07話
白ゴブリンの落とした杖と赤い石を拾い、次の小部屋へと向かう。
小部屋と小部屋の距離はどれもかなり離れているため、今日中に終わらせるにはかなり急がなくてはならない。
ところどころに現れるスライムを無視して走ること1時間半。
ようやく2つ目の小部屋にたどり着いた。
早速、部屋の奥まで移動していく。
すると黒ゴブリン、白ゴブリンの時と同じように道が消え、何かがわき上がってくる。
(今回は何色かね……? お、灰色……いや、銀色か? って鎧じゃねえか!)
現れたのは銀色に光るフルプレートアーマー。
黒ゴブリンや白ゴブリンとは比べ物にならないほどガタイがいい。
その身長は166センチの俺よりも少し高く、170センチは超えているだろう。
両手に胸ほどまである銀色の大盾をどっしりと構えている。武器は持っていないようだ。
(動かないな……)
武器がないことから遠距離攻撃はないと判断し、相手の動きを見てから動こうとしたが、フルプレートアーマーは一向に動かない。
流石に10分も待つと耐えきれなくなってきたので、空間収納から白ゴブリンの落とした赤い石を取り出し、投げつける。
すると、フルプレートアーマーは左手に持っていた盾を動かし、赤い石を叩き落した。
(カウンタータイプか……だりぃ……)
再び動かなくなったフルプレートアーマーにイラつく。
遠距離攻撃のない俺としては相手にしたくないタイプだ。
赤い石を叩き落した時の盾は、かなりの威力がありそうだった。
おそらく俺がくらえば、少なくとも骨はやられるだろう。
当たり所が悪ければ気絶、最悪死ぬ可能性もある。
「あぁーっ! もうっ!」
ただでさえ時間がないのだ。このタイミングでの嫌がらせのような登場にキレそうになる。
(もういいよね? やっちゃっていいよね? ……このクソ野郎舐めた態度取りやがって!)
ついに我慢できなくなり飛び出した。
思い切りフルスイングしたバットを盾にぶつける。
バコンと大きな音が鳴り響く。
しかし、タイミングを合わせてはじかれたのだろう。返ってきた衝撃の強さは予想以上で、バットが手から零れ落ちる。
すぐさま拾おうとするも、フルプレートアーマーが盾をこちらへ押し出してきているのが見えたのでその場から飛び退く。
「くそっ! あぁーもう……どうすんだよぉ……」
武器を失ったことでイラつきが収まり、少し冷静になる。
落としたバットの位置を確認してみるが、フルプレートアーマーの足元だ。
再びフルプレートアーマーは沈黙している。
(取り返せるか……? ……いや、無理だな)
近づいた時点で盾での殴打をくらうだろうと判断する。
バットを拾うことは諦め、他にフルプレートアーマーを倒す方法を探し始めた。
今の俺の持ち物は空間収納の中にあるもののみ。
空間収納の中にはパンが2つに500mlのお茶が2本、黒ゴブリンと白ゴブリンが落とした剣と杖が1つずつ入っている。
つまり、実質使えるのは剣と杖だけだ。
(とりあえず杖でやるか)
なんとなく、金属よりも木製のほうが返ってくる衝撃が軽そうだっと思い、杖を取り出す。
「持ちにくいな……」
でこぼこしている杖に対して愚痴をこぼしながら、素振りをする。
幸い、近づかなければ何もしてこないようでフルプレートアーマーは動かないままだ。
身じろぎもしないその姿は、妙に癇に障る。
(むかつくなぁ……挑発のスキルでも持ってんのかよ……)
今にも飛び掛かってしまいそうなのを堪え、正面に立つ。
バットと同じように杖の先端をフルプレートアーマーに向けて構える。
(倒せないまでも、攻めてバットは取り返したいな……)
そう考え、足を踏み出そうとした瞬間。
ドッ!
「……っ!?」
何か、音が聞こえた。
音のした方向にいるフルプレートアーマーを見る。
(……気のせいか? いや……でもあいつが少し動いてる。……何があった……?)
近づいたときと石を投げた時以外動いていなかったフルプレートアーマーが動いたのだ。何かがあったのは確実だろう。
(もしかして、この杖か……?)
それ以外に原因が思いつかない。
もう一度試せばわかるかと思い、再びフルプレートアーマーに杖を向ける。
ドッ!
(気のせいじゃない! やっぱり何かにぶつかった音がした! それに今何かを防ぐように盾を動かした……!!)
