を伸ばすローナに教えてあげると、頷きながら口を開いた。


「それはいいねぇ、ぼくは中々行けないからなぁ」


 残念そうな顔で言うローナを見たドビンは、木の幹の横に生えた木のつるをつたい下りた。そうして地面に下りたドビンは、背負っていたどんぐりリュックを下ろすと、その中からキノコのシチューを一杯よそってあげた。


「それじゃあ、きみにも分けてあげるね」

「おや、これは美味しそうだ」


 悲しそうなローナだったが一転、笑顔になった。


 そんな様子に満足したドビンだったが……


「ピュィ、ピュイ、おいしい匂いがするよ!」


 聞こえてきた方向を見ると、そこには小さなモコモコとした毛玉がちょこんと頭を出していた。どうやら、ドビンのシチューの匂いに反応したみたいだった。


「どうだい、君も降りて来て、一緒においしく食べないかい?」


 すると、モコモコした毛玉の子が、小さく体を上下させながら樹の幹を下りて来た。


「ピュィ、ピュイ食べてもいいのかな!」

「いいとも、ゆっくり気を付けてね」


 小さな毛玉の子が、口を開けて上を向いていたので、その内にゆっくりとシチューを流し込んであげると、嬉しそうに鳴いていた。


「ピュィ、ピュイ、これはいいごはん! ちょっとポカポカおいしいね!」


 満足したようなので、その子にドビンは聞いた。


「きみはどこの子、どこから来た子?」

「ピュイ、ピュイ、しらない、わからない」


 困ってしまったドビンだったが、そこで亀のローナが言った。


「きっとこの子はフーナの子だね、はぐれて落ちて、疲れて寝たね」

「そうなの、ピュィはフーナのところにかえる。おいしいご飯がまってるの!」


 思い出したと言うように、小さくぴょんと跳ねたぴゅいを見たドビンは、ローナに聞いた。


「それじゃあ、この子の家はどこ?」

「たぶんあっちにあったはず」


 ローナが頭で示す方向を見たドビンは言った。


「それじゃあ、送ってこようかな」

「そうかい、それじゃあ気をつけて。ぼくは体をふこうかな」


 沼から体を上げ始めたローナを横目に、どんぐりのリュックにしっかりと蓋をしたドビンは、小さく跳ねているぴゅぃを連れて歩き始めた。


「きみのなまえはなんだろな~、迷子はたいへん届けます~きっと直ぐに会えるから~それまでいっしょに行きましょう~、迷子はたいへんにぎやかに~、ここに子供がいるんです~」


 迷子のぴゅぃを親元まで連れて行く事にしたドビンは、その後賑やかに歌いながらローナに教えてもらった方向へと歩き始めた。


 初めに家を出発した時と比べ、随分と軽くなってしまったどんぐりリュックだったが、それでもドビンは楽しそうだった。


 そして、楽しそうなドビンにくっ付いて歩くぴゅぃもまた、少し膨らんだお腹をさすりながら楽しそうだった。ぴゅぃの口には小さくも鋭いくちばしが付いていて、時折目に入る植物をつついてはつまんでいた。


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