おそらく、杖に何らかの効果があるのだろう。
そしてそれがフルプレートアーマーに対して攻撃している。
少し考えると、その可能性にすぐ思い当たった。
(まさかこれ、魔法を出す杖か!?)
てっきり魔法を補助するための杖かと思い込んでいたので、その可能性を思いつかなった。
しかし、白ゴブリンが使っていた不可視の衝撃弾、それがフルプレートアーマーに向かって飛んでいっていると考えれば、フルプレートアーマーの動きにも納得がいく。
試しに『出ろ』と杖を壁に向けると、1秒もせずに壁へ衝撃弾がぶつかった音が鳴る
(これなら……)
お世辞にもフルプレートアーマーの動きは速くない。
何度も連続で狙っていけば、盾の防御を突破して衝撃弾をぶつけることも可能だろう。
そうして生まれた隙に近づき、兜を狙って剣の腹を叩きつける。
そうすればなんとか倒せるだろう。
時間もないので早速行動に移す。
フルプレートアーマーの周りを走り回りながら、いろいろな方向から衝撃弾を浴びせていく。
思っていたよりもフルプレートアーマーの動きは遅かったようで、10発も撃つと盾を超えて被弾し始めた。
しかしその一方でタフネスさは想像以上であり、衝撃弾の一撃では決定的な隙が作れない。
(くそっ、もっと威力が高ければ……!)
そう思いながら衝撃弾を放つと、先ほどよりも大きな音を鳴らしてフルプレートアーマーにぶつかった。
その衝撃にフルプレートアーマーはよろけて、膝をつく。
(えっ……!?)
突然の変化に、一瞬目を白黒させるも今がチャンスだと思い、フルプレートアーマーへ向けて駆け出す。
魔力のような何かが一気に消費されたのか、体はかなり重くなっていた。
盾に防がれないように側面へとまわりこみ、空間収納から剣を取り出す。
「どっせいっっ!!」
掛け声とともに銀色の兜目掛けて剣をフルスイングする。
金属と金属がぶつかった高い音を響かせながら兜は頭から外れ、とんでいく。
(って、兜の下も銀なのかよ……!)
倒れこんでいくフルプレートアーマーの正体は銀色のゴブリンだった。
露になったその銀色の頭に向けて剣を振り下ろし、フルプレートアーマー―――銀ゴブリンとの戦闘は終わった。
銀ゴブリンが落としたものは、赤い石と2つあった銀色の盾のうちの1つ。
しかし盾の大きさからして、まず俺には使えないだろう。
もっとも、10kg以上ある盾は空間収納に入れて持ち帰ることができないので、どちらにせよ使うことはなかっただろう。
剣と杖、赤い石のみを空間収納に入れてバットを手に拾う。
現在の時刻は19時。ここから次の小部屋までも1時間半ほどかかることを考えると、悠長にしている暇はなさそうだ。
部屋の中に鎮座する盾に未練がましい視線を送りながら、小部屋を離れた。
(使えなくても勿体ないもんは勿体ないんだよ……)
最後の小部屋の前、部屋の中に鎮座する宝箱を見つめながら考える。
(わき上がってくる途中のゴブリンって殴れんのか……? 演出的なので無理とか……?)
ここで最後だしどうせなら試してみようと、小部屋の中に入っていく。
すると黒ゴブリンの時と同じように道と宝箱が消え、ゴブリンがわき上がってくる。
(今度は金か……戦隊ものの追加戦士かよ……)
今までのゴブリンの色からそんなことを考えながらも、素早く金ゴブリンの後ろに移動する。
まだ金ゴブリンは腰ほどまでしか出てきていない。
(さて、いけるかなっと)
防具もなにも装備していないむき出しの頭目掛けて、思い切り金属バットを振り下ろした。
すり抜けるわけでも障壁にふさがれるでもなく、普通に頭にぶつかってしまう。
そして、途中まで出てきていた金ゴブリンは、その全身を晒すこともなく消えていってしまった。
(えぇー……、こんなんマジかよ……)
こんなに簡単に倒せるなんて、今までの苦労は何だったのかという気持ちになってくる。
(ん、あれ……なんも落ちないな……)
ズルをしたからだろうか。宝箱と道は戻ってきたが、金ゴブリンが他の色違いゴブリンたちのように何かを落とすことはなかった。
(流石にそこまでうまい話はないってことか……まあ、今回は宝箱あるからいいけどさ)
今度からはきちんとした方法で倒そうと心に決める。
そして、目の前の宝箱を見ながら呟いた。
「それじゃ、ご褒美タイムといきますか」